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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第148話 かつての仲間との戦い

 ジョブ持ちの魔物三体はカラーナが相手してくれている。

 元々は彼女の仲間だけに辛い戦いであろうが、それはカラーナの願いでもある。

 こうなってはアンジェはただ信じるほかない。


 そして、そうなるとアンジェにとって大事なのはカラーナに託された願いを叶えること。

 つまり、今目の前にいる赤ローブの男を完膚なきまでに打ち倒すことだ。


 ウィンガルグを脚から腕にかけて纏い、そして跳ねるように前に進み、メフィストの前に立ち宝剣エッジタンゲを構える。


 相手がどんな戦い方をするのかが判らないため、胸の前で構え鋒を相手を正面に向けるようにするオーソドックスなスタイル。

 右足を前に出し軽く左足を開く。

 左腕は後ろにさせ斜に構える形で相手をじっと見据える。


 そんなアンジェを眺めながら、メフィストが口を開く。


「ふむ、そういう手できたか。しかし、さっきもいったがあの三体はどれもユニーク種の魔物を利用したタイプ。あの女一人で、しかもかつての仲間をどうにかできるものかね」


「カラーナが自ら大丈夫だといったのなら私は信じるだけだ。それよりも貴様は自分の事を心配したらどうだ? 見たところ武器も何ももっていないようだがな。例え魔法を使うにしても、私はそれをみすみす見てるほど甘くはないぞ」


 鷹の如き鋭い光を宿した瞳をメフィストに向ける。

 今は相手の出方を窺ってはいるものの、このまま何もしてこないようなら容赦なく攻め立てるつもりであろう。

 勿論相手が魔法を使用したとしても、詠唱している間に今のアンジェであれば何十発という剣戟を浴びせる事も可能なはずだ。


「ふむ、なるほどなるほど。あぁ、だがしかし、あれですな。ひとつ言っておくことがあるとすれば――お前が、どうせ私は直接戦う術を持ち合わせていないだろうなどと考えているのなら……それは舐めすぎであるし、後悔することになるぞ――フンッ!」


 その変貌に、思わずアンジェは目を見開いた。

 先ずメフィストの着ていたローブがその場でパンッ! という破裂音と共にビリビリに破れ、その中から飛び出したのは筋肉という名の鋼の鎧。


 肩から胸、腕、腹部、臀部、太腿から足先まで元の数倍に至るまで膨張し、そのせいかアンジェのとの体格差が顕著に表れる事になる。


 今のメフィストの体格はアンジェの倍以上を誇り、まさに美女と野獣といった様相だ。


「ふぅ~どうだ? これの力を完璧に引き出せる私ならこれぐらいは余裕さ。まぁ元のジョブがモンクというのも影響あるのかもしれないがな」


「モンクだと? 素手で戦い気功という術を使用するというあの……なるほど。それで武器のたぐいを持ち合わせていなかったわけか。確かモンクは自らの肉体を変化させる強力な能力(スペシャルスキル)も持つという。それでか……だが! いくら膂力が上がったところでこの私は――」


「誰がいつ膂力だけ上がっているといった?」


 声はアンジェの背中に投げつけられた。

 そしてアンジェは、一瞬足りともこの男から目を離していなかった筈だ。

 だが、にも関わらず、メフィストはアンジェの視界から消え、いつの間にか後ろに回りこんでいたのである。

  

 慌ててアンジェはメフィストを振り返り同時に剣を振るうが、それはメフィストが振り上げた右腕によって、威力が乗る前に、押し込まれるような形でガードされてしまう。


 そしてほぼ密着状態からメフィストが掌底を繰り出し、アンジェの胸部に手を添えた。


「【通発勁】――」


 掌が置かれたそこには、勿論鎧が備わっているわけだが――にも関わらず、再びおとずれた痛烈な破裂音と共に、アンジェの身体が軽々と宙に浮かび、そのまま四、五メートルほど吹き飛び背中から壁に叩きつけられる。


