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空色の瞳  作者: 氷中冴樹
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最終章

    再会


 大気圏外航空機の特別席で、少女の空色の瞳が、生意気な顔で少年を睨んでいた。

「あのねぇー、誰のおかげで助かったのか、よーく考えて返事しなさいよッ!」

 睨まれた黒髪の少年は、髪と同じ色の瞳で少女を見おろしながら、これも意地の悪い口調で言い返す。

「だいたい誰のせいで、こんなことになったんだと思っているんだ!?少しは、反省しろよなーぁッ!!」

 少年の頭から顔に至るまで、そのほとんどが治療用の白いフィルムで覆われていて、片手も白いテープで固定されていた。

 栗色の髪と、首から上の頭だけの姿でありながら、ジェシカはそんなコータに向かって、思いきり舌を出す。

「ふんッ!いくらそんな顔をしても、体がないんじゃ恐くも何ともないやッ!だいたい、その体だって僕のお父さんや、お祖父様達が協力してくれなきゃ、できないんだぞ!その辺ことが、わかっているのかァーッ!?」

 コータは、自分が膝の上に抱えた少女の顔に向かって、うっかり白いテープで固定された腕を振り上げようとして、思わず顔をしかめる。

 そんな少年の態度に、まるで反省の様子が無い少女は、自分の明るい空色の瞳を隣りの座席に向けた。

「あーら、命があっただけ、よかったじゃないのねーェ!そうでしょぅ、お姉さんッ!?」

 同意を求められて、少年と同様に体中を白いフィルムで覆われた上に、黒髪も短くなった若い女性は苦笑する。

 自分の態度に、首だけの少女が機嫌を悪くしたことを察して、マリコはその黒い瞳をチラリと横に向けた。

「まッ、とりあえず、みんなが無事で何よりでした!今度こそ間違いなく、軌道ステーション・オアシスに到着します。コータ君の御両親も、御二人の父上も、お待ちかねですよ」

 座席に脇に立っていた機長は、そう言って小さな茶色い瞳で笑う。

 その機長の片手がしっかりと、黒髪の若い女性の肩に回っていることに、ジェシカが気付かぬ訳はなかった。

「まったく!機長がこんなところで油を売っていて、また乗っ取られたらどうするの!?」

 首だけの少女のその程度の皮肉で、この機長が動じるはずもない。

 自分もまた顔や、制服に隠れた体のあちこちに、白いフィルムを張り付けていながら、セレイアスは涼しい顔で肩をすくめて見せた。

「なに、コクピットには、世界警察から引き抜いた優秀なパイロットがいますからね。完全手動操縦でも、心配ありませんよ!」

「何かというとすぐに銃を撃つ、おっかない人でしょう?だから、心配なのよ!」

 少女の生意気で可愛気のない一言に、今度は機長も苦笑いするしかない。

 その時、コクピットで一人操縦に専念する大柄な女性副操縦士は、派手にクシャミをしていた。彼女は、クシャミが自分の悪口を言われたために起こるという、古い言伝えを知らなかったらしい。

 知らないからこそ、世界警察の現役を引退した女性は自分のクシャミの責任を、その場にいない機長に押し付けていた。何しろ、客室の様子を見に行ったきり帰って来ないのだから、彼女が責任転嫁をしたくなるのも無理はない。

「二人が座るように設定されている場所なんだから、一人足りないと風通しが良すぎて、体調が狂っちゃうわョ!これで操縦ミスしても、私の責任じゃありませんからね!!」

 文句を言ながらも、彼女の操縦に不安気なところは、まったくなかった。

 大気圏外航空機は地球を下に見ながら、星空を穏やかに進んでいる。その正確な進路の先に、軌道ステーションの姿が見え始めていた。

 軌道ステーション・オアシスには、コータの両親を初めとして、多くの軌道開発関係者が集まっている。

 今回の事件で、かつてゴドワナ教授が警告した、月の原住生命体の存在が明らかとなり、その対策のための集まりでもあった。相手が高度に知的な精神体だということは、今後の展開の難しさを感じさせるのに、充分だっただろう。

 当然のことだったが、ゴドワナ教授は冷凍監禁から解放され、その名誉を回復されていた。そして、コータの両親や祖父の企業の援助で、ジェシカの体を再生する作業を、軌道基地オリンポスで行なうことになっている。

 月の原住生命体ジョウガの問題のためだけなら、コータはどんなに両親に誘われようと、二度とスペース・クラフトに乗るつもりはなかった。ただ、生意気で可愛気のない女の子の、元の姿を取り戻すために必要と言われると、話は別になる。両親の見え透いた口実とわかっていても、彼に断わることはできなかった。

「そうそう、忘れてた……」

 言いながら、黒髪の少年はポケットから、赤い大きなリボンを取り出す。

 自分の膝の上に抱いた少女の、栗色の髪を軽くまとめると、コータはそのリボンで優しく留めた。

「アタシ、これ子供っぽくて嫌いだわ!」

 ジェシカは、少年にされるがままだということに、大いに気を悪くしたようだ。

 不満そうな少女の空色の瞳に、コータは自分の黒い瞳を向けると、穏やかに微笑んで見せる。

「やっぱり、君にはこれがいちばん良く似合う。その空色の瞳と、栗色の髪に映えて、とってもきれいだよ……」

 少年の、なんのてらいもない素直な言葉に、少女は何か言おうとして口を開きかけたが、結局は何も言わずにうつ向いた。

 自分の妹と言うべき少女が、わずかに顔を赤らめたことを、若い女性の黒い瞳が、嬉しそうに見つめている。その傍らで、大人の男性も瞳と同じ色の顎髭を撫でながら、微笑みを浮かべていた。

「皆様、お疲れさまでした。間もなく、軌道ステーション・オアシスに到着となります。機長!いらっしゃらないと、勝手にオアシスに突っ込みますよ!いいですか!?さっさと

戻って下さい!!繰り返します……」

 聞き覚えのある女性のアナウンスが機内に流れ、子供達の無遠慮な笑い声と若い女性の忍び笑いが、やや小柄な機長を赤面させる。

 そそくさとコクピットに戻る機長の背中を、笑いながら見送ると、コータは視線を窓の外に向けた。

 月との中間点である、軌道ステーションに近付くに連れて、当然だが月は異様に大きく見えて来る。表面には、六角形を連ねた通称ハニカム・ホームと呼ばれる居住施設が、まるで蜂の巣のように広がっていた。

 その中心に、巨大な女王蜂の影が見えたような気がしたのは、少年の子供らしい錯覚だったのかも知れない。


END




とにかく、終わりました!長くて、このサイトのシステムも良く判らなくて、ちゃんと連載長編小説として成立しているかも疑問ですが、おかしなところはこのサイト初心者ということで、お許し下さい。今さらですが、これはコミケット販売用として、オフセット印刷本があります。それでも良いから、欲しいという方がいらっしゃいましたら、遠慮無くメールか『あんのん・http://ryuproj.com/cweb/site/aonow』サイトの書き込みからお申し出下さい。それにしても、当初の予定通り、少年少女SF宇宙冒険小説になっていましたでしょうか?それだけが、ちょっと気掛かりです。それでは、また!

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