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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部一章 王国騎士団編

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プロローグ

本日より第二部スタートです

 ここボガード大陸において北の凡そ半分を版図に持つベガ帝国。

 しかしかつては幾つもの小国が犇めき合う中の一国でしかなかった。

 そしてその軍事力は周辺諸国の中でもずば抜けて低く、矮小な領地をなんとか守る程度が関の山であった。

 

 だが、そのあまりに不甲斐ない状況を一変させた男がいた。

 ルガール・セルフリーザ――元々は一介の傭兵でしかなかったこの男だが、ある時を境に彼の躍如たる活躍によりこれまで防戦一方であった戦況に変化が生じ、何倍もの戦力を覆すような一騎当千ぶりを披露し、軍に勝利を収めていった。

 

 この男の獅子奮迅の働きぶりはすぐに人々の間にも広まり、彼を英雄視する声も上がった程であり――そして遂には戦を仕掛ける事に難色を示す臆病な為政者や王侯貴族に変わってルガールこそが王になるべきだという声も国中に広がっていった。

 

 更にそのタイミングで次々と王族が暗殺される事態が発生し、この時点で軍からもカリスマ扱いされていたルガールはその機を逃さず政に乗っかり、そして傭兵王として王座に君臨。


 その後はこれまでと打って変わって軍事力の拡大に集中し、周辺諸国へと次々と進行を続け――王国からベガ帝国へと名称を改め、遂にボガード大陸の凡そ半分を掌握する巨大国家を構築するまでに至ったのである。 


 そして、それから更に時が流れ――


 




◇◆◇


「――以上がガロウ王国セントラルアーツにおいての報告となります……」


 謁見の間にて漆黒のローブに包まれし者が片膝をつきそれを述べた。 

 目深に被られたフードのおかげでその顔は判然としないが、落ち着きの見られる声音は耳によく通る。

 そしてその斜め後ろに付いている者も同じような出で立ちで片膝を突いている。

 彼の方が報告を述べたものよりも大分小柄だ。

 但しフードから垣間見える口元には不真面目な笑みが溢れている。

 

「なるほどな、よく判った。しかしそんなものでいつまでも顔を隠してる必要もないであろう。ここには我々しかいない。他の者にもお前たちがここから離れるまで中には入るなといってある」


 黄金で縁取られた豪奢な玉座に腰を掛け、今上皇帝たるルガール・ベガ・セルフリーザが言った。

 齢四〇を超え、今もなお血の気あふれる皇帝の風格たるや、歴戦の英雄ですら恐れおののく程であろう。

 

 見事なまでの輝きを放つ銀髪を後ろに撫で付け、整った眉の下では猛禽類を思わせる射抜くような炯眼がふたりを見下ろし続けている。

 彫りが深く、顔全体で見れば美丈夫とも言える面ではあるが、二メートルを超える長身に仁王のような逞しい身体つきと相まって、纏う空気はまさに鬼神のそれであろう。


 その帝王の風格漂う男に促され、今ふたりが立ち上がりフードを手でめくり上げた。

 その手の色は蒼であった。


 そして捲られた後、顕になった顔もまた蒼。

 前で片膝をつくその男は見た目には二〇代後半。紫色の髪を有し、その長さは肩に達するほど。

 前髪は額が出る程度の位置で切り揃えられ、どこか妖艶ささえ漂う切れ長の瞳は、しっかりルガールの姿を捉えて離さない。

 全体的に整った顔立ちであり、目の前の皇帝程ではないにしても上背は高いほうだ。

 

 だが彼が人とは違う種族であることは、その肌の色と額の真ん中に見られるみっつめの瞳から窺い知ることが出来る。


 一方もう一人に関しては彼とは対照的に背が低く、そして見た目にも無邪気な幼子のようでもあり――だが、彼もやはり人ではないことは同じく蒼い肌と、開放された一対の翼から理解できる。


