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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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165/322

幕間①

第一部がかなり長くなってしまっていたのでダイジェスト的な物です。

読んでない方は激しくネタバレありますのでご注意を……

逆に長くて読む時間がないという方はこの話と次の話で二部が始まる前にある程度内容が判るようになってるとは思います。


またメリッサに関しては最初の方である事実が……


 メリッサ・メルキスは商人貴族であるメルキス子爵家の長女として生を受けた。

 ガロウ王国では商人であってもその功績に応じて、商人ギルドと懇意にしてもらっている貴族の推薦があれば爵位を授かる事が可能となっている。

 しかしそれでも一介の商人が爵位を得るのは本来非常に難しい。

 しかしそれを一代でやり遂げたのがメルキス家当主であり、メルキス商会を有力貴族に認められるまでに育て上げたポール・メルキスであった。

 勿論この功績には、影で支え続けた妻の助けも忘れてはならない。

 彼女もポールと同じく平民の出でありポールの幼なじみでもあった。

 しかし器量がよく、その見目麗しさから貴族からの誘いも多かった。

 だがそれらをはねのけ親の反対も押し切り、彼女は幼なじみであったポールの妻となり、商会を立ち上げた彼を支え、その甲斐あって子爵という位も賜り、そして二人の元気な女の子を授かった。

 それが長女メリッサ・メルキス。

 そして妹のメラニー・メルキスである。


 両親の愛情をたっぷり注がれたふたりの娘はすくすくと育ち、父と母の良い所を受け継いだ姉妹は、貴族の間でもちょっとした話題に上るほどの美人姉妹として有名にもなった。

 

 メルキス商会は業績も好調であり、美しい妻と可愛い娘に囲まれ、ポールはこの幸せがいつまでも続くものだと信じて疑わなかった。

 そしてそれはメリッサも一緒であった。

 父の元で商人の勉強も一生懸命行い、商人の学び場にまで通わせてさえもらった。

 メリッサはいずれは尊敬する母のように、両親を支えていきたいと本気で考えていた。


 そんなメリッサにもある日転機が訪れる。学び場での講習も全て終え、いよいよ本格的に商会の手伝いに乗り出せるかと思った矢先のことである。

 イーストアーツを治めるバルローグ伯爵家嫡男であるチェリオ・バルローグとの縁談が持ち上がったのだ。

 そしてチェリオについてはメリッサもよく知っていた。

 何せバルローグ家といえば、父であるポール・メルキスを子爵としての位を授けるよう後押ししてくれた由緒ある家系であり、メルキス商会にとっても一番のお得意さまであり懇意にしてもらっていた君主でもある。


 その嫡男であるチェリオとの縁談である。バルローグ家は子供が一人しかおらず、将来的には間違いなく家名を継ぎ次期君主となる御方だ。

 チェリオとは饗宴の際に両親と同行した際に何度も話しているし、仲も良かったといえる。

 ただ、メリッサにとっては相手の方が年上ではあったが、そのどこか控えめな性格と幼い顔立ちから、心情的には弟のような存在であり、恋愛感情に至っていなかった。

 

 しかし彼女とて自分が女である以上、そして長女である以上、自分の気持ちよりも家の事を優先しなければいけないことは理解していた。

 伯爵の位を授かる権利を有し、次期君主ともなられる御方との結婚となれば両親にとってもこれほど喜ばしい事はない。

 メリッサがこのまま仕事を続けるよりも、バルローグ家に正妻として入るほうが両親にとっても妹にとっても良いのは間違いがなかった。


 それにこの時のメリッサは、チェリオの事は愛してはいなかったが嫌いではなかった。

 だからこそメリッサはこの縁談の申し出を受け、両家ともに二つ返事で話も纏まり、あとはメリッサが一五の誕生日を迎えると同時に婚姻の儀をとり行う手筈となり、その日を待つだけとなっていたのだが――


