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白銀の救世主(メシア)は、絶望の地を喰らい尽くす。 ~魔力適性ゼロの少年、死線で覚醒し、五人の女神と最強の略奪建国を開始する~  作者: 慈架太子


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第2章:起点(オリジン)の結成

街の外れ、修練場の空気はレオンが放つ濃密な魔力によって白く震えていた。かつて放った不格好な「魔力弾」は、数多の戦いと経験を経て、より鋭く、より多機能な「バレット(弾丸)」へと進化を遂げていた。


「魔法はイメージだ。だが、俺たちの魔法はただの想像じゃない。死の淵で見た光、流した血の熱さ……それを弾丸に凝縮するんだ」


レオンはセレスとヴァレリアの前で、右手を前方へ突き出した。その指先には、三つの異なる輝きを放つ光弾が浮遊している。


「まずはこれだ。『ホーリーバレット』」


放たれたのは、直視できないほどに眩い純白の弾丸だった。それは空気を切り裂く鋭い音と共に、標的の木人を貫通する。ただの破壊ではない。着弾の瞬間、邪悪な気を焼き払う聖なる衝撃波が広がる。魔物に対する特効を持つ、レオンの攻撃の主軸だ。


「次は、俺たちが戦い続けるための命綱。『ヒールバレット』」


レオンが指先を弾くと、柔らかな琥珀色の光弾がセレスの肩に吸い込まれた。先ほどの激しい訓練で負った筋肉の疲労が、着弾した瞬間、温かな波動となって消えていく。遠距離にいる仲間を瞬時に癒やすこの魔法は、乱戦において誰一人欠けさせないための「慈愛」の弾丸だった。


「そして最後が、最も純粋で、最も恐ろしい力だ。『ピュリフィケーションバレット』」


レオンの指先に、透き通った青白い、どこか冷徹なまでの輝きが宿る。放たれた弾丸は木人に触れた瞬間、爆発も破壊もしなかった。しかし、木人に染み付いていた魔物の瘴気や、腐食していた部分が、一瞬にして「無」へと還り、清浄な空気へと変換された。穢れを浄化し、ことわりを正す究極の浄化弾。


「凄い……。破壊、治癒、そして浄化。一つの『弾丸』という型の中に、これほどまでの意味を込められるなんて」


セレスがその光景を脳裏に焼き付けようと見つめる。ヴァレリアもまた、その多才な弾丸がもたらす戦略的価値に、琥珀色の瞳を輝かせた。


「レオン、その弾丸、私にも扱えるようになるかしら? 相手を倒すだけじゃなく、不意の怪我を治したり、毒を浄化したり……。それができれば、私たちはもっと自由に、もっと深くへ潜っていけるわ」


「ああ、もちろんだ。負ける恐怖を知っているあんたたちなら、この弾丸の本当の重さが分かるはずだ。……さあ、身体強化アクセルと組み合わせて放つ練習を始めるぞ」


レオンは二人の手に、自らの魔力を分けて導いていく。人を助けるたびに、そして魔法を創意工夫するたびに、レオンの魔力溜まりはさらなる深化を遂げていた。


青白い空の下、三人の放つ多色の弾丸が修練場を交差し、新たな伝説の幕開けを告げるかのように、煌びやかな軌跡を描き続けた。



街の喧騒から隔絶された静かな森の平地。レオンは、自分に従うと決めたセレスと、商人の枠を超えて戦う決意をしたヴァレリアを前に、掌に宿る三つの光を見せた。


「いいか、光魔法は『願う力』だ。だが、ただ祈るんじゃない。自分の内側にある魔力を、特定の意味を持った『弾丸』として定義するんだ」


レオンはまず、純白に輝く**『ホーリーバレット』**を指先に灯した。

「これは敵を討つ意志。邪悪を許さない純粋な衝撃だ。セレス、あんたの膨大な魔力を一点に凝縮しろ。ヴァレリア、あんたは商売の駆け引きと同じだ。敵の隙に、この鋭い光を叩き込め」


