第129話 ゴールドを鑑定
俺達は結局シャドウの案内で、予め確保されていた退路を伝いスラムにまで逃げ果せた。
驚いたのはスラムの目立たないようなところに、地下へ通じる隠し通路が用意されていた事で、そこを潜り込むことで追手のガーゴイルからも見つからずにすむ。
外にでることも考えたが、空から見張るガーゴイルがいる以上、それはまずいでしょう、というのがシャドウの考えでもあった。
問題は街の外で待機している馬車と他の仲間の事。
しかしそれも、メリッサは予め離れるようにいっておいたようで、シャドウもカラスで街から出来るだけ離れるよう伝えさせたようだ。
それに、相手もそこまで躍起になって俺達を探そうとしてる様子もない。
寧ろ銀行に攻められることだけを危惧してるようだ。
それだけあそこには、なにか大事な物が隠されているのだろう。
「うぅ、あいつ絶対ゆるせないんだから!」
悔しそうに親指の爪を噛み、零すのはブルーナイトのマリーンだ。
……何せ装備を取られ裸体を多くの目に晒したわけだしな……ごちそうさ、いや、ご愁傷様と同情の気持ちはあるが、しかし肉体的ダメージがないのは幸いともいえるだろう。
そんな彼女は、シャドウが用意してくれた長布で身体を覆っている。
それを残念がる盗賊もいたが、カラーナが睨めつけると大人しくなった。
「気持は良く判るぞマリーン。私も裸身を見られた時には恥ずかしくて仕方なかったものだしな」
「え? アンジェ様は奪われていないですよね?」
「え? あ、いやそうなのだが……」
「てか、アンジェはボスに裸みられて嬉しがってたやろ」
「だ、誰がだ! デタラメをいうな!」
アンジェがムキになって吠えたけど……お、思い出してしまった――
「……ヒット何を考えている?」
「え! いや! 何も! 何も思い出してないぞ!」
身体を庇うように腕を回し、身を捩らせ半眼で睨めつけてくるアンジェに俺も思わず言い訳。
だけど、ジトーっとした視線は変わらず。
「あ! そうだメリッサ! の、能力の事を教えてくれ!」
助けを求めるように、メリッサへ顔を向け話しかける。
が、そのメリッサの視線も何か痛い……
「あ、あの? メリッサさん?」
「……何か?」
「え、え~とゴールドの能力を教えて、いた、頂けないでしょうか……」
俺も思わず腰が低くなってしまった……
「ふふっ、ヒット様のように女性にモテると色々大変ですね」
シャドウうるさい!
まぁとはいえ、いつまでもこんな話を続けているわけにもいかない。
ゴールドへの対策は必須だ。なので改めてメリッサからゴールドの情報を聞き出すが――
――鑑定結果
名前:ゴールド・マージ・ステイル♂
ジョブ情報
ゴールドスミス
ランク:最高位
系統:特殊その他
履歴
ドラッカー→マジシャン→アルケミスト→ゴールドスミス
技能情報
スペシャルスキル
セイフロック
使用効果
魔力で創りあげた金庫にどんなものでも保管しておける。
効果範囲・対象
金庫を設置できるだけのスペース内。
※四桁の暗証番号を設定する必要がある。
※保管されているものはその状態を保ち続ける。
※第三者でも暗証番号を入力すれば開けられる。
※暗証番号は三回間違うと間違えた生き物は死ぬ。
※作成者本人が死んでも、開けられるまで金庫は残り続ける。
固有スキル
プロメサリーノート
使用効果
手形を発行し対象に借金を負わせることが可能になる。
効果範囲・対象
指定した相手(複数人同時可)
※このスキルで負わせた借金はリカバリーで回収可。
※指定できる金額は使用者が自由にできる金額の範囲内。
リカバリー
使用効果
対象者の借金を強制的に回収する。
効果範囲・対象
指をさした相手(要借金)
※回収する際には価値ある物から順に奪う必要がある。
※返済をする価値のあるものを所有しておらず、それでも借金が残っている場合、身体の部位を奪うことも可能になる。
※相手の生命に関わるものは最短でも四回めにしか奪うことが出来ない。
オフセット
ダメージを受けた場合、手元に現金がある場合はそれで相殺する。
効果範囲・対象
使用者本人
※ダメージを受けた分の現金を消費する。
リペイメント
これまでに受けていたダメージに利息を乗せて返す。
効果範囲・対象
最後に攻撃してきた相手
※ダメージは直接肉体に与える。
※オフセットした分も対象となる。
ボックスメイク
自分の指定した入れ物内の空間を広げ大幅に容量を増やす。
効果範囲・対象
指定した入れ物
※リカバリーしたものは自動的にボックス内に回収される。
――以上がメリッサが調べてくれたゴールドの能力だが……スキルが多いな。
とりあえず最初にきいた現在のジョブだけでもこれだ。
それにアルケミストやマジシャンやドラッカーを加えるととんでもない量になる。
が、この情報が大きいのは確か。
特にリカバリーに関しては謎も多かったがな。
相手に借金があるか、もしくはプロメサリーノートで強制的に借金を負わせているかが大事だったわけだ。
そして、何故ダイアやマリーン、それに他の仲間もそうだが、それに対して、部位ではなく装備を奪ったか――これの謎も解けた。
まぁつまり、俺の世界で言う返せるもんがなければ内臓売れ! みたいなことと一緒というわけだ。
それはあくまで最終手段であり、他に金になるものがあれば、それを形にしろと。
うむ、そう考えるとなかなか良心的……な筈がないな。
