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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第145話 塔の最上階目掛け――

「まさかあんたとこんなところであえるとはな」


「おや? 意外かね?」


「……いや、そうでもないな」

 

 メフィストを眺めながらそう返す。相変わらずハゲた頭と高級そうな赤ローブに身を包まれていて、とても戦闘をしてやろうという風にはみえないけどな。


 尤も、戦うのは後ろに控えてるジョブ持ちの魔物の可能性が高そうだがな。

 しかし……顔は人に近く、だがこれまでより妙に威圧感のある魔物が三体か、油断は出来ないな。


「ヒット、この男とは知り合いなのか?」


 ふとアンジェが俺に問いかけてくる。

 そうか、アンジェはカラーナの事は伝えたが、この男のことまで知るはずはないしな……


「この男はメフィストという、このセントルアーツの奴隷を管理している男だ。以前奴隷として捕えられていたカラーナを俺が買った男でもある」

 

「管理、なるほどこいつがあの奴隷ギルドの、なるほどな――」


 アンジェの声に嫌悪感が滲み出ているような――そんな気がした。

 面識がない事を考えれば、奴隷ギルドの管理者というところに思うところがあるのか?

 ……そういえば、アンジェは俺と最初あった時も奴隷としてメリッサを連れていることによい感情は抱いていなかったようだが――


「……この面だけは忘れられへんわ」


 そしてカラーナも憎々しげに呟く。

 カラーナは当然、あの時の事を忘れないだろうしな。

 民衆の前で晒し者にされたんだ。恨みを抱いていて当然だ。


「でも、どうして貴方がこんなところに?」


 メリッサが怪訝そうに訪ねる。

 だが、その答えは一つしかないだろう。


「……こいつも領主と繋がっていたって事だろうな。恐らく奴隷を提供するために」


「何だと!?」


 声を上げるアンジェを見ると、その目は大きく見開かれていた。

 信じられないといった気持ちなのだろうか……しかし、これまでの経緯を考えれば間違いがないだろう。


「……ま、いまさら隠すものでもないしな。あぁその通りだ。私はここの領主に協力し、奴隷を密かに回していたのだ。何のためにかは……もう大体想像がつくだろうがな」


 ……さっき目にした光景をみれば当然な。

 この男はきっと、奴隷も魔物の餌などに利用したのだろう。


「貴様――! こんな真似をして人として恥ずかしくないのか!」


「ふむっ、怖い怖い。王国正騎士であるアンジェ様は、噂通り奴隷商人やそれを管理するギルドがお嫌いな模様で」


「!? 貴様! 私の事を知っているのか!」


「あぁ勿論。奴隷商人の間では中々有名だからな。何度も奴隷廃止を求めて上に進言したそうだな? そのせいか、多くの騎士や貴族から随分と煙たがられているとか。まぁ当然と言えるがな。既に奴隷制度はこの国、いや大陸では東のギルティル公国を除けば細かい仕様に違えはあれど当たり前のように浸透している。そんな中、奴隷を廃止しようなんて馬鹿な考え、受け入れようとするものがどれだけいると?」


