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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第137話 夕食

「いやいや~みんなご苦労様だね~」


 休むことも必要と、俺達は宿に一旦戻ったわけだが、そんな俺達を出迎えてくれたのはにこにこ笑顔なアニーだった。

 流石に状況が状況だけに寝てはいないけどな。


「皆もお腹すいてるだろう? 用意出来ている――と、いいたいところだけど~うちのシェフはまだ掛かってるみたいでね~。まぁ量が量だけに仕方ないけど――」


 アニーの話を聞くと、残っている宿や飲食店で分担して街の皆のために料理を作り振舞っているらしい。

 貴族や冒険者を含めた者や、銀行との戦い、更に街中に現れた魔物の対応に追われていたため、避難を余儀なくされた人々は食事の用意どころではなかった。


 それに加え、救出隊の働きによって村からこの街までやってきた人々もいる。

 そんな中アニーの呼びかけもあってか、こういった形で料理に長けている人たちが協力し合い、炊き出しのようなものを行っている。


 彼らは、市場の材料などを長期保存が出来るように加工したりといった作業にも従事しているらしいな。

 各農村が機能していない状態で、畑も大分荒らされてしまっているような状況だ。

 今後の事を考えると、食料を無駄に腐らせるわけにもいかない。

 そう考えての処置なのだろう。


 ……冷静に考えたら問題点は山積みだな。シャドウの話だと今領主として鎮座しているのは魔族ではあるが、状況的に見て元の領主やその家族が生き残っている可能性は絶望的だろうとの事。


 ……当然といえば当然か。向こうからしてみれば折角領主の振りをして過ごしていても、本物の領主が人々の前に姿を現しては厄介な事このうえないしな。


 領主の血筋の者は家族も含めて全員が表舞台から姿を消していたというのも、ようはそういう事なのだろう。


「それにしてもアニー。なんや子供の姿おおない?」


「あぁ~それがさ~村から救出された中には、親を亡くしてしまった子もいてねぇ……そういう子どもたちは一旦ここで預かってるのさ~。寝床も必要だしね」


 にははっ、と笑いながら言っているが……そうか。魔物に襲われている村もある以上、当然そういうことだってあるわけだ――

 救出隊が向かったとはいえ、全員が助かったわけではない。

 ゴロンのいた村だって、殆どの人間は死に、もしくは連れ去られてしまっているんだ。

 

 それにしても……こういった状況であるとはいえ、中々出来る事じゃないけどな。 

 普段は寝ているだけかと思ったが――今こうやってみるとどこか頼もしく、それでいて温かい存在に思えてくる。

 ただしスケ気味のネグリジュ姿は、何とかしたほうがいいと俺は思うが……


「う~ん? どうしたのかなヒット~。あ! もしかしてあたいに惚れちゃった?」

「いや、それはない」


 見なおしてはいるが、かといってそれが恋愛感情に移ることは先ずないな。うん。


「……そんな事言うて、どこかで手を出すきやないん?」


「な! 何言ってるんだカラーナ! 俺がそんな男に見えるというのか!」


「……否定はできないな」


 アンジェまで何を!


「……ご主人様は色々と元気」

「アンッ!」


「いや! 口を開いたかと思えば何を言い出すんだセイラ! そしてフェンリィもなぜ同意するように吠える!」


「う~ん、でもあたいはいつでもウェルカムだよ~」


「ア、アニーさん一体何を!」


 メリッサがわたわたしながら叫ぶ。そして俺も同意だ。ちゃっかり何を言っているんだ!


「う~ん。ヒットにゃんはモテるにゃんね。罪な男にゃり」


「て! なんでニャーコまでここにいるんだよ!」


 いつの間にか背後にいて思わず突っ込んでしまったぞ! そしてそれに対しての反応は、猫耳をぴょこぴょこさせながら小首を傾げるというもの。


 いや、俺の方こそ何を言ってるんだ? みたいな顔されても困るが……


「酷いにゃん。一緒に戦った戦友にその言い草はないにゃん」


「う、いやまぁ、確かに戦いでは世話になったのだと思うが――」


 東門を開ける為に尽力を尽くしてくれたみたいだしな……その辺は感謝しないといけないが。


「もしかして俺たちに何か用事があるとかか?」


「違うにゃん。ここに来たのは炊き出しがあると聞いてにゃん」


「食い気かよ!」


 思わず叫ぶ。しかしニャーコはなぜか偉そうに胸を張った。

 その勢いでぷるんと揺れる……結構いいものを持ってるんだよなこの猫娘。


「性欲と食欲と睡眠は大事にゃん。特に食欲はなくてはならないものにゃん。働いたらおなかが減るのは当然にゃん」


「……うん、まぁそりゃそうだろうけどな」


 てか、その話にわざわざ性欲の事をいれる必要あったか?


「せ、性欲……」

「そ、そやなやっぱ性欲も……」

「ご、ご主人様もやはりせ、性欲……」

「……性獣」

「アンッ!」


 やっぱりだ、おもいっきり変な空気になってるし。

 てか、セイラのそれはなんだ? 俺が性獣とでも! そして何故フェンリィを俺から遠ざけようとする、まさか……雌だからか!?


