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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第154話 魔族の爪

 疑念をもったのはメリッサの鑑定結果を聞いてからのことだ。

 どうしても奴のスペシャルスキルであるスプレッドプリズンの事が気になり、そして解せなかった。


 あのスキルの説明にはスプレッドプリズンによる結界は、自由に形を変化させ伸長し覆う。

 だが、結界を広げれば広げた分だけ魔力は消費し続けると――そうメリッサは教えてくれた。


 そして確か奴は少なくとも俺達が結界を破りこの屋敷に向かうまでは、領地全体を覆うほどの結界を展開させていた筈だ。

 つまり、当然その分魔力は消費し続けていた事になる。


 にも関わらず、奴は平然と魔法を唱えダブルスペルまで使用してくる始末。

 更に言えば、ジョブが特殊魔法系であるならば、恐らくは結界を作るのに使用しているのも魔力だ。

 特にプリズムコートなんてものは、纏ってる間中魔力を消費し続けていてもおかしくない。


 それなのに平気な顔していられる理由――一つは際限なく魔力を身体に宿しているという可能性。

 だが、それは少々考えにくい。寧ろそれであるならこれまでの戦い方はどこか中途半端に思えるし、なにより結界をわざわざ狭める理由が感じられない。


 尤も、俺が奴に倒されるのを人々に魅せつけるためにという理由もあるのかもしれないが、それなら俺を殺した後に首でも晒してしまえば事済む話。


 そして、妙に接近戦を拒む戦い方。これにも違和感があった。

 魔法重視の戦い方をするなら当たり前にも思えるが、奴にはあのプリズムコートがある。

 寧ろ接近戦に持ち込んで、強力な魔法のひとつでも叩き込んだ方が有利だろう。

 実際俺は、離れた位置からの魔法の多くは避けるかスキルで消したからな。

 

 だが、にも関わらず俺が近づくことを避けていたのは、奴には接近されたくない理由があったという事に他ならない。

 恐らくガイドを通して、俺が何らかの手で魔法やスキルを消せる事を知っていたのだろう。

 まぁそれでも完璧に伝わってる感じがしないのは、ガイドが簡単な説明だけ先にして、戻った後に詳しく報告しようとしていたからなのかもしれない。

 結局セイラによってそれは叶わなかったが。


 とはいえ、簡単にでも俺の力を知ったからこそ、奴は出来るだけ壁で俺の行く手を阻んだり、二重魔法を多用してのたのだろう。


 まぁどちらにしろ、接近戦を嫌がった一つの理由は結界を消される可能性があったから。

 そしてもう一つが――この魔導の腕輪の事があったからだろうな。


 うん。実際今奴は、地面に片膝をつき苦しそうにしている。

 これは実はダメージを受けていたなどではなく、魔力が一気に減少したからに他ならない。


 生前プレイしていた時も、魔力の残量が減るとプレイヤーは体調不良を起こしふらふらになったり、詠唱がしにくくなったりといった弊害が出ていた。

 更にひどくなると、今のこいつみたいに動くこともままならなくなる。


 だからこそ、魔法系のジョブにとって大事だったのはアクセサリーと呼ばれるタイプの装備品。 指には指輪、腕には腕輪を付けることで魔法による魔力の消費を押さえたり、蓄えておく魔力の量を増やしたり、魔力の自然回復量を増やしたりしていた。


