第18話 仕掛けと解除
現在の階層のマップを乗せてます。
シャドウを取り敢えず部屋の端の壁沿いに座らせ、盾とドライゴーンの素材を回収した後、俺達は手分けしてこの階層の調査に乗り出した。
が、それも程なくして終わった。この階層は他に比べると規模はかなり狭く、すぐに回り切ることが出来たからだ。
おまけにこれといった罠もなく――だが一つ問題があった。
どうしても開かない扉があったのだ。しかもかなり巨大で頑強な観音開きの扉、見た目的には門といったほうがいいのかもしれない。
カラーナやニャーコも色々調べてはくれたが、鍵開けの技術や強引な手法でなんとかなるという代物でもない。
「鑑定してみましたが、閉ざされし門と出るだけですね」
申し訳無さそうにメリッサが結果を教えてくれたが、それはそれで仕方無い。
どうやらこの門は透視も出来ないようだ。
「気にするな。それにちょっとだけ思いついた事がある」
「思いついた事?」
アンジェが不思議そうな顔で首を傾げた。
カラーナからも、何かわかったん? と質問される。
「あぁ、このフロアはあのドライゴーンと戦った部屋と同じ円形の部屋が三つ繋がっているだろ?」
「あ、確かにそう言われてみるとそうですね」
天井を見上げながらメリッサが思い浮かべるように言う。
「でもそれがどうかしたのかにゃん?」
「気が付かないか? この三つの部屋ではあるものが共通している」
「あるもの……あ!?」
「……台座」
アンジェとセイラは気がついたようだな。
そう、この円形の部屋にはそれぞれ中心に台座とあのレンズのようなものが備わっており――
「ふたりは気がついたみたいだな、じゃあ――」
俺は全員を促すようにして、最初の部屋まで戻っていき、改めて台座を囲むような形になる。
「でもこれがどないしたん?」
「これ光ってるだろ?」
「確かに光ってるにゃん」
そう、三つの部屋のうち今いる真ん中の部屋のレンズは煌々と光り輝いている。
「だけど残りふたつの部屋のは消えている」
俺は左右の奥に見えるレンズを指さしながら皆に伝える。
それなりの距離はあるが、三つの部屋につながる部分に視界を防ぐものはない為よく見える。
「う~んボスの考えがわからへんな」
「もったいぶってないで早く教えるにゃん」
カラーナは首をひねりニャーコは猫耳をピコピコ揺らせて促してくる。
中々せっかちだな。
「まぁとりあえず見ててくれ。もし俺の考えが正しければ――」
俺は台座の目の前まで移動し、光るレンズに手を乗せた。
そして魔力を込めるイメージで――
「これは!」
「光が消えたにゃん」
「あぁでもご主人様、左右の部屋の光が――」
「消えた瞬感に逆に点いたやん」
「……変わった仕掛け」
「アンッ!」
それぞれがそれぞれの反応を見せて驚くが……やはり予想通りだったな。
「だが、これは結局どういうことなのだ?」
「アンジェ、恐らくだがあの開かない扉はこの仕掛けを上手く合わせれば――恐らく三つとも光らせる事が出来れば開くんだと思う」
「おお! 流石ボスやな! 中々気づくもんちゃうで」
「うむ、確かにな」
「流石ですご主人様」
いや、それは持ち上げ過ぎだと思うがな。
まぁでもゲームなんかではよくあるパターンだからな。
だからこそ気がつけたのかもしれない。
「でもそれだったら三人で魔力を込めればいいにゃんか?」
「……駄目。仕掛けに矛盾が生じる」
セイラの言うように、これを三人同時に作動させても恐らく意味は無いだろう。
この仕掛けは、ようは魔力を込める度に込めた本体とその隣に存在するレンズの光が反転する仕組みだ。
それを三人同時にやったとしても勿論ふたりであっても、仕掛けに矛盾が生じてしまう。
「セイラが正解だ。これは一つずつやって光を三つ揃えるべきだな。
「ならうちやる! なんか面白そうやねん!」
「え、おいカラーナ!」
俺はなんとなく不安になりカラーナを止めようとしたが、無視して三部屋のレンズに次々魔力を込め出した――が。
「あかん……全然駄目や、何やこれ」
戻ってきて大の字に寝そべりギブアップを宣言するカラーナ。
しかし……まさか本当に解けないとはな。
「……いや、カラーナ。正直私には解がわかった気がするのだが」
「え!?]