 しかしこの話は唐突に、バルローグ家側の方から断りが入った。

 しかも婚姻の儀まであと僅かといった折の突然の申し出である。

 そして更に悪いことに相手の言い分は、メリッサに不貞行為があった為といった一方的な話であった。

 勿論メリッサにそんな事実はなかったのだが、その事を理由にメルキス家はバルローグ家への立ち入りを一切禁じられ、当然取引も停止された。


 この話は結局、バルローグ家側に要因があり、別の有力貴族の令嬢がチェリオに見初められた事が理由であった。

 バルローグ家側はつまり、その相手との婚姻を押し進めたほうが後の利に繋がると判断したのである。

 しかしそれをそのまま理由にしては外聞が悪いと判断したチェリオの両親は、各種ギルドなどに裏から手を回し、メリッサ側に不貞行為があったという話を捏ち上げたのであった。


 そしてこの噂と更にバルローグ家への出入りを禁じられたという事実と相まって、メルキス商会の取引相手も一気に手を引き始め――その後には多大な借金のみが残ることとなった。

 結局商会も潰れ、メルキス家は屋敷も含めて全てを売り払い一代で築き上げた財産の一切を無くし……没落した。


 だが、それでも全ての借金を返し切ること叶わず、父は方々に声を掛け、恥も外聞もなく頭を下げ、どうにか支払いを待ってもらえないか頼み込むが――結局少なくとも娘の内どちらか一人は奴隷として売り払う必要があるところまで追い詰められた。


 だが、そこで手を上げたのはメリッサであった。メリッサはせめて妹には少しでもまともな暮らしを送ってもらいたい……そう願っていた。

 そして父と母も、どん底にまでこそ落ちてしまったが、チャンスさえあればまたきっと立ち直るはず――そう信じてもいた。


 幸いメリッサは商人としての勉学に励んでいた事もあり、読み書きも計算能力も人一倍優秀だ。 帳簿の関係もうまく処理できるため――更に言えば容姿とスタイルの良さ、更に男性経験がない(婚約は一方的に破棄された為、チェリオとの関係もなかった)という部分も相まって破格の値段がつき、それだけで借金が全て返済できるほどでもあった。


 だが、それでも両親も妹もギリギリまでメリッサを奴隷商人の手に渡さないようにと手は尽くしてくれたが、結局その家族の願い虚しく、そしてメリッサも覚悟を決めて、家族の手を離れ奴隷へと堕ちた――





 奴隷ギルドで隷属の魔法式をその身に施された後、メリッサは奴隷商人の手に戻され、そして買い手が付くまで檻の中で過ごした。

 しかし程なくしてメリッサにも買い手がついた。セントラルアーツ地方で商業を営むトルネロという男であった。


 この男は、気に入らない事があればすぐ暴力に訴えたりと決していい主人とは言えなかったが、ただメリッサの容姿の良さは認めており、隣に立たせることに優越感すら覚えていたようなので、暴力と言ってもそこまで無茶な事はする事はなかった。


 そしてこのトルネロという男はメリッサの能力にも目を掛けており、商いの帳簿を付けさせたり、商品の買い付けを手伝わせたりと色々な事を手伝わせた。

 禄に休みすら与えない男ではあったが、自分の特技を活かせる環境はメリッサにとってはまだマシといえるものであった。


 ただ、勿論メリッサ程の美貌とスタイルを兼ね揃えた奴隷を前にして、ただ仕事をさせるだけというわけもなく、湯浴みの際にはそのキメ細かな肌で身体を洗わせたり、夜伽を命じられたりもされてはいたが――ただこのトルネロという男は陰萎であり、その為メリッサとの房事に至ることは結局なかった。


 トルネロはメリッサの素質をかっており、薬草の知識を蓄えさせたり、薬の調合なども勉強させたりと、後々は商売の手を広げ薬売りも行っていこうと考えていたようだが、同時に自分の陰茎が正常になるような薬が出来ないかと模索していた節もあったようだ。


 だがトルネロの願いはある日突然に打ち砕かれる。それは彼がセントラルアーツの常連の顧客に酒を届けにいく途中であった。


 盗賊の襲撃にあってしまったのである。


 トルネロも護衛として数名の冒険者を雇ってはいたが、三人の盗賊は護衛の冒険者より遥かに腕が立ち、あっという間に全員を殺害し、御者を任されていたメリッサを引きずり下ろし、主であるトルネロの腹を裂いた。


