第9話 罠
「やりましたねカラーナさん!」
「うむ――ここは流石というべきか」
「主様の助言があった事も忘れないで頂きたいですね」
「いやいや実際に隠し通路を見つけたのはカラーナですし、やはり彼女は大した物ですよ」
メリッサとアンジェが感嘆の言葉をカラーナに贈り、コアンはちょっと不服そうだな。
そんなコアンの横ではシャドウが謙遜してみせるが、でも確かにシャドウに助けられてる部分があるのは確かだ。
まぁとは言え――
「お手柄だなカラーナ」
「な、なんか皆にそう言われるとちょっと照れくさいもんやね」
カラーナの褐色の頬が紅色に染まり照れくさそうに頬を掻いている。
こういう姿もぐっとくるものがあるな。
「にゃんにゃん。話はもういいかにゃん? 早く先に進もうにゃん!」
ニャーコがうずうずした顔で言ってくる。彼女は基本受付嬢のはずだが、猫だからなのか非常に好奇心が旺盛なようだな。
まぁシノビというジョブもちだから、カラーナと同じようにお宝とかに目がないのかもしれない。
一応盗賊系に属するジョブだしな。
「そうですね。ここまで来たら当然行くしかないと思いますが、ただ皆様重々お気をつけを」
「当然主様の事は私が命に変えても――」
「はいはい。そういうのはいいからはよ行こうや。なぁボス!」
「あ、あぁそうだな」
コアンのお決まりの台詞にカラーナが突っ込んで俺に言ってきた。
取り敢えず俺も無難に返事しておくが、コアンの目がなんか怖いぞ。
とにかく、話が落ち着いたところで俺たちは隠し扉の先に現れた階段を下り地下へと脚を踏み入れる。
未知の領域という事と、階段が狭いという事もあり、先頭は罠などの探知能力に長けたカラーナが、その後ろには俺がついた。
下に続く階段は結構長く、途中螺旋階段のように曲がりくねりながら一〇〇段程下った先で隠し通路の入口のような穴を抜けると――人工的な石造りの通路が姿を現す。
通路は左右の壁が切石積みで、天井もそして床もやはり規則正しく切り揃えられた石材で構築されていた。
そしてこの壁は、ヒカリゴケにでも覆われているかのような淡い光を発し続けている。
おかげで上に比べれば視界は良い方だけどな。
こういうダンジョンはゲームでは存在していたが、実際に見ると不思議な気もする。
リアルになった世界の理屈で考えるなら、自然とこんな形のダンジョンが出来るはずがないからだ。
まぁだからこそ古代に存在したものが、なんらかの影響で姿を見せるという話になるのだろうがな。
「これは滾るわ! 何か凄いお宝が隠されてそうな気配がぷんぷんやわ! ボス、うちが全部余さず手に入れて見せるから安心してな!」
「あ、あぁ期待してるよ」
カラーナがぐっと拳を握りしめ、随分と気合が入っている様子。
そして他の皆も通路を見回し、シャドウも壁に軽く手を添え何かを考えこんでいる。
「主様お気をつけを。どのようなトラップが仕掛けられているかわかりませぬ故」
「あ、あぁそうだね。ありがとうコアン」
壁から手を話し微笑みかけるシャドウに、顔を紅く染めるコアン。
ちょっと可愛らしい。
「しかしこれだけの作りとなると、何かしらの手が加えられている可能性が高いな。コアンの言うように罠などが仕掛けられている可能性も高いし、慎重に行動したほうが良いかもしれない」
アンジェが注意を呼びかけるように述べると、カラーナが振り返り得意気に語る。
「まぁその辺はうちに任せとき。罠ぐらいしっかり見破ってみせるで」
「にゃん。ニャーコも手伝うにゃん」
「……フェンリィの鼻も頼り」
「アンッ! アンッ!」
フェンリィも任せて! といってるようなそんな感じか。
それから全員で話し合い、やはり定石通りカラーナとニャーコがトラップや隠れ潜む敵(いるという前提で)に注意しながら斥候役を買って出る形に。
それから少し間を置いて、いつでも対応できるよう俺とアンジェが、その後ろに鑑定役のメリッサにセイラと続き、シャドウ、殿のコアンと続く。
通路は後方は壁で防がれているためとりあえず最初の一歩は前に行くしか選択肢がない。
箱型の道は幅が大人三人が並んで歩ける程度、高さは三メートルほどはあるせいか圧迫感はあまりないな。
あの魔物と対決するまでの道と違い、ジメッとした感じもなく、むしろ少しヒンヤリとするぐらいだ。
俺達はその通路を進み続ける。暫くしてT字路にぶつかった。
「ボスここは右やと思うで!」
「左だと思うにゃん!」
いきなり斥候のふたりの意見が分かれたわけだが……
「はぁ? 何いうてんねん! うちの鼻が告げてんねんここは右や! なんか左はやばいねん!」
