第7章:古城の深淵と略奪の主
鎧を剥ぎ取られ、剥き出しになった古代王の核が絶望に震える中、レオンは四人に最終的な幕引きを命じた。
「訓練の仕上げだ。三種の浄化弾を、その魔力のすべてを乗せて叩き込め。一滴も残さず、この古城の呪いを終わらせるぞ」
「「「「承知いたしました、レオン(様)!」」」」
百倍の魔力を湛えた四人の乙女たちが、一斉に指先を掲げた。ホール全体が、彼女たちの放つ情念と魔力の重圧で鳴動し、空間そのものが白銀に染まり始める。
「第一射、『ホーリーバレット』!」
四人の指先から放たれた極太の聖光弾が、ボスの核へ直撃した。数千年の怨念が断末魔の叫びと共に蒸発し、漆黒の魂が純白に焼き潰されていく。
「第二射、『ヒールバレット』!」
間髪入れずに放たれた過剰なまでの癒やしの光。それは死霊である古代王にとって、存在そのものを否定する猛毒だ。不浄な死の理が、強引に「生」の調和へと引き戻され、ボスの精神構造が根底から崩壊していく。
「トドメよ……第三射、『ピュリフィケーションバレット』!」
最後の一撃。物質と魔力を根源から分解する浄化の光弾が、ボスのすべてを呑み込んだ。古代王の亡霊だったものは、塵一つ残さず光の粒子へと還元され、ホールを埋め尽くしていたどす黒い霧は一瞬にして晴れ渡った。
静寂が戻った中央の床に、一点の曇りもない巨大な輝きが転がった。
それは、ボスの全魔力と古城の数千年の蓄積が凝縮された、スイカほどもある巨大な魔石だった。
「見て、レオン! こんなに大きくて綺麗な魔石、見たことがないわ」
エルザがその巨大な結晶を両手で恭しく抱え上げ、レオンの前へと運んできた。百倍の魔力を行使し、完全な勝利を主へと捧げた四人の顔は、高揚と陶酔で美しく火照っている。彼女たちの『恋する乙女バースト』は、戦いの充足感によって、もはや周囲の空気を歪めるほどの熱量を放っていた。
「ああ、素晴らしい出来だ。これほどの魔石なら、村の防衛どころか、城一つを永遠に維持できるな」
レオンが巨大な魔石に触れ、その清浄な重みを確かめると、四人は至福の表情でその場に膝をついた。自分たちの力がレオンの役に立ち、その成果を彼が認めてくれる。その事実は、彼女たちにとって何よりの報酬だった。
「この魔石はヴァレリアのボックスへ。……さて、古城の掃除は終わった。次は、街道でうろついている例の騎士団を拝みに行くとしようか」
「ええ、どこまでもついていくわ、レオン。私たちのこの力、すべて貴方のものなのだから」
レオンの魔力溜まりは、浄化された巨大な魔石の輝きと、四人の狂おしいほどの愛情を吸い込み、深淵の底で揺るぎない王者の風格を湛えていた。
古城の呪いを完全に吸い尽くし、清々しいほどの静寂を取り戻した一行は、そのまま西の街道へと向かった。百倍の魔力を得た五人の移動は、もはや風そのものだった。セレスが編み出した広域飛行魔法により、霧の谷から街道までは瞬きする間の出来事だった。
眼下には、整然と隊列を組み、何かを捜索するように進軍する一団が見える。漆黒の鎧に身を包み、不気味なほど統制の取れたその集団こそ、村長が怯えていた「謎の騎士団」だった。
「レオン、あの紋章……。どこか特定の国のものではないわね。傭兵団というより、もっと閉鎖的な、狂信者の集まりのような気配がするわ」
ミレイユが空中から魔導具を覗き込み、冷静に分析する。レオンは静かに頷き、街道のど真ん中へと降り立つよう指示を出した。
土煙を上げることなく、音もなく騎士団の真正面に降り立った五人。突然現れた不審な一団に対し、先頭の重装騎士たちが鋭い殺気を放ちながら剣を抜いた。
「止まれ! 我らは聖地守護の任に当たる者。ここから先は封鎖されている。命が惜しくば立ち去れ」