レオンは二人の背中に手を当て、直接自分の魔力を流し込んで回路を導く。かつて魔法の才能がないと言われた彼が、死線の果てに掴んだ「無詠唱」の感覚。それを無理やり二人の脳裏に焼き付けていく。


「次は、仲間を守るための**『ヒールバレット』**だ」

レオンが指先を弾くと、温かな琥珀色の光が二人の体を包み込んだ。

「戦場では、隣にいる仲間がいつ倒れるか分からない。自分が駆け寄れない距離でも、この弾丸を当てれば救える。これは『慈愛』だ。相手を生かしたいと強く念じろ」


セレスは震える手で、初めて杖を使わずに光を形作った。彼女の知る緻密な計算式ではない。レオンが教えるのは、もっと根源的な、魂から溢れ出すエネルギーの指向性だった。


「最後がこれだ。『ピュリフィケーションバレット』。穢れを払い、毒を消し、理を正常に戻す『清浄』の力だ。ヴァレリア、あんたが毒爪に倒れたとき、俺が使ったのはこれの応用だ。呪いも毒も、この光の前では無力になる」


レオンの指導は苛烈だった。身体強化アクセルで二人の背後を取り、あえて軽い攻撃を加えて傷を負わせる。

「痛いか? その痛みがあるうちに『ヒールバレット』を自分に、そして仲間に放て! 負ける恐怖を光に変えろ!」


何度も地面に這いつくばりながら、二人は必死に光を求めた。セレスは己のプライドを捨て、レオンの合理的な魔力操作を吸収し、ついに無詠唱で『ホーリーバレット』を放つことに成功した。ヴァレリアもまた、持ち前の勝負強さで魔力の爆発を御し、自身の擦り傷を『ヒールバレット』で癒やしてみせた。


「……できたわ。今、私の中で魔法が『言葉』ではなく『意志』に変わった」

セレスの翡翠色の瞳に、新たな覚悟が宿る。ヴァレリアもまた、手に宿る浄化の光を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。

「これで、どんな死地でもあなたの隣で商売を続けられそうね、レオン」


二人に魔法を教える過程で、レオン自身の魔力もまた、驚異的な成長を遂げていた。他人の魔力回路に干渉し、導くという行為は、彼自身の魔力溜まりをより巨大に、より緻密に作り変えていたのだ。人を助け、導くたびに、彼の「経験値」は底知れず膨れ上がっていく。


「よし。これで三種のバレットはあんたたちのものだ。……さあ、街へ戻ろう。この力が必要な場所が、俺たちを待っている」


剣士と二人の光の使い手。最強の連携を手に入れた一行は、夕闇を切り裂くような確かな足取りで、次なる戦地へと向かっていった。




街の喧騒から遠く離れた、古い遺跡の広場で、レオンは新たな力の境地へと足を踏み入れていた。これまでの身体強化アクセルが「一瞬の爆発」だとするならば、今、彼が求めているのは「不屈の継続」だった。


「魔力を外に放つな。皮膚の表面で、光の檻を編むように固定するんだ」


レオンが低く呼気と共に念じると、彼の全身から溢れ出した純白の魔力が、霧散することなく肉体に吸い込まれるように定着した。次の瞬間、彼の体は眩い光のヴェールに包まれる。

『光属性マジックアーマー』。

それは物理的な衝撃を弾き飛ばす硬度と、あらゆる魔法干渉を無効化する障壁を兼ね備えた、攻防一体の光の鎧だった。


「セレス、ヴァレリア、俺を全力で攻撃してみろ」


二人は躊躇したが、レオンの真剣な眼差しに頷いた。セレスが放つ『ホーリーバレット』の連射がレオンの胸元を叩き、ヴァレリアが『アクセル』を乗せた短剣をその背に叩き込む。だが、火花が散るだけで、レオンは一歩も退かない。光の鎧が、全ての衝撃を無に帰していた。