「にゃん! それは逆にゃん! なにか右から不穏な空気を感じるにゃん! シノビの感は間違いないにゃん!」
「右や!」
「左にゃ!」
「お前たちこんな事で喧嘩をするな!」
言い争うふたりに遂にアンジェが切れた。メリッサは苦笑いだ。
「全く愚かな事ですね主様」
「ははっ……まぁでもこういう時はいい手がありますよ」
いい手? とカラーナとニャーコが同時に訊く。
するとシャドウが鴉を生み出し、手から放し羽ばたかせた。
これはシャドウのスキルであるシャドウクラフトで作成した鴉だな。
て、事はなるほど。
「お願いしますよ」
シャドウがそう言うと鴉が飛び立ち通路を右に曲がって行った。
これで鴉に先の様子を見てきてもらおうという事なのだろう。
確かにこれなら何かあっても鴉が消えるだけで済むしな。
それから少しして探索を終えた鴉が戻ってきた。そしてシャドウの肩に乗り、シャドウが見てきたものを確認する。
「どうやら右は行き止まりのようです。そうなると左ですかね」
シャドウの答えにカラーナの顔が歪み、ニャーコは得意満面といった様子で腕組みする。
「やっぱりニャーコの方が正しかったにゃん」
「うぅボス堪忍や……」
「いや別にカラーナが謝るような事じゃないだろう。気にするなって」
「そうですよ。ここはシャドウ様のスキルが優れていたというだけの話です」
いやメリッサ。気のせいかそれはあまりフォローには……カラーナもなんか肩を落としてるし――
「誰にだってミスはあるだろう。そんな事でいちいち落ち込むな。さぁ早く先を急ごうではないか! あまりのんびりもしていられない!」
発破をかけるように述べられたアンジェの言葉で、そうですね、とシャドウも頷き、皆も同意する。
カラーナも次はしっかり見極めたる! と気合を入れなおし再び前を歩き始めた。
と、思ったがセイラが右の通路を見たまま動こうとしない。
「セイラどうかしたか?」
「……ん、何でもない」
そういってセイラも歩き始める。
腕の中のフェンリィが、クゥ~ン、と細い声で鳴いていたのが気になりもしたが――行き止まりではそっちに向かっても仕方ないしな。
通路を左に折れた後は、暫くして再びL字を描くように折れてる道を右に進む。
そこを曲がりきったところから、更に長い直線を歩き続けた。
「この通路ちょっと傾斜しとるようやな」
カラーナが歩きながら気がついたように述べた。
確かにT字路を左に曲がってからは、少しずつ床が下がってきているような気がするな。
下に向かっている為だろうか?
「……というかご主人様、何か後ろのほうから転がるような音が聞こえてきているのですが――」
「た、確かに、それに」
「何か、揺れてるか?」
そうだ、地震やクローラーを相手にした時ほどではないが確かに全体的に通路が振動している気がする。
――ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴローーーーーー!
「て! 主様! た、大変です! 後方から大岩が!」
「ほ、ほんまや! なんやあれ!」
「こ、このままじゃ押しつぶされるにゃ!」
「た、大変だ走るぞ!」
俺達の背後から、通路を塞ぐ程の大きさの巨岩が猛速度で突き進んできている。
ここは一本道だし身を隠せるところはない! とにかく走るしかないって事だ!
「だからうちは右や言うたんやアホーーーー!」
「そんな事今更言っても仕方ないにゃん!」
「だからこんな時にまで喧嘩をするなーーーー!」
全力疾走しながらアンジェが叫ぶ。
確かにここは喧嘩をしてる場合じゃないぞ!
「ご、ご主人様……」
「大丈夫かメリッサ!」
俺はメリッサの手を取り引っ張った。メリッサは皆ほど体力があるわけじゃないからな。
俺がしっかり補助しないと。
それにしても……ステップキャンセルで逃げれればいいのだが、人数が多いため全員纏めては無理だ。
そうなるととにかく走るしか――て、へ? 何か突然床が開いて俺の足元が消え、うぉ!
「おわっと! あぶな!」
「にゃーーーー! な、な、なんにゃーーーー!」
「くっ! ウィンガルグ!」
「コアン貴方は!」
「え? シャ、シャドウ様ーーーー!」
必死に俺にしがみつくメリッサを抱きしめながら、俺は突然開いた穴に飲み込まれそのまま抗うすべなく真下に落下していく。
上からの声を聞く限り、俺たち以外にも罠に引っかかってしまったのはいるようだが――とにかく下で何がまっているかわからないが、メリッサは何があっても守らないと……