 突然の出来事に声も出せず震えるしか出来なかったメリッサであったが、盗賊達は下卑た笑みを浮かべメリッサの服を無理やり引き裂き押し倒した。


 屈強な男の手によって押さえつけられ、そして一人が鼻息を荒くさせ上に覆いかぶさってくる。

 メリッサは抵抗を試みるも、女の力では三人もの男を跳ね除けるなど土台無理な話。

 メリッサは大事にしていた物がこんな下衆な男たちに奪われてしまうのかと、涙を流した。

 だがそれを見ても、男たちは喜び更に興奮するだけであった。

 そうこうしてるうちに覆いかぶさっていた男がズボンを下ろし始め、汚らしい物が顕になったとき、メリッサは諦めに近い思いで両目を瞑った。

 

 だがその時、メリッサの耳に男の悲鳴が木霊した。

 同時に自分の身体が軽くなったような感覚。

 目を開けると覆いかぶさっていた筈の男が傾倒し、何故か自分の尻を押さえたままピクピクと虫の息であり、そして残ったふたりが怒鳴り声を上げている。


 メリッサが呆然とその様子を眺めていると――森の奥から一人の男が姿を見せた。

 逆だったような短めの黒髪、射抜くような切れ長の瞳、上背も高く引き締まった身体――


 その男がなんと、これだけの護衛をも片付けてしまった三人の盗賊をいともたやすく倒してしまったのである。

 男は全ての片がついた後メリッサの傍まてやってきて、大丈夫か? と声を掛けてくれた。

 暫く震えが止まらず涙も溢れ続けていたメリッサであったが、男に声を掛けられ、更に助かったんだという事を認識し漸く落ち着いた所で彼にお礼をいった。

 すると男は服が破かれ半裸に近い状態だったメリッサにマジックバッグからドレスを取り出し見せてくれた。

 マジックバッグはかなり貴重な品であり、商人でも持っている者は殆どいない。

 それに先ずメリッサは驚いた。そしてその身のこなしから、もしや高名な騎士なのでは? とそのように質問したが、彼はただの旅人だと答え、そして己の名はヒットだと教えてくれた。

 

 メリッサは自分がまだ名も名乗っていないことに気が付き、慌てて自己紹介したが彼は笑って、気にしなくていい、と言ってくれた上、取り出したドレスもくれるという。

 メリッサはこれでも元は商人の娘である、そのドレスがどれほどのものかはすぐに理解することが出来た。

 仕立てもよく染色も美しい、貴族御用達の服飾店でしか購入できないようなそんな高価な代物であった。

 流石にメリッサは、たかが奴隷がこんな物を受け取れないと断ったが、ヒットは引かず、なら借りるという形でもいいからと告げてきた。

 メリッサは少し悩んだが、奴隷の自分では馬車に着替えも積んでおらず、確かにこのままでは街に戻ることもままならない。

 なので取り敢えずヒットの言うように一旦借りるという事にしてメリッサは馬車で着替えを済ませた。


 着替えを澄ました後は、ヒットと少し話をするが、どうやら彼はあまりセントラルアーツについて詳しくなかったようで、馬車をどうしていいか? や盗賊の事や冒険者についてなども質問された。


 メリッサはそれに答えながら――あることが脳裏によぎり、それを切り出そうか逡巡する事になる。

 だがヒットは、構わずに言ってみてくれ、と応えてくれた。

 その言葉に覚悟を決めたメリッサは、ヒットに自分を奴隷にして欲しいとお願いする。

 すると彼は怪訝そうな顔を見せた。

 やはり失敗だったかと後悔するメリッサであったが、どうやらヒットは奴隷制度について詳しくはなかったようであり、随分と珍しいなと思いつつも、メリッサはこの国の奴隷制度について教えてあげることにする。


 ヒットはどうやらここで主が死亡したわけであり、奴隷からはメリッサが解放されたと思っていたようだが、この王国、というよりも大陸全土で言えることだが、奴隷は一生奴隷が基本である。