「凄い……。これなら、どんな乱戦でも無傷でいられるわ」

「ええ。でもレオン、これを維持するのは至難の業よ。魔力操作が少しでも乱れれば、一瞬で霧散してしまう」


セレスの指摘に、レオンは頷く。

「ああ。だからこそ、負ける恐怖を忘れるな。死にたくない、仲間を守りたいという強い意志が、この鎧の結び目を強くする。……今から二人の回路に、俺の光を流し込んで『型』を刻むぞ」


過酷な伝授が始まった。レオンは二人の肩に手を置き、自身の魔力を糸のように細く、かつ鋼のように強く編み上げて二人の体表に纏わせた。

「セレス、呼吸を止めるな。魔力を層にするイメージだ。ヴァレリア、怖がって魔力を引っ込めるな。外圧に押し返すだけの光を内側から溢れさせろ!」


何度も鎧は弾け、二人は衝撃で膝をついた。魔力が枯渇しかけるたびに、激しい疲労が彼女たちを襲う。だが、レオンは冷徹なまでに「敗北の予行演習」を繰り返させた。

「立て! 鎧が砕けたら、そこが死地だと思え! 痛みを糧に、光をより硬く、より鋭くしろ!」


泥にまみれ、何度も意識を失いかけながら、二人はついに自分自身の『マジックアーマー』を起動させた。セレスの鎧は知性を感じさせる静かな白銀の輝きを放ち、ヴァレリアの鎧は勝負師の情熱を宿したかのような黄金の揺らぎを纏っていた。


「……できたわ。体が、信じられないほど軽い……そして、強い」

セレスが自分の掌を握りしめる。ヴァレリアもまた、光の鎧を纏ったまま鋭い踏み込みを見せ、満足げに微笑んだ。


二人にこの究極の防御魔法を伝授したことで、レオンの魔力溜まりはさらに異次元の深みへと到達していた。他人の生命を守るための鎧を編むという経験は、彼自身の魔力をより慈愛に満ちた、しかし決して折れない強靭なものへと変質させていた。


「よし。これで、どんな理不尽な攻撃も俺たちには届かない。……行こう、俺たちの『光』で、この街の闇を全て照らし出してやる」


光の鎧を纏った三人の戦士。その眩い姿は、もはや森で震えていた少年の面影はなく、伝説を刻み始める英雄たちの威風に満ちていた。




街の喧騒の中心にそびえ立つ、荒くれ者と冒険の拠点「冒険者ギルド」。重厚な扉を押し開けると、騒がしい酒場の熱気と鉄の匂いが三人を迎えた。


レオンを先頭に、知的な雰囲気を纏うセレスと、隠しきれない色香と気品を漂わせるヴァレリアが続く。その異質な一団に、ギルド内の視線が突き刺さった。


「登録をお願いしたい。三人だ。あと、パーティーの申請も」


レオンが受付のカウンターで短く告げると、若手の受付嬢は一瞬その若さに驚きつつも、手慣れた様子で水晶板を取り出した。


「はい、承りました。では、こちらに手をかざして、名前と職業を……」


レオンが手をかざした瞬間、水晶板が激しく明滅し、計測不能を示すエラーの火花を散らした。騒ぎを聞きつけたギルド職員たちが集まってくる中、レオンは事も無げに登録を済ませ、セレスとヴァレリアもそれに続いた。


