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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第11話 ドワーフの店

 ドワーフは俺がやっていたゲームにも存在していた種族だ。

 人間とは違う種族で、どのドワーフもこの店主みたいに髭を生やし背が低くずんぐりむっくりとしているという点で共通している。


 ゲームでは一応プレイヤーキャラの一つとして選べた種族でもある。

 魔法の類は苦手だが、力が強く器用だ。

 戦士系としても十分やっていけるが、生産系としてもかなりの力を発揮する。


 何せ見た目にも細かい作業など不向きそうな、大きな手でありながら、鮮やかな細工の施された装飾品なども軽々と創りあげてしまうような種族である。


 おまけに設定上では仕事に関しては生真面目で妥協を許さないとあったか。

 ただ人付き合いは苦手で頑固、悪く言えば偏屈な一面もある種族でもある。


 しかし、とはいえよもやこんなところでドワーフに会えるとは思ってもいなかった。

 ゲーム中では、NPCとしてはドワーフが集まって暮らす村にいたぐらいだったからだ。


「それで用件はなんだ?」


 案の定愛想はよくないな。接客とかする気あるのかってぐらいだ。何せ睨むようにしてこっちをみている。

 コンビニでいきなり店員にメンチを切られてるみたいなもんだ。

 そんな店で肉まんを買う客は普通いないだろ。


 だが――


「実はちょっと買ってもらいたい物があってな。それなりの量だが大丈夫か?」


「ふん。店はボロでもそれぐらい問題はない。買ってもらいたいものがあるならここにおけ」


 いってカウンターを指で叩く。

 なので俺はマジックバッグから例の装備品一式を取り出してそこに並べた。


「ちょっと査定するから、その辺眺めて待ってろ」


 俺は判ったと告げてメリッサと査定が終わるのを待つ。

 

 その間に店の中を眺めるが――なるほど確かにいい仕事はしているようだ。

 奥が工房のようなのでこのドワーフの店は鍛冶も兼業としてるのだろ。


 別に俺は武器や防具に造詣が深いというわけでもないが、それでもなんとなく判る。


 ドワーフは愚直すぎるところもあるが、仕事に関しては一流、熱心で真摯に取り組むという。

 店はボロだが置いてある装備はどれも素晴らしいものなのはよく判る。


 それは作りが細かいとか研ぎ澄まされている武器の数々とか、そういった面もそうだが、商品ひとつひとつホコリ一つ残ってないほどにピカピカで、手入れも行き届いているのも評価出来るポイントの一つだ。


 作りに手抜きも感じられない。素人が何をという者もいるかもしれないが、素人にもわかるぐらい素晴らしいというのは重要だろう。


「メリッサは何か欲しいのはないか? 武器でいいのがあったら選んでいいぞ」


 俺がそう告げると、え!? と随分と驚いてる様子だ。

 だが今回みたいなこともあるしな。護身用として何かもっておくのもいいだろ。

 

 防具に関しては心配してないけどな。彼女に貸してるミラージュドレスは防具としても中々優秀だ。

 

 防御力もだが、特殊効果として敵意を向けられると全身が霞んだように見えるようになり攻撃を当てられにくくする。


 しかしこんな効果があるならさっきの連中でも発揮されればいいのに……とも思ったが、あの連中は彼女に敵意はもってなかっただろうからな。


 好意はもっていたんだろうが。一方的で歪んだ感じの。


「何か使えそうな武器があるならみておくといい」


「いや、ですが流石それは申し訳なく思います。ただでさえご主人様は私の為に資金を集めて下さっているのに――」


 俺がメリッサに何か適当に選んでおいて貰おうと伝えると、また随分申し訳無さそうな顔をしているな。


「別にそれぐらいでどうにかなるほどお金がないわけでもないしな。ここで買う分ぐらいはすぐにでも稼いでみせるさ」

 

