表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

サイコロの『五』

作者: 浅川太郎

夜の街シリーズです。

立呑屋が流行ってる。

店によっては、女子大生のきれいどころを集めたような感もあり、こんなに不況になる前であれば、まるでスナックバーみたいなノリで、かつ値段も安いし、繁盛してた。

僕も、2、3の好みの娘もいて、その店に通ってた。

毎晩、いろんな客が来てた。

七割はサラリーマンだったように思う。

アルバイトの娘ともしゃべるし、シーズンであれば壁のテレビで野球中継もあって、隣の客とも話す。



中継も終わり、隣の客と、ストライクゾーンについて話した。

そして、「好みの女のストライクゾーン」

に話が移った。

彼は、サイコロの『五』を例にした。

彼にとっちゃ、真ん中の赤い丸‥‥麻雀のウーピンかも知れない‥‥愁いを帯びた、細身の女。どこか頼りなげで、どこか悲し気で、そんなんが、ストライクだそうだ。

そして右上の丸に「上品で賢い女」、左下が、品がなく、どこか汚れてて、頭もよくないのだが、それなりの魅力はあって、一度だけセックスしたい女。かえって、このゾーンに興奮すること、ありませんか、と聞かれた。

僕は曖昧に笑った。

左の上の丸は、青い目で金髪、もしくはエキゾチックな容姿の女。道理で、彼はこの店のアキナが目当てで通ってるんだ。


それから右下が、彼に言わせれば「雑」


。その時の気分とか、その時に好きな女優さんに似た女などが来る、という。

ずいぶんと勝手な言い草だなあと思いはしたが、笑いながら聞き流していた。

こちらの年齢によって、ゾーンの広さも変わってきますよねと、彼はなおも続けていた。



その時、ちょっとした事件があった。



ケイコが突然(のように思われた)泣き出し、店の外に出た。

加害者(?)と思われる客を見ると、労務者風であり、何かしら変な感じだった。さっき、どこかで人殺しでもやってきたようなイメージ‥‥

とにかく僕はケイコを追い、店外で、「何があった?だいじょうぶかい?」と問うた。

「いや‥‥、いいんです」


少し、涙も収まってきた。

「あの人に、何か言われたのか?」

「‥‥そんなん、‥‥違うんです」

「じゃあ、何だったん?」

「いいんです」

「あの人、君の親戚か何かかい?」

「違います」

彼女が連れ戻されるような場面を想像したのだ。

そこに、店のマネージャーも来た。

彼は無言で、煙草を吸うばかり。

彼女に聞いた。

「戻れるかい?」

「ええ、ありがとう。わたし、負けません」



ケイコは、美人でも、特に僕のタイプというわけでもなかったが、無理に言えば、僕の好きな女優さんの系列の容貌だった。


翌週、店を訪れたがケイコの姿はなく、その翌週も同様であった。

ケイコの友達とおぼしき麗奈に聞いてみた。

麗奈は茶髪で、美術専門スクールに通ってる。あの事件の夜にもいた。


ケイコはあれから、ここを辞めて他所の店でバイトとのこと。

麗奈と、いろいろ話した。

麗奈の好きなタイプは、決して僕のような《情熱家》ではないそうだ。

そうか、そんな印象だったのか‥‥


翌週、ケイコの勤めてる居酒屋に僕は顔を出した。

いらっしゃい、とともにケイコは僕ということが判ったのであろう、笑顔になり、「そうか、麗奈に聞いたのね?」


そして、その居酒屋に何回か通ううち、やがて、港の見下ろせるラブホに泊まることになった。


「なんで、僕とこうなったん」

「サイコロに『五』あるでしょ?あの時のあの客が左下。あなたが右の上に、いたの」




『ノラ猫』の逆バージョンですかねぇ。女の人は、どこまでも謎です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  サイコロの5の目をストライクゾーンに見立てるとは、面白いですね!オチが特に好きです(笑)。  それにしても、浅川さんのお話にはどうも夜の街系の話が多いですね…?  
2011/12/10 17:19 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