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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第110話 宴と駆除

 イーストアーツの件は色々問題も山積みだが、せめて今夜ぐらいは皆で勝利を祝おうという話になり、急ごしらえでありながらも、生き延びたシェフ達が丹精込めて作り上げた食事と、伯爵の屋敷に残っていた酒で細やかながらも宴のようなものが開かれた。


 アジトで待っていた者達も、俺が協力して迎えに行き、衰弱していた人々も含め伯爵の屋敷で一夜を過ごす。


 ちなみに魔物の死体に関しては、目立つものは外に運び出され、一箇所に積み重ねられた。

 魔物は他の生物と異なり、死んでも腐敗することはなく、時間が経つと灰化する。

 

 中にはこの灰が薬の原料となる素材になる種類もあるようだが……基本冒険者ギルド以外が素材を買い取りしないのは、この灰化を防ぐ技術が冒険者ギルドの中でしか伝わっていないためとも言われている。


 ただ、人の死体はそうもいかないので、遺体は遺体で一箇所に集められ、セイラの炎魔法によって皆に見送られながら火葬された。


 勝利したとはいえ、多くの悲しみを生んだ戦いでもあった。

 だがそれでも人は生きていかなければならない。


 その為にも英気を養うことは必要だろうと俺は思う。


 しかしメリッサもいっていたが、確かにここのシェフの腕は一級品だな。 

 急拵えの食事にもかかわらず、一定の水準を超えたものがしっかり出てくる。

 そしてやはり旨い食事の効果は絶大だな。

 沈痛な面持ちで参加していた人々も、自然と笑顔が零れ落ちる。


 衰弱した人々も、シェフが彼らにもしっかり栄養を補給させようと、胃に優しくどこかほっとする味のスープを提供したことで、次第に元気を取り戻していった。

 

 どうやらシェフの中には、高位職であるスーパーシェフのジョブ持ちがいたらしい。

 スーパーシェフの持つスペシャルスキル、【医食同源】は、料理に体力回復の効果や、病気などの治療効果を加える事が出来る。

 まぁ戦闘ではぽんこつだったので、ゲームではサブキャラが気分転換に選ぶジョブ的な扱いだったが。


 なにはともあれ、酒も用意され祝杯も挙げられた。

 乾杯の音頭は何故か俺がさせられて、ちょっと照れくさかったけどな……

 ご主人様素敵です――とかうっとりした眼でメリッサにみられたりもしたけど。


 まぁとはいえ、俺も一応は酒を頂いたが、今は適度な量に抑えておいた。

 少なくとも皆には、この時ばかりは嫌な事を忘れて宴を楽しんでて貰いたい。


 だが俺は、途中で抜けだして、街の外の様子を見に行く。


 敵は粗方倒されたとはいえ、まだ潜んでる魔物がいる可能性は高いだろ。

 出来れば後顧の憂いは絶っておきたいしな。

 それに、結局チェリオ戦では使わなかったが、高位職であるダブルセイバー(双剣闘士)の力を試しておきたいというのもある。


 なので俺は双剣を抜き、自らにチャージキャンセルを行い、ダブルセイバーのスペシャルスキルである【セイバーマリオネット(双剣操術)】を発動する。


 キャンセラーの時は、自分にはチャージスキルは使用できなかったが、ハイキャンセラーになった事で、キャンセルスキル以外のスキルや魔法であれば、チャージキャンセルが可能となった。


 これによりダブルセイバーのスペシャルスキルであれば瞬時に発動できる。

 まぁ尤も、当然俺も一度チャージスキルを掛ければ、再使用までにはリスクが必要となる。


 セイバーマリオネットは中々強力なので、その待ち時間は三〇分設定された。

 

 とはいえこれで、俺の武器と全く同じ性能の武器が二本、闘気によって生み出され、俺の頭上に浮かび上がる。


 そう、セイバーマリオネットは闘気で手持ちの双剣の複製を作り出し、一定時間戦いの援護をさせるスキルだ。


 このセイバーマリオネットには三つのモードがあり、それによって援護する方法は異なる。


 一つ目は追撃モード。

 使用者の攻撃と同じ攻撃を、相手の反対側から行い挟撃する。

 動きが俺と完全に連動されるので、単純な攻撃回数はこれで倍になる事になる。


 二つ目は防御モード

 その名の通り、使用者に対する攻撃を察知すると間に入り、身を守ろうとしてくれる。 

 ただ完璧ではないので、防御だけで考えるならキャンセルアーマーの方が強力ではある。

 でもあっちは、持続時間が最大でも一〇秒程度と短いからな……


 そして三つ目は自動モード。

 この状態にしておくと、敵意や殺気を感じると反応し、自動で相手を攻撃してくれる。

 ちなみにこのモードに関しては、効果範囲が半径十メートル以内の半球状となっている。


 これらの能力に関しては、武器スキルまで含めると多すぎるのであれだが、固有スキルで言うと。


ソードマンとしては――


剣術の心得

剣を使った技術が向上する。


ソードスピード(剣速上昇)

