四話 もしもの時には勇者セット!
「う~、ごめんなさい、私のせいで……」
「いいって、別に気にしなくていいさ。大事なペンダントだったんだろ?」
「……はい」
俺たちは、川に落ちて流されたあと、なんとか陸に上がってきた。
日もすっかり落ちて、辺りは真っ暗だ。
「……とにかく、暖と明かりを確保しないとな」
俺達の立っている岸部からは見えるのは、黒一色。
本来なら木や草があるのだろうが、月も出ていない今では、黒としか認識できないのだ。
というか、1m先も見えない。
「荷物も流されっちまったし、これ結構ヤバいよな?」
「は、はい……ホントにすいません!!!」
「まぁ、こうなったからには仕方ねぇよ」
暗闇の向こうから、サクラが謝ってくる。
が、姿は見えない。
「あ、あの、明かりと暖なら、燃えるものさえあれば、私の魔術で出来ますよ?」
ちなみに、魔法は魔族が、魔術は人間が使うらしい。
両方とも詠唱や呪文やらは必要なく、イメージで行う。
「そうか、なら、岸部に転がってるのだけでも、何とかなりそうだな」
俺はその辺りに落ちている木々や草を広い集める。
あまり見えないので、ほぼ手探りだ。
「サクラ、ここに置いてあるから、こっちに来てくれ」
「はい、えっとぉ、この辺から声がしたはず……」
「こっちだこっち」
俺は、声をだしながら、サクラの声のした方へと手を伸ばす。
そうすれば、彼女もわかりやすくていいだろうと思っての行動だ。
「ひゃうっ……!?」
すると、俺の手が、やわらかいものに触れた。
丸い形のそれが、二回揉んで、サクラの胸だと気付く。
「ひゃっ!? ゆ、勇者様、そんな大胆な……、それに今は非常時ですし…また、別の機会に……」
「あ、いや、違うんだ! ごめん……!!」
俺は慌てて手を離した。
と同時に、隣にサクラが座りこむのがわかった。
「い、いえ、気にしないでください! 事故ですから! そう事故!!」
サクラも慌てた様子で言葉を返してくる。
やっちまったぜおい。
これから気まずくなるよなぁ……
「――で、では、行きます……ファイヤァ!」
サクラの声に呼応し、掲げた手のひらからは青白く発光する円形の陣が現れた。
魔術陣だ。
補足を入れると、世の中には魔術と魔法が存在し、魔術は人間、魔法は魔族が使うのだとか。
二つにほとんど違いはなく、また、呪文なども自由で、ほとんどイメージだけで形作って使っている。
といったところだろうか。
サクラに聞いたところではそのくらいだった気がする。
「火が点きました」
辺りは少し明るくなり、隣にいるサクラの顔がぼんやりとだが見える様になった。
「ありがとう、サクラ。 えっと……、そのさっきはごめんな?」
「いえ、気にしないでください。 事故ですから」
口調は落ち着いているが、内心ではそうでないらしい。
地面につけられた指が高速で円を描いている。
……って、おい! めっちゃ砂埃舞うんですけど!?
しかも、俺の方にだけ!
「……にしても、これからどうしましょう?」
「あぁ、そうだな、――ここで一夜明かして、明日の朝に道を探そう。夜動くのは危険だしな」
体に着いた砂を軽く払いながら、俺は座りなおす。
「危険ですから、寝るのはやめておいた方がいいでしょうね。魔獣もいるかもしれませんし……」
「魔獣? 魔国とは友好なんじゃないのか?」
「全ての魔獣が魔国民じゃないんです。 知能の低い魔物は獣と同じで森に暮らし、人の言葉を理解しません。そういう魔物もいるんです」
「へぇー……あれ? じゃあ今結構危険じゃね?」
「……そうですね」
おいおいマジかよ。
旅に出てそうそう魔獣に食われましたじゃ、シャレになんねぇぞ。
……まぁ、嘆いてもしゃあないか。
「にしても寒いな……もうちょい燃やす物増やすか」
「あ、寒いなら服はありますよ? ほら、THE勇者セット!!」
「なんであるんだよッ!?」
「どうしても持ってきたくて……魔法で亜空間作ってその中にしまっておきました!」
「魔法の無駄遣いッ!!」
「でも、濡れたままの服よりましでしょう?」
俺は自分の体を見おろす。
確かに、服も水を吸っていて、そうそう乾きそうにない。
「……サクラも濡れたままだろ? 俺だけ着替えるってのも……」
「私は大丈夫ですよ? 水の精霊とは相性がいいですから体は冷えませんし」
「……分かった。 でも、今夜だけだからな! 朝になったら着替える!」
「えぇー……」
俺はサクラから勇者セットの服を受け取り、サクラから見えない位置で着替えていると、ふと疑問が浮かぶ。
「その亜空間に他のモノって入ってないのか?」
「えぇーっと……ショッ○ーセットに攻城戦用大砲、後は、魔国と共同開発した対超大型魔獣用の新型魔導砲ぐらいですかね?」
「物騒過ぎるだろッ!!」
てか、ショッ○―セットももって来てたのかよ。
「えぇ!? だって旅ですよ!? もしもの時はどうするんですか!!」
「姫様探すのにそんな〝もしも〟なんかあるわけな――」
俺の言葉の途中。
轟という腹の底に響く音が、俺の鼓膜を震わせた。
次に、左の森が炎に包まれ音の正体が明らかになる。
全長十m、牛のような頭を持った人型。
「……あったわ。もしものこと」
そして、そいつと目が合う。
「―――ッ!? 勇者様! 川へ飛び込んで!」
「へ?」
瞬間。
怪物の口元に赤色に発光した魔法陣が浮かんだ。
視線の先には俺。
吐き出された炎により、視界が赤に染まり、全身が熱を帯びる。
「勇者様――ッ!?」
サクラの悲鳴にも似た声が、俺の耳に届く。
……俺、ホントついてねぇな
諦めかけた俺に、聞こえた最後の音は、
『ぱっぱらぱー! 勇者バリヤーが発動するよ!』
……はぁ?
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