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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部一章 王国騎士団編

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第12話 ギンギン

「全く! このダンジョンは一体どこまで続いておるのだ!」


 コアンがイライラした表情で怒鳴った。

 かなりの声音だった為、迷宮内に反響して声が響き渡る。


「コアン、あまり大声を出してはまた魔物に気づかれてしまうぞ」


 アンジェがやれやれといった調子で述べた。

 実際これまでコアンが主に会えない苛々を募らせ大声を上げてしまい、それに気がついた魔物が襲ってくるというパターンも多かった。


 勿論魔物を駆除するのも目的の一つであるため、魔物と遭遇する事自体に文句はないアンジェだが、それでも階層が下がるほど出てくる魔物が手強くなってきているのも確か。


 わざわざこちらから位置を教えて不利な状況に陥る必要もない。

 コアンもアサシンというジョブ持ちである以上、それぐらいは本来はわかりそうなものだが、シャドウと再会出来ない事で平常心を保てないような状態が続いているようなのである。


「全くや。焦ったって仕方無いやろ? 大体うちもアンジェもセイラかてボスに会えんのは寂しくてしゃあないけど、こうやって我慢しとるんやで?」

「ちょっと待て! 私がいつ寂しいだなんて言った!」


「口にしなくても顔でわかんねん」


「か、顔だと?」


 アンジェがくるりと反転し、カラーナに背を向けた状態で自分の顔を弄くりだした。

 頬も紅い。いつの間にそんな顔になっていたのかと気にしてる様子。

 尤も今のはカラーナも確信があって言っているのではないのだが。


「……カラーナ、意地が悪い」

「アンッ!」


「そうは言うてもセイラかて寂しいのは確かやろ?」

「…………」


 セイラはそれには何も答えなかった。


「まぁえぇわ。でも確かにボスと別れてから既に三層は下がっとるしなぁ。鴉は無事やし連絡はコアンに入っとるし無事なんは確かやと思うけど……」


 確かにカラーナの言うとおり天井近くで飛び続け、四人の後をついてきている鴉は今も無事である。

 

「でもなんとなくやけどうち、もうそろそろボスと会えそうな気がするねん」


「本当か!? なぜそんな事が判る!」


 すぐさまコアンが食い付き尋問のように問いかける。

 それにカラーナはふふ~ん、と半眼を犬耳少女にぶつけ。


「勿論それは――愛や!」


 人差し指を突きつけきっぱりと言い切った。

 途端にコアンの表情が訝しげなものに変わる。


「何かと思えば……くだらない」

「なんやコアンは何も感じへんの? シャドウの事好いとるわりに大したことないなぁ」

「ば、バカ言うな! 私だって感じてる! そうだ主様はもうすぐそこだ!」


「そう思うならペースを早めるぞ。いつまでもこんなところでグズグズもしてられまい。カラーナ先頭を頼む」


「はいはい騎士様は人使いが荒いなぁ」


 軽口を叩きつつも、前を歩いた途端真剣な目付きに変わる。

 壁や床、天井の染みまで怪しい点は見逃さないよう目を光らせているその姿はまさに盗賊であり、野生の獣のようでもある。


 そしてそこから更に進み――カラーナの目がより鋭く光り、近くの壁にぴたりと寄り添った。


「どうかしたのかカラーナ?」


 アンジェが問いかけるが、しっ! と警告のように口にし、そして壁に耳をつける。


 思わず残りのメンバーが押し黙った。一体そこに何があるのか? と緊張感が漂う。

 そして――


「判った! これや!」


 何かを探りあげたのか声を上げ、そして壁の隙間に指をかけ――左右に押し開く。

 ゴゴゴッという重苦しく滑る音と共に壁の一部が開き、隠し部屋が顕になった。


「よっしゃ! やっと見つけたで! 宝の部屋!」


「は?」


 アンジェがジト目で声を発す。


「き、貴様何が宝部屋だこんな時に!」

「何言うとんねん! ダンジョンといえばお宝やろうが! 何眠たいこと抜かしてんねん!」


 抗議するコアンに噛み付くカラーナ。このあたりは流石盗賊と言うべきか、宝が絡むと豹変する。


「大体ボスかてシャドウかて折角ダンジョン探索しとるんや。お宝の一つでも手に入れたほうが嬉しいやろ? コアンがしっかり宝回収してるの知ったら見直すと思うで」


「え? 主様、が?」

「そや。もしかしたら嬉しくてこう熱い抱擁をやな――」


 カラーナが自らの身体を両腕で抱きしめ、その様子を表現する。

 するとコアンの顔が、ボッ! と燃え上がりあわあわしだす。


「全くお前は……まぁしかし折角見つけたのだ。早く入って回収してしまおう」


「おお流石アンジェや! 話が判る~」


 アンジェを振り返り親指を立ててみせた後、カラーナはどこかウキウキした足取りで隠し部屋の中へ。

 それに残った皆もついていく。


 脚を踏み入れた部屋は四方を壁に囲まれた箱型の空間であった。

 スペースはちょっとした貴族の屋敷にある広間ぐらいか。


 そしてその奥の壁際に宝箱が一つとその周りには金杯や貴石であしらわれた銀の剣、それに指輪はネックレス、金貨や銀貨が見受けられた。


「これは予想以上の収穫やな!」


「確かに中々のものだが――」

 

