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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部一章 王国騎士団編

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第23話 ゲイルとレイリア

「な、なぁ許してくれよ。元々は同じ冒険者じゃねぇか」


 ゲイルの周囲には、数名の元々同業者だった男たちの死体が散乱していた。 

 そして目の前では唯一生き残った大柄な男が、膝をつき、平伏して許しを乞う。


 その姿に辟易した表情をみせ嘆息を吐き、目だけで仲間たちの様子を確認するが、ゲイルに任せるといった空気がにじみ出ている。


「別に俺たちは、お前らみたいな連中と違って殺人狂ってわけじゃねぇ。だけどなてめぇらみたいな冒険者崩れのおかげで畑を荒らされたり、女が乱暴されたりといった事案が絶えねぇんだ。放っておくわけにはいかねぇ」


「や、やっぱり殺す気かよ……」

 

 責めるような目を向けてくるその男に怒りが込み上がる。

 そもそも殺されるような原因を作ったのはこの連中である。


 元々はセントラルアーツで冒険者をしていた男達。

 だが反旗を翻した解放軍によって領主は討たれ、不正を働いていた冒険者ギルドのマスターであったギルマスも死亡。


 ギルマスに協力していた冒険者達の名前も明るみになり、その殆どは粛清された。 

 だが中には、混乱に乗じて上手いこと逃げおおせたような連中もいる。

 

 そういった連中は結局街に戻る事もできず、かといって今となっては街の復興の功労者にもなりつつある盗賊ギルドを頼る事もできず――


 結局はこの男のように、流れの賊に成り果て、なんとか村や畑を復興させようと努める人々を襲うような生き方しかできないわけだ。


 しかし当然そんな行為を見逃していては、領内の復興作業など遅れるばかりだ。

 これは盗賊だけではなく、同じく人々を恐怖に陥れる魔物達にも言えることではあるが。


 そして、だからこそセントラルアーツにおいて、新しく領主の任に就いたシャドウが、冒険者や復興に協力的な盗賊を集い、討伐隊を組み、賊と化した冒険者や、人々に危害を加える魔物の排除に力を注いだ。


 だが、魔物はともかく賊と化した人間は当然知恵が働く。

 セントラルアーツでは動きづらくなったとでも考えたのだろう、最近はイーストアーツにまで出向いてきて悪事を働くようになってきた。


 現状セントラルアーツに比べれば、あのチェリオによって蹂躙され多くの犠牲を生んだイーストアーツは、人手にしろ、こういった事案に対処できる戦力にせよ、圧倒的に少ない。


 何せヒットやその仲間によってイーストアーツが解放された後、ゲイルも仲間を集い各地の生き残りを探したものだが、それらを全員集めても五〇〇人程度でしかないのである。

 

 尤も――イーストアーツの街は散々たる有り様で、暫くはまともに雨風を凌ぐのすら厳しい日が続いたもので五〇〇人の生活を確保するのも苦労したものだが――


(だからこそシャドウ様の助けはありがたかったんだよなぁ……)


 そんな事を思いながら男の顔を眺める。

 イーストアーツ解放後、暫くしてセントラルアーツ解放の知らせも届いた。

 その時にシャドウが一旦領主の座に就いたという事も知った。


 更にその後は一度ヒットやメリッサ、アンジェにセイラとカラーナといった面々が様子を見にも来てくれた。


 しかもその時には、セントラルアーツからイーストアーツの復興のためにと用意してくれた人員五〇〇名も一緒であった。

 彼らはイーストアーツの復興が上手く行けばそのまま移住してくれるともいう。


 住処の件にしても、冒険者御用達の簡易テントなどを仮住宅として対応してくれた。

 

 とにかく人手が欲しいと思っていた矢先にこれはとてもありがたい事であった。

 中には腕の立つ冒険者の姿もあったのでなおであろう。


 今回の盗賊の件も、存外早く見つけ追い詰めることが出来たのは、シャドウの配慮の賜だ。


「シャドウ様の恩義に応えるためにも、お前らみたいな連中にこっちは手間取っていられないんだ。だが安心しな。抵抗する気がないならこの場で殺しはしないさ。一応ギルドも関係することだ。セントラルアーツでのお前らの所業は既に王都のギルド本部に封書で送られているとも聞いている。直に処罰が下されることだろうし、それまでは牢屋の中で大人しくしてるんだな」


「……王都の本部にだって――」


 男の顔色が変わった。そこに反省や後悔などはない。 

 ただただ自分勝手な怒りをその眼に宿し、肩を震わせ――


「そんな事になればどっちにしろ俺は終わりじゃねぇか畜生が!」


 懐に隠し持っていたダガーを取り出し、蹶然とゲイルに襲いかかる。


「馬鹿が――」

 