 このふたり――その正体は共に魔族。そして三つ目の男に関して言えばかつては(・・・・)魔族を束ねし者の一人でもある。


「それにしてもルキフェル。高々一領地を掻き乱すために数少ない同胞の一人を失うとはな。全く魔族とやらも大したことがない」


 嘲るような笑みを浮かべルガールが告げる。

 ルキフェルは目の前で頭を下げる魔族の名だ。

 そしてそれは彼ら魔族を侮辱する発言でもあったが、それを耳にしてもルキフェルの表情は変わることはない。


「……返す言葉もございません。ですが当初の予定通りガロウ王国の情勢に風穴を空ける程度にはお役に立てたかと――それに魔物と人の掛け合わせた時の効果も研究できました」


「うん、確かにおかげで色々と面白い実験記録がとれたよ~」


 ルキフェルに追従するように後ろで控えていたもう一人の魔族が述べた。

 彼こそは今回の作戦においてアーツ地方に赴き、領主に扮していた仲間のサポートに回っていた男、ベルモットである。

 

「実験――魔物と人の融合体か。ふむ、それは確かに面白いな。出来が良ければ人間などより帝国の兵士として役立ちそうだ」


 ルガールが顎を右手で擦りながら興味深そうに述べた。


 するとルキフェルが皇帝に顔を向け、

「勿論それも考慮しての実験でございます」

と恭しく頭を下げる。

 だが、この実験が魔族を人為的に造り出す為のものであることは知らせてはいない。


「そうか……ふむ、それで貴様は我にあのような願いを出してきたわけか」


「左様でございます」


「なるほどな。まぁそれであれば考えてやらぬこともないが――」


 何かを匂わすような物言い。

 すると察したように、そうそう忘れておりました、とルキフェルの口が開き。


「ベルモットが皇帝陛下にお土産(・・・・)を持ち帰っております。恐らくクラウザ卿が品定めをされているかと――」


 クラウザ卿はここベガ帝国にて政務を任されし宰相であり、文官達を纏め上げる長でもある。

 皇帝からは侯爵の位も賜っているが――しかし軍事国家でもあるベガ帝国においては、文官の権限は武官に劣り、雑務なども一手に引き受ける事も慣例となっている。


 その為、陛下への献上品の検品対応も行ったりもする。

 尤も通常の品であれば宰相自ら出向くような事はせず部下に任せるものだが、今回は文字通り品定めの意味もあるのだろう。

 

「土産か――それは上等な物なのだろうな?」


「はい――見目麗しい貴女のみを厳選しておりますゆえ、お気に入り頂けるかと……」


 そうか、と好色な笑みを浮かべるルガール。

 精根たくましき皇帝は当然色も人一倍好む。

 ましてや敵国の女とあれば尚の事興奮するのがこの男である。


「ふむ、話は判った。ならば早速でも手配出来るようハイデルに伝えておくとするか」


 皇帝が満足そうに告げると、ありがとうございます、とルキフェルが頭を下げた。

 そして用件を告げ終えた魔族の二人は辞去し、謁見の間を後にしようとするが、その背中にルガールの声がぶつけられた。


「それにしてもすっかり立場が逆転したものだな魔王」


「……魔王といっても四人いる内の一人でしかありませんよ。それにもともと我々は力あるものに付き従っておりました。今はそれが皇帝陛下に変わっているだけでございます故」


 振り向かず、そう言い残した後、ルキフェルとベルモットは部屋を後にした。

 扉が閉められた直後、食えない奴め、と皇帝が呟く――





「失礼致します」


 魔族のふたりが立ち去り暫くしてから、何人かの騎士を引き連れた精悍な男が謁見室に姿を見せた。


 褐色の肌を有し、豊かな口ひげを蓄えた男である。

 彼はハイデル・ベヒシュタイン侯爵。 

 帝国にて全軍を統率し各将軍達を纏め上げる元帥の座に就きし男。

 軍国主義の帝国においては事実上のナンバーツーにあたる。


 ハイデルンは皇帝ルガールの前まで歩み寄ると、他の騎士共々統率のとれた所作で片膝をつく。

 その姿を認めたルガールは顎で立ち上がるよう促した。


 ハイデルンは徐ろに立ち上がり、再度頭を下げる。


「随分と真面目くさった顔をしているな。何かあったか?」


「はい。少々陛下のお耳に入れておきたいことがございまして」


 そこまで言ってハイデルが顎を上げ、力強い瞳をルガールに向ける。

 それに特に応えることはせず、沈黙をもって皇帝が先を促した。


「……都市セーレにおいてクラーク殿下が水面下で兵を集い始めております。冒険者にも声を掛け、装備品の製造量も増えてる様子――このまま放置しておけば思わぬ障害になりかねないと思いましてご報告を」


