第16-2話 ザックの狂気
※注意
ヒットにやられた直後のザックの話です。
女性に対する暴力描写を含みます。読む人によっては不快に感じられる描写が含まれているため分けております。
特に女性が酷い目にあうのは見たくないという方は、こちらは飛ばして頂いても本編は判るようになっております。
「てめぇ! あの男がいないたぁどういう事だ! なんでおめおめと逃しやがった!」
ザックの怒声が食堂内に響き渡った。その怒りの矛先は、己の奴隷であるセイラに向けられている。
彼はヒットがこの宿から逃げ出してから約一五分ほど気絶し続けていた。
そして目覚めて起き上がるなりヒットの姿を探したが見当たらず、まわりの使用人の答えで宿からいなくなった事を知ったのである。
「……ご主人様の命令通り、決着が付くまではみておりました」
セイラは抑揚のない声でただそれだけを伝えた。
質問の内容にだけ忠実に返す人形のように。
だが、それはただ無闇にザックを苛つかせただけであった。
「てめぇなめてんのコラァ!」
ザックの蹴りが正座していたセイラの顔面を捉えた。彼女はそれを避ける素振りも、守る素振りもみせずただ甘んじて受け入れた。
ゴロゴロと転がり一旦は横に倒れるが、すぐに上半身を起こし正座をしようとする。
だが、直ぐ様ザックがセイラの長い髪を乱暴に掴みあげ、無理やり立たせると、その岩のような拳で、何度も何度も何度も何度も何度も殴りつけた。
いくら相手が奴隷とはいえ、このザックのやり方に周囲も言葉が出ない様子であったが。
「あ、あのザック様――」
一人の男がザックに声を掛けた。彼はこの宿の支配人を任されている男で、トラブル等が起きた際は真っ先に対処するよう言いつけられている。
先ほども浴場に奴隷を単独で入れようとした男を止めたばかりだ。
尤もその時は男の剣幕ぶりに恐れをなして逃げ帰ったわけだが、結果的にその行為を止めることには繋がったので、身を挺して厄介な客の横暴を食い止めたなどと嘯いていたりもする。
そして彼の背中側には、今ザックが探し求めるヒットに食事を提供した給仕の娘の姿。
とはいえその後に一悶着があり結局食事はその辺に散らばったままだが。
彼女としては出来るだけ関わりあいになりたくはなかったのだが、あのヒットに水を出し食事も運んだという理由だけで、関係者扱いされここに付き合わされている。
とはいえやはり怖いので支配人の後ろで小刻みに肩を震わせていた。
するとザックが奴隷を殴る手を止め、支配人を振り返り険のある瞳を向けてくる。
「あん? なんだてめぇ! 俺の奴隷の扱いに文句でもあるのか!」
ザックが吠えるように言うと、男は背筋を伸ばし両手を突き出し左右に振る。
違うと必死に伝えているようでその額には冷や汗が滲んでいる。
「いえいえそんな。ザック様の奴隷の扱いに文句などあるはずがございません。ただですね、その、今回は流石に被害が、いえ! 勿論ザック様のせいとは申しませんが、ただですね。ほんの少しでも、ご、ご寄付を頂けると――」
支配人の男は腰を低く保ち、虫型の魔物であるアゴフリバッタの如く、へこへこと頭を小刻みに上下させながら、愛想笑いを浮かべザックにお願いする。
支配人としての務めをなんとか果たそうと必死な様相だ。
「寄付だと? なんでだ。別にいいじゃねぇかこのままでも味があって」
「あはは。た、確かに。ただ、やはりこのままというわけにも……私も支配人としての立場もあり、目の届く範囲は、ですので……」
その瞬間、支配人の口は閉じた。いや、閉ざされた。
ザックの大剣が横から駆け抜け彼の頭を撫でたからだ。
尤も撫でたと言っても支配人の首から上は、今や反対側の壁にぶち当たり床に転がっている。愛想の笑いをその顔に貼り付けたまま。