 メリッサに施された隷属の魔法もそのためにあるといってよい。

 基本奴隷は主とは隷属の魔法が込められた魔導具によって縛られる事になるが、それとは別に身体に施された魔法式によって管理もされている。

 奴隷は主が死んだ場合は三日以内に奴隷商人の下か奴隷ギルドに赴きその旨を伝えねばならないのである。

 もしそれを行わなければ逃亡奴隷とみなされチェイサー(追跡者)が差し向けられることとなる。

 

 チェイサーは恐ろしい連中である。彼らが動いで逃げ切れる奴隷は先ずいない上、捕まれば躾と称した拷問が待っている。

 メリッサはこれらの事情、更に自分を奴隷にして貰うにはそれ相応の対価が必要であることも包み隠さず説明した。

 

 だが、よく考えればこれは非常に虫のいい話である。

 見ず知らずの奴隷の女だ。盗賊から助けてもらっただけでも御の字といえるのに、奴隷として買い取って欲しいと頼んでいるのである。

 しかしヒットは――事情を把握するとあっさりとその願いを飲んでくれた。

 メリッサを自分の奴隷にしてくれるというのである。

 その事にメリッサの気持ちは高揚した。メリッサは人を見る目はある方だと思っている。

 だからこそ、たまたま通り掛かっただけの現場で高がいち奴隷でしかないメリッサを助けてくれたこと。

 

 更に躊躇いもなく高価なドレスを差し出してくれて着替えを薦めてくれた事などから悪い人ではないことは推し量ることが出来た。

 更に見た目に反して少々初なのも好印象であった。


 メリッサはヒットに深く感謝し、ヒットの為であればどんな事でもどんなご奉仕でもさせていただく事を心に誓った。

 

 話も落ち着いた所でヒットとメリッサはひとまずセントラルアーツへと向かった。

 馬車に積んであった酒を届けるためだ。

 メリッサの説明により商人ギルドでの馬車と酒の所有者変更も終わり、一悶着あったものの酒の代金も回収した後は、そのまま冒険者ギルドに向かいヒットは冒険者として登録した。

 そしてその後は日も暮れてきたということで一旦ヒットと宿屋へと向かう。


 メリッサにとってヒットはかなり変わった男であった。

 何せ彼はメリッサを奴隷扱いしない。通常奴隷というのは基本的には物として扱われるものだが、ヒットに至ってはそのような事はなくメリッサを人として扱ってくれた。

 その事が嬉しくもあったメリッサだが、その行為故にご主人様となったヒットが他者から変な目で見られてしまうのが申し訳なくもあった。


 そしてそのような行動が結果的にトラブルを引き起こす事となる。

 それは夕食の時であった。通常であれば奴隷は席になどつかず、床に座り主の残したものを食すものである。

 しかしヒットはそれをよしとせず、メリッサを席につかせ、彼女の分の食事も別に頼もうとした。

 

 だがそれがある男の逆鱗に触れる事となる。ヒットと同じ冒険者である通称奴隷壊しのザック。

 この男は奴隷は物であるという考えが拗れに拗れた男であり、ヒットとは真逆の性質の男ともいえた。

 奴隷にはなにをしてもいいと思っており、気に入らない奴隷は他者の奴隷であれと問答無用で殺してしまうような危険な男であった。

 勿論例え奴隷といえど無益に殺したり暴行するなどは許されないことであったが、この男にはイーストアーツ伯爵の後ろ盾が有り好き勝手な振る舞いを許されていた。


 そしてザックはヒットの奴隷扱いが気に食わないといいのけ、無茶な理由で決闘を申し込む。

 宿の給仕達もザックの恐ろしさはよく知っているようで止めるものは誰一人いない。


 更にザックの奴隷であったメイド服姿のセイラがメリッサの背後を取り、その喉にナイフを突きつけられ、人質にされてしまう。


 相手のザックは冒険者のランクもエキスパートであり、更に高位職のブレイカー……いくらなんでも分が悪すぎると、メリッサはヒットに私の事は構わないで、と告げるが――ヒットは、俺を信じろ、とザックとの対決を開始する。


