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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第140話 この戦いが終わったら俺――

 広場を抜けた後は東門に向かう街路を歩いた。

 その途中で見回っていた冒険者数名ともすれ違い、やはり皆俺が見回る事に恐れ多い、みたいな態度で接してきたが、夜風に当たるためと散歩ついでということで全て躱す。


 それにしても静かだな……一応他の見回りの者にも聞いたが、特に変わったこともないようで、拍子抜けするぐらいの静けさだそうだ。


 ちょっと前までは、魔物が夜の街を徘徊したりしていたので、気の休まる暇がなかったそうだけどな。


 これをいい方に解釈するなら、既に殆どの魔物は倒され、領主の抱える残りの兵数が僅かなのではと――しかしこれは流石に楽観的すぎるか。


「ヒット――」


 少々考え込みながら歩いていると、アンジェの声が届き、思わずビクリと肩が震える。

 そして正面に視線を戻すとアンジェが立っていた。

 さっきまで、俺のベッドで寝ていた筈だが目覚めたのか?

 途中会っていない事から考えて、アンジェは東側からぐるっと回る感じに移動していたってところか。

 

 もしかしたら、俺と同じ考えで見回りをしていたのかもしれない。


 でも、うん、ちょっと気まずい。

 アンジェはアンジェで、どこか覗きこむような瞳で俺を見据えてくる。

 戸惑ってる? いや、不機嫌なのか。

 やっぱり、まだお風呂の事、根に持っているのだろうか……そうなるとやはり――


「す、済まなかった!」


 俺は素直に謝った。こればっかりは言い訳のしようがないしな。

 しかし、自分で言うのもなんだが、見事なまでの直角を刻んだ良い姿勢だと思う。


「え?」


 と、ここで俺に降り注いだのはアンジェの戸惑いの声。

 俺は目でチラリと様子を探るが――どことなく当惑の表情。


「あ、いや、お風呂の件は悪かったなと――」


「あ、あぁ。その事か。もういい気にしていない」


 目を逸らし気味に応える。怒ってないのか……そのままの意味で捉えて大丈夫だろうか?

 だが、確かに雰囲気的には怒っているとは違う感覚。

 そして――月明かりがいい感じにアンジェの肢体に注ぎ込み、後ろで纏められた艶やかな蒼髪に燐光が宿る。 

 それがなんとも幻想的でもあり――更に今は愛用の鎧もドワンに預けている状態なので、わりと薄手な内着と短めのスカート。

 意外と露出度高めなんだよなアンジェ……動きやすさを重視してるのかもしれないけど、谷間もなんというか、目のやり場に困る。


「……その、あれだ、あれは、違うというか――」


 うん?


「違うって?」


 俺はつい疑問に思い訊いてしまう。


「いや! だ、だから! その、隣で寝てしまったのは、カラーナが私の年で初すぎるとか、添い寝とかどうせ出来へんやろ、とか、そんな事を言い出すからつい意地になってしまってその、ごにょごにょ――」


 指をもじもじさせながら、気恥ずかしそうにアンジェが言った。

 ……やべぇ、なにこの女騎士さん可愛い。


「そ、そうだったのか。いや、俺は気にしていないというか、むしろ役得というか――」


 後頭部をさすりつつアンジェに告げる。するとアンジェは横目でチラリと俺をみやりつつ。


「そ、それはどうい、う?」


「いや、それは、あれだ。アンジェみたいな素敵な女性に添い寝されて喜ばない男はいないだろう」


「すて……わ、私が? あ、いや。あ、ありがとう――」


 照れた感じに言われてしまった。頬を掻いて、また目を逸らして、で、沈黙――な、なんかこれは耐えられん! なので話題を逸らすことにする。


「ところで、アンジェはやはり見回りで?」


「うん? あ、あぁそうだ。その様子だとヒットもか?」


「そうだ。とはいっても見回りと告げると他の見回りに遠慮されるから、夜の散歩のついでみたいに言ってるけどな」


「ははっ。なんだヒットもか。いや私も休んでて下さい! なんて言われるものだから、ついでという事にしてあるよ」


 そういったアンジェと目があい、そして自然と笑みがこぼれた。

 うん、いい雰囲気に戻ったな。


「……それにしても、静かだな」


 そこでふとアンジェが真顔で漏らす。

 この静かと言うのは――


「領主の事か? 確かに魔族が現れる気配も魔物が襲ってくる気配もないな……途中話を聞く限りも今のところは全くそういった様子が欠片も感じられないようだし」


 あぁ、私も聞いた、とアンジェが形の良い顎を引く。


「それにしても領主、いや、魔族は一体何を企んでいるのか――」

 