 ハイデルからの報告を聞き、ふむ、と短く発し。


「クラークといえば元はせーレ王国の王女との間に産ませた(・・・・)物か。しかし謀反を企てるとは、もうそんな年であったか」


「今年で一六となりました。昨年には爵位を授かり、セーレの領主にも任命しております」


「ふむ、そうか。いかんせん道具が多すぎだからな一々覚えてはおれん」


 目を細めルガールが答える。クラークは位置づけとしては皇帝の七番目の子。

 だが実力主義の帝国では帝位継承の順位を明確には定めていない。

 尤もこの皇帝ルガールがまだまだ現役を退く気がないという部分も大きいが――


「それにしても奴がな……」


「はい。クラーク側につかせていた密偵によると、どうやら王国貴族の生き残りがいたようで接触を図り、母親の死の詳細を知ったようです」


 ハイデルが言い終えると、ふんっ、とルガールは鼻を鳴らし応え顔を歪めた。


「仇討ちというわけか。くだらんな、小事に固着しそのような連中に耳を貸し、浅はかな謀を企てるとはな。愚かさここに極めりだ」


「陛下――対処の方は如何致しましょうか?」


「捨てておけばよい。小鼠がいくら集まろうと竜の鱗に傷ひとつ付けることすら叶わぬわ」


「ですが陛下、情報によるとこのままいけば兵の数は二万に達するものと……」

「貴様はたかが二万の雑兵相手に遅れを取るほど無能なのか?」


 ギロリとハイデルを睨めつけ言い放つ。


「――いえ、失礼致しました。ではこちらも精兵を準備させ有事に備えておきます」


 ハイデルが深く頭を下げ、他の騎士もそれに倣った。

 そして頭を上げ、ところで……と更に話を紡ぎ。


「どうやらまたあの者達と謁見なされていたようですが……」


「ふむ、それがどうかしたのか?」


「――特に何があったという事ではございませぬが、あまり信用なされすぎるのも如何なものかと」


「……我が? あれを信用? くくっ、おかしな事を言う。確かに我の傭兵時代より何かと役にたった連中ではあるが、一度足りとも気を許したことないわ。だが、奴らが今でも色々と動いてくれるでな、使ってやっているだけだ」


