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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第147話 対メフィスト

スキルやジョブを若干変更いたしました。

・兜割りを打撃系(棍棒・メイス)武器のスキルに変更。

・上記に伴い序盤のヒットの使用スキルと、敵の武器を変更。

・上位職だったエンチャンター(付与魔法士)を高位職に代わりにリインフォーサー(強化魔法士)を上位に。

・上記に合わせて一部の話のジョブを変更。エンチャンターに関しては今話が初登場という形になります。

「随分とあっさり通したものだな」


 少しは驚いたような顔を見せながらも、ヒットとメリッサが出て行くのを静観していたメフィストにアンジェが言った。

 当のメフィストは、ふふっ、と不敵な笑みを零し、アンジェとカラーナを交互にみやる。


「まぁもとより、あのヒットというのは、無理してまで止めるつもりもなかったからな。メリッサとか言う奴隷がおまけでついていったのは予定外だが――問題にはなるまい」


「ヒットを領主、魔族の下へ向かわせるために敢えて急がせたという事か?」


 更なるアンジェの質問にメフィストは答えないが、顔だけは何か魂胆のありそうな笑みを残したままである。


「なんのつもりかしらんけど、うちらのボス舐めとったら痛い目見るで?」


「舐める? とんでもない! 寧ろあのヒットという男がいたからこそ、我らはここまで追い詰められたのだと考えている。それは街の連中も判っているのだろ? だからこそ英雄(・・)とまで称されているのだろうしな」


 その言葉の含みを感じ取ったアンジェが眉を顰める。


「お前たちが何を考えているか知れぬが、私達のやるべきことは一つ。ここで貴様を討つ! それだけだ」


「せやな。随分と余裕ぶってるようやけど、うちらの事かて舐めすぎてたら痛い目みるで?」


「お前達が私をか。しかし、出来るかな?」


 挑発するようなメフィストの言葉に、やってみれば判ること! とアンジェが飛び出し彼我の距離を一気に詰めにかかる。


 だが、その間を塞ぐように、三体の魔物の一体が割り込んだ。

 黒毛に覆われた身体を有し、人型の魔物――邪魔をするな! と繰り出されたアンジェの刺突は、その魔物どこからか取り出した短剣、マン・ゴーシュによって遮られる。


 マン・ゴーシュは鍔の部分が拳を覆う方に丸みを帯び幅の広い作りであり、その部分を盾代わりのガードとして使用する事が出来る。

 アンジェの攻撃を防いだ魔物も、このガードを利用して刺突を防いた形。 

 しかも湾曲した形状を利用し、左手のそれで剣を受け流した後、右手の短剣バゼラードで細首を狙いに掛かる。

 

 咄嗟に飛び退き、アンジェはぎりぎりのところでその攻撃を躱すが――その表情は硬い。


 これまで何度かジョブ持ちの魔物ともやりあっているが、それらとこの魔物は明らかに動きが異なっていたからだ。

 同時に装備しているものも、適当に用意されたようなものではなく、かなり上質な材料を使用し作られた代物であることをアンジェは察する。

 そうでなければ、彼女の剣を受け無傷でいるのは難しいからだ。


 尤もそれも、この魔物の一連の動きに全く淀みがなかったのも要因と言えるだろう。

 だが、注目すべきはそれだけではない。

 この黒毛を有す魔物以外の二体の魔物も、瞬時に場所を移動し、最も適切と思われる位置で戦闘準備に入っていたのである。


 この魔物たちはどれもこれまでとレベルが違う――そう感じさせる動きであった。


(これは一筋縄ではいきそうにないな)


 アンジェが改めて気を引き締め、メフィストと魔物に視線を走らせるが――


「……なんでやねん――」


 アンジェの耳に届くは、狼狽したカラーナの呟き。


「カラーナ、どうした?」


 怪訝に思いアンジェは褐色の彼女を一瞥する。

 そしてその確認だけで知ることが出来た。彼女の表情から、明らかに困惑していると。


「な、なんでや! どうしてあんたが! 魔物のあんたがそれ持ってんねん! シャドウキャットの印の刻まれたそれを!」


 シャドウキャットだと? とアンジェが思案顔で呟いた。

 すると歯噛みしたカラーナが、手持ちの短剣にも似た炯眼を相手に向ける。

 

