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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第105話 ハイキャンセラーの力

「さてと、てめぇはさっさと潰れて、死ね!」


 全てが終了した時、俺の視界に飛び込んできたのはジュウザの足の裏だった。

 どうやら俺の頭は、危うく潰されるところだったようだ。

 

 折角ハイキャンセラーというジョブを手にしたというのに、いきなり殺されたのではたまったものではない。


 しかし予想以上に気持ちは落ち着いている。

 ただ、このままでは身体が動かないのは確かだ。

 なのでキャンセルし、更に俺を踏みつぶそうとしたジュウザの行動もキャンセルする。


「ん?」


 自分の行動が中断され、不思議そうな顔をしているな。

 まさか俺が動けると思っていなかったのか、キャンセルへの警戒はなかったのだろう。


 そして俺が跳ねるようにして立ち上がると、そこでようやくジュウザが反応を見せる。


「おいてめぇ! なんで動け――」


 しかしこんな奴の話を聞いている場合ではないので、即行でステップキャンセルを使用し、カラーナの下へ移動した。


「な!? なんだそりゃ、あ、さては移動するスキルか? てか、だからてめぇは何で動けんだこら!」


 ジュウザの叫ぶような声と、駆ける音が聞こえてくるが、カラーナを担いでそこから更にキャンセルでセイラの下へ移動し、彼女も担いでアンジェが下敷きになっている建物をみやる。

 そしてジュウザから見た動線上に、仕掛けを三つ設置した後、アンジェの下まで移動する。


 どこへいきやがった! とジュウザの猛る声が届くが、彼女たちの安否を確認するほうが大事だ。

 幸い建物もぼろぼろだったこともあって、家屋の下敷きと言っても身体は視認できる位置にあるし、それ自体でのダメージは低そうだった。


 俺は上にのってる瓦礫をどかし、アンジェを引き上げた。

 その所為でジュウザに気づかれたようで、奴は俺達の下へ向かってこようとしたが、キャンセルトラップ(設置型キャンセル)に引っかかり、その速さを生かしきれてない。


 新たに覚えたスキルの一つ、キャンセルトラップは、視界内で場所を指定し、触れたらその動作をキャンセルするトラップをしかけるものだ。


 だから例えば、走りながら俺の設置したトラップに触れたものは、走るという動作をやめて一瞬立ち止まる事になる。

 それから次の行動に移れるまでに、二秒程度掛かるからな。

 三個分を越えるのに必要な時間は六秒。


 地味なスキルだが、キャンセルトラップは魔法や攻撃系のスキルが通過しても発動するので、使いようによってはかなり役立つだろう。


 まぁそれはいいとして、アンジェは首の骨も折れていて、正直かなりダメージが大きいが息はある。


 これなら問題ない。

 おれはそこから更に、強化されたステップキャンセルで離れた位置まで移動する。


 また消えやがった! なんてマヌケな声が聞こえるが、あいつは全員元の状態に戻してからだ。

 俺は三人にそれぞれ、ダメージキャンセルを掛けてやる。


「え? あれ? ボ、ボス! え? どないなっとんのや……」

「ヒ、ヒットか? 確か私は奴の攻撃を受けたはずだが……」

「……回復、してる――」


 三人共不思議そうな顔で呆けてるな。

 まぁでもうまくいってよかった。


 これはその名の通り、受けていたダメージをキャンセル出来るスキルだ。

 通常の怪我程度で、それほど時間が立ってないものなら、ダメージをなかった事にできる。


 しかも一瞬で、全快に回復させるので、下手な回復魔法より効果は絶大だ。

 勿論俺が復活出来たのも、このスキルのおかげだけどな。

  

 ただ、切断された腕など損壊部位の場合は、その部分のみのキャンセルになってしまう。

 そして回復スキルとしてはかなり強力なのだが、同じ相手には次の使用までにリスクとして待ち時間が設けられる。


 どの程度かは怪我によって変わるが、俺で二時間。

 アンジェ、カラーナ、セイラで五時間だ。

 

