一話 おじいちゃんは大切に!
「いやぁ よく来てくださった、勇者殿。ささっ、こちらにお掛け下さい。」
「あ、あぁ、はい……」
白髪の老人には、安堵と期待の表情が浮かんでいた。
あの後俺は、一言もしゃべる暇なく、この部屋に連れてこられた。
その部屋は、赤のカーペットが一面に引かれ、壁は白で統一されている。
部屋の中央にはデーブルとソファーがあり、四方には置き物がまばらに置かれていた。
どれも一般庶民である俺の目には、豪華に映る。
「では、しばし待っていてくだされ、今お茶を入れさせて参りますので」
「あ、はい……」
老人は部屋から出ていき、俺は一人になった。
……さて
困惑は多くある、が、人間、理解不能が重なれば、一周回って冷静になるようだ。
と、言うわけで、状況を整理しよう。
俺は、高校生二年の八代 悠
成績は下から数えた方が早いくらい。
だが運動は得意だ。
なので、体育の成績はよかった。
友人にも恵まれ、クラスに気になる子がいて、楽しい日々を送っていたのだが、
朝起きていつも通り起きて準備を済まし、玄関開けたら、ここにいた。
バカみたいな話だが、事実だ。
本当に訳が分からない。
夢なんじゃないかと、何度頬をつねったが、痛いだけなので現実なのだろう、きっと。
この状況を、一番理解しやすい答えは、
「異世界召喚?」
他の可能性を考えるも、これよりしっくりくるものはない。
しかも、勇者殿って呼ばれてるし。
と、言うわけで、異世界召喚決定!
え?ノリが軽い?いいんだよ。
どうせあらすじ読んだから異世界召喚モノって知ってんだろ?(←メタ発言)
なんて事を考えてるうちに、老人がトレイを持って戻ってきた。
「おまたせしました、勇者殿。給仕の者も今は出払っておりまして……少々手間取りました」
「あ、いえ、お構いなく」
社交礼儀で返し、置かれたティーカップを口に運ぶ。
あ、普通においしい。
「あ、申し遅れましたな。私はギルバード・ ミクロネス。この国リーズベルト王国の軍事担当です」
「あぁ、ご丁寧にどうも。俺は八代・悠です」
座ったまま頭を下げる俺に対し、ギルバードさんは慌てた様子で、
「あ、頭をあげてくだされ勇者殿!あなた様は、いわばこの国の客人。頭を下げる必要なぞございませぬ!?」
どうやら、この国では頭を下げること日常的ではないらしい。
俺は頭を上げ、胸の内にある疑問を早く消化したくて言葉を紡ぐ。
「あのー、それで、俺は召喚されたんですよね? なら、その目的を聞かして頂きたいのですが……」
「あぁ、そうでしたな! ではお話しましょう」
ギルバードさんは、姿勢を正し、真剣な口調で話始めた。
「実は、勇者殿には、姫を連れ戻して欲しいのです」
「お姫様を?連れ去られたんですか?」
「あ、いやその……連れ去られたというか、連れ去ったというか……。これには深い訳がありまして」
「連れ去った?」
ギルバードさんは、つらつらと語り始めた。
「ことの始まりから語りましょう。すこし長くなりますが?よろしいですか?」
俺は、首を縦に一回振る。
「……三年前、私たちのリーズベルト王国と、魔王が支配する魔国が戦争をしていたのです。 一年に渡る戦争により兵は疲弊し、国力は衰えていきました」
うん。見事にファンタジーな異世界。
「もう勇者を召喚するしかないのでは、と皆が思い始めたその時、突然、姫様が……」
*
『ギル、ちょっと調子のってる魔王倒してくるわ。お父様にもそう伝えておいて』
*
「……といって城を飛び出してしまい、勇者召喚どころではなくなりました……」
言葉のニュアンスからすると、ちょっと散歩いって来る、のノリだったぞ!?
この世界の姫様は皆そうなのか?
「止めなかったんですか?」
「いえ、止めようとしたのですが、姫様は剣を片手に、馬も真っ青なほどの速さで、走りだしまして……」
「すげぇな、姫様!?」
思わずツッコム。
「そして一週間程しましたら、あの魔王に首輪をつけて帰ってこられたのです……」
「魔王に何したんだ姫様!?」
*
『あ、ただいま。ちょっと魔王を調きょ……手なずけてきたから、向こうはもう戦争する気ないみたいよ?あ、あと魔王私の部屋で飼うから』
『ご、ご主人様!飼うなんて、そんな事言われたら私……』
『ん?誰がしゃべっていいなんて言った?あとでお仕置きね』
『は、はい!喜んで!』
*
「ドSだな!姫様!そして、魔王はドMかよ!?」
てか、魔王って女?
