未だ魔王倒されざる世界にて彼女は夢見る
思いつきから一週間せずに書き上げ。
展開早すぎとか理由付け弱いとか批判はあまりしないでください…
私は勇者になろう。魔王を倒し、真の勇者になって平和を取り戻す勇者になることこそがわたしの使命。
わたしは幼い頃、故郷を魔王の襲撃で失った。楽しく両親、兄弟姉妹と暮らしていた我が家は跡形もなく消え失せ、ただそこにあったのは、ただの、ただの更地。ただ、黒々とした家の柱だったと思しき炭となった棒のすこし立つ焼け野原だった。当然ながらそこからは生存者は見つからず。
おまけにどうやらここら一帯唯一の生存者らしい。
魔王は何がしたかったのだろう。なぜ私は生き残ったのだろう。
…前者については何らかの脅威が、おそらく有望な勇者候補がいたのか、ただの侵略かそれともコレクターである魔王のお眼鏡に叶う代物を見つけたのでは、と推測されている。この代物とは何も珍しい道具や魔具などだけではない。噂では珍しい才の持ち主などもいるらしいのだ。
…後者については、わからない。
ただの偶然なのか、それとも…
何か理由があったのか。
そして引き取られた小さな村。そこで平和な暮らしを…
だが悲劇は訪れる。魔の群に襲われたのだ。
もうダメだと絶望するわたしの前に現れたのは男の子。だけど彼は強くて、一人で大きい魔も10匹近くいる魔の群を倒し、追い払ったのだ。今思えば、それは一目惚れだったのだろう。
その少し年上に見えて、それでいてはるかに強い彼に憧れたのだ。
要するに一目惚れだ。
だが彼は行ってしまった。魔王を倒すために。
だが未だに魔王の被害は続いている。いや、ひどくなってさえいる。
結論を言おう。彼は失敗したのだ…
他の勇者と同じく…
だが、それでも夢見る勇者は現れ続ける。
理由は様々。
手柄をあげるために出立した王族、名を挙げるために出向いた没落貴族、神の加護を得たと信じる聖職者、義憤に駆られた若者、このままではと覚悟決めた農民。他にも様々なひとが千差万別の理由で持って立ち向かった。
そして死んだ。
魔族に殺され、運良く生き残ったものでも魔王に会えるのはほんの一握りにも満たない。
そしてそこで死ぬ。
なのに、なぜ止めようとしないのか。なぜ止まらないのか。
それはわからない。
魔王がいるから倒すのだろう。
そして、勇者になろう、そう決意した。
彼の弔い合戦、ではない。
だが必ず魔王を倒そう。
そう決意した。
そして、覚悟を決めた彼女。
相変わらず魔族の報は入ってくる。
だが彼女はひたすら励み続けた。
それでも、ふとあの勇者、彼女のことを救ってくれた勇者。魔物を倒し斃れた勇者。彼女が一目惚れしてしまった勇者。彼のことを思い出して胸が熱くなる。
だが、そうは簡単にはいかない。
これで幾度目だろうか。魔族の有力者と戦わなければならなくなった。
結論から言おう。
勝った。
彼女の心に傷跡を残して。
彼は言った。
なんだ?お前。本当に勇者候補なのか?魔王候補の間違いじゃないのか?
彼女は柄にもなく動揺した。
なぜだ。なぜそんなことを言われなければならない。私が、私こそが魔王を倒し真の勇者になるのだ。
そう誓ったはずなのに…
なぜだか、心が震えてしまった。
それはまるで、あの勇者を思い出してしまいかけた時のように…
だが彼女は必死に押し殺し、魔族を借り続けた。
…そして気づいた。
これは、この感情は、勇者へのこの感情は。一目惚れではなかったのかもしてない、と。
気づいてしまったのだ。
一度始まってしまった思考は止まらない。いくら心が、理性が、やめろと叫んでも、止まらない思考。
そして出た結論。私は恋なんてしていなかったのだ。
あのとき、救ってくれた優しい勇者。彼に恋なんてしてなかったのだ、と。
ヤメロヤメロと身体が叫ぶ。ヤメロヤメロと精神も叫ぶ。だが、走りだした思考が止まらない止められない。
では、この感情は何なのだろうか。
…自分でも分かった。
単なる憧れだ。
強者に対する。
さらに思考は続く。
あの時、勇者が助けてくれた時のあの感情は、実は、助けてくれた彼に対してだけではなく、あれだけの配下を持っていながら、自由にさせていられる力量を持つ魔王にも向けられていた。
持ち前の倫理観と過去の経験が気づくことを阻んだのだ。
そして、行き場の無い感情があの救ってくれた勇者に集約して、私は"恋に落ちた"のだろう。
…悪いことしちゃったかな。
そして、私の憧れは、真の理想は、「絶対的強者」未だに消滅せぬ「魔王」だ。
これまでの勇者は「魔族の殲滅」を目的として、その手段として「魔王を倒す」ことを選んだ。
だが、そんな悠長なやり方は私はしない。
「魔王を倒す」ことで「魔族を乗っ取る」のだ。幸い、魔王は堕ちてしまった元「ヒト」だと言われている。殲滅するよりも遥かに楽だろう。
私は魔王になろう。魔王を倒し、新たな魔王になって魔族に君臨する強者になることこそがわたしの理想。
この最後の部分が書きたかっただけなので、どうかご勘弁を。