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第2話 奴隷少女メリッサ

「て、てめぇか! 俺の仲間をやったのは!」


 俺が姿を見せると、若干上擦った声で盗賊の輩が叫びあげる。

 その視線は俺の肩に向けられていた。


 あぁクロスボウ担ぎっぱなしだったな。これ結構重いしとりあえず使わないから地面に置こう。

 よっこいしょっと。


「は、はは! なんだ驚かせやがって! さ、さてはてめぇさっきの一撃で矢がつきやがったな!」


 俺がクロスボウを手放すまで狼狽しまくってた男だが、それが使えないと勝手に勘違いして、表情に喜色を貼り付けた。

 まぁボルトが引かれてるかの確認までは出来なかったんだろう。


 それならそれで丁度いいな。そういう事にしておくか。


「特殊な武器だからな。あまり弾がないのさ」


「けけっ! だろうなそんな武器! 全く身の丈に合わない武器なんて持ち歩くからそういうことになるんだ!」


 嫌らしく唇を曲げて声を上げて言いまくる。

 全くちょっと弱みを見せただけでめでたいやつだな。


「くくくっ、まぁいい。大方馬鹿な正義感燃やして出てきたってところだろうが、それがどれだけ愚かなことか俺自ら教えてやる!」


 随分と大層な言葉を並べて、男は背中からガシャリと得物を抜き取った。

 かなりゴツイ武器で刃は先に行くほど広く湾曲している。


 そういえばゲームでも実際あった武器だな。名称はファルシオンだったはず。

 斬るというよりは断ち切るというのが主で、相手が重装鎧でもそれなりに戦うことが出来てたはずだ。


 で、俺を見てニヤニヤしてるあたり、多分いま着ている俺の装備が見た目軽鎧だからだろう。

 装備に関してあまり詳しくないのか? 一応結構なレア物なんだがな。

 まぁ相手の装備を見るには元のゲームでも許可が必要で、鑑定のスキル熟練度が高くないと勝手にはみれなかったしな。


 だから判らないのかもしれない。

 まぁそれにしても舐めすぎだけどな。

 取り敢えずはまぁやる気は満々みたいだし、俺も腰から双剣を抜く。

 

 相手の持ってるのは全長で一二〇cmはありそうか? 一方俺のはどちらも八〇cm程度とそれほど長くはない。

 リーチでは圧倒的に不利ではあるが、ただ武器の性能では間違いなく俺のほうが上ではある。


そんな俺の持ってる双剣の名称はセイコウキテン。


 幅広の剣で鍔は翼のような形をしている。青白い刃が特徴で紙のように軽い。


 元のゲームでは振りの攻撃速度がやたらと速い剣でもあったが、その影響がこの軽さなのだろう。

 因みにゲームではある程度能力が上がると攻撃速度の速さより一発一発の火力の高さが求められる事が多く、この武器もレアではあるがあまり人気は無かった。


 何故かといえば元のゲームでは攻撃をあてると反発が生じ、どれだけ初速が速くてもそこで遅れが出てしまうからだ。


 それに火力が高い武器だとノックバックという敵を弾く効果が発生しやすく、結果的に多少振りが遅くても威力の高い武器のほうが扱いやすいという状況が発生してしまったわけだ。


 だが、俺からしてみれば寧ろその初撃の速さのほうが重要だ。

 キャンセルのスキルはあてなければ基本意味が無い。


 さて、相手は俺をなめて掛かってるのか、嫌らしく口元を歪めながら、舌なめずりをしてみせている。


 そして一歩大きく踏み込んだかと思えば、両手持ちのファルシオンを振り上げて勝負に出てきた。

 一太刀の元に両断しようとでも思っているのか?

 

 しかし甘い。というかこんな大ぶりはあっさり躱せそうだが、まぁ折角だから試させてもらおう。


「キャンセル」


 俺は一言そう呟く。別に声に出す必要もないんだが、なんとなく言ってみたくなった。

 すると振り上げていたファルシオンが瞬時にその前――つまり状態が正面に構えた状態に戻された。


 盗賊の顔に明らかな狼狽が滲む。

 当然だ。このスキルは相手の思考までキャンセルするわけではない。


 このゲス野郎からしたら、今まさに斬り裂いたかと思った相手が無事なうえ、自分の構えがいつのまにか元に戻っているのだ、混乱しないわけがない。


「な、なっ! 一体な、ぐぇ!」


 だけどそんな狼狽えてるのをじっと見てるほど俺はお人好しではない。


 即座に間合いを詰め速攻でこの賊の脇腹を右の刃で斬りつける。

 相手の顔が苦痛で歪む。刃が肉にめり込む。

 