 どうやら第三者に対しての方がリスクが大きいようだな。


 で、三人共説明が欲しいみたいな顔をしてるので俺は口を開き。


「あまり時間ないから簡単に、皆の傷は俺の新しいスキルで癒やした」


「え? い、癒やした? ヒットは治療魔法が使えるということか? いや、しかしこんなすぐに回復できる魔法など――」


 アンジェが不可解といった顔を見せるが、そこはもう納得してもらうしかない。


「俺の場合はそれが出来る。ただし一度使用すると暫くは使えない。そこは心に留めておいて欲しい」


「……なんか凄すぎて頭こんがらがりそうやけど判ったわ。でもあいつどうすんねん」


「それなんだが――」


 俺が三人にそれを説明すると目を丸くさせながら、そんな事が可能なのか? と訊いてくるが問題ない事を説明。

 

「おらぁ! みつけたぞこらぁ!」

 

 お誂え向きにやってきたな。

 話を終えた三人には、出番が来るまでは待っててもらい、俺はステップキャンセルで、近づいてくるジュウザの斜め前方まで移動する。


 彼我の距離は二〇メートル程度だ。


「てめぇ、それは移動のスキルだろ? ちょこまか移動してるのはいいが、それを打破する手は既に知ってんだよ!」


「そうか、だったらやってみろ」


 言って俺は視線をジュウザの横に向けキャンセルを発動。

 馬鹿が! と声を上げ、ジュウザが派手に攻撃を空振りした。 

 全くどっちが馬鹿なんだか。

 

 そもそも今俺が移動したのは背中側。

 キャンセルが強化されたことでステップキャンセルも、視た場所ではなく、半径五〇〇メートル以内の脳内で指定した場所に移動できるようになったんだよ。


 しかも今度は上への移動も可能になってる。まぁこれは、自分が跳躍できる高さまでが限界だけどな。

 それでもかなり便利にはなったな。

 

 後は相手も視認できなきゃ看破出来ないわけだし、このまま視られないよう視界の外側を移動すればいいだけだ。


 さて、俺は双剣で新たに覚えた武器スキルである卍スライサーを隙だらけのジュウザの背中に喰らわせる。


 ハイキャンセラーになったことで、使用可能な武器スキルも増えた。

 卍スライサーはその名の通り、双剣で卍を描くように斬りつけるスキルで威力が高い。

 