先頭の騎士が放つ威圧感は、並の戦士なら腰を抜かすほどのものであったが、レオンは氷のジョッキを傾けるかのような気楽さで一歩前に出た。
「悪いが、この先にある村の安全を預かっているんでね。あんたたちが何を探しているのか、詳しく聞かせてもらおうか」
「……無礼な。下賤な民が我らに問うか」
騎士の一人が痺れを切らしたように、その大剣を振り上げた。しかし、その剣が振り下ろされるより早く、エルザが影のようにその懐へ潜り込んだ。
「レオンの問いに答えない不届き者には、相応の報いが必要ですね」
エルザが指先で軽く騎士の胸当てを突くと、百倍の魔力を伴った衝撃が鎧を貫通し、巨漢の騎士は悲鳴を上げる間もなく数十メートル後方へと吹き飛ばされた。その圧倒的な実力差に、騎士団全体に戦慄が走る。
「貴様ら……何者だ!? この魔力、ただの人間であるはずが――」
「質問しているのは俺の方だ。あんたたちが探しているのは、あの古城の遺物か? それとも、俺の姉貴たちが持っているこの『魔石』かな?」
レオンが背後に控える四人を示唆すると、彼女たちは一斉に、隠しきれない百倍の魔力を解放した。街道の木々が激しくしなり、大地がミ鳴りを上げる。四人の瞳には、レオンの行く手を阻む者への容赦ない敵意と、主への狂おしいほどの情愛が混ざり合った『恋する乙女バースト』の輝きが宿っていた。
「レオン、この者たちが無礼を続けるなら、ここで全員『肥料』に変えてしまってもよろしくて?」
セレスが慈悲深い微笑を浮かべながら、掌に白銀の浄化弾を生成する。その圧倒的なプレッシャーを前に、騎士団の指揮官と思われる男が馬から転げ落ち、恐怖に顔を引き攣らせた。
レオンの魔力溜まりは、騎士たちの恐怖心と、四人の揺るぎない献身を吸い込み、夕闇迫る街道を支配する神々しさを放っていた。
街道の重苦しい沈黙を切り裂いたのは、レオンの淡々とした、しかし抗いがたい響きを持つ言葉だった。
「こいつらの装備と剣をすべて回収しろ。不純物を取り除いて、純度の高いインゴットに作り変えるんだ。ミレイユ、あんたの今後の研究材料にするといい。……四人とも、やってくれ。騎士たちは生かして捕縛、拘束だ」
「承知いたしました、レオン。私たちの手際、見ていてくださいね」
セレスが優雅に指を振るうと、百倍の魔力によって強化された風の結界が、逃げようとした騎士たちを瞬時に押し包み、一箇所へと集めた。ヴァレリアが生成した水の縄が、蛇のように騎士たちの手足に絡みつき、魔力供給を遮断する特殊な拘束具へと変質していく。
「さあ、そのガラクタ、全部置いていってもらうわよ」
エルザとミレイユが、恐怖で動けない騎士たちの前に立った。エルザが手をかざすと、騎士たちが纏っていた黒鉄の鎧や大剣が、磁石に吸い寄せられるように剥ぎ取られ、宙に浮き上がった。
「『ピュリフィケーションバレット』!」
四人が同時に、今度は物質の純度を高めるための精密な浄化弾を放った。空中に浮かぶ数百の武具が、光の粒子に包まれて溶解していく。百倍の魔力操作は、金属に含まれる不純物や呪いを瞬時に分解・蒸散させ、液体状になった鋼鉄を再構成していった。
ジュウ、という低い音と共に、空中で整えられたのは、鈍い銀光を放つ最高品質の「魔導鋼インゴット」の山だった。
「はい、ミレイユ。レオンからの贈り物よ、大切に使いなさいな」
ヴァレリアが完成したインゴットをまとめ上げ、ミレイユへと手渡した。
「ええ、ありがとう! これだけの純度があれば、新しい防具や、もっと強力な魔導砲の部品が作れるわ。……レオン、最高の素材をありがとう」
