第28話 実は私は……
「ガロウ王国騎士団の部隊がやってきたので、取り敢えず一緒に来て欲しい」
明朝シャドウからのそんな言伝を受け、俺達は門の前まで急いだ。
あのダンジョン攻略から一〇日程は過ぎていただろうか。
それからも、やはり俺たちは魔物の駆除や時には未だセントラルアーツに潜伏し続ける冒険者崩れ……まぁ今となってはただの賊と成り果てた連中だが、そういったのを粛清し続けたりしていたわけだけどな。
そんな中の正騎士様のご来場だ。そして勿論だが隣にはアンジェも一緒である。
寧ろ彼女がメインといってもいいのかもしれないがな。
何せアンジェだって王国の正騎士の一人だ。
「ん~? ん~? 貴様が知らせにあったシャトー・ライドか?」
「えぇそのとおりでございます。以後お見知り置きを」
騎士が兵士と馬車を連れ立ちぞろぞろと街に入ってくる。
ダイモンも緊張した面持ちだ。
そして驚いた事にシャドウはいつもの黒一色の出で立ちから一変、以前銀行で見たような貴族然とした衣装に着替えていた。
まぁ流石に髪はいつもどおりの黒髪だけどな。
今回はそこまで隠す必要がないからだろ。
しかし、それにしても。
「ん~? ん~? 貴様がなぁ。なんともぱっとしない男ではないか」
……この男。恐らくこの騎士たちの中で一番身分が高いのであろうが、なんというか、本当に騎士か? といった風貌だな。
何せ一応騎士らしくアンジェも着ているような鎧を身にまとっているが、それが悲鳴を上げそうな程身体が丸い。
ついでに顔も丸くヒキガエルのような見るものを苛つかせる顔立ちと、更に妙ちくりんな口調がさらに不快感を際立たせる。
中々ひと目でここまで思わせる奴はいないな……実際、メリッサやカラーナの見る目も、まぁなんというかそういう目だ。
それでもメリッサはなんとか感情を表に出さないようにしてるみたいだけどな。
それでもセイラには敵わないか、彼女に関しては相変わらずパッとみの表情に変化がない。
しかし、あの体型だと乗られる馬が些か可哀想でもあるな……
「ジョルト……ヘンベル子爵か……」
と、ここで隣に並ぶアンジェが呟く。
彼女も王国の騎士だけにあの男の事はよく知っているのかもしれない。
「アンジェ知ってるん?」
すると後ろからカラーナが囁くように問いかけた。
するとアンジェが顎を引き、
「あぁ……私とは所属は違うが、一応立場としては上の中佐にあたる騎士だ。だが――」
とそこで口籠る。
表情もあまり優れない。
それで察したが、どうやらアンジェにとってあまり好ましい相手ではないようだな。
とは言え、アンジェも王国の正騎士だ。
そのまま黙ってるわけにもいかないだろう。
彼女のそれを判っているのか、一歩前に出てヘンベルという騎士に向かって頭を下げる。
「ヘンベル中佐、ご無沙汰しております」
「ん~、ん~? おお! これはこれはアンジェ殿下! いやいやご無事で何よりです。本当に皆心配しておったのですよ」
……へ? 殿下?
