第6話 二日目終了
正直暇だった。
いや、この状況でこんな事を思うのもどうかってところだが、実際そうだから仕方ない。
元々シャドウから言われてはいたことだけどな。
今回俺達はでしゃばらない。街に常駐するメンバーをメインで任務につかせると。
ノースアーツでの狩りは、俺達とシャドウを残して各パーティーが周りに広がる森の中に入っていった瞬間に、あちらこちらから聞こえてくる戦いの調べで予定通り行われているのを察することが出来た。
森に入ってすぐの事だったのでシャドウの予想通り、かなりの数の魔物が跋扈しているのだろう。
そうなると流石に俺たちの出番もあるかもしれない、と待ってたりもしたんだけどな。
「あ、どうやら皆さん戻られたようですね」
陽が落ち始めた頃、シャドウから発せられたその言葉で杞憂だったと思い知った。
森から出てきた面々は疲弊の色は窺えるが、怪我などは大した事はないようだ。
まぁかと言って流石に無傷ってわけでもないが、軽い怪我を負った者は治療師として待機していたシスターやパースン、そしてセイラの手で治癒してもらっていた。
セイラは回復魔法も使用できるからな。もしかして今現在俺達の中で一番役に立ってるか?
いやメリッサはメリッサで待ち時間の間に薬研で薬を作っていてそれを分け与えているな。
あの薬研は船型の器と軸のついた円板状の車輪がセットになっている。
街を出る直前にもメリッサがお礼を述べていたが、最近エリンギが作成してメリッサにプレゼントしてくれたものだ。
以前使っていたすり鉢よりも俄然早く薬が調合出来るらしくメリッサも喜んでいたな。
「なんかうちら思ったより暇やねんな」
「カラーナ不謹慎だぞ。こういった護衛とて重要な任務だ」
退屈そうに口にするカラーナをアンジェが咎めた。
だが気持ちは判らないでもない。
実際俺達はやることがないからな。
「まぁこの時点では皆様の出番がある事のほうが厄介ですからね。むしろこのメンバーでも問題ないことが判れば、今後の方針が打ち立てやすくなります」
シャドウの言っている事も判る。
不測の事態を考慮して、集められたメンツは冒険者も盗賊もかなりの腕利き揃いだ。
にも関わらず太刀打ち出来ないほどの相手と初日からやり合うような事になったなら、作戦事態を練り直す必要があるだろう。
この道程も急遽変更し、街まで出戻る必要があったかもしれない。
俺達が出ないで済んだのは、今後の計画を考えたらむしろ良い傾向だ。
「さて、では本日はここで夜営となりますし、今のうちに食材を用意しますか」
「あぁそれなら俺ら途中で美味そうな果実のなってる樹を見つけてな。いくらか採ってきたぜ」
パーティーの誰かがいった声に笑みを浮かべ、それは助かります、とシャドウが返した。
それ以外にも野草などを摘んできた物もいるようだ。
一応荷運び用の馬車には遠征用の糧食も積んであるが、街の備蓄をそこまで割り当てられないので必要最小限の量でしかない。
なので足りない分は現地調達する必要があった。
だからこそこういった提供はありがたいのだろう。
食事の準備に関しては、結局手持ちぶたさで終わった俺達が行うことになった。
コアンも手伝ってくれた形だ。
まぁとはいっても、馬車から荷を下ろすぐらいだけどな。
入っていたのは塩漬けした肉を干したものでジャーキーみたいな見た目のに、塩漬けの野菜――これはもろ漬物って感じだな。
あとは乾パンも用意されているな。
栄養的にはこれである程度事足りそうではあるけど、ただ人数が人数だけにこれだけだとそんなに量は行き渡らない。
それだけに現地調達の食材はありがたいか。
「明日はノース平原を抜け、山を一つ越えます。その途中に川がありますので水の確保と上手くやれば魚も捕る事も可能でしょう」
夕食を摂りながらシャドウが言った。
食事が始まった頃には、辺りはかなり薄暗くなっていたが、エリンギの用意してくれた携帯用の魔導灯のおかげで視界はそれなりに確保されている。
だから焚き火などあえてしなくても皆の様子ははっきりと判る。
魚が捕れるという事で張り切ってるのもいるようだな。
次の日の方針も決まり、食事を摂った後はそれぞれのパーティーが交代で夜の番をすることとなり、その夜は早めに馬車の中で眠りについた。
そして魔除けの祈りや魔導器が効いたのか、結局その夜は特に魔物に襲われることなく終わった。
これもシャドウにとっては今後の参考になってくると思う。
二日目は予定通り平原を抜け山に入った。平原では途中魔物の群れに遭遇したが、このメンバーならそれほど苦労する事もなかったようだな。
