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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部一章 王国騎士団編

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第17話 魔欠状態

 片翼をもぎ、地上に引きずり下ろしたドライゴーンだが、奴が次に行ってきたのは意外にも残った翼を自らの手で引きちぎる事であった。


 これには俺も少々面を喰らったが、つまるところ、この合成魔獣は翼が一つだけ残ったところで邪魔と判断したわけだ。

 実際地上を駆けまわるなら長大な翼など確かに邪魔でしかないだろう。


 このドライゴーン、魔物や下手な魔獣に比べれば知恵も回るのかもしれない。


 そして――ドライゴーンは自らの翼を取り払ったかと思えば、四肢で思いっきり地面を蹴り、その牙をアンジェに向けた。


 しかしそれを大人しく喰らう彼女ではない。大きく横に飛び、ヒラリと魔獣の顎門を躱してみせる。


「しかし飛竜に近い翼を持ちながら、地上でも動けるとは中々厄介ではあるな」


 俺の数メートル前方に降り立ち、呟くようにアンジェが言った。

 確かに地上に落とせば少しは楽になるかも知れないと思ったものだが、四肢を支える身体は獅子のものだけに、地上での動きも俊敏で決して油断していい代物ではない。


 アンジェへの攻撃を外し、単身佇むその身にカラーナの投擲したナイフが迫る。

 ドライゴーンはそれを鬱陶しそうに前肢で叩き落とした。

 中々器用な真似をする奴だ。


「生意気なやっちゃな~!」


 一定の距離を保ったまま、広間を動き回るカラーナが叫ぶ。

 だがドライゴーンはそこには意識をやらず身体を俺たちの方へと向け顎を開いた。

 

 咽喉より込み上げてきている灼熱が俺の瞳に映る。

 ふと頭の中に現在の位置関係を思い浮かぶ、俺の数歩前にアンジェ、斜め後ろにセイラ。

 炎の射線上に見事に重なっている。


「アンジェ! セイラ! 気をつけろ!」


 思わず警告の声を上げた。

 その瞬間には炎の荒波が俺たちの目の前まで迫ってきていた。


 スキルキャンセルはしょっぱなに使用している為、もし使うとしたら範囲キャンセルになるが――しかしその必要はなかった。


 射線上にはトラップキャンセルを仕掛けている位置でもあったからだ。

 そのおかげで一瞬炎の動きが止まり、俺達は上手く豪炎から逃れる事が出来た。


 ただトラップキャンセルは掛かったものだけをキャンセルするタイプなので、ブレスなどの場合ブレスそのものは消えないようだな。

 トラップに触れた部分だけが一瞬だけ壁に遮られたような状態になるだけだ。


 まぁそれでもおかげで大事には至らなかったけどな。

 

「乱れ投げの術にゃ!」

「Vスラッシュや!」

「アオーーーーン!」

 

 ブレスを吐き終えた直後のドライゴーンの隙をついて、ニャーコの投げた八本のクナイが胴体を貫き、空中からカラーナが急降下、相手の身にV字を刻みつけ、更にフェンリィの爪牙が肉を抉る。


 竜の顔が歪んでいるような、そんな気がした。

 かなり嫌がっているのかもしれない。

 だが相手もやられてばかりではない。負けじと爪と牙を使い反撃してくる。


 しかしその時には、いったん全員が距離を取り、反撃はあたらない。

 ニャーコもカラーナも、そしてフェンリィだって動きはかなり俊敏だ。

 

 そう簡単にやられたりはしない。

 とはいえ敵の切り替えも早い。

 ドライゴーンはそこから力強く地面を蹴り上げ、離れた距離を詰めなおそうとする。


 しかしその先で動きがピタリと止まった。キャンセルトラップに引っかかったからだ。


「……サンダーストライク――」

 

 そして狙い澄ましたようなセイラの魔法で、落雷が敵の身体を貫く。

 

「グウゥウガァアアァア……」


 ドライゴーンが苦しそうに呻いた。やはりかなり効いているようだな。

 この調子でいけば後は何か決め手となる技を叩き込めれば倒れそうだが――


 そんな事を考えていると、ドライゴーンが突如大きく後ろに飛び退いた。

 これまでと違いかなり消極的にも思える行動。


 退いた先は、扉のあった入り口の前だ。入り口の大きさを考えれば、あの魔獣がそこから逃げ出せるわけもないと思うが、一体何を考えているのか?