 ルガールの回答に、ハイデルは一旦瞑目し顎を引く。


「流石は陛下、私の浅はかな考えなど遠く及ばる慧眼感服いたします。全く私とした事が出過ぎた真似を――失礼致しました」


「別に良い。それよりも奴らが土産を持ってきた。余り物(・・・)は後にでも騎士や兵士にでも回してやるがよい」


「はっ――陛下のご配慮痛み入ります。それではこれにて……」


 報告を終えたハイデルは近衛兵を数名のこし部屋を辞去した――






◇◆◇


「ふむ、七子であるクラークがセーレで謀反を計画中か――」


「あれれ~なんだルキフェルしっかり眼は残してきたんだね~」


 要塞都市である帝都を離れ、道すがら呟くルキフェル。

 その姿を眺めながら楽しそうにベルモットが言った。


「まぁこれは癖みたいなもの。ついつい能力を使ってしまう」


 四魔王の一人でもあるルキフェルは、その額の三つ目に多彩な力を有す。

 その一つが物見眼(ビジョン)であり、不可視の眼を置き、どこからでもその様子を探ることが出来る。


 このように魔族はジョブとはまた別に魔族特有の能力をそれぞれ有している。

 セントラルアーツで活動していたアルキフォンスの魔力を奪う爪もその一つだ。


 そしてベルモットの場合はその背中に生える翼に秘密が隠されていたりもする。

 そのベルモットは今は翼を広げ、ルキフェルは風を操作し上空から要塞都市でもある帝都を俯瞰している。


 高さ一〇メートル程の城壁に囲まれた帝都はその鉄壁さがうりでもある。

 厚い壁は星形に設置されており、内側も区画ごとに三層の壁が設けられている。

 星形の城壁の稜堡部に沿って尖塔が伸びているが、この尖塔は有事の際に威力を発揮し、配置された魔法師の力で陣形魔法を発動、塔から塔へ壁から壁へと魔法式が刻まれ壁の強度を飛躍的に上昇させ、更に天井を覆う半球状の障壁によって上空からの攻撃にも対応する。


 とはいえ、過去にはこの都市も他の諸国と同じように円形の城壁を採用していた。

 しかし傭兵時代のルガールの提案により、この星形要塞に変更し、そして実際の戦場においても効果を発揮した。


 尤もこの形を提案したのは何を隠そうこのルキフェルなのであるが――


「ふむ、見れば見るほど見事なフォルム。全く人間たちに住まわせておくには少々勿体無いほどではあるが――」


 そんなどこか含みのある言葉を述べていると、隣で聞いていたベルモットが肩を揺らし、ちらりと魔王をみやり問いかけた。


「それで、そのクラークの件は何か策を興じるつもりはあるの~?」


「……いや、特に何もする必要もないだろう。その程度の相手にあの皇帝が遅れを取るとも思えないしな」


 ルキフェルは特に問題なしといった様相で返事した。

 ふ~ん、とベルモットは首の後に両手を回す。

 ふわふわと浮かびながらその振る舞いは軽い。


「でもちょっと勿体無かったかな。依代として丁度良かったし」

 

 思い出したようにベルモットが言う。先ほど皇帝に献上した女達の事である。


「そのかわりに実験体が手に入る。この交換条件は悪い話ではないだろう。人間の女と魔族では受精率は低いしな。それよりもお前の力で魔族を作った方が早そうだ。尤も上手く行けばの話だが」

「あれ? もしかしてプレッシャー掛けられてる?」


「当然だ、我々の帝を折角復活させても、今の状況ではとても顔見せ出来ないしな。悠長に子作りをしている時間も育てている時間もないのだ」


「だったらアルキフォンスの死は大きかったかもねぇ。ただでさえ僕達は数が少ないのに――」


 人差し指を顎に添えつつ、ベルモットが言った。

 するとルキフェルが嘆息をし目を細める。


「あいつは少々調子に乗りすぎるところがあったからな。あれだけのジョブを持っていながら情けない限りだ、が――」


 そこまで言ってベルモットに顔を向け。


「しかし人間風情が奴をやるとは。封印によって我らの力も弱まっているとはいえ中々厄介な相手なのかもしれない。一体どんな奴だったのだ?」


「う~ん――」


 その問いに何かを思い起こすようにベルモットは視線を上に上げ、事の顛末を説明した。


「――なるほど。その中では特にそのヒットとかいう男が気になるところだな……アルキフォンスの結界が破られたのもその男の要因が大きそうだ――用心しておく事に越したことはないか……」


「まぁあの辺じゃロキも動いているから注意しておいてもらってもいいかもね~」


「ロキ――か。それにベルブの確認もとれている。あとは、イームネか……」


 ぼそりとルキフェルが呟くようにいった。ロキ、ベルブ、共にルキフェルと同じく四魔王と称された者達であり既にその所在は確認されている。

 そしてイームネは四魔王の中でも唯一の女――だが……


「う~んイームネはだいぶ前から目覚めているのは確認とれているんだけどね~でもその後どこにいったのかは不明なんだよ~」


「……ふん。あれはもともと身勝手な女でもあったからな。だがまぁあれに関してはロキの奴が意地でも探しだすだろう……それよりも今は封印だ。セントラルアーツのは既に解けた……残りは後、四つ――」


 そこまでいった後、ルキフェルは口端を引き上げ、そしてベルモットと共にその場を離れた――

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