ミレイユはインゴットを愛おしそうに撫で、アイテムボックスへと収めた。自分たちの技術がレオンの指示で完璧な形を成し、仲間へと繋がれていく。その一連の流れに、四人の乙女たちは再び「恋する乙女バースト」の至福を感じ、レオンを囲んで陶酔した視線を送った。
街道には、下着同然の姿で魔法の縄に縛り上げられ、転がっている騎士団の無残な姿だけが残された。
「……さて、指揮官。装備もプライドも失ったところで、あんたたちの『教団』とやらについて、詳しく聞かせてもらおうか」
レオンは、冷たい地面に這いつくばる指揮官の前に歩み寄った。レオンの魔力溜まりは、奪い取った武具の魔力残滓と、四人の深い愛情を吸い込み、深淵の如き輝きを増しながら、騎士団の背後に潜む闇を暴き出そうとしていた。
夕闇に包まれた街道で、レオンは無慈悲なまでの効率性を以て、捕縛した騎士団全員への尋問を開始した。
「一人ひとりの証言を照らし合わせる。嘘や食い違いは許さない。……四人とも、始めてくれ。心が折れるまで、何度でも『再生』させていい」
レオンの冷徹な指示に、四人の乙女たちの瞳には、主の期待に応えようとする冷ややかな熱狂が宿った。彼女たちにとって、レオンの障害となる情報を引き出すことは、至高の奉仕に他ならない。
「承知いたしました、レオン。……さあ、愚かな羊たち。真実を吐き出すまで、終わらない夜を楽しみましょう」
セレスが慈悲深い微笑みを浮かべながら、指先から百倍の魔力を込めた『ピュリフィケーションバレット』を放つ。それは肉体を傷つけるのではなく、精神の防壁を直接分解し、根源的な恐怖を植え付ける光の楔だ。騎士たちが苦痛に顔を歪め、精神が限界を迎えようとすると、間髪入れずにヴァレリアとエルザが動く。
「逃がさないわよ。ほら、もう一度元気に話しなさいな」
放たれるのは、百倍の出力を得た『ヒールバレット』の奔流。瞬時に肉体の疲労は消え去り、精神の摩耗さえも強引に修復される。だが、それは救済ではない。再び尋問に耐えうる状態へと引き戻すための、残酷な「巻き戻し」だ。
尋問、衰弱、そして回復。
この地獄のループが、騎士一人ひとりに対して正確に、そして冷酷に百回繰り返された。
「……あ、ああ……! 聖山に……聖山の中腹に、教団の秘密工房が……!」
「教皇の狙いは遺物だけじゃない、各地の魔力溜まりを……ひ、ひいいいっ!」
百回目の「回復」が終わる頃には、騎士たちはもはや自分たちが何者であるかさえ忘れかけ、ただレオンの問いに答え、許しを乞うだけの肉塊と化していた。四人の連携は完璧だった。ミレイユがその証言を逐一記録し、矛盾を洗い出し、さらに深い情報を引き出すための術式を上書きしていく。
十倍を越え、百倍に至った彼女たちの魔力操作は、拷問さえも神域の精密作業へと変えていた。一滴の血も流さず、しかし魂の芯までを剥き出しにするその手際に、四人の乙女たちは「恋する乙女バースト」の暗い悦びに焼かれていた。
「レオン、すべて吐き出させたわ。教団の配置、戦力、そして彼らが崇める『神』の正体まで……。私たちのこの力、貴方のために使い切るのがこんなに心地よいなんて」
セレスが上気した顔でレオンに報告する。主の望みを叶えるためなら、どんな非道も聖業に変わる。彼女たちの魔力溜まりは、騎士たちの絶望と、レオンへの狂おしいほどの忠誠を吸い込み、漆黒の夜の中でいっそ美しく輝いていた。
レオンは、震えが止まらない騎士団を一瞥し、静かに立ち上がった。
「よくやった。……これで、聖山の教団とやらを叩く準備は整ったな」
聖山の切り立った断崖に築かれた教団の本拠地。その冷たい石畳の入り口に、一人の女性が崩れ落ちるように倒れていた。