「ぐはっ!」


 思わず鈍い声を上げるアンジェ。その姿を眺めつつ、メフィストは右の拳を腰まで引き、左手で拝むようなポーズを取りながらニヤリと口角を吊り上げる。


「さて女。どう甚振って欲しい?」






◇◆◇


「せめて苦しまないように眠らせたる――」


 かつての仲間に別れを告げ、カラーナは得物を握る手をぎりりと強めた。

 バーンに当てた攻撃は全て正確に急所を狙ったものであった。

 そして、勿論これはカラーナなりの配慮でもある。

 魔物と化してしまったとはいえ、せめて安らかな眠りについて欲しい――それがカラーナに出来る唯一の供養。


(バーンは無口やったけど、常に仲間の事を思いやれるえぇ男やった――そして)


 離れた位置から弾かれたコインが、カラーナの足元の床を抉りめり込んだ。

 ただ弾いただけではこんな事になるわけがなく、かつてのボスの技の凄さを改めて実感するカラーナだが。


「本当にかわらへんな。ボスのコインショットのキレ」


 そういって懐かしそうに微笑む。かつてのボスはカラーナの手によって生まれたダークスペイスの外側にいた。

 そしてそこから打つは、ジェントルシーフの固有スキルであるコインショット。

 ただ金貨や銀貨を指で弾くだけのスキルだが、使用者の実力によってはぶ厚いプレートアーマーですらも貫通する。

 

 当然、軽装のカラーナがそれを喰らってしまっては、とてもではないが耐えられない。

 出来るだけ躱すか、手持ちの短剣で上手く軌道を逸らす必要がある。


 だが、敵はかつてのボスだけではない。

 ダークスペイスの中から射られた炎の矢が、カラーナに迫る。

 バーンの施した炎の付与はまだ残っているようだ。


(さすがジェラードや。視界が暗く染まっても、持ち前の感と些細な音も逃さない耳でここまで合わせてくる)


 シャドウキャットのメンバーでもジェラードは明るい性格で、それでいて兄貴肌の面もありよくみんなの相談に乗っていた。

 しかしそんな彼も、一度弓を持てば敏腕なハンターと化していた。

 その腕は昼夜関係なく発揮され、月明かり一つ無いような状況においても、その耳の良さと野生的感で野山を駆け回る野生の獣を軽々と射抜いてみせた。


 それだけに、例えダークスペイスの中に閉じ込めても、直ぐに元の腕前を披露しだすことはカラーナにもわかり切っていた。


 完全にカラーナの位置を把握したであろうジェラードは、そこから更に乱れ打ちによる連射で、カラーナの命を狙ってくる。


 ボスのコインショットと無数の矢弾がその褐色の身に迫った。

 しかしカラーナは、軽業師の如く警戒な動きでそれを掻い潜り、そして――指をパチンッと鳴らす。


 すると、闇の中から音が鳴り響き、更にカラーナが続けると、闇の中のあちらこちらから音が続く。


 すると闇の中にいるジェラードの矢弾の軌道が――ブレた。

 感と耳とで相手の位置を把握するジェラードは、どこからともなく鳴り響くこの音によって、完全に意識をそっちに持って行かれてしまったのである。


 バークラーの固有スキルであるダークラップ(闇の調べ)。それがこの音の正体である。指を鳴らし闇の中の離れた位置に相手を惑わせる音を鳴らす。


 尤も、もしジェラードにカラーナの記憶がそのまま残っていたなら、こんな手は通じなかった事だろう。

 しかし、魔物化してしまった彼にはその判断がつかない。


 カラーナは即座に自ら闇の中に入り込み、そして――完全に彼女の位置を見失ってしまっていたジェラードの心の臓を一突きの下に貫いた。

 鱗に覆われてしまっていた身体であったが、刺突にも優れるソードブレイカーで、鱗の隙間を見事狙い撃ちにした形である。


「ジェラード……あんたの笑顔、うち忘れへんよ――」


 そう呟きつつ、重みをなくし肩に寄り添ってきたかつての仲間を、優しく床に寝かしてあげた。

 

(後は――)


 ダークスペイスの中から飛び出し、正面の黒毛の相手を見据える。


「ボス! うちがしっかりあんたも皆の下へ送ったるからな!」

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