 アンジェはそういって銀の剣を手に取りまじまじと眺めた。

 やはり騎士だけにこういった武器の類には興味津々のようだが。


「ふむ、普通の銀の剣か――美術品としての価値はそれなりだろうが、武器としては心許ないな」


 アンジェは自らの目で判断し、床に戻す。


「美術品としての価値があれば十分やろに……全く騎士様というタイプはこれやから」


「しかし貴様これだけの物をどう持っていくつもりだ? マジックバッグでも持参しているのか?」


「あんな高価なもんうちは持ってへん。ボスは持ってるけどうちはこの程度ならこれで――」


 どこからともなく折りたたまれた革製のそれを取り出し、パンッ! と一気に広げた。

 どうやら拾ったものを回収する為の袋のようだ。


 そして手慣れた所作でひょいひょいと部屋の中のお宝を袋の中に詰め込んでいく。


「うん? し、しかしこれでは私が手に入れた事にはならんではないか!」


 コアンが何かに気がついたように叫ぶが、安心しぃや、とカラーナ。


「一緒に見つけたことにしといたるわ。貸しイチやで」


「……カラーナちゃっかりしてる」

「アゥン――」


 セイラの表情には変化はみられないが、フェンリィはどこか呆れてるような鳴き声をあげた。


「さて、と、後はこの宝箱やな。さ~何が入ってるか――楽しみやで!」


 カラーナはお宝の数々を手に入れた事で、きっとこの宝箱にもかなりの貴重品が詰まってるのだろうと、期待した表情でその箱を調べに掛かるが――


 ピタッ、とその手の動きを止め。


「あかん――」


 呟くように述べすくりと立ち上がった。


「? カラーナどうかしたのか?」

「なんだその宝箱は開けないのか?」


 アンジェとコアンがほぼ同時に尋ねる。

 しかしカラーナは踵を返し皆のもとに近づいた後、

「ダメや、もう出るで。ありゃあかんやつや早よ!」

と囁くように言って部屋を出るよう促す。

 それに戸惑いを見せるアンジェとコアンの二人だが……


――ムキン! ムキムキ、ムキンっ!


 突如、奇妙な音が部屋内にこだまする。カラーナの顔が歪み、遅かったようやなぁ、と溜息混じりに呟いた。


「てか、な、なんだあれは!」

「き、気持ち悪い――」


 アンジェとコアンが音の正体を探ろうと振り向いたが、それを目にした瞬間ふたりそろって背中をたじろかせ表情を凍らせた。

 セイラの表情は変わらないがフェンリィはブルブル震えている。

 

 そして一拍置いてカラーナも振り返り、はぁ、と深い溜息を吐き出した。


「やっぱあれかいな……話には聞いとったけど目で見るとやっぱキモいわ――」


 頬に一筋の汗がツツッ~と流れ落ちる。褐色の彼女の見据えた先。

 そこに立っていたのは(・・・・・・・)件の宝箱から手足を生やした不気味な筋肉だった。

 

 そう先ほどまで鎮座していた宝箱が頭と化し、底面から筋骨隆々のムキムキな筋肉体が姿を見せているのだ。


 しかも妙に筋肉を魅せつけるポーズを撮り続けている。

 

「な、なななっ! なんなのだあれは~~~~!」


 アンジェが顔を背け叫んだ。目を白黒させ体温が急上昇したかの如く体中が真っ赤に染まっている。


「へ、変態か! 変態なのか! なんなのだあれは!」


 コアンも叫ぶ。するとカラーナが頭を抱えるようにしながら答えた。


「あれはミミックやねん……」


「はぁ!? ミミックだと! あ、あれがか!? あれがあのミミックだと言うのか!」


 顔を背けながらも器用に指を突きつけ吠える。

 どうやらミミックの存在自体は知っているようだ。


「……うちも見るんは初めてやけどね。でもナッシュから話は聞いてたねん」


 ナッシュとはカラーナの育ての親であり腕利きの盗賊だった男だ。

 だからこそ色々な話を彼女は心得として聞いていたのだろう。


「……ギンギン」

「アフォン――」


 そしてセイラが表情変えず、しかししっかりそこはガン見しながら呟く。

 フェンリィも小さく吠えた。


 そう――今目の前でポーズを取り続けるこの魔物。

 その筋肉質なムキムキな身体の上には何も着ていない。つまり素っ裸なのである。

 オイルを塗ったようなテカテカしたボディには何も着ていないのである。

 そしてこのミミックは――ギンギンだった。

 ある一部分だけがまるで何かを主張するようにギンギンだったのである――

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