「パーティー名は……『起点オリジン』。これでいくぞ」


レオンの問いに、二人は信頼を込めて頷いた。すべてはここから始まる。歴史に名を刻むことになるパーティーが産声を上げた瞬間だった。


「……早速だが、この依頼を受けたい」


レオンが指差したのは、掲示板の隅に追いやられた、血の跡が滲むような羊皮紙だった。


【緊急依頼:廃都の地下墓地に巣食うアンデッド軍団の討伐】


「そ、それは……! 多くのベテランが命を落とし、今や『禁忌』とされている依頼ですよ! 相手は物理攻撃が効かない霊体や、何度倒しても蘇る不死者たちです!」


受付嬢の静止を、レオンは静かに手で制した。


「問題ない。俺たちには、そのために磨いてきた力がある」


「ええ。私たちの『バレット』が、どれほど死の理を塗り替えられるか、試すには絶好の機会だわ」

セレスが杖を軽く突き、その先端から鋭い火花を散らす。


「ふふ、絶望的な依頼ほど、達成した時の報酬と名声が跳ね上がるものよ。商売敵に取られる前に、さっさと終わらせましょう」

ヴァレリアが不敵に微笑み、腰のナイフに手をかけた。


ギルド中の冒険者たちが「死にに行くようなものだ」と嘲笑し、あるいは哀れみの視線を送る中、三人は一歩も引かずにギルドを後にした。


目的地は、死の冷気が漂う廃都。

そこは、かつて繁栄し、今は呪いと闇に沈んだ墓所。

しかし、レオンの胸中にあるのは恐怖ではない。強敵と接敵し、その絶望を糧にさらなる強さを手に入れるという、静かなる闘志だった。


「行くぞ。アンデッドの呪いごと、すべて焼き払う」


三人の体に、薄らと『マジックアーマー』の光が宿り始める。闇に閉ざされた廃都へと向かうその背中は、どんな太陽よりも眩しく、勝利を確信させる輝きに満ちていた。





廃都の地下墓地、冷気が肌を刺す回廊を進む『起点オリジン』の三人は、激しい金属音と絶望的な叫びを耳にした。


崩れた石柱の陰で、一人の女騎士が膝をついていた。二十五歳を過ぎたばかりの、成熟した美しさと凛とした威厳を湛えた銀髪の騎士だ。しかし、その自慢であろう白銀の甲冑は無残に砕け、脇腹からは鮮血が流れている。彼女の目の前には、物理攻撃を無効化する漆黒の霧を纏った「亡霊騎士レイスナイト」が、死の鎌を振り上げていた。


「させるか!」


レオンが踏み込み、無造作に左手を突き出す。

「『ホーリーバレット』!」

放たれた純白の弾丸が亡霊の胸元で炸裂し、物理を拒む闇の霧を根こそぎ消し飛ばした。続けてレオンは女騎士を抱え、後方へと跳ぶ。


「……離して! 私は、まだ……!」

女騎士は顔を紅潮させ、屈辱に震えながら叫んだ。

「私の剣技が……二十年以上、研鑽を重ねてきた我が一族の剣が、あんな化け物一匹に傷一つつけられなかったなんて! 私は、騎士失格よ……!」


血の気が引いた顔で、自分の剣を見つめ憤る彼女に対し、レオンは穏やかに、だが断定的な口調で語りかけた。


「あんたの腕が悪いんじゃない。ただの相性だ。相手は不死者アンデッド……この世の理から外れた存在だ。どんなに鋭い刃でも、実体のない呪いを斬ることはできない」


「……慰めは無用よ!」


「慰めじゃない、事実だ。あんたの剣は生きた敵を倒すためのものだろう? だが、ここは死者の領域だ。俺たちが使うような『浄化の力』がなきゃ、土俵にすら立てない。あんたの剣技が通じなかったのは、腕のせいじゃなく、ただ相手が『生きていない』からだ」


レオンの真っ直ぐな瞳に射抜かれ、女騎士――エルザは毒気を抜かれたように言葉を失った。経験を積んだ大人であるからこそ、自分の技術が通用しない現実を受け入れられずにいたが、レオンの言葉には抗いようのない真実があった。