 あまり気遣いをかけないよう、優しく微笑んで伝えるが、まだちょっと躊躇してる風でもあるな。 

 謙虚というかなんというか――


「査定終わったぞ」


 うん? もう終わったか意外と早かったな。


 俺はメリッサのことは取り敢えず脇においておいて、カウンターまで近づく。

 するとドワーフの店主が説明してくれた。


「この辺りの装備品は大分傷んでるからあまり値はつけられねぇな、まぁ全部合わせて一〇〇〇ゴルドといったところだ。こっちに関しては手入れがよく行き届いているな。内訳はこの紙をみてみてくれ。とりあえず全部で八〇〇〇ゴルドだ」


 その金額に俺は目を丸くさせてしまった。いや値段がではなく、メリッサの鑑定の正確さにだ。商人の奴隷だっただけあるといっていいレベルか?


 というかこれだと恐らく彼女はチェッカー(鑑定士)の資格があるのではないかと思える。

 チェッカーはゲームでは上位職にあたるジョブで、生産系のドラッガーかスミスを経験しておく必要はあったが――とりあえず今度機会があったら確認しないとな。


「どうした呆けた顔して?」


「あ、あぁ悪い。ちょっとな。いや、金額はそれでいい、頼むよ。ところで帰還の玉は買い取っているか?」


「帰還の玉? それは俺の領分じゃないな。魔導器は専門の店がある。そこで訊いてみるといいだろ」


「そうか。いい店は知っているか?」


 メリッサに聞けば教えてくれるかもしれないが、まぁ折角だ。


「だったらエリンギの魔導店だな。寧ろこの街ならそこ以外は行かないほうがいい。値段が高い癖に質が悪いのばかりだからな」


「そうかありがとう」


「地図はいるか? 必要なら描くぞ」


 ドワーフが見た目の態度とは裏腹に良い人だった。相変わらず口調や顔はムスッとしてる感じなんだけどな。

 ギャップが凄いぞ。


「あ、ご主人様その店の場所なら私が判ります」


 やっぱりメリッサが知ってたか。しかし優秀だな。


「どうやら彼女が道は知ってるようだから大丈夫だ」


 俺がそう伝えると、そうか、とだけ返してきた。

 まぁこのぶっきらぼうさも慣れてくると可愛らしくもあるな。


「ところで……そういえば俺はヒットというんだが名前を訊いても?」

「ドワンだ」


「そうかドワン。今後も利用させてもらおうと思うから宜しくな」


「あぁ客ならいつだって大歓迎だ」


「うん。それでドワン、彼女に何かいい武器はないかな? 護身用として考えてるんだが」


 するとメリッサが、え!? と驚きの声を上げたが、放っておくと決めそうにないしな。


「彼女にか? そうだな。嬢ちゃん、武器を扱った事は?」


「そ、それは、その。訓練用の剣で嗜む程度は――」


 訓練用の剣? 奴隷というのは剣術も覚えさせられるのか? それともトルネロって商人が護衛にも役立って貰おうとしてたんだろうか?


「そうか。実戦経験はないんだな?」


「ありません。基本的な型を覚えたぐらいです」


 するとドワンは何も言わず壁際に展示してあった細身の剣を一本取ってきた。


「ウィンドエストックだ。エストックはそれ自体がそこまで重い武器でもないが、これはそれに魔鉱石も組み合わせて作成したもんだ。羽のように軽いのが特徴だな。後は魔法効果として魔力を込めれば突くときに風の力が加わって射程が伸びる」


 なるほど。流石に良さげなのを選んでくるな。それに細剣の類は生産系でも装備は出来た。ゲームの話ではあるが、持っていて損はないだろう。

 

「どうだ? メリッサもちょっと振ってみたら?」

 