 だが、流石にこれ一発じゃダメージはないか。

 そこで俺は、このスキルにクイックキャンセルを組み合わせる。

 新スキルのクイックキャンセルは、攻撃専用スキルで、行った攻撃を少し前の状態に戻すことが出来る。


 今までのキャンセルは、構えの状態などに戻すというものだったが、クイックキャンセルの場合、例えば剣で相手を斬った場合、斬った直前の振りの動作まで戻すわけだ。


 これを上手く使うことで、マシンガンの如き攻撃の連射が可能になる。

 ただし連続使用の場合、繰り返すごとに体力の消費は倍になる。

 俺の場合、ジョブが変わった効果で体力や膂力なんかもかなり上がってるようだが、それでも一〇回が限度か。


 だがまぁ、折角だから五連続の卍スライサーを試してみるが……相手がこの状態のままだと、一応傷は付けることができたが、やはり致命傷とまでは行かないか。


「くそ! どこにいやがる!」


 いや凄い近くにいるんだがな。顔の動きに合わせてキャンセル移動し、視界から外れてるだけだ。

 しかし致命傷でないとはいえ、一応は裂傷を与えているんだが、痛がる様子は全くないか。

 痛覚遮断といっていたから、恐らくそれが影響してるんだろ。


 正直このままだと、非効率的だし面白みもない。

 だから俺はこいつから少し離れた横側に移動し声を上げる。


「俺はここだぞグズ。そんな姿になっても俺を捉えることすら出来ないのかよマヌケ」


「……てめぇ――だったら今すぐ決めてやるよ! 俺が本気でテメェを殴れば、一発で骨も残らない程に粉砕できるんだからな!」


 ふむ、確かにその言葉に間違いはないだろうな。

 今のこいつの怪力ならまともに喰らえば一溜まりもない。

 ハイキャンセラーになったといっても、化け物級に身体能力が上がったってわけじゃないからな。


 だけど――


「さぁ消し飛べおらぁ!」


 奴の姿が一瞬視界から消えた。やはり本気になるととんでもない速さで動くことが可能なようだな。


 ただどんなに速くてもだ。


「へ?」


 俺の目と鼻の先で、間抜けな顔を見せジュウザが動きを止めた。

 トラップを周囲に設置しておいたからな。

 いくら早く動こうが、それに足を踏み入れたら一瞬動きは止まる。


 そうすればあとはだ。


――キャンセル。


「な、なんだ? 何をしたんだてめぇ!」


「さぁ? 何をしたんだろうな? ところでどうした? 俺を粉々に粉砕するんじゃなかったのか?」


 俺がそう言うと、思い出したように俺を睨めつけ、当然だ! 死ね! なんていいながらその拳を振るってきた、が。


――ポカッ。


 そんな、とてもとても人体など破壊できなさそうな、軽い拳の音が俺の耳に届く。

 当然だが、俺はまったくもって無事。破壊されることもなければ怪我を負うこともない。

 平然としてその場に立ち続けている。


 寧ろジュウザの方が、思考が追いついていないのか、目を白黒させて戸惑っている様子。

 そして自分の腕を見て、その後身体を確認した。


「も、戻ってる?」

「あぁ戻ってるな」

「な、なんで?」

「さぁ? なんでだろうな?」


 そうとぼけてはいるが、勿論これは俺のキャンセルで起こしたこと。

 新しいスキルに状態キャンセルが加わり、これにより毒などの治療も可能になったが、これは回復だけではなく、相手が魔法やスキルで強化している場合、それもキャンセルして元の状態に戻すことが出来る。


 尤もこれだって、しっかりリスクは有り、同じ相手への再利用はキャンセルした状態が強力であればあるほど、再使用までに要する時間は長くなる。


 だからジュウザに対しても、後一時間は状態キャンセルの再使用が出来ない。

 わけだが、そんなのはもう全く問題ない。

 何故なら――


「さて、確かお前。一度スペシャルスキルを使ったら、もう暫く調香できないんだったよな?」


 俺はジュウザの目の前で拳を鳴らしながら、そう問いかける。

 もうここまできたら、ガイドの目があろうと関係がないな。


「え、いや、その……」


 うん、ジュウザが顔中から冷たそうな汗を吹き出し、後退りしていく。


「シュテルケ――」


 お? 俺の身体が淡い光を発し始めたな。

 一顧すると後ろには三人の姿。

 ジュウザが元に戻ったのを見て、予定通り来てくれたみたいだ。


 そしてこの光はセイラの初級強化魔法に寄るもの。

 おかげで腕力が上昇し、これで準備が整ったわけで。


「さてジュウザ。そういえばお前、顔にはすごく自信があるんだっけ?」


「ま、待て、なにをするつもりなのかな? い、嫌だなぁ。あ! そうだ! 実は僕も伯爵には恨みがあってね! 良かったら一緒に協力して――」


 いや、もう香りの効果もないし、そういうのマジで――


「いらねぇんだよ糞虫がぁあああああ!」

「ぶふうぅううおおおぉおおお!」


 俺の振るった拳に、奴の顔の感触が纏わりつく、そして当然だが、こんな一発程度で終わらせるつもりもなく。


「次はアンジェの分!」

「ぐぶうううぅうおおお!」

 

 ステップキャンセルで反対側に移動しての殴打! 更にふらつくこいつに――


「これはセイラの分! そしてカラーナの分!」


「ぐぼぅ! げぼらぁ!」


 俺の右フックで白歯が飛散し、更に続いてのアッパーで顎が砕ける。

 だが、まだ終わりじゃない。


「そして貴様に裏切られたシャドウキャットの分! まとめていくぜ!」


 右ストレート【キャンセル】左フック【キャンセル】左ストレート【キャンセル】右フック【キャンセル】右アッパー【キャンセル】左アッパー【キャンセル】スマッシュ【キャンセル】フリッカージャブ【キャンセル】デンプシー【キャンセル】!