カラーナがガバリと起き上がり目を丸くさせる。
だけどな……
「ニャーコも解けたにゃん」
「……簡単」
「アンッ!」
……フェンリィすら解けたような素振りを見せるものだから、カラーナがズーンと全身に暗い影を纏わせてしまった。
「ふぇ~んボスー! うちかて! うちかてあともう少し時間があればわかるんやーーーー! 信じてやーーーー!」
カラーナが俺の胸に飛び込んできてうるうるした瞳で訴えてきた。
仕方ないので慰めるために髪の毛をわしゃわしゃしてやる。
「というか何ちゃっかり抱きついとるんだこの状況で! 不謹慎だぞ!」
た、確かにそうか。アンジェの顔も紅いしご立腹のようだな。
「あの、ご主人様」
するとメリッサが近づいてきて声を掛けてきた。
彼女を振り返り、どうしたメリッサ? と反問する。
「あ! わかったで! メリッサも解けなかったんやろ!」
「あ、いえ、それは問題なく解けたのですが」
またカラーナがしゅんとしてしまった。全く。
「それで、これは私がやってみても宜しいですか?」
「ん? それは構わないが、ただ――」
俺は少し気になる点はあったのだが、俺が一瞬言葉をつまらせると、その間にメリッサが、ありがとうございます、と延べ台座のレンズに手を掛けた。
「ヒット、何か気になることでもあるのか?」
どうやら俺の様子をアンジェが察したようだな。
まぁとはいえ。
「いや、ちょっと簡単すぎるなと思ってな。ただどちらにしてもここをクリアーしないと始まらないしな」
「そういう事か、確かに簡単といえば簡単だけどな……」
アンジェもそこまでいって言葉を濁す。
彼女も、きっと簡単すぎるといってもそれ以上出来る事もない事に気がついているのだろう。
そして、そうこうしてるうちにメリッサはあっさりと端を残してふたつの光を消した。
この仕掛けは真ん中が光ってる状態であれば、右か左どちらかのレンズを反転させれば次の一手で全ての光が点く。
そしてメリッサが真ん中の部屋に戻ってきたので一緒に左端の部屋に向かった。
ここからだと丁度あの扉が近い。
後は端のレンズにメリッサが手を置き――魔力を込めればそれで扉が開く。
そう思いつつ成り行きを見守っていたのだが……
「あ、あぁあああぁあぁあああーーーー!」
突如三つの台座から眩い光が迸ったかと思えば、続いて聞こえたのはメリッサの悲鳴。
「メリッサーー!」
「な、なんや! メリッサどないしたねん!」
「くっ、眩しすぎる!」
「にゃ、にゃーーーー!」
「…………」
「アンッ! アンッ!」
俺も含めた各自からメリッサを心配する声があがる中、ようやく光が収まり元の景色が視界に広がり――
「お、おいメリッサ! しっかりしろ!」
台座の前では横向きに倒れたメリッサの姿。
金色の綺麗な髪が乱れ、床に投げ出された状態であり、俺は慌てて駆け寄り肩を掴んで上半身を持ち上げるが、息はしているようだが意識が完全に失われている。
「なんやこれ、どないなっとんねん!」
「落ち着けカラーナ。それにヒットも……といっても無理な話か。メリッサ……」
呟きアンジェが俺と対面する形で屈んだ。
俺はメリッサに声を掛け続けるが反応がない。
心が潰れてしまいそうな気持ちになる。自分の浅はかさも嫌になる。
なぜ俺は最悪の事態を想定出来なかったのか……ダンジョン攻略が順調に進みすぎていた為、完全に油断していた。予感はあったはずなのに――
「ヒット! しっかりしろ! 主人のお前がそんな事でどうする!」
アンジェの怒鳴り声が俺の意識を揺らした。
正面を見ると真剣な目付きな彼女の姿。
それにいつの間にか俺の横に立っていたカラーナも心配そうな顔をしている。
「あ、あぁ確かにそうだな……しかし」
「ヒット、恐らくこの症状は魔失症だ」
メリッサの手を握りしめながら俺が呟くと、アンジェの口からメリッサの事について伝えられる。
「魔失……症?」
「あぁそうだ。さっきシャドウは魔欠状態だという話をしたが、あれは正確に言えば魔力欠落症というのが正式な呼び名、そしてそれより更に重い状態なのが魔力消失症、それが魔失症だ」
「つまりメリッサは今魔力が空の状態ちゅう事なんやね……」
俺が疑問の言葉をぶつけるとアンジェ詳しく説明してくれた。
そしてカラーナがメリッサの顔を覗き込みながら心配そうに述べる。
しかし、魔力が空?
「それは……大丈夫なのか? 暫くすれば回復するのか?」
俺が改めて尋ねるが……アンジェは首を横に振った。
なんだよそれ……
「……魔失症、とても、危険」
「クゥ~ン……」
「にゃぁ、魔力が減った状態で起きる魔欠症と違って魔失症は完全に魔力が失われた状態にゃん……生物はその状態になるともう外から魔力を取り込み補う事が出来ないにゃん」
「……ニャーコの言うとおりだ。この状態になると意識も失い自分の力では魔力を取り込む事が出来ない、そしてその状態が続けば――」
そこでアンジェの言葉が詰まるが、その事がメリッサの未来を暗に告げていた。
「そんな、それじゃあメリッサは……」
「だがヒット。この症状になったからとすぐにどうこうなるわけではない。余裕がないのは確かだが、魔力回復用のポーションなどで間接的に魔力を補充してあげれば助かる話だ」
「ポーション……そうか! その手があったのか!」
「そ、そやでボス! 別に助からないと決まったわけやないんや。こうなったら一度戻って――」
『まさかここの扉を開けてくれる人が出てくるとはね~ちょっと驚きだよ~』
メリッサの事で希望が見えてきた、そう思っていた矢先、突如頭上から聞き覚えのある声が降り注いできた。
何かと思って俺は顔を上げて声の主を確認する。
すると一つの目玉に羽の生えたうす気味の悪い魔物が、上空から俺たちを俯瞰していた――
 