二十五歳という若々しい覇気と、成熟した大人の色香を同居させたその女性は、長身で、薄い魔導衣の上からでもはっきりと分かるほど豊かな双丘と、それを支える逞しくも美しい曲線を描く臀部を備えた、息を呑むような超美人だった。しかし、その白い肌は死の影に覆われ、魔力は枯渇し、命の灯火は今にも消え入りそうだった。
「鑑定」
レオンが静かに目を向けると、彼女の魂の輝きが可視化された。死霊術師という、世間からは忌み嫌われる職業でありながら、その内側に淀みや悪意は一切ない。むしろ、困っている者を放っておけないような、不器用なまでの善性がそこに宿っていた。
「……悪い奴じゃないな。みんな、彼女を助けてやってくれ。最高出力の回復を頼む」
レオンの言葉に、四人の乙女たちは複雑な表情を浮かべた。自分たちに勝るとも劣らない美貌と、圧倒的な肉体美を持つ闖入者への、本能的な「女」としての警戒心。しかし、レオンの頼みとあらば、彼女たちに否という選択肢はない。
「承知いたしましたわ、レオン。……この方も、貴方の慈悲に触れる資格があるようですものね」
セレス、ヴァレリア、エルザ、ミレイユが同時に手をかざし、百倍の魔力を込めた『ヒールバレット』を放った。まばゆい光が彼女を包み込み、引き裂かれた衣服の隙間から覗く傷跡が瞬時に塞がり、失われた魔力が急速に補填されていく。
「……っ、はあぁっ!」
大きく喘ぎ、弾けるような胸の鼓動と共に彼女が目を見開いた。艶やかな黒髪が揺れ、潤んだ瞳が目の前のレオンを捉える。
「あ、貴方は……? 私は、教団の実験を止めようとして、あいつらに……」
彼女の名はシオン。この教団が、死者の魂を弄び「偽りの神」を創り出そうとしている非道を知り、単身で乗り込んで返り討ちに遭ったのだという。
「……なるほど。あんたのような善人が死霊術を扱っているのは、死者の尊厳を守るためか。事情はわかった。俺たちもその『偽りの神』とやらを潰しに来たところだ」
レオンが手を差し伸べると、シオンはその大きな手に縋り付くようにして立ち上がった。立ち上がった彼女の背の高さと、歩くたびに揺れるその肉体的な存在感に、四人の乙女たちは再び「恋する乙女バースト」の火花を散らす。
「助けていただいて、感謝します。……この恩は必ず。私も、この力で貴方のお役に立ちたい!」
シオンの瞳に、レオンへの深い感謝と、微かな憧憬が宿る。新たな美しき仲間の参戦。彼女の百倍の魔力と死霊術が、教団の闇を暴くための新たな鍵となる。
レオンの魔力溜まりは、救われたシオンの清廉な魂と、四人の静かな対抗心を吸い込み、教団の中枢へと向かう歩みを一段と力強いものにしていた。
聖山の冷気が漂う静寂の中、レオンは立ち上がったばかりのシオンの前に静かに立った。彼女の瞳にはまだ困惑と、自分を救った青年への圧倒的な畏敬の念が混じり合っている。
「シオン、これから教団の深部へ向かう。そのために、あんたにも相応の『力』を持ってもらう必要がある。……俺の魔力と術式を、今からあんたに繋ぐ」
レオンが彼女の肩に手を置くと、その掌から白銀の光が溢れ出した。それは単なる魔力の譲渡ではない。レオンがこれまで取得し、覚醒させてきたあらゆる魔法――『魔力吸収』の理、三種の浄化弾、そして百倍にまで高められた魔力運用術のすべてを、シオンの魂へと直接転写する神業だった。
「……っ、あ、あああぁっ! 何、これ……頭の中に、世界の理が流れ込んでくる……!」
シオンの豊かな肢体が、流れ込む膨大な情報の奔流に震える。彼女が長年磨き上げてきた死霊術の知識が、レオンの授けた高次魔法と融合し、新たな次元へと昇華していく。その過程で、彼女の魔力溜まりは急激に拡張され、元々備わっていた魔力は瞬く間に十倍、そしてレオンたちと同じく百倍の領域へと跳ね上がっていった。