 しかし、その刃がゲイルの身に届くことはなかった。

 彼の抜剣が男の動きを凌駕していたからである。


「あ、がッ……」


 一撃で急所を斬り裂かれ、そのまま男は絶命した。

 こうして愚かな賊共はゲイル達の手によって討ち倒されたのである。


「まぁ所詮。賊に堕ちるような連中はろくでもないって事だな」


 仲間の一人が言った。

 ゲイルは、全くだ、と評し。


「ま、取り敢えずこれでこの件は終わりだ。さっさと街に戻ろうぜ」


 刃についた血を振り払い、鞘に収め一人街に向けて歩き出す。

 その後を一緒に来ていた仲間たちが追った。


「まぁゲイルは早いとこ愛しのレイリアちゃんに会いたいだろうからな~」


「な!? 馬鹿! そんなんじゃねぇよ!」


「でも婚約したんだろ? 本当あんないい子がゲイルなんかに惚れるなんて世も末だぜ」


「だから婚約ったって口約束だけ……て、俺なんかってどういう意味だよ!」


 道すがら、仲間たちの茶化すような言葉にゲイルは声を荒らげた。

 とはいっても、レイリアとの事を言われるのはまんざらでもなさそうだが。


「スタイルも良くて見目も良い。そんな子がゲイルに惚れてたってんだから、神様も残酷だって話だよ」

「いい加減にしないとマジで怒るぞ」


 ジト目でゲイルが返すと、笑い声が広がった。

 全く、と嘆息しながらもゲイルは自然と街に戻る脚を速めていた。






◇◆◇


「お帰りなさい貴方!」

 

 ゲイルが屋敷に戻ると、レイリアが彼の胸に飛びこんできた。

 彼女の意外と豊満な胸がゲイルの厚い胸板と重なり、彼も思わず頬を染めるが、すぐに抱き寄せ抱擁し、ただいまと返した。 

 

 そしてついでに熱い口吻も――そのやりとりは傍から見れば新婚の愛情あふれる男女のようにさえ思えることだろう。


「というか、貴方は流石にまだ気が早いぜ? 正式に婚姻したわけじゃないわけだしな」


 そっとレイリアから顔を離した後、苦笑しながら告げる。

 すると、彼女はぷくぅ~っと頬を膨らまし剥れてみせた。

 

「貴方ってば酷い! 私はあの時のプロポーズ凄く嬉しかったのに!」


「ははっ、改めて言われると照れるけどな。でも、まぁそうだな……」


 腕を組み、そっぽを向くレイリアの頬をツンツン、と突っつき。


「そう剥れるなって。でもこんな状況だからな。寧ろ俺も言葉だけで何も送れないのが情けないとも思ってるんだぜ。本当ならでっかい指輪の一つでもプレゼントしたいところなんだけどな」


 バカッ――と呟き、レイリアはゲイルに顔を向け直し、再びギュッと抱きつく。


「貴方がいてくれるだけで嬉しいんだよ。……だから命だけは大事にしてね。今日だって本当は凄く心配だったんだから――」


 その言葉が嬉しくもあり、そしてやはり心配を掛けてしまっているのが申し訳なくも思うゲイルだ。


 打倒チェリオ伯爵の為に結成されたレジスタンス。そのレジスタンスのリーダーを引き継ぎ、そしてヒット達の手助けもあってイーストアーツの街を解放。

 

 そしてその後は、成り行きで復興の為の纏め役を担っている。

 正直本来リーダーなんて柄ではないゲイルではあるし、色々力不足な点も否めない。

 しかしシャドウからの助言や、派遣された人々の協力もあって、なんとか細い糸を辿るような気持ちでリーダーを続けている。


 しかし元来冒険者家業の方が性に合っているし、それがメインであったという事もあり、魔物狩りや今回のような盗賊狩りには率先して動いているのも確かだ。

 小さいながらも騎士と私兵を募り自警団を準備したセントラルアーツと違い、そういった人員に余裕がないというのも要因としては大きいが、危険を買って出るようなやり方は、レイリアにとっては気が気でない思いなのだろう。


「大丈夫だレイリア。それに俺だって大分腕も上がってるんだぜ? 中々神様は俺に高位職を与えちゃくれないが、それでもこの辺りの魔物じゃもう遅れを取ることもないさ。だから安心しろ。俺は絶対何があってもレイリアを悲しませるような事はしない」


 ゲイルは再び強く抱きしめ髪を撫で上げる。

 そして二度三度と唇を重ね合い、その言葉が睦言へと代わり――ふたりはその晩、何度も何度も求め合った……


 そして明朝――


「おい、ゲイルいるかい? て、おっとすまねぇ」


 ゲイルとレイリアが住処としている小屋を訪れた彼は、仲良く裸で抱き合っていたふたりを目にし、開けた扉をパタンっと締め直した。

 ノックぐらいしやがれ! と扉越しにゲイルの怒鳴り声が響き渡る。


 だったらせめて鍵ぐらい閉めといてくれよ、と彼は肩を竦めた。

 もっといえば、一応この街ではリーダーをはっているのだから、もうちょっと立派な屋敷にでも住めればいいんだろうがな、等とも考えたりもした。


 だがそれは贅沢であることは彼も、ゲイルだって理解している。

 チェリオの屋敷でも頂いてしまえばいいのかもしれないが、あそこは色んな意味で不快な思い出が多すぎるため、半ば負の遺産扱いですらあるので、敢えて住もうなどと思わないのだろう。


「で、なんだよこんな朝っぱらから」


 麻のズボンに半袖のシャツというラフな格好で出たゲイルは、頭をボリボリ掻きながら不機嫌そうに言った。

 

 それに苦笑いする男であったが、すぐに真剣な表情に戻し、それに倣うようにゲイルの表情も引き締まる。


「何か不味いことでもあったのか?」


「いや、それはわからない。寧ろ喜ばしいことなのかもしれないが、物見櫓で見張りをまかしていた男からの連絡でな。どうやら王国騎士団の連中が近づいてきているらしい――」


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