「あんたの命は、俺が繋ぎ止めてやる。……『ヒールバレット』」


琥珀色の光がエルザを包み込み、致命傷だった傷口を塞いでいく。傷が癒えると共に、彼女の心に宿っていた焦燥もまた、レオンの温かな魔力によって溶かされていった。


「セレス、ヴァレリア。このエリアを一掃するぞ」


「了解よ。……『ピュリフィケーションバレット』、展開!」

「ふふ、最高の舞台ね。加速アクセル全開で行くわよ!」


三人はエルザを守るように陣を組み、地下墓地の奥へと突き進んだ。物理無効の亡霊には浄化の弾丸を、無限に蘇る骨の兵士には光のマジックアーマーを纏った突進を。レオンの言葉通り、適材適所の力が噛み合い、廃都を支配していた絶望が、次々と眩い光へと変換されていく。


その圧倒的な蹂躙劇を後ろから見つめ、エルザは悟った。自分に必要なのは、己の剣技への固執ではなく、未知の脅威を認める柔軟さと、それを支える仲間なのだと。


「……私の負けね。でも、このまま終わらせるつもりはないわ」


エルザは立ち上がり、まだ震える手で剣を握り直した。レオンたちの背中を追い、彼女もまた、自らの限界を超えた先にある「強さ」を求めて、闇の最深部へと足を踏み出した。





廃都の最深部、怨嗟が物理的な重圧となってのしかかる「沈黙の玉座」。そこには、アンデッドの軍勢を束ねる三体の頂点が待ち構えていた。


漆黒の甲冑を纏い、死の波動を放つ「デスナイト」。

首を抱え、巨大な魔剣を振るう騎兵「デュラハン」。

そして、背後から底なしの魔力で呪いを紡ぐ不死の王「リッチ」。


「……こいつらは今までの雑魚とは格が違う」


レオンの言葉に、セレスとヴァレリアが表情を引き締める。戦いは、かつてないほど熾烈を極めた。

デスナイトの放つ一撃は、レオンの『マジックアーマー』に深い亀裂を入れ、デュラハンの超常的な突進がヴァレリアの『アクセル』を捉える。さらにリッチが放つ多重の呪い弾が、セレスの防御結界を削り取っていく。


「セレス、リッチの詠唱を封じろ! ヴァレリア、デュラハンの足元を狙え!」


レオンの指示が飛ぶ。彼は一人、最強の物理破壊力を誇るデスナイトの猛攻を正面から受け止めた。剣と剣がぶつかり合うたびに、火花ではなくどす黒い魔力と純白の光が弾け飛ぶ。

肋骨が軋み、腕の感覚が麻痺していく。だが、その激痛こそがレオンの燃料だった。負ける恐怖、圧倒的な実力差。その絶望を貪り、彼は戦いの中でさらなる進化を強いた。


「『アクセル』……全開!」


極限の加速。レオンはデスナイトの死剣を紙一重でかわし、その胴体に『ホーリーバレット』を零距離で叩き込む。

同時に、セレスが『ピュリフィケーションバレット』を連射してリッチの魔力障壁を剥ぎ取り、ヴァレリアが影を縫うような動きでデュラハンの馬の脚を断った。


三人の呼吸が、死線の淵で一つに重なる。

「これで……終わりだ!」

レオンが放った最大出力の浄化の光が、三体の不死者を飲み込んだ。絶叫と共に彼らが塵へと還った瞬間、廃都を覆っていた永い呪いが、音を立てて崩壊していった。


数時間後。

泥と返り血にまみれ、ボロボロになった三人は、夕暮れの冒険者ギルドの門をくぐった。


「……おい、嘘だろ。あの依頼から戻ってきたのか?」

「馬鹿な、三体もの上位不死者がいたはずだぞ……」


静まり返る館内。レオンは無造作に、討伐の証である「デスナイトの不壊の兜」と「リッチの魔導核」を受付カウンターに置いた。


「クエスト完了だ。確認してくれ」


受付嬢の手が、驚きで震える。誰もが不可能だと笑った依頼を、三人の若者は成し遂げたのだ。

レオンは自分の掌を見つめる。かつてないほど魔力溜まりが熱く、巨大に膨れ上がっている。強敵との遭遇、敗北の予感、そして仲間との共闘。そのすべてが、彼をまた一つ「最強」へと近づけていた。