 ザックは強かった。周囲の物などお構いなく大剣を振るたびに発生する衝撃波があたりを蹂躙する。

 だが、ヒットはザックの攻撃は物ともせず反撃に転じる。

 ヒットの能力はキャンセルという力で、相手の攻撃をキャンセルすることで強制的に中断させ、自分の攻撃後にキャンセルをかけることで技の隙をなくす事が出来る。


 この戦い方はメリッサからみてもかなり珍しいものであった。

 そしてヒットはザックの鎧を破壊し、更に決定打を決めザックを気絶させた。

 これでヒットの勝利が確定し、更にその瞬間メリッサにナイフを突きつけていたセイラは腕を引っ込めその場で正座しおとなしくなった。

 セイラは、勝負が決まるまでメリッサを人質にとっておけ、というザックの命令を忠実に守ったのである。


 勝負が決まりメリッサも解放された事で、ヒットは彼女の手を取り宿から逃げ出した。

 このままでは厄介な事になることは間違いないと思ったからのようであった。


 メリッサが手綱を握り、一旦街を出る。

 そしてその日は馬車の中で野宿となった。

 ヒットは謝罪の言葉を述べてきたが、メリッサの為に起こした事で寧ろメリッサには嬉しかった。

 更にヒットはそこで必ずメリッサを奴隷から解放して見せると口にしてくれた。

 ヒットと出会ってまだ一日とたっていなかったが、メリッサはこの時既にヒットに心が惹かれているのを感じていた。

 

 翌朝はメリッサはヒットと共に薬草採集に営んだ。

 途中妙な三人組の邪魔は入ったが、ヒットはキャンセルを使用しその三人を追い払い、大量の薬草を採取し、そしてそろそろほとぼりも冷めたかと街に戻ろうとするが――繋ぎ止めていた筈の馬車がなくなってしまっていた。

 どうやら盗まれてしまったらしい。


 ふたりは話し合い、恐らく盗品であればスラムの盗賊ギルドあたりで流される可能性が高いと判断する。


 ヒットはメリッサの手を取り、ステップキャンセルという瞬間移動に似たスキルを使用し、急いでセントラルアーツにまで戻る。

 そしてそこで衛兵を務めるダイモンに情報料を握らせ、馬車を盗んだ連中が盗賊ギルドではなくブローカーを利用する事を教えてもらう。


 ヒットはメリッサと共に情報を頼りにスラムの取引場所へと向かい、そこで盗まれた馬車を見つける。

 馬車を盗んだ連中は前にメリッサに絡んでいた冒険者達であった。

 ヒットは逆ギレした冒険者をメリッサと協力し討ち倒す。

 

 するとヒットの戦いぶりを見ていたシャドウという男が声を掛けてきた。

 どうやら彼が噂のブローカーらしい。

 同時にスラムでも一目置かれている存在のようであった。


 その後はヒットに興味を持ったシャドウと簡単に話を済ませ、ヒットとメリッサは冒険者ギルドに向かい依頼の報酬を受け取りランチを取った。


 ヒットは常にメリッサに優しかった。

 メリッサもついついそれに甘えそうになってしまう。


 だが、メリッサには心配な事もあった。

 何せヒットは少々お人好しなところがある。

 そのせいで折角ためたお金も無駄に失ってしまう事が多かった。


 例えば領主が変わってから銀行は一度預金すると月に一割までしか引き落とすことが出来ず、更に一年間預けたままにしておくと預金分の一〇割が持っていかれる。

 しかしヒットはそれを知らずギルドと提携しているという理由で持ち金をすべて銀行に預けてしまったのである。


 これにはメリッサも失敗したと思ってしまったが、どうにもヒットは人に騙されやすくそれが不安でもあった。


 だが、お人好しだからこそ解決できた問題も多かったのも事実だ。

 例えばセントラルアーツで唯一ドワーフのドワンが経営している武器屋兼鍛冶屋では、ボンゴルという大商人の手で材料の取引を妨害されている彼の為に依頼を引き受け、鉱山まで出向いたりもした。


 この時には鉱山に向かう途中で魔物に襲われ危険な目にあっていた男女の冒険者を助け、更に鉱山で魔物が大量発生しているという話を聞き、元の依頼だけでなく鉱山の問題にも取り組んだ。