そもそも負わされる借金がでたらめなものなわけだし。
そして――スペシャルスキルの金庫。
恐らく、というよりは、ゴールドが銀行に隠しているのは間違いなくこれだな。
それに加えて他にも興味深いのはある――が、とりあえずこれである程度作戦の目処はたったな。
だから俺は、それを全員に説明し――そして陽が完全に落ちたのを見計らって動き始めた。
◇◆◇
「まさかたった一人でやってくるとは思いませんでしたがね」
再び姿を見せた俺を認め、ゴールドがいう。
確かに奴の言うように連中と闘うのは俺一人だ。
何せ他の仲間の多くは、奴のスキルで借金を負わせられている。
その状態では装備品を奪われ、更にその後は部位を奪われかねないし、場合によっては死に至る。
だが、俺ならその心配はない。キャンセルのおかげで唯一借金を負っていないからだ。
これまでは借金に苦しめられた俺だけどな。
まぁそれに、いざとなったら二〇〇〇万ゴルドの余裕があるから、あの説明通りなら恐らく装備品すら取られない。
尤もそんな真似は御免こうむるけどな。
「ふふっ、それにしても陽が落ちた頃合いを見てくるとはね。夜陰に紛れてとでも考えてましたか? しかし残念でしたね」
そんな事を俺に告げるゴールドの周りはやたらと明るい。
魔導器による明かりが灯されているからだ。
しかもこれまでみた街灯よりも明るさが際立っている。
特注品ってやつかね。
「しかし、本当に無謀も過ぎるとただの馬鹿ですよ? 私がなんの対策も講じてないと思いましたか?」
ゴールドの表情には余裕が満ちている。
奴は土の魔法を使いこなすのも得意らしい。
だからか、その周りはさっきと同じくゴーレムが護衛に立つ。ミスリルの効果は切れてるみたいだな。
そして、更に追加で砲台まで設置してある有り様だ。
この砲台は土の上級魔法であるアースキャノンで造られたものだ。
見た目には大砲そのもので、土が見えているところに設置すれば自動で土を砲弾に変えて効果範囲内の相手を撃つ。
面白いのは、そのキャノンをゴーレムの肩にも載せてることだ。この使い方は俺も初めてみたぞ。
見た目はまるで懐かしい某アニメの赤いアレだが。
「ゴーレムに興味がおありのようですが、こんな事も可能ですよ」
言ってまた、前みたいにゴールドが地面に両手を叩きつける。
するとゴーレムの素材が再びミスリルに変わった。
「さて、それではせっかくのこのこやってきたのです。歓迎いたしますよ!」
ゴールドが声を張り上げると、ミスリル化したゴーレムが動き出し戦端を開いた。
両肩に備わったキャノン砲から、ミスリルの砲弾が発射され、地面に当たり衝撃で大地が爆散。
それが各ゴーレムから次々と射出されるものだから、轟音が辺り一帯に鳴り響き、大地を揺らす。
舞い上がった土塊で視界も一気に悪くなった。
全く無茶苦茶しやがる。
だが、こんな事で怯んではいられない。
俺は範囲を定めゴーレム二体をキャンセル。
その場から消し去った。
だが、その先に見えたゴールドの顔はまだまだ余裕だ。
むしろそれぐらい読んでいたといった感じか。
だからこそゴーレムを二体一組として間隔を空けていたのだろう。
直感で、そうしておけば一度に多くのゴーレムが消えることはないと思ったのだと思う。
そしてそれは間違っていない。
ちなみにゴーレムの数は特には増えていなかった。
恐らく砲台の設置などで魔力をかなり使ったのだろう。
だからゴーレムを再度創りだすことまでは出来なかったのだと思う。
ただ――俺の真上から矢が降り注ぐ。
そう、これも忘れてはいけない。ガーゴイルだってまだまだ上空にいる。
「ふふっ、貴方ひとりでこの猛攻に耐えられますか?」
「そうだな。じゃあやってみるか」
俺はそこまでいうとキャンセルアーマーを発動。
無敵状態でゴールドに向けて移動する。
ゴールドまでの動線さえ確保できれば、後はこの状態ならダメージも気にせず……ステップキャンセルで移動!
「よぉ、またせたな」
「!? まさかこの状況からもここまでこれるとはね。だが、どうしますか?」
「決まってる!」
俺は双剣でゴールドを徹底的に攻めたてる。
だが、ダメージは全く負っていない様子。
「無駄ですね。何をしようと私には通じません」
「確かにこのままならな。だけどな――」
ニヤリと口角を吊り上げるゴールドにそう告げ、その瞬間、俺とゴールドの周囲が闇に包まれる。
「!? な、なんだこれは!」
「俺にばかり集中しすぎたな」
「な、なに?」
ゴールドの戸惑いの声。そして――
「盗ったでボス!」
「でかしたカラーナ」
闇の中に響き渡るカラーナの声に、俺は思わずガッツポーズ。
すると、くそ! とゴールドが呻くようにいい。
「大地と共に眠る土よ、今目覚めの時が来た、脈動せよ躍動せよ蠕動せよ、さぁ立ち上がり隆起せよ、我は大地の先導者なり――アップグラン!」
詠唱し初級の土魔法を発動。だがこれは初級とはいえ、地面を隆起させる事で障害物にして身を守ることも可能。
キャンセルすればいい話だが、闇が災いしてそれが不可能。
なのでカラーナに伝え、一緒に闇の外へ一旦離れた。
そして明るい中でカラーナが見せてくれたのは、ゴールドが腰に携帯していたポーチ。
妙に似合ってないとは思っていたが、この中身がボックスメイクのスキルで変化しているのは間違いがないだろう。
さて、後はゴールドがどう出るか……ここからが本番だな――
 