そしてドサリと残った首から下が床に落ちた。ドクドクと黒混じりの朱が、床を染めドロリと広がる。
「き、きゃ、きゃぁ――」
「悲鳴あげたらぶっ殺すぞぉおおおぉおおお!」
ザックの蛮声。その声に、周囲から上がりそうだった声が押し殺され、静寂が食堂内を支配する。
ボロボロに変わり果てた食堂内に残った者達は、ただ竦み上がり震えるばかりだ。
「ふん。なぁところでねぇちゃん。お前は見てたろ? 今支配人の首が飛んだのは事故だよなぁ~?」
あまりの恐怖に腰が抜け、床にへたりと座り込んでる給仕の女に、ザックが問いかける。
彼女の目の前には首のない支配人が倒れていた。
広がる赤は彼女の掌から制服のお尻部分まで汚してしまっている。
だがそんな事も気がついていないように、その恐怖からか、ひっ! ひっ! と癇を起こしたようになっていて言葉が出てきていない。
更に女の股の間からチョロチョロと香ばしい匂いの漂う液体が広がっていく。
どうやらあまりの事にお漏らしまでしてしまったようだ。
彼女から溢れた透明な液体が朱と交じり合い、なんとも言えない汚臭を周囲にまき散らしている。
「……チッ、随分と緩い股だな。だが、そそられるぜ――」
だがザックは、鼻をひくつかせた後、そういってニヤリと口角を吊り上げると、腰に手をかけズボンを下し、驚きに目を剥く女へと覆いかぶさっていった――
「ヒック、ヒック、ひ、ろ、い。こんな、ふぇ、ひっ」
給仕のエプロンはその辺に投げすてられ、服も下着もビリビリに引き裂かれ、ただ白い肌とそこそこ成長のみえる双丘を晒したまま、女はひとり床に倒れたまま泣きじゃくっている。
身体中には青い痣、これは直前まではなかったものだ。
そして床に残る血の染みは、破瓜の跡ともとれるものだ。
そんな哀れな女を見下ろしながら、ザックは一度は下げたズボンを穿きなおし、すっきりした面持ちで口を開く。
「まぁこれで多少は鬱憤をはらせたか」
そして今食堂で喰ったばかりの女を殺気の篭った瞳で睨めつけ、
「おいもう一度だけ聞くぞ? 支配人は事故死、お前は望んで受け入れた。いいよな?」
と獣の唸りに近い声音で聞き直す。
「ひっく、はい、しょうれ、す。ザック様の、ひっく、いう、とおりれ、す――」
その言葉にザックは満足気な顔を見せ、大口を広げ笑いあげる。
「あの、ザック様――」
そこへこの宿の責任者でもある女宿主が声をかけた。
その顔には引きつった笑みが貼り付いている。
「あん? なんだ? まさかお前まで俺に文句が――」
「いえ! そのような事は! ただ、そろそろお部屋に戻られたほうが宜しいかと……流石にこのままでは目立ってしまいますし……」
女の言葉にザックも納得を示したようで、一度頷くが女を睨めつけ。
「判った、部屋には戻ってやる。だがあの男を見つけたら必ず俺に教えろ! いいな!」
「は、はい、勿論でございます」
女の返事に、ふん! と鼻を鳴らし、そして――セイラを振り向いた瞬間思いっきり蹴りつけた。
彼女の華奢な身体が抵抗感なく床に溢れる。
「おい! 後で回復魔法の使える奴部屋に呼んでおけ! こいつは簡単に壊れはしねぇが傷ぐらいはつくからな!」
「は、はい畏まりました――」
震えを必死に堪え、宿主はザックに頭を下げ了解の意を示した。
そしてザックはその後も容赦なく、再びセイラの髪を乱雑に掴み、引きずり回すようにして食堂を出て行く。
壁に叩きつけ身体を痛めつけ、そんな暴力行為繰り返しているザックの顔は喜色に満ちていた。
「セイラてめぇはまだ終わりじゃねぇ。これから朝までしっかりと俺が部屋で調教してやるからな!」




