第11話 ダンジョンでの戦い
スケルトンはその名の通り人の骨が自ら動き、目についた物を襲うようになったタイプの存在だ。
ただし魔物というわけではなく、カテゴリー的にはアンデッド系統の敵となる。
ゾンビやゴーストなんかもそうだな。そしてこのタイプはジョブによっては魔法で作り出すことが出来る。
高位職のボコールや最高位職のネクロマンサーなどがそれだ。
勿論こういったダンジョンでその手のタイプがうろうろしていて、スケルトンを作り襲わせているという事もあったりするが、このダンジョンは隠されていた先にあったものなのでそれはないだろう。
この場合は、確かゲーム中の設定では侵入者を排除するためにスケルトンなどを設置してる場合があるという表記もあったはずなので、御多分に洩れずこの骨もそんなタイプなのだろう。
「ご主人様。あの五体は全てスカルソルジャー。骨なので火に弱くアンデッドという事で聖魔法も弱点です。でも――」
「にゃん! それならニャーコに任せるにゃん! にゃん! にゃん!」
メリッサが鑑定眼で相手の能力を教えてくれる。熟練度が上がっているのか鑑定するのも大分早くなっているが――メリッサはどうみてもまだ話してる途中だったのだが、ニャーコは全てを聞かず前に飛び出し、印を結び始める。
「火印の術・息吹にゃ!」
背中を反らし波打つ肩甲骨。息を大きく吸い込んだのだろう。
そしてそこから迫る五体のスカルソルジャーに向けて、口から炎を吐き出し迎え撃つ。
骨が炎に弱いという事を考慮すれば、この一撃で相当なダメージを与えられたと思うべきだが――
「にゃっ!」
しかし驚愕の声を上げたのは、ニャーコの方だ。
炎を吐き終えたその先に見えるは、全くダメージを負っていないスカルソルジャーの姿。
そんな連中は腕に装着した円形の盾を構えて三体が横一列に並んでいる。
「皆さんそのスカルソルジャーは装備品として魔法の盾を持っています! 盾は炎系のダメージを防ぐ効果があるので――」
「なるほど。つまりあの盾で守られてしまうと弱点の炎も通じないというわけですか」
メリッサの説明にシャドウが納得を示す。さっき彼女が言いかけていたのはこの事だったのか。
確かにスカルソルジャーはある程度の装備を身にまとった骨の戦士だがな。
目の前の連中も頭には兜、手には剣、そして問題の盾を装備している。
にしても魔法の盾持ちとは、骨の癖に中々の装備だな。
「ニャーコさん危ない!」
メリッサが危険を知らせると同時に、盾持ちのスケルトンの後ろから矢が数本、その頭を超えるようにしてニャーコに迫った。
「んにゃ!」
それをニャーコが横に飛び退き躱すが、そこに更に矢が連続で放たれる。
これは――厄介だな。どうやら五体のスカルソルジャーの内、二体は弓使いのようだ。
そして前衛は盾持ちが横一列に並んでいるため完全に通路を塞いだ状態の隊列に、その上で盾を持って構えるという防御態勢。
つまり前衛を壁に後衛が弓で狙い撃つという戦法だ。
射ってきている矢も鏃は鉄製の為、喰らうと軽装のニャーコだと十分ダメージに繋がってしまう。
「ニャーコ、とにかく壁をなんとかしないと始まらない! ここは接近戦に持ち込むぞ!」
ステップキャンセルで間合いを詰め、セイコウキテンを振り回す。
しかし予想以上に守りが固いな。
「にゃん! にゃん!」
俺の隣からはニャーコの声と小太刀を振るう音。
しかし盾と刃がぶつかり合う音が続いている。
中々ダメージには繋がってないのかもしれないが――ただ密着状態だと矢は降ってこない。
流石にこう近いと後衛からは狙うのも難しいのか、とそう思ったのだが。
しかしスカルソルジャーが盾を俺の攻撃に合わせながら半分ほどずらす。
すると顕になった骨の隙間から矢が二本飛んできた。
弓スキルのダブルアローか。
スカルソルジャーはある程度なら武器スキルも使用してくる。
しかも骨の特性をいかして股抜きならぬ骨抜きで仕掛けてきやがった。
こいつらの身体は隙間だらけだからな――
とはいえその矢は双剣で上手いこと弾いてみせた。
そして切り返しの刃で目の前の胴体を狙う。盾で防ごうとしてきたが、この状態なら――キャンセル!