だが、急激な拡張は彼女の精神と肉体に大きな負荷をかける。シオンが苦しげに息を吐き、膝をつきそうになった瞬間、レオンは傍らに控える四人に視線を送った。
「仕上げだ。シオンの魔力を完全に安定させ、全快させるぞ」
四人の乙女たちは、新参者であるシオンへの微かな嫉妬を抱えつつも、レオンの指示を完璧に遂行すべく一斉に指先を向けた。
「『ホーリーバレット』!」
四人から放たれた百倍出力の聖光弾が、シオンの身体を優しく包み込んだ。それは本来攻撃や浄化に用いるものだが、レオンの魔法を授かった今のシオンにとっては、己の根源を補強する最高の触媒となる。聖なる光が、急激な魔力拡張で傷ついた彼女の回路を瞬時に修復し、空っぽだった魔力の器を、溢れんばかりの純粋なエネルギーで満たしていく。
「……信じられない。身体が、軽い……。これまでの自分が、まるで霧の中にいたみたいに感じるわ」
シオンがゆっくりと立ち上がった。その全身からは、以前とは比較にならないほどの重圧な魔力が立ち昇っている。長身で肉感的な彼女の身体は、百倍の魔力を得たことで、いっそ神々しいまでの美しさを放っていた。
「レオン……私に、こんな大切なものを。……この命、今日この時から、貴方のものよ。貴方の敵は、私の死霊術と、授かったこの光で、跡形もなく消し去ってあげる」
シオンは潤んだ瞳でレオンを見つめ、その手を取って恭しく口づけを落とした。その光景に、セレスたちの「恋する乙女バースト」が再び激しく火花を散らす。
「レオン、この方もすっかり貴方の虜のようですわね。……でも、教団を潰す先鋒は、私たち四人が務めますわ」
セレスが不敵に微笑み、新たな仲間を牽制しながらも、戦いへの高揚感を募らせる。レオンの魔力溜まりは、五人となった乙女たちの強烈な情愛と、百倍に膨れ上がった五つの小宇宙を束ね、聖山の奥底に眠る「偽りの神」を屠るための絶対的な支配力を湛えていた。
聖山の冷気が肌を刺す静寂の中、シオンがレオンの手を取り、その掌に熱い口づけを落とした光景を、四人の乙女たちは息を呑んで見つめていた。
「また……新しい『女』が入ってきたわね」
ヴァレリアが、どこか呆れたような、それでいて隠しきれない独占欲の混じった溜息をついた。彼女の視線の先には、百倍の魔力を授かり、神々しいまでの色香を放つシオンの姿がある。その潤んだ瞳と、レオンに向ける献身的な眼差しは、出会って間もないというのに、すでに魂の深い場所まで彼に奪われてしまった者のそれだった。
「仕方のないことですわ。レオン様のようなお方が、絶望の中にいる美しき魂を救い上げ、神のごとき力を分け与えてくださるのですもの。恩義を感じぬ者などおりませんし、恋に落ちぬはずがありませんわ」
セレスが慈悲深い微笑みを浮かべながらも、その背後からは百倍の出力を得た『恋する乙女バースト』の魔力が、目に見える揺らぎとなって吹き荒れている。それは新参者への牽制であり、同時に、自分たちが「最初の四人」であるという絶対的な矜持の現れでもあった。
「ふん、死霊術師のくせに、ずいぶんと素直な反応をするじゃない。……でも、気持ちはわかるわ。レオンに触れられ、あの深淵のような魔力を注ぎ込まれたら、もう後戻りなんてできないもの」
エルザが剣の柄を強く握りしめ、シオンの長身で肉感的な後ろ姿を睨み据える。騎士としての規律さえも、レオンへの情愛という奔流の前では無力だった。彼女たちの心にあるのは、レオンが自分たちを「姉のような存在」と呼び、信頼してくれているという事実への喜びと、それでもなお「女」として彼の一番近くにいたいという、引き裂かれるような愛着だった。
ミレイユは無言で魔導具を調整していたが、その指先はわずかに震えていた。