 本来ならこの斬り方だと肉から刃を抜くのに手間取るが俺には関係がない。

 直ぐにキャンセルを発動し、右の刃を戻した状態から今度は左の刃で肩口を狙う。


「ぎひぃいい! いてぇぇえぇ!」


 肩肉の三分の二ほどまで刃がめり込む。それをまたキャンセルし今度は右の突きで腹部を貫いた。

 それなりに筋肉があるから貫通までは出来ないが、男の叫び声が頭蓋に響く。

 痛がりすぎだなうるさい。


 だが上手くはいっている。キャンセルのおかげで隙が生まれないから一方的に攻撃を当てることが可能だ。


 そしてこれこそが威力より速度を求める一番の理由だ。

 何せあててしまえばあとはスキルが使える限り攻撃を連続で決め続ける事ができる。

 

 勿論それはあくまでゲームの事だったので、リアルとなった世界ではどうなるか不安ではあったのだが――


 右横切り【キャンセル】左斬り上げ【キャンセル】右袈裟斬り【キャンセル】ダブルスライサー【キャンセル】左払い【キャンセル】バックスピンスライサー……ん?


 ふむ――うっかりしてたがとっくに絶命してたな。

 キャンセルに夢中になるとつい我を忘れてしまう。


 ゲームならある程度のとこで相手が消えるからわかりやすかったのだけど、リアルはそうもいかないか。


 それにしてもグロいな。無駄に筋肉あるものだから、そこまで膂力に優れてない俺の攻撃では一刀両断とかは無理だ。


 だから一撃一撃が斬ってる途中で止まる。まぁだからこそのキャンセルともいえるが、そんな攻撃をやたらめたらと決めたものだからなんかもう結構グチャグチャだ。


 まぁいいか。最初に死体見てるからもう慣れたし。

 てかダブルスライサーとかバックスピンスライサーなんかは武器スキルでもあったんだけど普通に使えたな。

 イメージできるステータスにスキル表示があったからもしかしたらとは思ってたけど。


 因みにバックスピンスライサーは回転して相手の背中に回ってからの一撃でダブルスライサーは双剣を使ったニ連続の斬りだ。

 どれも名前通りだから判りやすい。


 まぁいいや。とりあえずこれで盗賊ぽいのもぶっ殺したし、戦闘での検証もできた。

 首尾は上々と――


「た、たす、おねが、みのが……」


 うん? あぁそういえば尻のホールの奴はまだ生きてたか。

 うんじゃま、ザクッと。


「ぎゃああぁああ!」


 粗末なもんを斬り落としただけでうるせぇやつだな。まぁ流石にそれで死んだけど。

 アナールだけど死因はチン切りだ。まぁ薄汚れた盗賊らしい最期だな。




「た、助けていただきありがとうございます」


 さっきまで涙を流してぐずっていた彼女だが、とりあえず危機がさったという事で大分落ち着いたようだ。


 しかし――俺は思わず目を逸らす。

 う~ん、やはり当然ゲームと違ってしっかり生きている人間だ。反応もそうだが柔らかそうな肉肌や質感なんかはゲームなんかと比べ物にならない。


 ……まぁそりゃそうか。ただベースは日本人ではないので髪の色なんかはやっぱ違う。

 助けた彼女は、肩ぐらいまで伸びたブロンド髪が綺麗な女性で、瞳も碧眼でパッチリとした二重、背は俺よりも低いが女性としては平均的ぐらいか? まぁ間違いなく美少女の部類に入るだろう。


 そして――眼のやり場に困る理由は、やはりそのわがままな双丘となまじ下着だけが残ったために、より強調されている深い谷間。


 正直全くないわけではないが、それでも普通よりは恋愛経験が少ない俺には正直かなり刺激が強い。

 てかどれぐらいサイズあるんだ? Gは間違いなくあると思うが――


「きゃっ! あ、ご、ごめんなさいはしたないものをお見せして」

 

 彼女は俺が目を逸らしたのをみて暫し呆けていたが、どうやらその理由に気がついたようで赤面しながら身を捩らすようにして両腕で胸を覆う。


 いや、でもそんな腕の回し方じゃ下から持ち上がってより……いや、落ち着け俺。

 これじゃあただの変態じゃないか。


「いやいや個人的には凄く嬉しいぐらいではあるんだけどな。流石にそのままってわけにはいかないだろ? 着替とかはないのか?」


「……いえ、私は奴隷ですし、ご主人様は必要最低限の服しか用意はしてくれなかったので」


 奴隷、か。ちなみに奴隷というシステム自体はゲーム内にも存在した。

 ゲームでは奴隷商人というのが存在しサポートキャラとして奴隷の購入が出来たからだ。


 とはいえ奴隷は男女共に多種多様で、また一度に連れて歩ける人数には制限はあったものの、家持ちプレイヤーであれば、その範囲で奴隷を購入し家に控えさせておくのも可能であった。