剣を使った攻撃速度が上がる。


ダブルセイバーとしては――


双剣の極意

双剣を使った技術が上昇する。


セイバーダンシング

双剣を構えてる状態での身の熟しが良くなる。


疾風双刃(しっぷうそうじん)

双剣を使用しての剣速を上げる。


闘双剣

闘気を双剣に纏わせ威力を上げる。


 改めて、自分の現在の能力を纏めるとこんな感じか。

 まぁキャンセラーに関しては、今更だからいいとして、ダブルセイバーのおかげで火力はかなり上がったな。

 スペシャルスキルも応用すれば、中、近距離戦に関してはかなりパワーアップしているといえる。


 と、そんな事を考えながら歩いていたら、早速オプション(双剣の複製)が反応し、獲物を狩りにいったな。

 ズバッ! ズバッ! と斬撃を繰り返す音が耳に届く。


 木の影に潜んでたようだな。ちなみに今はモードを自動モードにしている。


 さてセイバーダンシングの持続時間は三分だしな。

 少し急ぐとするか――





 セイバーマリオネットの自動モードとキャンセルの組み合わせは中々相性がよい。

 どうやら自動で攻撃してくれる状態でも、自らが剣を振った場合と同じように扱われるらしく、その為、キャンセルを掛けることで、どこからでも瞬時にオプションを俺の下に戻すことが可能だ。


 相手との位置関係にもよるが、反対側の敵に向かう場合なら、一旦キャンセルで戻してあげたほうが早く済むしな。


 それに、これとクイックキャンセルを組み合わせても面白そうではあるが……正直残った魔物相手では、そこまでする必要のあるものはいなかった。


 その後はステップキャンセルも多用することで、三分でかなりの魔物を駆除することが出来た。

 ステップキャンセルも見た場所でなく、イメージで移動できるようになってかなり使いやすくなったな。


 これなら、暗くて視界が確保できない状態でも扱いやすい。

 勿論仕様は変わっていないので、調子に乗って高低差のある場所に気づかないで使ってしまうと、落ちたり滑落したりするから気をつける必要があるが。


 さて、とりあえずセイバーマリオネットの効果も切れたな。

 どうしようかってとこだが……セイバーマリオネット自体は、実はチャージキャンセルがなくても二〇秒間集中すればそれで発動は可能だ。


 ただ体力と精神力の消費が激しい。休みのない連続使用だと、三回が限度だろうな。


 スペシャルだとハイキャンセラーのキャンセルアーマーもあるが、ここでは使う必要はないか。

 こっちは消費自体はセイバーマリオネットよりは低いけどな。

 ただ使用した秒数×一〇分は再利用が出来ない。

 

 つまり一〇秒フルで使い切ると、一〇〇分間再使用不可って事だ。

 まぁ完全無敵状態になるスキルだから、これも仕方ないかもしれないが。


 さてと、まぁとりあえず、最初の三分間でかなり殺ったしな。

 ここはこのまま、スペシャルスキル無しで残りを終わらせるか。


 俺はそう決心すると、草木を掻き分けながら森の調査を再開する。

 暫く進むと、横からボブゴブリンが姿を見せ、棍棒を振って来たが、気づいていたので屈みつつのサイドステップで回避。

 スキルの恩恵か身体がかなり軽い。そして闘双剣を使用し右手の剣を左から右に振るう。


 腹が裂け、内臓を垂れ流しあっさりとボブゴブリンは死んだ。

 ……やっぱ火力上がってるな。

 

 ダブルセイバーの恩恵は、ステップキャンセルの使用でも受けることが出来た。

 跳ぶという動作もステップキャンセルで指定が出来るので、後方の幹にキャンセル移動、幹を蹴り更にステップキャンセルで反対側の幹に移動――これを繰り返すと気分はまるで忍者だ。


 さて、とりあえずキャンセルで敵の上空に移動、ダブルセイバーの身体能力だと一〇メートル程度は跳躍が可能なので、そこから落下先をキャンセルして敵の頭上に移動し、双剣を振り下ろす。

 ステップキャンセルは、その仕様から運動の法則はそのまま活かされる。

 だから、例えキャンセルで空中から直ぐ相手の真上に移動したとしても、一〇メートルの高さからの落下しての攻撃と変わらないダメージを与える事ができる。


 これにクイックキャンセルもからめると、威力はかなり大きいな。

 まぁ実際は空中からの攻撃はリスクも高いだろうけど。


 そんな事を色々試しながら、森のなかで駆除を続けていると、別の方角から戦いを繰り広げる気配。


 覗きに行くと、そこではアンジェが魔物数体を相手に戦いを演じていた。

 助けは――必要なさそうだな。

 後ろで纏めた蒼髪を踊らせながら、アンジェは瞬く間に魔物を退治してしまう。

 