 その中でも特にレアリティが高かったのは、アクセサリーそのものに魔力を宿しておけるタイプ。

 このタイプは自分の魔力ではなく、外側のアクセサリーに溜まっている魔力を先に使う。

 まぁバッテリーみたいなものだ。

 これが種類によってはかなり魔力を溜めておける。


 そして、恐らくこの男がつけていた腕輪は、その魔力を溜めておけるタイプだったのだろう。 

 しかもかなりの量をな。ただ、それでも戦闘となれば領地全体に結界を広げたままでは流石に魔力が足りない。

 だからこそこの程度のサイズに結界を狭めたわけだ。


 その上でこのふたつの腕輪を頼りにプリズムコートとプリズムウォールを多用していた。

 そして、腕輪にたよっているということは、奴の本来の魔力では強力な結界を維持し続けるなど不可能という事でもある。

 しかし奴からしたら、それが腕輪の効果だとは知られる訳にはいかない。

 故に、あの妙に不自然な袖の形になったわけだ。

 腕輪が決して相手から見えないようにな。


「くっ、くそ……まさかこれに気がつくなんて――」


 随分と悔しそうにしちゃいるがな。

 こいつの場合、隠すことばかりに目が行き過ぎて逆に不自然になってたわけだけどな。

 それならまだ指輪から腕輪、イヤリングの類までじゃらじゃらとつけてたほうが、悪趣味な男という印象を与えるだけで済んだかもしれないってのに。


 むしろご丁重に見られないようにするから、きっとわりと簡単に壊れるようなものなんだろうなって予想がついてしまう。


 まぁこれに関しては確証があったわけでもなかったがな。

 何せゲームではアクセサリーの類は盗まれることはあっても壊れることはなかった。

 しかし現実化した世界で壊れないというのはむしろ不自然。

 だから斬れば砕けるぐらいはするんじゃないかって事で俺も賭けにでたってわけだ。


「ご主人様! 目が元に戻りました、て、え?」


 メリッサの復帰の声。そして続く驚嘆の調べ。

 まぁ視界が戻ったら、あれだけ自信たっぷりだったアルキフォンスが息も絶え絶えな姿を披露していたわけだしな。

 驚くのも無理はないか。


「結局メリッサの目が戻る前に俺を殺すどころか、自分が無様な姿を晒しちまってるなお前」


「くっ! 愚弄しおって!」


 俺はみたまんまの事実を述べてるだけなんだけどな。


「さて、魔力も尽きてそこまでふらふらなら、もう勝負は――」

「そんな筈があるか! 馬鹿め!」


 俺の言葉を聞き終える前に、アルキフォンスが動きその爪が俺の右腕に突き刺さった。


「きゃーー! ご主人様!?」


 メリッサの悲鳴が耳に届く。

 そして右腕はズキズキと中々の痛みだ。

 そういえばさっき抉られたのも右腕だったな。

 たくっ、狙ってるのかね。


「愚か者が! 油断したな! いっておくがこの爪は刺した箇所からどんどん魔力を吸い上げていく! このまま貴様が魔力を尽かせ倒れろ!」

 

 ……油断か。違いないな。まさか爪が伸びるとはな。

 これは魔族特有の力なのか。

 おまけにこのままだと魔力を吸い取られ続けるだけ。

 俺は魔法系ではないが、それでも魔力が尽きればきっと奴と同じように倒れこむ事になるだろう。


 しかも元の魔力が少ないわけだから。尽きるのも早い。


「言っておくがこの爪、そうやすやすと抜けはしないぞ! さぁ! 私に貴様の魔力を、寄こせ!」

「あぁ判ったよ。魔力なら好きにくれてやる。だからその代わりに――」


 俺はそこまで口にし、そしてそのまま爪が食い込んでる右腕に体重を乗せるようにして――ステップキャンセルで奴の目の前に一気に近づいた。

 勿論、たとえキャンセルしても結果は変わらないので、奴の爪は俺の腕を完全に貫通している。

 だが、それでいい。

 完全に爪が食い込んでる以上――


「な!? 抜けぬ!」

「お前の! 首を寄こせ!」


 左腕を水平に振り、俺の刃がうす気味の悪い青白の首を狙う。

 奴は爪が逆に仇になって逃げることが出来ないだろう!