 随分と低い声で、まるで諭すようにいっているがな。

 こいつは一体何様のつもりなんだか。とはいえ――


「――貴様にだけは言われたくはないな。貴様が奴隷達にしたことはとても許されることではない。貴様のおかげで私はより決意が固まったぞ」


 アンジェが拳を震わせ、尖った瞳をメフィストに向け語気を強めた。

 奴隷の件もあってか、メフィストのことは相当気に入らないようだな。


 だが……まさかアンジェが奴隷廃止を訴えているとはな。

 意外、とも思わないが、しかし、やはりこの世界は俺の知っているものとは色々異なっている。


「アンジェ。気持ちはわからんでもないけど、今はそんな事を話している場合ちゃうで。うちらは領主に成りすましてる魔族を倒しに来たんやからな」


 カラーナの言葉に、はっ! とした表情になりアンジェが面目なさげに顎を引く。


「すまない、つい感情的に……確かに今優先すべきはそのことであったな」


「……ですが、貴方はここの領主が魔族である事には気がついていたのですか?」


 メリッサが再度メフィストに問う。その声はどこか責めるようでもあり。


「あぁ勿論だ。むしろ、だからこそ協力したと言うべきだがな」


「……随分とあっさりと認めるんだな」


「はははっ。今もいったであろう? もう隠しておいたところで仕方ないと」


「それで、貴様はここで侵入者を食い止めるのが役目って事か?」


 俺の問いかけに、人の心を逆撫でるような含み笑いを見せるメフィスト。

 それはイエスと捉えていいって事だろうな。

 この円形状の部屋の奥には扉がひとつ見えており、上は天井がやたらと高い。


 やはりこの塔の天辺にその魔族がいるのか……


「そうだな。確かにそうともいえるが、しかし、いきたければいくがよい。今はまだ扉が開いているしな。だが――」


 メフィストはそう言って――そして床の一部を右脚で踏みつけると、その一が引込み、ゴゴッという音とともに扉がスライドし徐々に閉まって、て、またこのパターンかよ!


「ほれ、早くいかないと扉が閉まるぞ? あれは中々頑丈だ。一度閉まればもう領主の下に向かうのは難しいかもしれんぞ」


 その言葉に思わず、チッ! と舌打ちする俺だが。


「ヒット! メリッサ! ふたりはいけ! 後は私達が食い止める!」

「そやボス! ここはうちとアンジェでなんとかしたるわ! だからボス! はよいって糞魔族をぶっ飛ばしてきてや!」


 アンジェ――カラーナ……


「……メリッサ! 一緒に来てくれ!」


「は、はい! ご主人様!」

 

 俺は言うが早いかメリッサの腕をとり――なんとか隙間を見つけ、ステップキャンセルで扉の前まで移動した。


「ほう……」


 メフィストの驚いたような声が背中に届くが、とにかく今は四の五の言っている場合ではない。


「アンジェ! カラーナ――信じてるぞ!」

「私も、私も信じてますから!」


 俺とメリッサはそう言い残し、閉まりかかった扉に身体を滑り込ませた。

 そして、抜けると同時に背中に重苦しい響きを感じ、振り返ると既に扉は閉まった後であった。


「これでもう、後戻りはできないか……」

「ご主人様――」

 

 メリッサの細い声が耳に届く。 

 やはり彼女も心配なのだろうな。

 しかし――


「大丈夫だメリッサ。ふたりとも実力は確かだしな。だから――俺達は俺達のできることをしよう」


 俺がそうメリッサに伝えると、はい、と真剣な目で決意を露わにする。

 扉の中から戦いの調べが聞こえ始めているが、俺は改めて天井を見上げた。


 どうやらこの塔は、外側の外壁にそって螺旋状に階段が続いている仕組みのようだ。

 それにしても随分と高い――段数だけみても一万段は優に超えるだろうな。


 だが、移動そのものはステップキャンセルを使えば大分時間が短縮できるはず。

 問題はきっちり体力は消費するってとこだな。


「メリッサかなり高いが……いけそうか?」

「勿論です! 急ぎましょうご主人様!」


 まぁ、心配したところでいかないと仕方ないわけだけどな――






◇◆◇


「ここに領主がいるのか――」


 俺は最上階に佇む頑強そうな門を見据えながら呟く。

 隣ではメリッサも、俺の手を握りしめながらその門を見つめている。


 その顔には疲弊の色も見えるが、思ったほどではない。

 かなりの段数上ったんだけどな。

 メリッサも中々たくましくなってるようだ。

 

 尤も、途中俺がまたお姫さま抱っこ状態で進んだりもしていたりするが。


「さて……メリッサ、気持ちの準備はいいか?」

「はいご主人様。私も鑑定できるよう一生懸命努めさせて頂きます!」


 決意の声での返事。いい表情だ。

 ならば、と俺はその門に手を触れようとしたが、俺が開けるまでもなく、門は勝手に開き始め――そして俺達は部屋の中へと足を踏み入れるが。


「ようこそ。歓迎するぞ。我こそはここセントラルアーツの領主――アルキフォンスだ」


 そういって妙に丁重なお辞儀を見せたその男は、俺達の予想通り、蒼い肌を有し口元からは二本の牙を覗かせそして鋭い爪を指に備える、正に魔族という名に相応しい容姿の男であった――


 

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