「さあ、帰って休もう。……次は、もっと高い場所へ行くぞ」


セレスとヴァレリアが、誇らしげに微笑み、レオンの後に続いた。ギルドを包む驚嘆と称賛の視線を背に、『起点オリジン』の名は瞬く間に街中に轟いていった。





廃都の地下墓地を包んでいた死の冷気が、レオンたちの放った浄化の光によって霧散していく。最深部での激闘を終え、共に死線を潜り抜けた女騎士エルザは、自らの剣を鞘に収め、レオンの前に真っ直ぐに立った。


「レオン。改めて、命を救われたことに感謝するわ。……そして、認めさせてほしい。私はこれまで、己の剣技と血筋こそが最強だと信じて疑わなかった。けれど、貴方たちの戦いを見て、自分の無知と慢心を知ったわ」


エルザは二十五歳という若さで騎士団の要職を担うエリートだった。しかし、今の彼女の瞳にあるのは地位への執着ではなく、未知の強さに対する純粋な敬意だった。


「私を、貴方のパーティー『起点オリジン』に加えてもらえないかしら。この剣を、今度は貴方の志のために振るいたい。……それと、もし許されるなら、貴方たちが使っていたあの『光』を、私にも教えてほしいの」


レオンは少し驚いたような顔をしたが、すぐに力強く頷いた。

「ああ、歓迎するよ。エルザのような腕利きの騎士がいてくれれば心強い。……いいぜ、俺の光魔法をあんたに伝授する。だが、セレスやヴァレリアに教えたときと同じだ。死ぬほどきついぞ」


街へ戻る前の束の間、墓所の入り口で特訓が始まった。レオンはエルザの背中に手を当て、彼女の強靭な肉体の中に眠る魔力の回路を強引にこじ開けていく。


「エルザ、あんたの魔力は騎士らしく真っ直ぐだ。それを『弾丸』に変えるイメージを持て。……まずはこれだ、『ホーリーバレット』!」


レオンの魔力に導かれ、エルザの指先から震えるような白い光が放たれた。騎士として長年鍛え抜かれた精神力があるためか、彼女の光は最初から鋭い指向性を持っていた。


「次は仲間のための光、『ヒールバレット』。そして、理を正す**『ピュリフィケーションバレット』**だ。あんたの剣が通じない相手でも、この光があれば斬り伏せることができる」


「……っ、体が熱い……! これが、魔法……!」


エルザは歯を食いしばり、体中を駆け巡る奔流に耐えた。レオンは容赦なく彼女に模擬戦を挑み、あえてその白銀の甲冑を弾き飛ばす。

「負ける恐怖を、痛みを、全部光の燃料にしろ! 騎士の誇りがあるなら、この程度の負荷で膝をつくな!」


泥にまみれ、何度も吹き飛ばされながらも、エルザは立ち上がった。彼女の根底にある不屈の精神が、レオンの光と共鳴し、やがて彼女の全身から眩いばかりの浄化の波動が溢れ出した。


「できたわ……。私にも、見える……光の軌跡が!」


エルザの放つ『ホーリーバレット』は、セレスの知性やヴァレリアの技巧とは違う、鋼のような強さを宿していた。


二人の女性に加え、新たに最強の矛となるエルザを仲間にしたことで、レオンの魔力溜まりはさらなる巨大な変革を遂げていた。他人の才能を開花させ、その成長を自らの血肉とする。教えるたびに、レオンの「経験値」は天を衝く勢いで上昇していく。