 この際、鉱山内で出会った王国の正騎士であるアンジェにも手を貸し、洞窟の最深部にいたユニーク種と呼ばれる魔物や、謎のジョブ持ちの魔物などを見事に討ち倒した。


 更にあるときはシャドウに紹介をうけた宿にて出会った逃亡奴隷のカラーナの為に一肌脱いだ事もある。

 褐色の少女である彼女は、盗賊ギルドに属していたものの、元はセントラルアーツで重税に苦しむ人々の為に活動していたシャドウキャットという義賊団のメンバーであった。

 しかしそのシャドウキャットも仲間の裏切りで捕まってしまい、カラーナだけは盗賊ギルドの助けなどもあって何とか逃げ出すことに成功していたのである。


 しかしそれも長くは続かず、チェイサーに居所を知られ捕まり、セントラルアーツの奴隷ギルドを任されているメフィスト・シャルダーク公爵に引き渡された。

 そしてカラーナはセントラルアーツの広場に縛り付けられたまま晒され、公爵は聴衆に選択肢を与える。 

 このカラーナを処刑とするか、それとも大金を叩いて奴隷として購入するか――と。


 恐らくメフィストは、このような逃亡奴隷に金を出すものなどいないと踏んでいたのだろう。

 だがそこに名乗りを上げたのがヒットである。

 そしてカラーナはヒットに助けられる形で彼の奴隷となったのである。


 その後ヒットはメリッサに随分と頭を下げてくれたものだ。

 何せメリッサを奴隷とするための資金をカラーナ購入の為に費やしてしまったのである。

 だがメリッサはとてもヒットを責める気にはなれなかった。 

 メリッサ自身カラーナの事を気にかけていたというのも理由にある。

 それにもしここで彼女を見捨てるようであれば、メリッサはこうもヒットを好きでいる事は出来なかったであろう。


 ただメリッサにとって誤算ともいえたのはカラーナもヒットに好意を寄せ、更にメリッサよりも随分と積極的だった事か――


 カラーナもヒットの奴隷に加わった後は、メリッサを正式な奴隷とするための費用を稼ぐために一から依頼をこなしていくこととなった。

 その過程でメリッサはヒットの助言もあって、基本職(ジョブ)ドラッカー(薬剤師)を先ず目指し、それから上位職のチェッカー(鑑定士)を目指すことを心に決めた。

 正式な奴隷にならなければ、隷属の魔導具の制限でジョブを持つことは出来ないが、勉強や経験などで知識を蓄えることでジョブを手に入れる確率は上げる事が出来る。

 この世界では才能や努力に応じて己にあったジョブが降りてくるという形だ。


 ヒットはカラーナの助けもありゴブリンの駆除をこなしたりなどし資金を稼いでいく。その途中でメリッサも何れはジョブを手に入れることが出来るようにと、エリンギ魔導具店の店主であり鍛冶師のドワンの妻でもあるエルフのエリンギから薬の調合や鑑定に役立ちそうな知識を伝授してもらったりなど努力を重ねた。


 そんな最中、ある日の事、ヒットとメリッサはカラーナに連れられ盗賊ギルドに赴き、そこでギルドマスターのキルビルからギルドに加入もせず好き勝手動きまわってる豚の胃袋団という盗賊団の壊滅を依頼される。


 最初は渋っていたヒットであったが、その盗賊団の為に各地の村人が攫われていると知り、不承不承ながらもその依頼を引受け、盗賊団のアジトに向かった。


 豚の胃袋団には一人ハイ・イビルティマー(上級魔物使い)の男が所属しており、使役されたオークが行く手を阻むがヒット達の敵ではなく、洞窟の奥まで無事たどり着いた所で、くっ殺せ状態のアンジェを発見。

 盗賊団の手より無事救出し、更に攫われ捕えられていた村の娘も助けだした。

 アンジェとはそこで一旦分かれつつ、ヒットは娘を村に送り届ける。

 しかし村には預金分のお金の徴収の為、銀行の支配人であるゴールド・マージ・ステイルとその護衛がやってきていて、支払えない預金分のかたにと折角救出した娘や村の子供達を無理やり連れて行こうとする。 