 しかし相変わらず優雅な戦いぶりだ。つい見惚れてしまいそうになる。


「流石だなアンジェ。見事だ」


 魔物を倒し、額の汗を拭う仕草を見せるアンジェに俺は声を掛けた。

 すると、はっ! とした表情で俺を振り返るが、すぐに笑顔を浮かべ口を開く。


「なんだ、途中でいなくなったかと思えば……どうやらそっちも私と同じ考えだったようだな」


「ということはアンジェも残った魔物狩りか?」


「あぁ。イーストアーツは明日より復興作業で忙しくなるだろう。人手も圧倒的に足りない状態での事だ。苦労も多いだろうと思う。だからせめて魔物の心配ぐらいはなくせればと思ってな」


 アンジェはそこまでいった後、少し寂しい笑みを浮かべ。


「私に出来るのはこれぐらいだしな……全く王国騎士とかいっても、何も出来ないなんて情けない限りだが」


「そんな事はないだろう」


 落ち込んだ様子を見せるアンジェに告げる。

 彼女の功績は俺が一番良くわかってる。

 

「レジスタンスがここまで出来たのは、アンジェが色々と手を尽くしたからだろ? 君がいなければ彼らだってここまで自信を持てなかったはずさ」


 俺はそこまで言った後、それに、と付け加え。


「君が彼らを導かなければ、正直その、なんだ。例えやる気はあったとしても全滅しててもおかしくなかった」

 

 肩を竦めながらそう告げる。

 それにはアンジェも微苦笑を浮かべたが。


「ふふっ、不思議とヒットにそういわれると気持ちが楽になるな」

 

 口に指を添え、淀みのない笑顔を浮かべる。

 俺の言葉で自信を取り戻せたなら何よりだけどな。


「……ところでヒットは、これからどうする?」


 ふむ、その話にはやはりなるか。

 復興を手伝うという手もあるが、正直元凶を取り除かないと不安が募るばかりだろうしな。


 俺もそこは決意しないと駄目だろう。


「やはりセントラルアーツに戻るべきなのだろうな。領地から出れないのも、あそこに潜む領主が原因だろうし。それにメリッサの事も一段落ついたわけだしな。犯罪者扱いされてるのが気になるところではあるが……」


 ちなみにセントラルアーツでの出来事に関しては、アンジェは一通りメリッサから聞いていたので、俺がどういう状況にあるかも彼女は知っている。


 そして、俺がそこまでいうとアンジェが、うむ、と頷き。


「犯罪者として追われている件は安心してくれ。あの伯爵の所為は私も目にしてよくわかっている。まぁ何はあっても、ここの問題を解決せねばどうしようもないが、ヒットの身の潔白は私が証明する」


 アンジェが決然たる様相で宣言してくれた。

 王国騎士の彼女が証明してくれるなら心強いな。

 何せ本来なら、犯罪者は奴隷を持てないという規則があるので、無実にならないと色々厄介なことになってしまう。


 尤もこの状況で、俺の扱いがどうなってるのかというのはあるが。


「ところでヒット。その、セントラルアーツに赴く件だが、それには私も同道したいと思うのだが……構わないだろうか?」


「あぁ、アンジェならきっとそういうと思ってたしな」

 

 右手を差し上げながらそう返すと、ふっ、とアンジェが微笑を浮かべ俺を見据える。


「……今度は私も覚悟を決めている。ヒットだけに任せはしない。いざとなったらこの私の手で――」


「おっと」


 俺は右手を突き出し、その先が紡がれるのを止めた。


「それは心にだけ留めておけばいいさ。それに俺は好きでやってることだ。そのことで負い目を感じることもない」


 それに――と続け。


「そんな事はセントラルアーツにでもいってから考えればいいさ。重要な事ではあるが、だからって気負い過ぎはよくないぜ」


「……ふふっ、あぁそうだな」


 ふたりでそこまで話し、じゃあとりあえず、と俺達は残りの魔物を駆除するため、森を再度歩き始めた。


 それから三〇分ぐらいかけ、全ての魔物を排除し終えたのを確認し、街に戻った後は、

「おいおいどこに行ってたんだよ。ほらまだまだ酒はあんだから」

とゲイルに誘われ宴を楽しみ――いつの間にか俺は眠りについていた。

 

今回ちょっとヒットの能力について書いてみました。


次の更新は2015/04/24日 1時頃予定で少し遅れる可能性はあります


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