「あはは~そっかぁ。でも折角きてくれたのはいいけど、まだうちのシェフが準備中でね。もうちょっと掛かると思うんだよ~ごめんな~でも性欲の方ならあたいを食べ――」

「だそうだ。まぁもう少し待つんだなニャーコ」


「むぅ仕方ないにゃん」


 アニーの会話に割りこむように俺が告げると、ニャーコは左右の猫耳をしゅんとさせる。

 そんなに腹が減っていたのか……


「あの、ご主人様。お食事の準備の件ですが私も手伝いに行って宜しいでしょうか?」


 ふと、メリッサが俺に頼むように言ってきた。

 あぁ、確かにこの状況なら――


「勿論だメリッサ。というか俺も手伝おう。こういった状況なら助け合いが大事だしな」


「ご、ご主人様……素晴らしいです。私はご主人様の奴隷であったことを心から誇りに思います」


 いや、だからそれはちょっと大げさな気がするんだがな……


「メリッサの言うとおり流石ボスやな! こうなったらうちも勿論手伝うで!」

「うむ。私も騎士としてこの状況を放ってはおけぬな。是非とも手伝わせていただこう!」


 グッ! と拳を強く握りしめてアンジェも協力を申し出る。

 するとカラーナが訝しげに半眼でアンジェをみやった。


「アンジェに料理なんて出来んの?」

「な!? ば、馬鹿にするな! 第一カラーナこそどうなんだ!」


「うちは得意やで。ギルドでは飯担当も任されとったし」


「ぐむっ! そ、そうなの……いや、勿論私だって大丈夫だぞ! 恐らく――」


 最後の一言が微妙に不安だが……


「しょうがないにゃん。私も手伝うにゃん」


「おっと、そりゃ助かるよ~」


 アニーが笑顔で俺たちの申し出を受け止めた。

 ちなみにアニーは子どもたちの面倒もみていたりする……透け気味のネグリジェ姿で、いいのかこれ?


 まぁそんなわけで、とりあえず俺達は食堂に向かい、相変わらず少年のような見た目のシェフの手伝いに入った。


 ちなみに俺も一応自炊経験はあるからな。それなりには料理もできる。

 

「いやいや皆が手伝ってくれて助かるよ」


 シェフにお礼をいわれながら、俺達はそれぞれ役割を分担させて準備を手伝う。 

 俺とアンジェは野菜を切るが――アンジェは調理用ナイフの扱いに苦戦していた。

 これは……もしかして料理があまり得意ではないタイプか? 


「む、むぅ。ヒットなんだその眼は! さては私の腕を疑っているな!」


「いや、疑るというか、実際あまり得意ではないのではないか?」


 皮がまだ結構残ってるじゃがいもに目を向けつつ、半眼で俺が述べる。

 するとアンジェがぷくぅ、と頬を膨らませた。

 ……普段とのギャップがあって可愛らしい。


「ならばみていろヒット! ガル!」


 どうやら呼び名はガルにしたらしいが――そんなアンジェの呼びかけでガルちゃん登場。

 野菜の周りを駆けまわり、瞬時に皮を余すことなく剥き、そして料理に最適なサイズに切り分けた。


 いや、確かに見事だが……ウィンガルグはその使われ方でいいのか?

 ……まぁでも、下処理は早く済んだしな。

 で、そんな事をしてる間も、スープやソース作り担当のセイラとメリッサが味見をしたりしながら作業。

 

「セイラ凄い! このソースも味が深いし」

「……メリッサのスープもいい味」

「本当!? ありがとうセイラ」

「アンッ!」


 メリッサとセイラも大分打ち解けているみたいだな。

 フェンリィは時折セイラから渡された細かい野菜を食べたりもしてる。

 野菜も食べるんだなフェンリィ――


「おお! 結構いい肉もあるやん。よっしゃ腕が鳴るで!」

「魚は任せるにゃん!」

「……いいけどつまみ食いしたらあかんで?」

「酷いにゃん! 生の魚なんて食べるわけないにゃりよ!」


 カラーナは肉、ニャーコは魚か……料理にはなんともお似合いの組み合わせだな。

 ちなみにニャーコは生でとはいっているが、実際は塩漬けされたものや燻製、干物などが料理に使われる。

 このあたりは漁の出来るような海はないみたいだからな。山を越えて西に向かうと運河があり、そこから運河にそって北に進むと内海であるドラゴ海にでるが、そこはセントラルアーツとは領地が分かれている。


 ついでにいえばドラゴ海に浮かぶ島には自由都市国家フリタームという国が存在していてドラゴ海の漁業権の七割型はこの国が握っており、強力な船団を擁している事でも有名だ。

 

 まぁそんなわけで、料理を続けていると子どもたちも匂いにつられて集まってきたな。


「よっしお前たち待ってろよ。もうすぐ旨い料理を食わしてやるからな!」


 俺がそう伝えると、子どもたちから嬉しそうな歓声が沸いた。

 色々大変な事が続いているが、こういった方法で笑顔が生まれるなら悪くはない。

 

「みんなのおかげで助かったよ。それにこんなに美味しそうな料理が出来たんだから感謝感謝だね」


 無事沢山の料理が完成し、少年のような笑みを零しシェフがいった。

 それから食堂に大皿で料理が並べられ、同時にスープなどはドワーフが打ったという寸胴鍋に入れた状態で外に運び出す。


 その匂いに引きつけられるように多くの人びとが集まってきた。

 おかげで夕食は食堂の中と外に人があふれた状態での賑やかな物となった。

 銀行の件が片付いたのが効いているのか、みんなどことなくほっとしてる印象もあるが――


 この戦い自体はまだ終わっていない。むしろ何も行動に移してこない敵が不気味でもあるが――ただ今だけはこの時間を、しばしの晩餐と休息を楽しむとしようか。

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