 しかし村長はどこか諦めた様子で止めようともしない。

 そんな中、村長の息子であるゴロンだけが、あまりに無茶が過ぎるとゴールドに噛み付いた。

 それも当然であろう。何せこの領地では銀行が各村から強制的に銀行への預金としてお金を奪い、更にそのお金はもう戻ってくる事はほぼないのである。

 ヒットもゴロンを擁護するように口を挟むが――その後吐き出されたゴールドの暴言に遂にゴロンが手を出してしまったのである。

 しかしゴロンの力ではゴールドに傷一つつけること叶わず、更にその代償としてゴールドの能力により左腕、右足、左目を奪われ弄ばれ、そして命を奪われそうになったところでヒットが割り込み、借金は自分が肩代わりするからこれ以上は勘弁してくれと願いでる。


 結局ヒットはこの肩代わりでまたもやメリッサを正式な奴隷にするための資金をすべて失ってしまう。

 おまけに村長には余計な事をしおって! と感謝どころか罵声を浴びせられ意気消沈でセントラルアーツの街に戻ることに。


 宿に戻った後は、未だ落ち込み続けているヒットの為にメリッサとカラーナは無理やりヒットを女湯に連れ込み裸で身体を流しながら、彼を励まし続けた。

 最初は戸惑っていたヒットであったがその所為により元気を取り戻し改めてメリッサの為にも資金集めを頑張ることを心に誓う。

 そしてその後は、たまたま同じ宿をとっていたアンジェと風呂場で裸の再会を果たし、正座状態で説教を食らったりしたヒットであった。

 だが、気持ちを切り替え次の日には手入れをお願いしていた武器をとりにドワンの店に向かう。


 しかしドワンの店にはあの悪徳大商人であるボンゴルが部下を引き連れやってきていた。

 しかもボンゴルは偽物の借用書でドワンの借金をでっち上げ、店を明け渡せと言っている。

 

 しかし銀行までもが協力して偽物の借用書を本物と認めてしまっている為、ドワンの力ではどうする事もできない。


 次の日には店を明け渡す準備をしておけよと言い残し、高笑いを決め、店を後にするボンゴル。

 ドワンも歯向かう事が出来ないと諦めてしまっている。

 しかしヒットには何か考えがあったようで、ドワンの店を守るため、そしてボンゴル商会を潰すためにシャドウに助けを求めた。


 ヒットはシャドウから一億ゴルドとという大金を借り入れ、その資金を元手にボンゴル商会が営む店に向かい一億を見せ金に店ごと購入、それから店の品物と店を徹底的に破壊しキャンセルスキルのクーリングオフにより店ごと返品し払ったお金を取り戻し、更に高価な道具を売り、それもキャンセルで道具を取り戻し、買い取り金額だけを手に入れるという手でボンゴルの店を次々と潰し店のお金も根こそぎ奪っていく。


 こうして遂にボンゴルの屋敷とメインの倉庫まで潰したところで憤慨したボンゴルが姿を見せた。

 しかしヒットのキャンセルの力により、ボンゴルはヒットを罪に問うことが出来ない。


 だがボンゴルの表情にはまだ余裕があった。

 何故ならボンゴルはこんな事もあろうかと、ドワンとエリンギの娘であるエリンを攫ったというのだ。


 そしてそれを証明するようにエリンギが駆けつけ目を放したすきにエリンの姿が――と。

 絶望するドワン。勝ち誇った顔を見せるボンゴル。

 