骨の腕が盾ごと一手前の構え状態に戻る。そして俺のセイコウキテンが椎骨を狙う。
しかし生意気にも骨の身を翻し俺の剣閃をひらりと躱した。
意外と身軽だな、骨だけに。
「皆さん! そのスカルソルジャーが厄介なのは盾があるからです! ですから――」
シャドウの叫び声がダンジョン内に響き渡る。
かと思えば黒色の鎖が伸び端のスケルトンの腕に絡みついた。
……そうか確かに――
シャドウの意図を察し、今度は盾を持っている方の上腕骨を狙いファングスライサーを放つ。
一対の剣で牙が喰らいつくが如く軌道で上下から挟み込み、スカルソルジャーの腕腕を噛み砕く。
当然それによって盾が外側に投げ出され、地面に冷たい響きを残した。
「風印の術・輪にゃ!」
ニャーコもそれに気がついたようで、風の輪で俺と同じように腕と盾を同時に切り離す。
シャドウの鎖も盾に絡みつき無理やりスカルソルジャーから引き剥がした。
これで三体共に盾のないただの骨と化す。
「あとは任せるにゃん!」
ニャーコの宣言に頷き、俺が一旦距離を取ると、印を結びさっきと同じように炎の忍術を敵にむけて放つ。
小さな猫の口から噴出された炎が一瞬にして前衛のスカルソルジャーを飲み込んだ。
身を守る盾をなくしてしまった骨戦士には抗う手段がない。
白い骨は一瞬にして黒色に染まり、そして炭化しボロボロと床に崩れ落ちていった。
残ったのは弓を番えた二体のスカルソルジャーだが、ニャーコばかりに任せておくわけにはいかない。
それに忍術は魔法と同じで魔力も消費するはずだしな。
先がどれぐらい続いているか判らない以上それに頼りっぱなしというわけにもいかないだろう。
だからステップキャンセルで肉薄し、ハリケーンスライサーとクイックキャンセルの組み合わせでミキサーの如く回転力を生み出し粉々に砕いてやった。
アンデッド系は生命体ではない為、多少破損したぐらいでは何度でも起き上がってくる。
だがこれだけバラバラにしてしまえばその心配もないだろう。
「やりましたねご主人様!」
「えぇふたりとも流石です」
スカルソルジャーを打ち倒し、ふたりが近づいてきて労いの言葉を掛けてきた。
取り敢えず誰も怪我がなくて良かったな。
「にゃん、にゃん、この盾は結構価値がありそうにゃん」
……戦いが終わると俺達の事よりニャーコは戦利品に目を奪われてるようだな。
確かに炎を寄せ付けない盾だからな。
魔法の盾の価値は中々に高い。
まぁ俺は双剣だし盾を持つスタイルのは別行動のメンバーも含めていないから今直ぐ使うって事にはならないだろうがな。
「それは俺のマジックバッグに一旦しまっておくか」
「お願いにゃん。あ、分け前は最後に決めるかにゃ」
「あぁそれでいい。盾は別に俺はいらないけどな」
「私は仕事柄興味はありますね。メリッサ様なら価値もわかるのでしょうが」
「あ、はい。これはサラマンドバックラーですね」
火蜥蜴か――それで炎の耐性があったわけだな。
とはいえ、とりあえず分担をどうするかは後にするとして俺は盾を三つともバッグに放り込む。
そして再び先を急いだ――
◇◆◇
「スプラッシュニードル!」
アンジェのスキルで群がって襲いかかってきていたツインリザートは、見事身体中に風穴をあけ絶命した。
ツインリザートはこの階層でよく現れる魔物で、その名の通り双頭の大きな蜥蜴だ。
鋭い牙を持ち、獰猛で相手を見つけると八肢でわしゃわしゃと近づき噛み付いてくる。
長く太い尾も二本持ちそれを振り回したりもしてくる。
だが、落ち着いて対応すればアンジェにとってはどうという事のない相手だ。
「いや~流石アンジェやわ~騎士様ばんばんざいやな」
「ふむ、まぁこの程度騎士の剣に掛かれば大した事はない」
蒼髪を掻き上げ少しだけ得意がる。どうやらカラーナに褒められたのが嬉しいようだ。
「……戦いアンジェばかり」
「クゥ~ン」
「えぇんやって。こういうのはアンジェの方が得意そうやし。持ち上げておけば積極的にさくっと倒してくれるから面倒ないしな」
カラーナがセイラに耳打ちするように呟くと、うん? 何か言ったか? とアンジェがふたりを振り向いた。
「アンジェは改めて見るとやっぱかっこえぇなぁって話してたんよ」
「な!? ば、馬鹿! 褒めたって何も出ないぞ全く――」
そう言いつつも頬が緩みどことなく嬉しそうである。
「しかし下への階段は一体どこにあるのだ! 早く主様と合流せねば一体どのような危険が待っているか――」
親指の爪を噛みながら口惜しそうにコアンが述べる。
彼女からしてみたら気が気でないといったところなのだろう。
「大丈夫やって。鴉も消えてないって事は多分無事やろし」
「うむ、確かにとりあえずはこれがあるおかげで安否が確認できるのは便利だな」
アンジェが顎を上げ天井近くで羽ばたき続ける鴉をみやった。
シャドウが創りだしたこの鴉は、時折ヒット達も含めた今の状況を教えてくれる。
「言うてもうちもボスにはよ会いたいねん。魔物がウザくてしゃあないけど、コアンの言うとおりさっさと階段でもみつけんとね」
「……魔物相手してるの殆どアンジェ」
「アンッ!」
「ん? 確かにそう言われてみると……」
「よっしゃ! そうと決まればうちが先に進むで」
アンジェが何かを考え始めたので、誤魔化すようにカラーナが先を急ぎ始めた。
そしてそれから更に途中の分岐をカラーナの判断で進んでいき、出会う魔物を退治(主にアンジェが)しながら進んでいくと程なくして下へと続く階段を見つけることが出来た。
四人はほっと安堵し、そしてその階段を下り下の階層へと脚を踏み入れる事にする――