◇◆◇
「本当に隠しているつもりは無かったのだがな。悪かったヒット」
アンジェが俺に頭を下げてくる。あの後判明したことだったのだが……どうやらアンジェはここガロウ王国の第四王女殿下だったようだ。
つまり姫騎士様だったというわけだ。
全くなんてこった、そう考えると随分と無礼な振る舞いをしてしまっていたようなそんな気がする。
まぁそんなわけで、シャドウによって設けられた席に着く直前、俺はアンジェに謝罪の言葉をうけたわけだが、まぁだからといってもな。
うん、俺にとってはアンジェはアンジェだ。
だから気にしてないと告げたら笑顔で、ありがとう、と返してきた。
その微笑みもぐっとくるものがあるけどな。
ちなみにこの席は、王国から派遣されてきた騎士達と今回の事件と今後の領地の在り方について話し合うためという名目で設けられている。
「ん~ん~、いやはやそれにしても今回の件、アンジェ殿下にも困ったものですな」
そして、皆が席につき今回の件についての話が始まったわけだが……ニ、三挨拶を済ました直後、丸顔のヘンベルがため息混じりにそんな事を言ってきた。
なんだこいつ? さっきまで殿下とか敬ってるような感じだったのに。
「全くですな。勇み足がすぎるといいますか……本当に此度の件、全て独断で行動に移していたようですがな、もう少しやり方は考えられなかったのですかな?」
「本当に。陛下は少々甘いところがあるようですが、我らガロウ騎士団の間ではかなり問題視されてますぞ。全くいくらお情けで賜ったとはいえ一応はこの国の第四王女なのですからな。少しはご自分の立場も弁えて行動してもらわねば」
「ちょ、ちょっとあんたらなんやねんさっきから! いくらなんでも失礼すぎやろ! アンジェはあんたらの国のお姫様なんやろ! それなんにそんなん失礼なこというてえぇの?」
「そうです! それにアンジェはこの街の為に尽力してくれました! 復興も自ら進んで協力してくれたのですよ!」
ヘンベルの発言に倣うように口々にアンジェを非難し始めた騎士たちにカラーナとメリッサが声を荒げ反論した。
ちなみに事前にアンジェからは陛下などといった呼び方はよしてくれ今までどおり頼む、と懇願されている。
だからメリッサも呼び方は変わってない、勿論カラーナも俺もそのつもりだ。正直今更だしな。
それにしても……こいつら一体なんなんだ? 大体お情けってなんだよ。姫は姫だろ。
「ん~ん~? この街の為ねぇ。いやいや確かに殿下は随分と平民たちからも慕われているようですがなぁ。しかし、正直越権行為も甚だしいと、いやこれは私の意見ではありませんが、王国軍ではそういった声も上がってますからなぁ」
「何せ此度の件、殿下がもう少し慎重に行動しておれば、貴族が全員死亡などという不名誉な事態には発展しなかったかもしれないのですからな。その辺りは殿下はどうお考えで?」
「……私としては最初は調査目的でこの地に足を踏み入れました。シャトー卿より知らせを受け、アーツ地方に何かしらの事件が起きているであろう事を上官には知らせましたが取り合っては貰えなかったもので。その後の事は報告書にあるとおりです。私は魔族の策略による結界でこの地から出ることがそもそも出来なかったので……」
「おやおや、これは驚きだ。よもやここに来て軍への批判とは」
「第四王女であるから私のいうことを聞かなかった軍が悪いと、そう言われるおつもりですかな?」
「いやいや、確か話では、軍に於いてはご自分の身分など関係なく一騎士として扱って欲しいと、そう願いでたというお話だったはずですが」
「やはりいざとなるとお情けで、いや失礼、陛下から突如賜った第四王女という身分を振りかざすわけですな」
「そ、それは……」
「おい! いい加減にしろよ!」
思わず俺は怒鳴っていた。
この自称王国騎士たちのいいぶりがあまりに腹立たしかったからだ。
てか、こいつらこんな事を言いにわざわざ来たのか?
「この領地の今後についての話があるというから来てるというのに、さっきからお前らアンジェを悪くいってばかりなのは一体どういう了見なんだ!」
「ん~ん~? そなたは確か殿下曰く、この領地の救世主でしたな。いやはやこれは失礼した。わざわざこのような大事な会談の場に頼んでもいないのに奴隷などを連れてやってくるような御方は口の聞き方も立派なものですな。先程の突然怒鳴りあげた奴隷といい教育も行き届いているようで。全く育ちがよくわかるというものです」
この豚蛙騎士……まるで俺たちが邪魔者みたいな言い草だな。
てか、いちいち言い方が癇に障る。
「いい加減にしていただけませぬか? 私の事は何を言われても構いません、ですが失礼を承知で申し上げますが、何度も私の危機を救ってくれたヒットやメリッサ、カラーナの事を悪く言うのは我慢がなりません。それに皆には私が頼んできてもらったのです。何せ皆はこのアーツ地方を救ってくれたいわば英雄なのですから」
英雄ねぇ、と騎士たちが一様に小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
こいつら一体なんなんだ? まともに話し合う気があるのか?
「……アンジェ殿下には私も同意見ですね。一応は私も現在この地を与り受ける身、そして今回の魔族による画策の一部始終を見届けた身でもあります。アンジェ殿下やヒット様達が今回の一件の解決に大いに貢献されたのは事実です。それを蔑ろにし馬鹿にするような発言は少々不快ではありますね」
シャドウのはっきりとした物言いで、騎士たちが一斉に口を噤んだ。
面倒だとか最初は言っていたけど、なんだかんだいってシャドウも領主としての風格が出てきたものだな。
少しはこちらも溜飲が下がった感じだが、さて――