この当たりからイビルクロウのような鳥型の魔物が移動中に襲ってきたりもしたが、弓使いと魔法師の活躍で掃討するのに苦はなかった。
山道を登り、中腹辺りの川の近くが二日目の野営ポイントであった。
ちなみにシャドウの話では、この山の周辺はダンジョンもあるので、そこの調査隊として二組のパーティーも選ばれた。
ただ、ダンジョンといっても精々地下五層までの小規模なタイプらしく、それほど大変なものでもないようだったけどな。
ノースアーツでのダンジョンは、基本的にこの規模のタイプが多いらしい。
そしてここでもやはり俺たちやシャドウ達は馬車の見張りメインである。
ただメリッサに関しては鑑定がある為、各パーティーから要請があれば、俺のステップキャンセルで一緒に移動し、メリッサが相手の能力を調べた。
知識を補完しておけば今後の役に立つからな。
それらの記録はコアンがしっかり付けている。
ただメリッサが鑑定した魔物も能力的には大したことがなく、結局俺が手を出すまでもなく他のメンバーが片付けてしまったけどな。
まぁそんなわけで二日目も陽が傾き、川で水の補給と魚釣りに勤しみ、夜は調理の為に用意した焚き火を囲み食事を摂り、特になんの問題もなく今日の仕事も終わりかなと思った直後――
「きゃ~~~~!」
「な、なんや大きいで!」
「た、確かにこれは――ご主人様」
「……地震」
「アンッ!」
そう。食事を終え殆どのパーティーが馬車に戻り眠ろうとした頃、突如大地が揺れ山が鳴いた。
鳥が飛び立ち、馬が嘶き、ちょっとしたパニックに陥る。
そして――結局その揺れは一〇分ほど続き、収まった頃には樹木がへし折れ、土砂崩れが起きと結構酷い有様であった。
「皆様ご無事ですかーーーー!」
地震も収まり先ずはシャドウが声を荒げる。流石は仮にとはいえ領主を任されているだけに、こういった時には積極的だ。
コアンにも命じ被害の確認を急がせている。
ただ幸いな事に、どれも俺たちの陣地からはある程度離れた場所で起きたため、多少転倒したりで怪我したものはいたが大きな被害は負わずに済んだ。
馬車も無事である。
「こっちは皆大丈夫か? 怪我はないか?」
「……問題ない。皆も無事」
「アンッ!」
「でもほんまびっくりやわ。大したことなくて良かったけどな~」
「えぇ皆様も無事で本当に良かった――」
「でもアンジェにゃん悲鳴上げて意外だったにゃん。可愛らしいところあるにゃん」
「な!? あ、あれは、その、ちょっと急な事でだな!」
アンジェが顔を朱色に染めながら弁解してる。
だけど確かにあれは意外だったな……地震が苦手なのかもしれないが。
「それにしてもここ最近ではこれで二度目ですね。前も中々大きかったですが――」
その言葉に俺はシャドウを振り返り、二度目? と尋ね返した。
すると、はい、と返事し。
「まぁ最近といっても、セントラルアーツの領主が変わる前の話なのでそれなりに期間はあいてますけどね」
そうなのか……てかこっちでも普通に地震とかはあるんだな。
まぁない方がおかしいのかもしれないが。
「それにしてもこれだと街の方が心配だな。そっちは大丈夫か?」
「えぇ確かに結構揺れはしましたが、この程度なら対応は可能でしょう。一応念のため鴉で様子は見ておきますけどね」
なるほど。確かにある程度慣れているならパニックにはならないか。
「だけどよぉ。この規模ならまたどこかでダンジョンが生まれてるかもしれないな」
俺が地震の事を考えていると、そんな声が盗賊たちの間から聞こえてきた。
「ダンジョンは地震で生まれるのか?」
それが気になって俺はシャドウに訊いてみる。
「まぁそうですね。ただその辺の解釈は色々あるようで、生まれているのではなく地震で大陸の一部地形が変化し、過去の遺物が姿を見せてると考えている研究者もいるようです。実際地震の後にダンジョンが出てくる場合は景観そのものが変わってる事が多いですから」
ふむ――ゲームではダンジョンは最初からある程度あったものだし、追加されるのはアップデート絡みだったからな。
でも流石に現実に存在している世界では、アップデートなんてもので済むわけがないからこういった要因が絡んでくるというわけか。
「……実は今回皆さんに同行してもらったのは、この地震が関係している部分もあるのですけどね」
ふとシャドウがハットの位置を直しながらそんな事を呟いた。
それにアンジェが反応し問い返す。
「地震が関係しているとは一体とういう事だ?」
「えぇ実は、以前に起きたという地震でノースアーツに一つダンジョンが生まれていたのですよ。そこが結局未攻略で手付かずのままだったので、探索を手伝って欲しいと思ってましてね――」