 奴隷は自由に着せ替えも可能だったので、能力よりも見た目を重視にし、奴隷を連れて歩く貴族スタイルなんていう楽しみ方もあったぐらいだ。


 だから奴隷制度がある事自体には特に違和感もないが――とはいえ奴隷に着替えも用意しない輩がいるあたりはゲームの世界に似ていても、やはりリアルなんだなと感じさせる。


 だが、やはりこのままというのはまずいな。流石に目立つしこんな状態で逃げさせたら、盗賊じゃなくても何かしら憂いな目にあう可能性が高いだろ。


 俺はとりあえず手持ちのマジックバッグの中身に目を向ける。 

 バッグの口を押し広げ顔を突っ込むと広い空間に置かれている中身が確認できた。


 てかなんとなくやってみたけど口はこんなに伸びるもんなんだな。

 まぁそうでないと大きい物が入らないことになってしまうだろうが。

 う~ん、それにしてもこれ人も入れそうな気がするけどどうなんだろな? ゲームではむりだったけど。


 まぁいいや、とりあえずその中身に――あったあった。以前城のダンジョンで見つけてそのままにしておいたミラージュドレス。


 実は、結局最後の日まで試す機会はなかったが、ある程度ソロでも動けるようになったら俺も奴隷を買ってみようかなとは思っていた。

 その時はやっぱ女の奴隷がいいなと思って、その時に使えそうなのはこうやって取っておいたのだ。


 俺はそれをバッグの中から取り出してその美少女に見せる。


「マ、マジックバッグ持ちだなんて凄いです! あの、もしかして高名な騎士様なのでしたでしょうか?」


 どことなく控えめな口調で彼女が尋ねてきたが、このマジックバッグがそんなに凄いものなのか?

 いや、まぁゲームでもそれなりの金額はしたが、ある裏ワザで俺はあっさりゲットできたしなぁ。


 まぁいいや、ここは普通に旅人で、て、やべ俺まだ名乗ってなかったな。


「いや俺はそんな洒落たものじゃないさ。只の旅人でヒットっていうんだ」


 俺がそう名乗ると彼女がはっとした顔になって焦ったように何度も頭を下げた。


「も、申し訳ありません! 申し訳ありません! 助けていただいたのに私ときたら名も申し上げず!」


「あ、いや別にいい。そんな畏まらなくて。大丈夫だから」


 突然の行動に俺もちょっと焦ってしまう。それにその姿でそんな勢いよく頭をふられると魅惑の谷間が視界に入るし、更にプルンプルン震えるものだから、眼福ではあるけどちょっと目のやり場に困る。


「あ、あの私このトルネロ・サンドリーという主に仕えておりました奴隷のメリッサと申します。本当に助けて頂きありがとうございました」

 

 一度落ち着いたところで彼女が改めて自己紹介を交えつつ俺にお礼を言ってきた。

 そう何度もいわれると逆になんか申し訳ない気になるな。


「いや、そんなマジで気にしないでいいぞ。それよりこれをあげよう」

 

 俺はそういって彼女にバッグから取り出したドレスを差し出す。

 

「え? これを、私に、ですか?」


「うん、そうだ」


「そ、そんな! 頂けません! 助けて頂いた上に奴隷の私がこのような高価なものをなど恐れ多い! とんでもありません!」


 凄い勢いの遠慮だな。右手と首をぶんぶん振って、普通に嫌われてるのかと勘違いしそうだ。

 まぁ表情が困惑って感じだから本当に遠慮してるんだろう。


「でもその格好のままってわけにもいかないだろ? いいから受け取ってくれ。もしくはどうしても気になるなら借りるって形でもいいから。何せその姿のままじゃいい加減目のやり場に困る」


 俺の言葉で自分の姿を再確認したメリッサの顔が見る見るうちに紅く染まる。

 あぁ畜生、可愛いなおい!


「わ、判りました――それでは一旦お借り受けする形で――」

 

 彼女は申し訳無さそうに俺からドレスを受け取ると、きょろきょろと黒目を動かし始めた。

 あぁそうか。


「着替えなら馬車の中でしてくればいい。俺が見張っておいてやるから」


 そう伝えるとメリッサは、申し訳ありません、と言い置き、いそいそと馬車の中に潜っていった。


 因みに馬車と馬はみたところ無事だな。まぁ盗賊はこの馬車狙いだったんだろうから当然か。

 馬車はいわゆる幌馬車って奴で馬が四頭繋がれている。


 死んでる護衛の数も五人か。全員男で戦士タイプばっかりだな。

 まぁ女性がいなかったのは幸いだな。

 俺も流石に女性の死体は見たくない。


 さてっと……後はこれからどうするかってところだよな――

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