「がぼぉ! げぼぉ! ぐぼぉ! ぐはあぁあぁあああ!」


 俺の最後の右フックを喰らい、流石に耐え切れずジュウザが見事に吹っ飛んでいく。


「あ、あぁああぁああ、ぼぐ、ぼぐぅのが、お」


 セイラの強化魔法の効果もあってか、相当にダメージがでかいな。 

 もう元の顔がどうだったかわからないぐらいボコボコになってるが、まだ俺が終わったにすぎないからな。


「ふん、貴様の心を映した素晴らしい顔になったじゃないか」

「……無様」

 

「あ、あぁ、ごでいじょう、な、に――」


「せーの!」


 アンジェの掛け声でセイラとアンジェが同時に腰を回し、ふらふらになって立ち上がったジュウザの顔面を挟むような回し蹴りが炸裂。


「ぐはぁあああああああ!」


 う~ん、ふたりとも示し合わせたような華麗な動きで元の体勢に戻り、アンジェは満足そうに髪を掻きあげた。


 そしてジュウザはガクリと膝を折り、白目を剥いて意識を失ったか。

 だが……まだ大事な事が残っている。

 だから俺は、ジュウザに向けてキャンセルを使用しダメージを回復させた。


「はっ! え? 俺の顔……元に戻っ、て?」


「当然だ。俺が治療したんだからな。これで、いいんだろカラーナ?」


「……ボスありがとな」


 そういってカラーナがジュウザに向けて近づいていく。

 その顔は――決意に満ちた真剣なものだ。


「ジュウザ。お前のその腰にある剣は飾りじゃないんだろ? だったら、カラーナと戦え。その為に回復してやったんだからな」


「な、何だって? 僕と、カラーナが?」


「そや。ボスの能力を知ってな、うちから頼んだんや。あんたはうちの手でケリを付けたかったかんや」


「……僕と? はは、なんだよまだ恨んでるの?」


「当たり前やろ! なにふざけたこと抜かしてんねん! さぁとっととその剣を抜いてうちと――」


「ごめんなさいいぃいいいいいいい!」


「……は?」


 カラーナが驚いたような戸惑ってるような、そんな声を発す。

 目の前で、突然土下座されたからな……ジュウザはもう恥も外聞もなく、地べたに額を擦りつけ、コメツキバッタのごとく勢いでペコペコと頭を下げる。


「僕が悪かった! 本当は僕だって裏切る気なんてなかったんだ! ただ命令されて仕方なく――反省してる! もう二度とこんな真似はしない! 君の前からも姿を消す! だから命だけは! 命だけは見逃してくださいぃいいいいいい!」


「…………」

「…………」

「…………」


 あまりの無様さに、全員が呆れたような顔を見せ言葉も無いって感じか。


「……うちと闘う気はないんか?」


「あ、あるわけないだろ! 僕なんて香りが使えなければ、本当にか弱い男さ。オーグ一匹にも勝てないような雑魚でしかないんだ! 君と戦ったって勝てるわけ無いだろ! もう僕にはこうやって謝って許しを乞うしかないんだよ!」

 

「……はぁ、なんかもうえぇわ。あんたみとったら恨みも何も消え去ったわ。無様やなほんま」


 土下座の姿勢を保つジュウザを見下ろしながら、心から呆れたように言い捨て、そしてカラーナはくるりとジュウザに背中を見せる。


 その瞬間――


「な~んちゃって! 全く甘いんだよ! てめぇを人質に取ってこの僕がぁあぁあ!」


「……どうせそんなこったろうと思ったわ」


 立ち上がり、曲刀を振り上げたジュウザに背中を見せたまま、溜息混じりにカラーナが言う。

 そしてカラーナの手からは――武器が一つ消えており。


「ぎ、ぎいやぁああぁああぁあ!」


 戻ってきたムーランダガーに刈られ、ジュウザの曲刀が手首ごとポトリと地面に落ちた。

 悲鳴を上げるジュウザをカラーナが振り返り、ムーランダガーを見事キャッチし言った。


「ほんま屑野郎のままでよかったわ。これで心置きなくーーーー!」


 カラーナが身体を沈め、左手のソードブレイカーを、ジュウザの股下から思いっきり突き上げる。


「あっぎいいいぃいいいぃいいい!」


 グチャリと、男の大事なそれが完全に破壊された音が耳に届き、直後前屈みになったジュウザの首に、カラーナがムーランダガーを振り下ろした。


 その一撃を持って絶命の声を上げ、ジュウザは無様な姿を晒しながら地面に倒れていった――

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