「グウウウゥウウウウウオォオオォオオオォオオオ!」


 すると最初と同じように相手を怯ませる為の咆哮。

 肌を伝わるビリビリとした衝撃。

 だが、こんなものはもう俺達に通用しない。

 

 が、しかし奴は咆哮直後大きく息を吸い込んだ。

 ブレス? だが、何か様子がおかしい気がする。

 単独へのスキルキャンセルはまだこいつには使用できない状態だ。

 

 ならば何かをする直前キャンセルするか――しかしその瞬間、奴の身が俺の視界から消えた。


「上や!」


 かと思えばカラーナの声。

 直ぐ様顔を上げると既にブレスを吐く体勢に移行していたドライゴーンの姿。

 どうやら思いっきり跳躍したようだな。

 これだと発動前のキャンセルは間に合わない。


 しかも、さっきまでのブレスだとしたら妙だ、顔が俺たちに向けられていない、寧ろ全体を俯瞰しているような状態なのが気になる。


 確かメリッサの鑑定だと奴の攻撃スキルでもう一つ、ファイヤーボールブレスというのが……名称のイメージからてっきり火の玉を吐き出すのかと思っていたが――まさか!


「アンジェ! セイラ!」


 俺は振り返りステップキャンセルで彼女達が効果範囲に入る位置に移動し、身構えた状態のアンジェを他所にそこから更に連続ステップキャンセルでカラーナとニャーコ、そしてフェンリィの正面を目指す。


 間に合ってくれよ――そう思いつつ、俺の眼に別の景色が映しだされたその刹那、ゴライゴンの口から吐き出された無数の炎の球が俺の視界を覆い尽くした。


「な、なんにゃ!」


 驚愕するニャーコ。

 それもそうだろう。

 何せ数百発という数のファイヤーボールが、広間の半分を覆い尽くすほどの勢いで飛んできているんだ。


 そしてこれが奴の切り札というわけか。ファイヤーブレスよりも更に範囲の広い、火炎弾による拡散射撃。


 まともに考えればこんなもの避けられるわけもない。

 しかし――俺はタイミングを見計らって先ずはマジックバッグからサラマンドバックラーを取り出しばら撒く。

 続けて範囲キャンセルを使用し、俺達に迫る分を狙って消滅させる。


 バックラーを投げたのは範囲キャンセルだけじゃどうしてもカバーしきれない部分が出来るから――かといって三枚しかないサラマンドバックラーだけではとてもこの攻撃は防げない。

 だから両方を組み合わせる形で凌ごうと試みた。

 

 そしてそれは間違いではなかったようだ。

 俺が投げたバックラーは丁度いい位置で炎の弾幕を防いでくれた。

 周囲から爆轟が鳴り響き、耳が痛くなり油断すると衝撃波で身体が持って行かれそうになるが、俺も含めた全員がそれを無事耐え抜いた。


 しかし、流石にドライゴーンの恐らくは最も威力の高い攻撃だけに、リスクとして課せられた待ち時間は一時間と高めだ。


 これをもう一度使われると俺には打つ手が無い。

 だけど、実際はそんな心配は微塵もしていない。

 ドライゴーンが仕留め損なった俺達を悔しそうに睨みながら、地面に着地した。


 その瞬間、一つの影が、勇敢たる女騎士が、風の弾丸と化し奴に迫る。


「ハァアアァアアアァアァアアアア!」


 声が突風となって俺の身を突き抜ける。気迫を鋒に込めたアンジェの技はまさに暴風。

 一撃必殺とも言えるアンジェのオリジナルスキル――ゲイルオンスロートがドライゴーンへと打ち込まれた。


 ただでさえ強力無比といえるこの技は、エレメンタルリンクの恩恵でより強化されている。

 発動までに時間が掛かるのが欠点だが、俺がステップキャンセルで移動を始めた時には、既にアンジェは構えを取り力を溜めていた。


 だからこそドライゴーンのファイヤーボールブレス後の隙を突くことが出来たのだろう。


 唸りを上げて喰らわせたアンジェの刺突。

 それによってドライゴーンの脚が床を離れ、そのままアンジェの手によって背後の壁にまで一気に持って行かれた。

 あれだけの巨体をだ。それ一つとっても、どれだけの威力を秘めているか物語っているというものだろう。


 そしてアンジェによる渾身の一撃は、ドライゴーンを見事一撃のもとに貫いた。

 竜の口から鮮血が迸り、その瞳から光が失われる。


 アンジェの剣が引き抜かれ、ドライゴーンの巨体は地面に崩れ落ちる。

 

「――ふぅ~」


 アンジェが大きく息を吐き出し、振り返ると同時に満足気な笑みを零した。

 

「やったなアンジェ」

「あぁなんとかな」


 そういったアンジェの身に元に戻ったウィンガルグが寄り添う。 

 丁度エレメンタルリンクの効果が切れたようだ。


「でもなんや、アンジェにいいところ全部持って行かれた気がするな~」


 アンジェのもとに駆け寄るとカラーナがそんな事を言う。


「そんな事はないぞ。それに皆の攻撃が効いていたからこそ私もこれを放つチャンスを掴めたのだ」


「そうだな。カラーナもニャーコも上手く相手を翻弄してくれたし、セイラの魔法とフェンリィの攻撃も地上に下りてからはかなり嫌がってたし、勿論メリッサの鑑定もシャドウの鎖も無ければ勝利は難しかったかもしれない。全員の力があってこその勝利だろう」