 だがその時、娘のエリンが姿を見せた。

 一緒にいたのは盗賊ギルドのメンバー。

 どうやらカラーナが手を回し、エリンに危害が及ばぬようギルドにお願いしていたようだ。


 ただ、エリンと一緒にやってきた彼の話によれは、どうやらエリンは一人でボンゴルが仕向けた手のものをぶっ飛ばしてしまったようだ。


 エリンも無事戻ってきたことで追い詰められたボンゴル。

 だが往生際の悪いボンゴルはジョブのストーキーパー(商いを統べし者)の能力を駆使し、戦力として大量の竜牙兵を生み出した。

 だが――その竜牙兵も生み出された瞬間エリンが大地をめくりサンドイッチにして挟むという荒業によって一撃のもとに葬り去られてしまった。


 唖然となる一行。正直エリンがいればヒットなんていらないって空気が漂う中、しかしエリンは力を使い果たし眠りについてしまう。

 どうやらまだ幼いエリンは、その潜在能力こそ凄まじいが、直ぐに体力切れをおこしてしまいあまり長い時間の行動は不可能なようだ。


 そしてそんな事をしてる間にボンゴルが逃亡。

 しまったとヒットが後を追った。

 メリッサとカラーナもそんなヒットの後を追うが、庭園でヒットの姿を認め駆け寄った時には既にヒットの手によりボンゴルは倒されていた。


 そしてヒットは、ボンゴルよりセントラルアーツで好き勝手な振る舞いを行っている領主についての情報を聞き出そうとするが――口を開いた直後突如来襲した魔物の手によりボンゴルの命が奪われてしまう。


 結局ボンゴルからはこれといった情報も得ることが出来なかったが、ドワンの店を守ることは出来た。

 ボンゴル商会が潰れたことで銀行にも多少なりともダメージを与えることが出来、更に今回の件でメリッサを正式に奴隷として迎え入れても余りあるほどのお金を手にすることが出来た。


 これでいよいよご主人様の正式な奴隷になることが出来ると喜ぶメリッサ。

 だがそれも束の間の喜びであった。 

 ヒットはシャドウに借りていた一億ゴルドを返しに行くが、彼はその分には利息が付くという。

 そしてその利息を支払ってしまうとメリッサを奴隷として購入する金額も失ってしまう。


 またかと呆れるカラーナに肩を落とすメリッサ。

 だがそんなヒットにシャドウから提案が。

 もしヒットがこの件を手伝ってくれたなら利息の件はなしにすると。更にこれがうまくいけば以前ヒットが銀行に預けてしまい奪われた預金分も取り戻せると。


 そのシャドウの依頼とは、銀行の金庫から根こそぎ現金を奪うというものであった。

 この作戦はシャドウだけでは難しかったが、ヒットのキャンセルの力を使用すれば成功できるという。

 更にカラーナとメリッサのサポートもあり、シャドウとヒットは見事銀行より五〇億ゴルドを奪うことに成功。

 これであのゴールドという男が支配人を務める銀行に致命的なダメージを与えることが出来る。

 

 ヒットはシャドウの依頼も完遂し、ようやく手元に十分すぎるほどのお金を残し、メリッサとカラーナを連れ奴隷商館へと向かった。

 

 後は奴隷の契約さえ結べば、メリッサは正式にヒットのものとなる。

 だが――奴隷商館にはかつてのメリッサの婚約者であり現在のイーストアーツの領主でもあるチェリオの姿。

 さらにその傍らにはあの奴隷壊しのザックやカラーナのいたシャドウキャットを裏切ったジュウザの姿。


 そして――チェリオ曰く、ヒットはメリッサを奴隷に迎え入れることは出来ない。

 一体なぜかと思っていると、冒険者ギルドの面々が乱入し、ヒットを犯罪者として捕らえるという。

 

 チェリオは前もって手を回し、ザックの行ってきた犯罪の数々をヒットに擦り付けたのである。

 このままでは分が悪いと、メリッサとカラーナを連れその場から逃げ出すヒット。

 犯罪者として手配されている以上もうこの街にはいれないと街からの脱出を図るが、彼らの行く手を阻むのはセントラルアーツの冒険者ギルドを任されていたギルドマスターのギルマスや数多くの冒険者達。

 

 そう、この街では冒険者ギルドも腐りきっていたのである。

 追い詰められそうになるヒット達――だがそこに駆けつけてきたのはシャドウに頼まれ助けに来た盗賊ギルドのマスターであるキルビルや、ヒットを慕ってくれていた冒険者達であった。

 冒険者の中にもまだ味方がいてくれると知ったヒット。

 彼らの手を借り、更に冒険者に登録したばかりの頃、色々と手解きしてくれたモブさんによる助け、更に衛兵であり情報屋でもあるダイモンの機転もあって、ヒット、メリッサ、カラーナの三人は無事セントラルアーツから逃げ出したのである――

 


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