「そうして、終戦へと向かっていったわけなんです」
「なんともまぁ、釈然としない終戦だなぁ……」
「いえ、平和になってさえくれたなら、それでいいんです。それが三年前。―――そして先月。今までおとなしくなさっていた姫様が……」
*
『あ、ギル?ちょっと旅に出てくるわ。無論、魔王も連れて』
『えッ!?聞いてませんよご主人様!? それに、いくら私がご主人様の奴隷といっても、一国の主として、まだやらなければいけないことが……』
『あー、大丈夫、大丈夫。うちの家臣もアンタの家臣も優秀だからなんとかしてくれるわ。……あと、誰がしゃべっていいなんて言った?』
『あ!? ごめんさい!ごめんなさい! お仕置きは、縛り上げですか?鞭打ちですか?それとも○○○【自主規制】ですか!?』
『んー、そうね……、まっ、旅に出てから決めましょう。んじゃ、ギル行ってきまーす』
『あ、ギルバード様、行ってきまs―――ッ!?ご、ご主人様!?鎖!鎖で引っ張らないください!―――あ、でも気持ちいいかも……』
*
「そんなやり取りのあと―――」
「馬も真っ青な速さで、走っていった。と?」
「はい……」
もう、なにもツッコムまい。
だが、魔王が末期なのは嫌なほど分かった。
「どうか!どうか勇者さま!姫様を連れ戻してはいただけませんか!? 兵も捜索に出させているのですが、みつからないのです!」
国の跡取りと、現一国の主が一か月も行方不明となれば、それは勇者にすがりたくもなるわな。
しかも、見つけたとしても、姫さん超チートだし……
「……わかりました。引き受けます」
まぁ、こんだけ頼まれたら、引き受けるしかないだろ。
それに、引き受けなきゃ物語がすすまん←(メタ発言)
「あ、ありがとうございます!! 実はそういってもらえると信じて、勇者殿の旅の仲間を連れてきているのでございます」
「おー、準備はやいな……、まぁ、早めに顔を合わせられるのは、いいことか」
「おい、入ってきていいですぞ」
ガチャリと、扉の音を立てて、部屋に入ってきたのは、
身長約150cm!
頭は白髪!
腰の角度は90度近く!
片手には杖!
そして、なにより、脚がぷるぷる震えてる!
「……ヨボヨボの、おじいちゃんじゃねぇかッ!!」
「何を言います!こう見えても、かつては凄腕剣士なのですぞ!?」
「お前ふざけんなよっ!? 〝かつては〟って言ったよな!? 今自分で言ったよな!? 今はどうなんだよ!今は!」
「……ただのヨボヨボのおじいちゃんです……」
「だろうな! つかお前、おじいちゃんに何させようとしてんだっ!!」
「……ふぉ、ふぉっ……だい、じょうぶじゃぞ……わかいの。…わしは、まだ、げんえきじゃ……」
「おいぼれてるヤツほど、そう言うんだよ!―――って、おい!まさか、仲間ってじいちゃんだけ!?」
「あ、いえ、もう一人、勇者殿を召喚した巫女が一緒についていきますよ?……介護役として(ボソッ」
「おい!今ボソッと、介護役って言ったよな!? 言ったよな!?」
「――では、勇者殿も疲れているでしょうから、お部屋に案内します。ほら、おじいちゃんも」
「……ふぉ、ふぉっ……わかいのは…せっかちで、いかん、のうぅ……」
「誰のせいで疲れたと思ってやがる……。てか、スルーすんな!」
こうして、俺の異世界召喚一日目が早くも終わろうといていた。
ちなみに、俺が部屋に帰ったのは、それから一時間後のことだ。
当てられた部屋が遠かったわけではない。
距離にしておよそ200m。
その長さをおじいちゃんは、ゆっくりと、ゆっくりと、息を切らしながら俺を送ってくれたのだ。
……なんと言うか、申し訳ない……。
おじいちゃんとギルバード(面倒だからもう、さん付けしない)が送ってくれたあと、俺はベットにダイブし、そのまま眠りについた。
意識が落ちる瞬間、瞼の裏に浮かんだのは、疲れ切った表情の、あの美少女だった。
はい!どーも浅野です!
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