第130話 ゴールドの悪あがき
カラーナの使用したスペシャルスキル、【ダークスペイス】によって生まれた闇の空間より俺達は離れる。
あの馬鹿はすっかり俺しか相手がいないと思い込んでいたようで、息を潜めながら、スキルを使用するタイミングを伺っていたカラーナには気がついていなかった。
全く油断大敵もいいとこだな。土の砲台とキャノン装備のミスリルゴーレムや、空にはガーゴイルがいたことで完全に油断していたのだろう。
だが、空中にいるガーゴイルでは気配を潜めて動くカラーナにまで気がつくことは出来ないし、それはゴーレムも一緒だ。
特にゴーレムに関しては、見えてるもののみに反応する傾向があるし、自動砲台に関しても、相手の魔力に反応し動いているものなので、魔力も含めて抑えられる盗賊系には反応が鈍くなる傾向がある。
まぁつまり、一見堅牢に思えた守りも詰めが甘かったって事だ。
ただ、流石に闇の中から出るとばればれで、ガーゴイルの弓が地面に突き刺さり、ジョブ持ちでない奴らは急降下しながらの鉤爪で執拗に俺達を狙ってくる。
俺のキャンセルアーマーも流石に効果時間は終了したしな。
なので今度はダブルセイバーのスペシャルスキルであるセイバーマリオネットを発動。
モードは取り敢えず自動で、襲ってくるガーゴイルを片付けていく。
闘双剣で剣の威力を上げるのも忘れない。
自動モードで処理しきれない分は、跳躍しながら二度切り上げるフライスライサーで片付ける。
このスキルは空中の相手には特に効果が高い。
まぁ対空技って奴だ。
そして、そんな俺の傍らでも、カラーナがナイフ投げや、短剣用のスキルで応戦しているのが判る――が。
「カラーナは一旦離れろ」
「はぁ? なんでやボス! うちだって戦えるで!」
「それは判ってるが、今あいつのポーチを持っているのはお前だ! それを取り返されたら元も子もない! だからここは、俺一人でも十分だから一旦退いていろ」
「で、でも――」
「大丈夫だ、俺を信じろ。それにあんな奴、それがなければただの――ポンコツだ!」
ポン? と不思議そうな顔を見せるカラーナだったが、判った! と頷き、そして――俺の頬に唇を重ねた。
「な! お、おい……」
「し、信じとるからなボス! あんなやつさっさといてまえ!」
頬を紅くさせはにかむカラーナはかなり可愛らしいが……とにかくそう言い残し踵を返して相変わらずの軽快な動きで屋根を伝い離れていく。
「……やってくれますね――」
その声に俺が振り返ると、既に闇は消え去り、ゴールドの前を塞ぐゴーレム六体。
「最初からこれが目当てだったのですか……しかし、何故それが判った?」
「そんな事、一々教えてやる義理はないな」
「……チッ! 大方鑑定のスキル持ちでもいたといったところか――全く、そう簡単に視られるわけがないと油断しすぎましたか」
こいつも鑑定の欠点は理解していたようだな。
そう、鑑定は対象の実力がスキル使用者より上であれば、その分鑑定結果が出るまでの時間がかかる。
しかも通常の鑑定であれば、ある程度距離が近くなければスキルの効果は発揮されない。
だが、スポッターを手にしたメリッサなら、天眼との組み合わせで遠くからでも鑑定は出来るのさ。
「まぁ、これでお前のゴールドスミスとしての能力は殆ど使用できなくなったな。もう観念したほうがいいと俺は思うけどな」
「舐めるなよ! 確かにあのポーチがない以上かなり制限されるが……何も私のジョブはそれだけが全てではない! 忘れてもらってはこまるぞ、私にはアルケミストの資質があることも!」
その瞬間ゴーレムの後ろから眩い光が溢れ、かと思えば、居並んでいた六体のゴーレムの身体が吸い込まれるように集まりだし、引っ付き合い、そしてその形を変えていく――て、マジかよ……
「かかかっ! どうだ! これが私の錬金術だ! 魔法王国ブルーローズ生まれでもある私の魔力量を見誤ったな!」
真上から声が落ちてきた。ゴールドの奴、いつの間にかミスリルゴーレムの頭の上に移動していたようだな――てかブルーローズって、こいつこの国の生まれではなかったのか……
それにしても……見上げると首が痛くなりそうなほど高い、というか、デカい。
なんだこのゴーレム。
六体が一体になって馬鹿みたいに……高さ二〇メートルぐらい優にあるだろこれ。
てか、元は一体二メートル程度なのに、なんで六体集まったら二〇メートル超えるんだよ……おかしくないか? その上、周りにあった砲台も全部取り込まれたから、肩だけでなく全身から砲身が突き出ている状態だ。
こんなのもう、本当に歩く要塞に近いな……軽く引くわ。
「ははっ! どうだ! いくら貴様でも地上からこの位置の私を攻撃するのは不可能! 更に! 見よ! このミスリルゴーレムの力!」
ガコンガコン! と不敵な音を奏でながら、ミスリルの特にでかい砲身が下を向く。
つまり俺を狙ってるわけだが――
「撃てぃいいいぃい!」
ドゴオオォオオオォオオオン! というけたたましい音が闇夜を貫き、俺の眼前の地面を広く深く抉った。
ステップキャンセルで回避はしたけど……もう道とかのレベルじゃないなこれ……左右の建物も軒並み吹き飛んでしまって、マジで仲間全員避難させておいてよかったレベルだ。
こんなのヘタしたら銀行ごと吹き飛ぶだろ……
「街ごと壊す気かてめぇは!」
「ふん! こんな街などもうどうなろうと知ったことか!」
……お前が言っていい台詞なのかそれ?