「よし。これで四人だ。……行こう、俺たちの新しい旅へ」


剣士レオン、魔導師セレス、商人ヴァレリア、そして聖騎士エルザ。伝説となる四人の歩みが、廃都の門を越え、眩い陽光の下へと踏み出された。




廃都での激闘を終え、街へと戻った一行は、エルザの正式な加入を祝して宿屋の二階にある酒場の一角を陣取った。テーブルにはヴァレリアが奮発した最高級のワインと、香ばしく焼き上げられた肉料理が並ぶ。


しかし、祝宴の空気はどこかぎこちなかった。ギルドでの登録の際に判明したエルザの素性――彼女は王都でも名高い名門貴族、ローゼンベルク家の令嬢だったのである。


「……ええと、その。エルザ閣下。お口に合いますでしょうか、このお肉」


セレスが、普段の知的な余裕をどこへやら、借りてきた猫のように背筋を伸ばして問いかける。魔法の真理を追究する彼女にとっても、上級貴族という存在は無意識に畏怖を感じさせるものだった。


「そうよ、エルザ様。私のようなしがない商人が、こうして同じ卓を囲んでいること自体、本来なら不敬にあたるのではないかしら……」


ヴァレリアまでもが、いつもの妖艶な笑みを引きつらせ、言葉を選びながらワインを注ごうとする。そしてリーダーであるレオンもまた、手元のナイフとフォークの扱いに妙な意識がいってしまい、動作がぎこちなくなっていた。


そんな三人の様子を、エルザはしばらく黙って見つめていたが、やがて小さく溜息をつくと、自らジョッキをテーブルにドンと置いた。


「……やめてくれないか。その余所余所しい態度は」


エルザは銀髪をかき上げ、琥珀色の瞳で三人を見渡した。


「確かに私は貴族の家に生まれた。だが、あの地下墓地で死の淵を彷徨っていた時、私を救ってくれたのは地位でも血筋でもない。貴方たちの放った光だった。……なのに、街に戻った途端にこの壁は何だ? 私は、貴方たちの『仲間』になれたと思っていたのだが」


エルザの寂しげな呟きに、レオンはハッとして顔を上げた。彼はかつて、セレスが自分に忠誠を誓い、跪いた時のことを思い出していた。あの時も、彼女は自分との間に勝手な壁を作っていた。


レオンは箸を置き、エルザの真っ直ぐな瞳を見つめ返した。


「悪い、エルザ。……あんたの肩書きに少しばかり気圧されてた。でも、そんなの関係ないよな」


レオンはかつてセレスに言ったのと全く同じ言葉を、今度はエルザに向けて、確信を込めて口にした。


「『畏まるな、仲間だろう』」


その言葉に、セレスが「あっ」と小さく声を漏らす。かつて自分が救われた、あの温かい言葉。


「あんたが貴族だろうが、騎士だろうが、俺が助けて、一緒に戦うと決めたのはエルザっていう一人の人間だ。様付けも敬語もいらない。俺たちは対等な『起点オリジン』の仲間だ。……そうだろ?」


レオンの真っ直ぐな言葉に、エルザは一瞬目を見開き、やがてその頬を赤らめて、心底嬉しそうに微笑んだ。


「……ああ。そうだな。その言葉を待っていた」


エルザがジョッキを掲げると、それを見たセレスとヴァレリアも、ようやく緊張の糸が切れたように笑い声を上げた。


「ふふ、そうね。レオンにそう言われちゃ、私も『閣下』なんて呼んでられないわ。……改めてよろしくね、エルザ」

「あら、それなら私も遠慮なく『相棒』として、これからの旅の経費をきっちり計算させてもらうわよ」


「ええ、望むところだわ!」


エルザは楽しげに笑い、自らワインを煽った。貴族という壁を越え、魂のレベルで結ばれた四人。笑い声が絶えない酒場の一角で、『起点オリジン』の絆はより一層、強固なものへと成っていった。





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