「……教団を潰した後、彼女も村に来るのかしらね。解析するまでもないわ。彼女の心拍数、魔力の波長、そのすべてがレオンという太陽に惹かれる惑星のように、もう彼を中心に回り始めているもの」
五人目の乙女、シオン。彼女が仲間に加わったことで、レオンを取り巻く情念の密度はさらに増し、空気は甘やかで危険な熱を帯びていた。彼女たち五人は、レオンの指示一つで世界を滅ぼし、あるいは再建するだけの力を持ちながら、その実、一人の青年の些細な言葉や眼差しに一喜一憂する、ただの「恋する乙女」に過ぎなかった。
レオンは、自分に向けられる五つの熱い視線と、それぞれの内に渦巻く複雑な想いを知ってか知らずか、ただ静かに教団の最深部を見据えていた。
「……行くぞ。この先に、あんたたちに見せたい結末がある」
レオンが歩き出すと、五人の乙女たちは一斉に、競うようにしてその背中を追った。
新しく入ってきたシオンもまた、その肉感的な肢体を揺らし、授かったばかりの百倍の魔力をレオンへの忠誠へと変えていく。彼女もまた、この旅の果てに、レオンという巨大な深淵から逃れられなくなることを、その本能で確信していた。
レオンの魔力溜まりは、五人の乙女たちが放つ狂おしいほどの愛情と、これから始まる「偽りの神」の崩壊への予感を吸い込み、漆黒の夜の聖山で、何よりも昏く、美しく輝いていた。
聖山の最深部、「偽りの神」を祀る大講堂。教団の信徒たちが驚愕に目を見開く中、シオンはレオンから授かった百倍の魔力を解き放った。
「来なさい、我が忠実なる下僕たち。レオン様から授かったこの『光』を、貴方たちの刃に宿しなさい!」
シオンが魔導書を高く掲げると、足元の影から漆黒の霧が噴出し、次々と伝説級の死霊たちが姿を現した。漆黒の鎧を纏い、禍々しいオーラを放つデスナイト。首を脇に抱え、霊馬に跨るデュラハン。数多の戦場を蹂躙してきた死霊騎士団が、瞬く間にホールを埋め尽くしていく。
本来、死霊術師が使役するアンデッドにとって、「光」は存在を消滅させる不倶戴天の天敵である。しかし、レオンから『魔力吸収』と浄化の理を直接魂に転写された今のシオンにとって、その常識はもはや過去のものだった。
「……信じられない光景ね。死霊の軍勢が、聖騎士以上の輝きを放っているわ」
ヴァレリアが感嘆の声を漏らす。シオンの呼び声に応えた死霊騎士団、その全員の剣に、レオン直伝の三種の光属性がエンチャントされていく。
『ホーリーバレット』の輝きが刃に宿り、邪悪を焼き尽くす神聖な焔となる。『ヒールバレット』の力が、死霊の脆い骨格や腐敗した肉体を黄金の魔力で補強し、物理的な破壊を寄せ付けない不死身の軍勢へと変える。そして『ピュリフィケーションバレット』の理が、一振りの一撃に「存在の分解」という絶対的な終わりを付与した。
「ありえない……死霊が光を纏うなど! 貴様、何をした!?」
教団の司祭たちが悲鳴を上げる中、シオンはレオンの隣で、誇らしげに、そして妖艶に微笑んだ。
「これはレオン様が私にくださった愛の形……。死してなお、光の中で戦う栄誉を、彼らに与えてくださったのよ」
シオンの号令とともに、光り輝く死霊騎士団が突撃を開始した。その一撃一撃が教団の防御陣地を光の粒子へと分解し、闇に潜む偽りの信徒たちを白銀の奔流で飲み込んでいく。光り輝く剣を振るうデスナイトの姿は、もはや地獄の住人ではなく、レオンという新たな神に仕える戦乙女の眷属のようだった。
長身のシオンがその肉感的な肢体をしならせ、魔力を操るたびに、彼女の『恋する乙女バースト』は四人の先達にも劣らぬ密度で膨れ上がっていく。自分にしかできない「死と光の融合」。それをレオンに捧げられる悦びが、彼女をさらなる高みへと押し上げていた。