「う、うわぁああぁああぁ!」

 

 だが、情けない声を上げて――奴が後ろに飛び跳ねた。そのおかげで俺の刃は、結局やつの首の皮一枚を傷つけるに留まってしまう。

 

 そして俺の右腕には、折れた奴の爪が食い込んだまま残っている。

 俺が折ったんじゃない。奴が自分で折った爪だ。

 こんなものずっと残しておくのは気分が悪いな。

 だから、おもいっきり爪を引っこ抜く。

 折れて奴の手から離れたおかげか、意外とあっさり抜くことが出来た。


「ご、ご主人様、お、お怪我を――」

「大丈夫だメリッサ心配ない」


 震える声で痛々しそうに口にするメリッサだけどな。

 まぁこの程度じゃ死にはしない。


「ふぅ! ふぅ!」


「随分と余裕がなくなってるな。さっきの悲鳴も魔族様にしちゃなかなか無様だったぞ」


「ぐっ!」


 悔しそうに歯噛みし、そして片膝立ちの状態から立ち上がる。

 どうやら俺から魔力を吸い取った事で、多少は回復できたようだな。


 そして、奴は首元に手をやり、怪我の状態を確認したが。


「……血、だと?」

 

 うん、血だな。掌についた血を見て驚愕の表情を浮かべてるがな。

 まぁ実は俺も驚いているけどな。てっきり魔族の血は青いかとおもったが、人と同じ赤だった。


「ふぅ、ふぅ! この私に血だと? 人間風情が! 人間ごときが! この高貴な魔族たるアルキフォンスに血を、血をぉおおおおおぉおおおおおおぉお!」


 うん、ちょっと興奮しすぎだろ。なんだこいつ血ぐらいで。

 てか外傷って意味なら、俺のほうがよっぽど酷いんだがな。


「許せん! 絶対に貴様はここで殺す! 殺す! 殺す!」


 灰色の瞳が完全に血走ったものに変わってるな。

 傷つけられたのがそんなに許せないのか? 結界の力もあって身体に傷を受けたことがないってタイプなのか……どちらにせよメッキが剥がれてきた気がするがな。


「ボス! 応援にきたで!」

「ヒット大丈夫か! 魔族はどうなった?」


「え? あ、アンジェ! それにカラーナ!」


 と、ここで扉がわから飛び込んできた二人の声。

 それにメリッサも反応している。


「……チッ、メフィストの奴しくじったのか! くそ! だからもっとまともなのにしとけばいいものを――」


 駆けつけてきてくれたふたりを認め、アルキフォンスが吐き捨てるように言う。

 確かにふたりとも無事って事は、あのメフィストを倒してきたってことなんだろうが――


「て、なんやボスの方がこれ追い詰めてるんちゃう?」

「は、はい! ご主人様はあの魔族を確実に凌駕しておりますので!」

「むぅ、流石ヒットだ……魔族でさえも、あ、だ、だが大丈夫かヒット! その怪我!」

「ほんまやボス! ごっつ怪我しとるやん!」


「あぁふたりともありがとな。でも大丈夫だ」


 なんかやっぱりちょっと持ち上げられすぎな気もするが、怪我については大丈夫であることをアピールし左手を上げて見せる。

 しかし正面のアルキフォンスは下卑た笑みを浮かべて俺を睨めつけてきてるな。


「ただの強がりだな。そんな右腕では、もう武器を握るのもやっとだろ」


 まぁ確かにそうだが――そこでダメージキャンセル。

 すると一瞬にして右腕はかすり傷ひとつない正常な状態に戻った。

 やっぱ便利だなこれは。


「……うん、問題ないな」


 俺が治った右腕を上下に振ってみると、アルキフォンスの表情が驚愕に染まる。


「回復魔法? いや、しかしそんな、一瞬にして回復するなど、相当な手練れの者が唱えた聖魔法でもないと不可能な筈、貴様は一体……」


「う~ん。まぁありきたりな回答でいうなら、ただの冒険者ってとこだ」


 双剣の刃を二回擦り合わせつつ、そう応える。

 金属の触れ合う響きは波紋のように周囲に広がり、アルキフォンスは不快そうな表情をのぞかせた。


「……だが、それで勝ったと思ってるなら大間違いだぞ。いや、寧ろ貴様らにはもう絶対に勝ちはない!」


 俺と駆けつけたカラーナやアンジェにも聞こえるように奴は声を張り上げる。

 全く。ここにきてまた随分と偉い自信だな――

 

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