「……フェンリィ頑張った」

「アンッ!」


 元の姿に戻ったフェンリィがセイラの腕の中で鳴いた。

 勇敢に頑張ったなフェンリィも。


「それに直接この戦闘には関わらなかったが、コアンが扉の外でふたりを守ってくれているという安心もあったしな」


「にゃん、彼女の場合はシャドウだけにしか目が行ってない気もするにゃん」


「そやね~あいつシャドウの事ばっかやしな~」


「陰口というのはもっと声を潜めていうものではないのか」


 ふたりの返しに俺が苦笑していると噂のコアンの声が広間に響いた。

 

「ん? 陰口ちゃうで、堂々と言っとるんや」

「死にたいのか貴様?」

 

 アサシンのジョブ持ちが言うと冗談に聞こえないな……


「まぁまぁコアン、それにしてもやはり皆様は流石ですね」


 どうやらシャドウも状況が落ち着いたのを感じ取って、ここまで来たようだが、メリッサに肩を支えてもらっているような状態だな。

 ちなみにコアンも支えてるが身長差の問題で腰の少し上を持っているような状態だ。


「なんだ? 随分と辛そうだが――」

「ははっ、少々魔力を使いすぎてしまったようです。シャドウナイトも上に残してますからね、その影響もあると思いますが……」


「もしかして魔欠状態か?」

「えぇ、とはいってもそこまで重度じゃないので暫く休めば回復するとは思いますが」


 アンジェの問いかけにシャドウが返答するが――


「魔欠状態?」


 俺は思わずその言葉を疑問符まじりに繰り返す。 そんな状態異常は俺には記憶が無いからな。


 だが俺の言葉に全員が目を丸くさせた。

 かなり意外そうというか……


「へ? ボスほんま!? ほんまに知らへんの?」


「え? あ、いや知らないというか、まぁ名前ぐらいは、ただ良くは知らないんだよ」

 

 思わず知ったかぶってしまったが、どうやらこの世界では常識の話なようだな……


「全くヒットは、あのような珍しいスキルを使いこなす腕を持っていながら魔欠を知らないとはな」


 アンジェにも訝しげに言われてしまった。

 参ったね本当。


「いや、あまり魔法に関しては学習してこなかったからな」


「それにしたって常識知らずが過ぎる。そこのカラーナという女でさえ知っているようなのに」

「でさえってめっちゃ刺を感じるんやけど」


 コアンに呆れた目で言われた。カラーナが半眼を向けているけど……魔法を使えないものでも知ってるような事なんだな。


「魔欠状態というのはにゃん。体内の魔力量が著しく減った場合に起きる症状にゃん」


「……魔力は命の源、減りすぎると危険」

「クゥ~ン」


「ふたりの言ったとおりだな。魔力は魔法を行使するものにとって必須の要素で、鍛錬やジョブを宿したりスキルの習得などで体内の保有量を増やすことも可能だが、そういった特別な事をしていない生物でも最低限生きていくのに必要な魔力は体内に宿している。それだけ魔力というのは重要なものだ。だからこそスキルや魔法を行使することで極端に魔力を消費してしまうと魔欠状態に陥ってしまい、極度の倦怠感に襲われたり目眩や動悸息切れを引き起こす原因ともなったりするのだ」


 なるほどな……そう考えると俺にも魔力は多くはないようだが宿っている。

 気をつけないといけないか。

 しかし魔力が減った時の症状がなんとも現実的だな。


「ありがとう、皆のおかげでよく判ったよ。でもその症状に掛かってシャドウは大丈夫なのか?」


「魔力は外側から自然と吸収されて体内に蓄積されていきますからね、この程度なら少し休んでおけば大丈夫だとは思いますが、いやはやしかし情けない限りです」

「主様情けないなどとんでもない! このもの達が頼りないからこそ、主様が無理をせざるを得ない状況に追い込まれたのです! 少しは感謝しろよお前たち!」


「ほんま腹立つ言い方しかできないんかこいつ?」

「まぁでもシャドウのおかげで助かったのは確かだしな。休んでいて回復するならそれに越したことはない」


 カラーナが不機嫌そうに言うが、コアンもシャドウを思ってのことだろう。


「シャドウ様……本当は魔力回復用のお薬を調合できれば良かったのでしょうが、なにぶん材料が足りず」


「いえいえ、その気持だけで十分ですよ。それに本当にそこまで深刻なものではありませんので」


「にゃん、これだけ喋れるなら確かにそこまで心配することはないと思うにゃん。それよりもここを調べるほうが先決にゃん」


「ニャーコさんの言うとおりですね。そちらを優先させてください」


 確かにニャーコの言うとおり、喋れるだけ余裕があるならこっちはこっちでやることはやってしまった方が良さそうだな。


 だから取り敢えず俺たちはシャドウの事はコアンに任せて、この階層の調査に乗り出すことにした――

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