 いいのですか? と確認されたから俺は首肯する。


「あ、本当にすごく軽い。これなら私にも使えそうですが――」


 語尾が弱いな。あの目は、まぁそうか値段ってことだよな。


「これを買おうかとは思うが幾らだ?」


「あぁ、まぁそうだな一五〇〇〇ゴルドでいい」


 一五〇〇〇か。まぁそれぐらいするのかな? 実はゲームでは俺が使わないタイプの武器だったから相場はわからないが、と思ってたら、え!? てメリッサが驚きの声を上げたな。


「なんだ高いのか?」


 一応俺はドワンに聞こえないようメリッサに耳打ちする。


「逆です! 全然安いんです! 私の見立てだとこの作りと素材で言えば最低でも六〇〇〇〇ゴルドはしますよ!」


 なんだ安いのか。それなら問題ないがそれにしても半額以下とはな。


「判った、それ貰うよ。これは代金だ」

「あぁ早速ありがとうな」


「いやこっちこそいい買い物だと思ってる。ただ、これでやっていけるのか?」


 なんとなくメリッサのいっていた金額が気になって尋ねてみる。


「まぁぎりぎりかな。だが俺にとっては折角の装備が誰にも買われず埃を被ったままってのが一番こたえるからな」


 なるほどな。それで結構思い切った金額にしているわけか。税金が上がって、どこもどれだけ搾取出来るかにやっきになってると聞くが、そう考えると確かにメリッサの言うとおりここはかなりいい店に思える。見た目ぼろいけど。


「ほらメリッサ。これを使ってくれ」

「ほ、本当に宜しいのですか?」

「俺がいいっていってるんだ。そういう時は遠慮せずに貰ってくれ」


 俺がそこまで伝えると、メリッサは深々と頭を下げて。


「判りました。ご主人様より賜ったこの武器、私の生涯の宝とさせて頂きます」


 いや――だからそれはちょっと大げさなんだよな。それに宝扱いされても困る。護身用なんだから。


「ところであんたその身形からして冒険者だろ?」


 そろそろ出ようかなと思ったところでドワンがそんな事を訊いてきたな。


「あぁそうだ、判るか?」


「そりゃあな。まぁそもそもこんなとこまで来るのは冒険者ぐらいだしな。それにヒットといったか。あんたかなりのランクの冒険者だろ? 装備もかなりいいもんを身につけてるしな」


 どうしよう。まだ登録したてのビギナーですとは言い出しにくい感じだ。

 それにしても流石こういう店を経営してるだけあって、装備を見る目は養われているようだな。


「まあその辺は想像に任せるよ。それで何かあるのかな?」


 なんとなく言い方から、ただ冒険者かどうか確認するためってわけでもなさそうだ。


「ああそうだ。実は五日前にギルドに鉄鉱石と火と地の魔鉱石を運んでもらうようお願いしていたんだが、それから無しの礫でな。そろそろストックも切れそうで困ってるんだ。暇があったらでいいから確認してみてもらってもいいか?」


 なるほど。依頼をしたけど中々達成されないって事か。

 それにしても皆金が欲しいって割に仕事が雑だな。


「判った、伝えておく。しかし冒険者にそういうものも依頼するんだな。その辺は商人ギルドの領分かと思ったが」


「確かに前は商人ギルドを通したりして運んで貰ってたがな。ここのところは商人が全員ボンゴルの店の依頼ばかり優先させちまっててこっちには全く回ってこねぇ。だから冒険者ギルドに頼んだんだけどな」


 あのボンゴルか……全く厄介そうなやつだ。


「それは大変だな。判った。でも暇な時とはいってるが大丈夫なのか?」


「まぁ後七日ぐらいなら大丈夫だろう。ただ早ければ早いほうがいいな」


「判った。俺は明日の朝は依頼で出てしまうが、夕方に戻った時にでも聞いてみるよ」


「助かる。その分今度何かサービスするぜ」


 こういう話だけ聞いてる分には中々いい店主なんだがな。

 結局顔は全くかわらずムスッとしたままだった。


 まぁいいか。俺とメリッサはドワンに別れを告げ店を後にした――



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