レオンは、眼前に広がる光と死の狂宴を、静かな充足感を持って見つめていた。
「いい軍勢だ、シオン。……これなら、偽りの神とやらも、成仏する暇すらないだろうな」
レオンの称賛に、シオンの頬は火照り、潤んだ瞳で彼を見つめ返した。四人の乙女たちもまた、シオンの実力を認めざるを得ず、新たな競争相手の出現に魔力をさらに激しく昂ぶらせる。
レオンの魔力溜まりは、光り輝く死霊軍団の圧倒的な武威と、五人の乙女たちが競い合うように向ける重厚な情愛を吸い込み、教団の玉座を揺らすほどの神々しい深淵へと変質していた。
光り輝く死霊騎士団が戦場を蹂躙する様を見つめ、セレス、ヴァレリア、エルザ、ミレイユの四人の瞳には、静かな、しかし苛烈な対抗心が燃え上がった。新入りのシオンがレオンから授かった力で見事な手際を見せた以上、元祖である彼女たちが遅れを取ることなど、その矜持が許さなかった。
「新入りにいいところを全部持っていかれるわけにはいきませんわ。……皆さん、私たちの『格』の違いを見せてあげましょう」
セレスが慈悲深くも冷徹な微笑を浮かべ、百倍に膨れ上がった魔力を解放した。彼女の周囲の空間がミ鳴りを上げ、教団が崇める「偽りの神」――継ぎ接ぎされた巨大な魔導生物が咆哮を上げるが、セレスはそれを一瞥すらしない。
「『ホーリーバレット・ディフュージョン』!」
セレスの指先から放たれた一筋の光弾が、空中で数千の光の雨へと拡散した。それは意思を持つかのように、偽りの神を守る信徒や取り巻きの魔物たちだけを正確に貫いていく。百倍の魔力による聖なる雨は、着弾と同時に相手を内側から爆散させ、魂さえも浄化して霧散させた。
「商売でも、先陣の利は渡さないものよ。……ヴァレリア、行くわよ!」
「ええ、ミレイユ。この『ガラクタ』の構造、すべて解体してあげるわ」
ヴァレリアとミレイユが阿吽の呼吸で地を蹴った。ヴァレリアは水魔法を極限まで硬質化させ、百倍の質量を持つ「氷の刃」を無数に展開。それが旋風となって偽りの神の巨大な肉体を削ぎ取っていく。ミレイユはその傷口へ、魔導回路を逆流させ自壊させる呪印を刻み込み、ボスの防御機能を瞬時に無力化した。
「レオン様の視線を独占するのは、まだ早すぎますわ……!」
エルザが咆哮した。百倍の『マッスル』と身体強化を全開にした彼女は、もはや人の目では捉えられない。偽りの神の巨大な腕が振り下ろされるより早く、彼女の光属性を纏った重剣がその腕を根元から断ち切った。
「はあああああッ!」
一閃。空気を断つ衝撃波だけで、周囲にいた取り巻きの軍勢が塵へと変わる。四人の乙女たちの『恋する乙女バースト』は、新参者への嫉妬を燃料にして臨界点を突破していた。彼女たちが動くたびに、戦場には破壊と浄化の美しい軌跡が描かれ、教団の誇る最終兵器は、まるで子供に壊される玩具のように無残に解体されていった。
シオンが率いる光の死霊騎士団が露払いをし、その中心で四人の先達たちが神域の暴威を振るう。その圧倒的な光景を、レオンは氷のジョッキを傾けるかのような不敵な笑みを浮かべて見守っていた。
「いい動きだ。……これなら、俺が出る幕もなさそうだな」
レオンの短い称賛。それは五人の乙女たちにとって、どんな宝物よりも価値のある報酬だった。四人の「姉貴分」たちは、自分たちの強さを見せつけた充足感に頬を染め、新たに加わったシオンもまた、その圧倒的な先輩たちの背中に畏敬とさらなる恋心を募らせる。
「偽りの神」が最後の一片まで分解され、聖山の頂に真の静寂が訪れた。レオンの魔力溜まりは、五人の乙女たちが競い合うように捧げる重厚な愛情と、教団の野望が崩れ去った後に残る純粋なエネルギーを吸い込み、夜空の月よりもなお高く、孤高の輝きを放っていた。




