第31話 ヒット一同イーストアーツへ
結局俺達はあの後、アンジェの、ここからの話し合いは私とシャドウに任せておいて欲しいといわれ、その代わりにイーストアーツの様子を見に行くという形に落ち着き後日街を出た。
どうやらアンジェもそこは気掛かりだったようだ。
勿論俺も気になるし、メリッサは特にレイリアの事を気にしていた。
足となる馬車は、元々はヒットの物だし――と、アニーからあっさり許可、というのも変な話だが、とにかく俺達は馬車に乗りイーストアーツへ赴く。
とは言ってもキャンセルがあるので、そのおかげでそれほどの時間を要さずとも街に到着した。
ただ、どういうわけか入り口の前には、あの王国騎士団の兵士が門番として立っていた。
当然向こうは俺達の事を知らないので、誰だお前らは? と誰何してきたわけだが、セントラルアーツの冒険者である事を明かして入れてもらおうとする。
「あん? セントラルアーツの冒険者だと?」
……おかしいな。王国からきてる兵士だよなこいつ? なのにまるでチンピラみたいだ。
「この通りギルド証もある。問題無いだろ? 通してくれないか?」
「駄目だね。今はこの街もザグス男爵の手で生まれ変わろうとしている。色々と忙しい。それに、よそ者は入れるなという命令だ」
「はあ? あんた耳大丈夫か? うちらセントラルアーツから来た冒険者や言うとるやろ? それのどこがよそ者やねん!」
この門番の態度にカラーナも腹が立ったようだ。
大声で怒鳴りあげてみせるが。
「ふん、なんだこの黒いのは? 奴隷の癖に生意気なやつだな。お前の物ならしっかり教育しとけ。というか隷属器で黙らせとけ」
うん、ムカつくやつだ。なんだこれ? 折角魔族倒したのに同じぐらいたちの悪そうなのが門番しているってどういう事なんだ? それとも人間のふりした魔族か?
とりあえず念の為、こいつに魔法やスキルのキャンセルを試してみたが門番からは、なんだこいつ? て目をされるだけだった。
そしてこの男やどうやら一応人間らしい。
「カラーナは私達の仲間です! 物なんかじゃありません。撤回して下さい!」
俺が一人訝しげに門番を見ていると、メリッサが声を上げてこいつに抗議した。
その気持ちは当然わからないでもないけどな。
「……うん? へ~、ほ~、これはまた、中々の上玉じゃねぇか」
「……はッ?」
ついつい凶険な声が外に出てしまう。
だがそれも仕方ない。
何せこの男、メリッサの事を舐めるような目で見てそんな事を言いやがったんだ。
明らかに開いた胸元の方を凝視してるしな。
危うく剣を抜きかけたぞ、おい。
「なあ、お前この街に入りたいんだろ? だがなあ、俺も仕事だから見張ってる間はそうもいかなくてな。う~ん例えばだ。胸の大きな色っぽい姉ちゃんからちょっと相談があって……なんて言われたらやっぱり王国の兵士として放ってはおけないし、まあ、あれだ。相談に乗ってる間、この門は誰もいなくなるかもしれねえが。まあでも人助けとあっちゃそれも――ボゲっ!」
気づいたら思いっきり殴ってた。そしてカラーナも股間を蹴りあげていたしセイラの鞭が飛んで、フェンリィが脚に噛み付いた。
「ぐぉ、うぅ、で、でめぇら何を――」
「キャンセル」
「……あれ? 俺、な、何を? うぐぅ、い、いでぇ――なんで……」
「じゃあな」
糞門番が股間を押さえて蹲ってる間に悠々と街に入る。
カラーナがあの馬鹿を振り向いて舌出してるけどな。
全く、遠回しにとんでもない要求しやがって。
本当ならもっと殴ってもいいとこだが、流石にあまり目立つと面倒な事になりかねないからやめておいた。
「……様子が変」
「あぁ、確かにな」
「アンッ!」
そして、足を踏み入れたイーストアーツの変化を先ず感じ取ったのはセイラだ。
何が変かと言えば、まあ一目瞭然なんだが、王国の兵士が多い。
歩いているのが殆どそうだろ。
そして逆に元々いた街の人々の姿が見えない。畑仕事に向かっているのもいるかもしれないが、女性は大体街にいた筈だ。
少ないとはいえ子供もいたし、街が解放されてからは前は元気に外を駆け回ってもいた。
フェンリィを見て嬉しそうに駆け寄ってきて頭をなでたりして、多分それをフェンリィも覚えているのか、鳴き声に寂しさを感じる。
「なんやのこれ? それに王国軍とやらの兵士、随分偉そうちゃう?」
「カラーナ、あまり大きな声でそんな事を言っては――」
メリッサが囁くようにして注意を入れる。
カラーナもしまったと言った顔。
何せ元々チェリオの件で人口自体は相当減少していた街だ。
俺達みたいに、見慣れないものがウロウロしてたらすぐに気づかれる可能性が高い。
まあ、その時はキャンセルで何とでも――
「おい、お前たちちょっと止まれ!」
て、思った側からこれか。仕方無い、振り向きざまに――
「ヒット様、お待ちしておりました」
て、うん? 何か俺を呼ぶ声が――で、振り向いてみたら、う~ん、何か見覚えがあるような男が近づいてくる。
名前を思い出せないが、誰だったかな?
「……確かお前はエキストラか。なんだ知り合いなのか?」
「彼はあの魔族を打ち倒したヒット様ですよ。王国の正騎士で、同じくこの街とセントラルアーツを解放するのに尽力して頂けたアンジェ様とも親しい御方です」
「む、そ、そうなのか? アンジェというと、アンジェ殿下か……そうか、て、丁重に扱うのだぞ!」
そう言って兵士はそそくさと立ち去った。
それにしてもエキストラか。そうだ、ゲイルとも親しい冒険者のエキストラだな。
「ありがとう助かったよ。え~と、エキストラさん」
「エキでいいです。親しい連中は皆そう呼んでくれてるので」
ふむ、確かにエキストラは呼びにくいし、なんか失礼な気もするしな。
「判ったエキ。改めて助かったよ。でもこんな事で、随分と素直に引き下がるんだな」
「あれは、気が弱い方ですし、少しでも立場が上と感じたものには逆らわず揉め事を嫌うタイプだからな」
……なるほどね。それでセントラルに来た連中と違ってアンジェの名前に本気でビビッてたのか。
王女である事も知っていたようだしな。
「それにしても殿下とは。アンジェ様がそのような立場とは驚きですよ」
「う~ん、でも言うてもアンジェはアンジェやで?」
「ふふっ、カラーナの言うとおりですね。私も最初は驚きましたけど。だからって何が変わるというわけでもありませんし」
「……そもそも王女っぽくない」
「アンッ!」
確かにな。アンジェは別にそれで偉ぶるでもないしな。セイラはちょっと酷いと思うが。
「……ところで俺達に声を掛けてくれたって事は、何か用事があったのかな?」
そして俺はここで本題を切り出す。偶然通りがかったという可能性もなくはないが、俺がそう言うと真剣な顔つきに変わったしな。
やはり何かあるのかもしれないが。
「……はい。そのとおりです。なので、一旦ゲイルの家まで来て頂けますか? 詳しくはそこで――」
随分と神妙な顔で言ってきたな……あまりいい話ではないのが、顔と声の調子で判る。
メリッサとカラーナも察したのか眉を落とす。
特にメリッサは馬車の中でもレイリアの事を心配していたからな――
とは言え、とにかく行かないと始まらないか……。