 顎を指で押さえ思案顔。今は完全に騎士の顔になっている。

 この切り替えの早さは流石だ。


「こればっかりは俺にも判らないな」


「うむぅ。実際会って締め上げることが出来れば楽なのだがな」


「ははっ……まぁそれが上手くいけばいいんだろうけどな」


 肩を竦めつつ俺が言うと、ふとアンジエの視線が俺の顔に重なる。

 やはり真剣な目つきではあるが――何かを聞きたがってるような、そして意を決したように口を開く。


「そ、その、ヒットは、今回の件、片がついたらこれからどうするつもりなんだ?」


 ……これから? あぁ、確かにそうか。

 こっちにきて色々ありすぎてて、これからの事なんて全く考えてなかったな。

 だが、ここに俺たちを閉じ込めている領主を倒すことが出来れば、俺の行動範囲は広がる……まぁと言っても、暫くは街の為、何か手伝うことになると思うが――


「アンジェはどうするんだ?」


 結局自分では思いつかず、逆に訊いてしまった。

 男としては、はっきりせず情けない話ではあるがな――


「……私も暫く残って手伝えることは手伝っておきたいと思うが、それでもやはり正騎士としては、報告するべき事項を纏めて王都に戻る事になると思うが――」


 王都、か――


「王都、いいかもしれないな。俺も元々は気ままな旅ぐらしだ。落ち着いたら王都にいってみるのも――」

「本当!?」

「え?」


 アンジェが目を見開き、テンション高めの声に、俺が目を丸くさせると、あ……とアンジェが口に手を当て。


「いや、そ、その。折角こうやって知り合えたわけだしな。王都に来てくれるなら、う、嬉しいなと思って」


「そ、そうか。そうだな。王都にいくならまだ暫くアンジェとも行動出来るかもしれないし……まぁ騎士ともなれば色々忙しいのかもしれない――」


「あ~~! ボス! やっぱアンジェと一緒かいな!」


 俺の言葉にカラーナの独特な口調が重なった。声は、俺の上から落とされたようであり。

 首を擡げると、屋根の上にカラーナと、彼女に腕を取られたメリッサが立っていた。


「ほらメリッサ! 言うた通りやろ? あの女騎士意外と抜け目ないねん!」


「え、え~と」


 カラーナがメリッサに顔を向け、アンジェに指差し、ほら見たことか! と言わんばかりに叫ぶ。

 それにメリッサも困り顔だ。


 てか、これは偶然出会ったって感じなのだがな――


「な、何を勘違いしている! 私は見回りの途中でヒットと偶然あっただけだ!」


 俺の気持ちを代弁するようにアンジェが叫ぶと、カラーナがメリッサの腕を引っ張りつつ、屋根から飛び降り、そして俺達の前に降り立った。


 着地が凄い柔らかく、そのおかげでメリッサも問題なさそうだが、なんか結局みんなきてしまったな。


「何が偶然や! 添い寝しとったボスと、こそこそ抜けだしておいて!」


「だからそれは、先にヒットが見まわりで出て、私もその後に見回りの為に街を巡っていたのだ。べ、別にヒットとふたりになるために出たわけじゃない!」


「ほんまか~なんか怪しいで~?」


 カラーナがジト目で俺とアンジェを交互にみやる。

 とりあえず俺も、嘘ではないといってはおくけどな。


 で、メリッサも俺のことを窺うような目で見てる。

 

「メリッサ、話は本当だぞ。別にやましいことなんて何もない」


「ご主人様……はい! 私はご主人様のいうことを信じます」


「かぁ~メリッサはあまあまやでぇ。アンジェもやけど、ボスも手は早いからな~」

「いや! いやいや! だからなんでそうなる!」


 腕を組み、訝しそうな視線をぶつけてくるカラーナに吠えるように返す。

 全く、妙な濡れ衣を着せられ始めてる気がするな――


 とりあえず、このままこの事を話していても悪い方に向かいそうなので、カラーナに途中変わったことなかったか訊いてみることにする。


「う~ん、特に何もないな~あっ! 判ったわ! きっともう相手も兵隊残ってないんちゃう?」


「はぁ、カラーナは単純で羨ましい」


「あ~アンジェ今うちのこと馬鹿にしたやろ!」


 そんなやりとりを、やれやれといった面持ちで眺めた後、結局そのまま俺達は街を一周りしたが、やはり特に異常が見られることもなく、そのまま宿へと戻ることにした――






◇◆◇


「ほら全員の分出来上がってるぞ」


 次の日は、朝からドワンがわざわざ宿を訪ねてくれて、手入れされた装備品を渡してくれた。

 ドワンの腕は見事で、俺でもかなり綺麗になっているのが判る。

 細かな傷やもすっかり消えており、新品同然と言って差し支えないほどだ。


「うむ、やはりしっかり手入れされた装備に身を包まれると気が引き締まるな。ありがとうドワン」


 元の白銀の鎧姿に戻り、英雄の剣を腰に帯びたアンジェが礼儀正しい挙措でお礼を言う。

 

「うちのナイフもぴっかぴっかや。ありがとな」

「私のウィンドエストックも嬉しいです」

「……靭やかな鞭……感謝」

「アンッ!」


「俺のも完璧だ、本当にありがとう。それで修理代だが」


「馬鹿言うな。んなもんいらねぇよ。この街のために動いてもらってんのに、そんなもの貰ったらお天道様に顔向けできないぜ」

「いや、でも」


「あぁ判った判った。だったらそのお礼は現金じゃなくな――今の領主だか魔族だかをぶっ飛ばすって約束にしてくれや」


 ドワンはそういって、ニヤリと口角を吊り上げる。

 参ったな。そう言われたら――


「判った。その約束――必ず守る」


「おう! そのいきだ! んじゃ用意ができたら北門に向かうぜ。うちのが待ってる」


「待ってる……という事は?」


 全員の視線がドワンに集まる中、彼は親指を立て宣言した。


「あぁ。予定通り結界壊しの魔導器、できてるってよ――」

 


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