 カラーナは目がいい。その為あの一瞬でも気がつくことが出来た。

 アンジェの刺突を受け止めた、マンゴーシュのガード部分に、シャドウキャットのメンバーの証である黒猫のマークが刻まれていたことに――


「ほう、もう気がついたか。いやいや流石と言うべきかな」


 カラーナからは直接の答えが帰ってこなかったが、その後に発せられたメフィストの言葉で、アンジェにもどういうことかは大体掴むことが出来た。


 アンジェは今回の件を通じて、カラーナの身の上に関しても簡単にだが知らされている。

 だからこそ《・・・・・》、その目付きがカラーナと同じようにより鋭いものに変わる。


「貴様、どういう事だ?」


 険のある響きがその場に広がる。

 塔の一階にあたる円形状の広間はそこそこ広く、今のアンジェの位置からメフィストまでは二十歩分ぐらいはまだ離れている。


 それでも、アンジェの声はメフィストの耳によく響いたことだろう。


「いま私が言った事が答えみたいなものだ。そこの三体の魔物は、全員シャドウキャットのメンバーなのだからな」


「……なんや、て?」


 目を見開き、カラーナは絶句し。


「ば、馬鹿言うなや! あんた言うとったやろ! メンバーはうち以外全員、ぜん、いん、処、処刑したって!」


 辛い記憶を思い出しながらも、絞りだすような声でカラーナが叫ぶ。

 メンバーが全て処刑された――その事実はカラーナにとってあまりに辛いものだ。

 だが、それ以上に目の前の魔物が自分の仲間だった者の変わり果てた姿だとは信じたくなかったのだろう。


「あぁ、処刑したさ。それは間違いがないことだろ。まさか貴様はこの変わり果てた姿を見ても、まだ生きていると言う気か? こいつらは確かに素材こそシャドウキャットの連中に間違いないが、もう記憶もなければ人として生きるのも無理なのだからな」


 そこまで言った後メフィストは醜く唇を歪め。


「とはいえ、この三体に関しては中々いい出来だとベルモットも言っていたがな。流石シャドウキャットの主要メンバーと言うべきか。他にも材料はあったが、ユニーク種との合成は負担が大きいらしくてな。殆どが役に立たないゴミにしかならなかった。そう考えれば、その素材は兵士としてみれば実に優秀だったようだ。だから少しは喜び給えよ。くかかっ」


 アンジェの、宝剣を握る手に力がこもり、ぎりり、と締め付ける音を僅かに残す。

 

「やはり、奴隷を扱うような連中にはろくなのがいないな。貴様をみていてそれがよく判った――」


「ふむ、随分とご立腹のようだな。だが、ならばどうする? 確かに私からすればその三体の魔物など人とは到底言えぬ代物だが――そこの女は割り切れるのかな?」


 顎を左手で擦りながら、歪んだ顔と嫌らしい目付きでカラーナを示し言う。

 アンジェはちらりとその姿を確認するが、瞳を伏せ全身に影を落としたような、暗鬱とした空気がその身から漂っていた。


「カラーナ……」


 アンジェが愁えを帯びた瞳を向け呟く。

 するとカラーナはすっと顔を上げ。


「……ほんまに魔物に変わり果ててしもうたん? うちのこと覚えてへんの?」


 カラーナの問いかけ。それに三体の魔物は何も答えず、そして――


「さて、そろそろ本気を出して貰うかな」


 メフィストの言葉を皮切りに、黒毛の魔物が今度は短剣をしまい、どこからともなく金貨を取り出し――それを指で弾いた。


 クルクルと激しく回転しながら、金貨は一直線にカラーナを目指す。

 すると、カラーナはその金貨をソードブレイカーで弾き、真横へ飛んだ。

 そしてアンジェの正面に立ち、別の魔物が放ち迫っていた矢さえもムーランダガーを振り上げへし折る。


「お、おいカラーナこっちは――」


「ボスのやったわ」

「え?」

「あのコインさばき、うちの知ってる前の、シャドウキャットにいた頃のボスの物や。ジェントルシーフ(気高き盗賊)のジョブ持ちのな。それにあの弓はハンターのジェラード、そして――」


 カラーナが最後尾にいる赤毛の魔物に目を向けた時、鱗を持ったジェラードの弓矢に炎が纏まれた。


「あれは、エンチャンター(付与魔法士)のバーンや。ははっ、なんや魔物になってもやっぱ判るわ。みんなうちの、うちの仲間だった――忘れへんよ……」


 辛そうに笑うカラーナにアンジェは言葉が出てこない。

 

「……アンジェ。お願いや、この皆はうちがやる。うちにやらせて欲しい。だから、あの、あのゲス野郎はうちの代わりにアンジェに譲るわ」


「……しかしカラーナ、いいのか? 彼らは」

「えぇんや。いや、駄目なんやうちやないと。うちがけじめ付けないとな。だから……お願いや」


 カラーナの表情に決意が宿る。悲愴の感じられる様相だが――その姿にアンジェは一つ頷き。


「判ったカラーナ。しっかり、供養してやれ」


「ありがとな、アンジェ――いくで!」


 その瞬間カラーナが弾けたように飛び、そして横の壁に足をつける。

 そこへ元ボスである彼のコインが迫った。

 だが、カラーナはすぐさま壁を蹴りつけ、間に立つハンターさえ飛び越えバーンの近くに降り立った。


「詠唱の時反応が遅れてまうのは変わってないようやね、バーン」


 シュナイデンアハト――カラーナの武器スキルによって、かつての仲間を8の字を描くように切り裂かれた。

 彼女の言うように、次の付与を与えようと詠唱中だったバーンは、為す術もなくカラーナのスキルを受け、そして――永遠の眠りについた。


 カラーナの表情に一瞬の悲しみ。だが、まだ戦いは終わっていない。

 背後から炎の付与を受けたジェラードの矢が迫る。


 褐色の脚が床を蹴った。華麗に宙返りするカラーナは、迫る矢弾を避けつつ、スペシャルスキルのダークスペイスを発動。

 ジェラードを中心に闇が広がっていく。


「……ふたりともしっかりうちが眠らせてやるで……だから安心してな」


 カラーナはそう呟きつつ、迫るコインを避けながらアンジェを一瞥した。

 その視界に収まるは、どこか余裕ある態度を取り続けていたメフィストに迫るアンジェの姿。

 それを認め一言、頼んだで――カラーナがそう呟いた……


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