しかし、これは確かに洒落にならないな。
「さぁゴーレムよ! 次は全弾発射といこうではないか! 派手にぶちかますぞ!」
マジかよ……あの全身から突き出た砲身からも含めて纏めて発射となると、マジで街がとんでもないことになるだろ。
てかあまりに仰々しすぎて、ガーゴイルも俯瞰状態を保ってるな……
しかし……マジでどうし、てか、あぁそうか、そうだよ、つまりは、キャンセル!
俺はそのゴーレムに向かってキャンセルを発動させる。
魔法キャンセルは、まだ待機時間が残っていて使えないが、スキルキャンセルなら可能だからな。
そう、この錬金術での合成は魔法扱いではない。スキル扱いだ。
だから、それをキャンセルすればゴーレムこそ消えはしないが――
「うん? な、なんだーー!?」
ゴーレムの頭の上でゴールドが悲鳴を上げた。
当然か。何せスキルをキャンセルしたことで、当然だがゴーレムの身体は元に戻るために崩れ始める。
そして、膝が折れたかと思えば、巨大なミスリルゴーレムの身は、まるでだるま落としのようにガラガラと崩れ落ち、そして途中で六体のただのゴーレムと砲台とに分かれて地上に落下した。
どうやら纏めて合成していた為に、ミスリルに変化していたという事も同時にキャンセルされたらしい。
それが――つまり土塊のゴーレムが、二〇メートル上空から落下してきたのだ。
当然地面に叩きつけられたその瞬間――ゴーレムも砲台もばらばらに頽壊する。
それをみて、しまった! と焦る。
これだと一緒に落ちてくるゴールドも地面に叩きつけられて死んでしまう可能性があるからだ。
今のあいつは、しっかりダメージを受けてしまうからな。
奴にはまだ死なれてもらっては困る。
だが――
「くっ、なんなのだ貴様は――」
どうやらそれに関しては杞憂だったようだ。
ゴールドは、二体のガーゴイルに両脇を抱えられるようにして空中に居座り続けたからだ。
そして、俺を憎々しげに見下ろしている。
「だが! ゴーレムを破壊したからと調子に乗らないことだな。私にはまだこの土魔法がある!」
……錬金術の次は土魔法か、確実に追い詰められているのは間違いないと思うがな。
「地は身体、土は半身、股間たる地脈はうずき大地は勃起せし、さぁ今活力を、そそり勃ち尖れ――【アーススパイク】!」
……詠唱はともかく、これは土の中級魔法。俺の真下の地面がぐにゃりと変化し、何本もの長大な針と化し伸び上がる。
まともに喰らえば、俺の股ぐらから頭頂までを貫けるほどの魔法だ。
だが、俺は勿論ステップキャンセルで瞬時に移動しそれを躱す。
この魔法は場所を指定して発動するタイプなので、来るのがわかっていれば避けるのは容易い。
「ふん、ちょこまかと鬱陶しい! ならば、土も水なり、水も土なり、不快な土は溶け沈み、その身を捕え引きずり込む。藻掻け藻掻け永遠に、大地を墓標にせし永獄へ――【アーススラッジ】!」
それにしても、奴は土魔法だけに特化しているだけあって、詠唱がなかなか早い。
マジシャンの固有スキルである、詠唱速度向上の恩恵も得ているのかもしれないけどな。
そして俺は、自分の足元に注目するが――変わった様子はない。代わりに後ろに変化を感じた。
どうやら背後に沼を作ったようだな。
何せ土の上級魔法であるアーススラッジは、地面の一部を液状化させ底なし沼に変化させる。
もしくは粘土に変えるという使い方もあるが、この場合間違いなく前者だろうな。
尤も、底なしと言っても足を取られて完全に沈むまでには時間が掛かるし、能力があれば沈む前に抜けることも可能。
ただ厄介なのは、寧ろ足を取られ動きを阻害されることだ。
俺のステップキャンセルでも、沼を越えるようには移動はできない。
「さぁ! まだまだいくぞ――」
上から声を叫び落とし、そして更にゴールドは、俺の左右と正面に沼を作る。
「どうかね? これでもう逃げ場はないぞ? そして次に私が行使するのは先程のアーススパイク。ふふっ、さぁ選び給え、底なし沼にはまりガーゴイルに弄ばれながらゆっくりと苦しみ沈んでいくか、土の針に貫かれ内臓を掻き回されて苦しんで死ぬか」
「どっちにしろ苦しんで死ぬしか選択肢はないだろそれ!」
俺は半眼で唸るように言う。
そんな俺を嘲るように見下ろし、ゴールドが詠唱を始めるが――
「だが、まぁ選択肢としては――」
そういいつつ俺は、スパイラルヘヴィクロスボウを取り出し――
「てめぇが底なし沼に沈むだ!」
「な!?」
驚愕を顔に貼り付けるゴールドの左右のガーゴイルへ、俺はショックボルトを射ちこんだ。
先ずは一体の肩が貫かれそのまま感電。
更にキャンセルしてシュート! もう一体の腹を穿ち、こっちは多分絶命。
そして――当然ゴールドは為す術もなく。
「な、こ、こんな、おい! だ、う、うわぁああぁああぁあ!」
哀れゴールド。そのまま自らが創りだした沼に落下し、見事その泥土に顔が嵌る。
助けようとしていたガーゴイルは、俺が全て射ちおとしたからな。
更にガボガボと惨めに藻掻くゴールドを尻目に、俺は次々と残ったガーゴイルも射ち落としていき――そのうち他の仲間達も駆けつけてきた。
シャドウもしっかり見ていてくれたようだな。
さて、後はゴールドが沼の中で気絶するのを待ちつつ、残ったガーゴイルを殲滅するとしますか――




