第15章:至高の工房と絶対防衛の結界
「……ただ作るだけじゃ面白くない。このヴィクトール領を、世界中の誰もが喉から手が出るほど欲しがる『至高の逸品』が集まる巨大な工房に変えるぞ」
レオンが広域地図の一画を指し示すと、ミレイユが即座にその意図を汲み取り、精密な魔導設計図をホログラムで投影した。
「紡織工場と仕立工場の併設ね。……レオン、それは名案よ。カデナ村で収穫される魔導綿花を、ただの糸で終わらせるなんて損失だわ。ここで最先端の魔導織機を走らせ、防護魔法と自動洗浄機能が付与された最高級の布を織る。……そして仕立工場で、エルザやセレスの審美眼を取り入れた、機能性と美しさを両立させた『ヴィクトール・ブランド』の服を仕立てる。……周辺国の王族たちが、一年先まで予約を埋める光景が見えるわ」
ヴァレリアは、レオンが口にした後半の案を聞いて、もはや興奮を隠そうともせずにテーブルを叩いた。
「トマトソースに、焼肉のタレ工場!? レオン、あなた天才よ! 玉ねぎ、にんにく、生姜、そしてあの刺激的なスパイスたち……。それらを最高の比率で調合して、瓶詰めのソースとして売り出すのね。……調理の手間を省き、かつ誰も真似できない絶品。これ、主婦層から冒険者、さらには宮廷の料理長まで、全人類がリピーターになるわ! 瓶一つが金貨一枚で飛ぶように売れるわよ!」
「焼肉のタレ……。ふふ、昨夜いただいたあのお肉の味が、いつでも手軽に楽しめるようになるのですね。……エールとの相性も抜群でしょうし、ヴィクトール領の夜がますます賑やかになりそうですわ」
セレスが聖杖を抱きしめ、民たちが食卓で笑い合う幸せな未来を想像して頬を緩める。
シオンは影を揺らし、レオンの隣で囁いた。
「秘密のレシピ、という響きは素敵ですわ……。誰にも真似できない、官能的なまでに深い味わいのタレ。……レオン様、その工場の管理は、私の影の部隊に任せていただけますか? 門外不出の味、影が永遠にお守りいたしますわ」
「……設計完了。全自動の魔導攪拌機と、無菌瓶詰めライン、そして仕立工場には三次元立体裁断機を導入するわ。……レオン、あなたのアイテムボックスにある『高品質な建材』を使えば、三日後には全ての工場をフル稼働させられる。……さあ、世界を味覚とファッションで支配する準備はいい?」
ミレイユが魔導レンズを誇らしげに明滅させ、レオンに最終承認を求める。
レオンの魔力溜まりは、次々と形になっていく巨大な産業の鼓動と、五人のお姉ちゃんたちが放つ飽くなき情熱、そして一人の少年が描く「豊かさの極致」を吸い込み、ヴィクトール領の空を、あらゆる創造と繁栄を約束する眩い白銀の輝きで塗り替えていた。
「……ただ腹を満たすだけじゃ足りない。この国の民一人一人が、自分の頭で考え、自分の腕で富を生み出せるようになってもらう。読み書き算術は、生きるための武器だ」
レオンの断固たる決意を受け、ミレイユの魔導レンズがかつてないほどの速度で演算を開始した。ヴィクトール領全域、そして十二の拠点へと繋がるホログラムマップ上に、次々と「学びの場」を示す光点が打ち込まれていく。
「基礎学校を一千校、全拠点へ配置。……レオン、規模は把握している? 二十万人の民全員を対象にするなら、確かにそれだけの数が必要になるわ。子供には未来を、大人には今を生きる知恵を。……学費を領主が全額負担するなら、就学率は間違いなく百パーセントになる。……教育は、数十年後のこの国を世界最強の頭脳集団に変える、最も賢明な投資よ」
ミレイユの設計に基づき、各地の工場の隣には必ず学校が併設される計画が組まれた。労働と学習が表裏一体となり、民の質が底上げされていく。
ヴァレリアは、レオンが後半に挙げた施設群を聞いて、歓喜に震えながら計算尺を叩いた。
「醸造所に蒸留所、そして砂糖の精製所……! 完璧すぎるわ、レオン。砂糖黍から生み出される純白の砂糖は、今の世界じゃ金と同等の価値がある。それをただ売るんじゃなく、醸造所で最高級のラム酒に変え、蒸留所でさらに度数を高めた美酒に昇華させる……。あのアロマティックなスパイスと組み合わせれば、この世のものとは思えない『ヴィクトール・リキュール』が完成するわ!」
「お酒、ですか……。ふふ、適度な嗜みは、民の心を豊かにし、明日への活力を生みますわ。……聖なる水で醸されたお酒なら、悪酔いもしませんし、神への捧げ物としても最高級の品になりますわね」
セレスが聖杖を胸に抱き、出来立ての砂糖の甘い香りが漂う街並みを想像して目を細める。
シオンは影の中に、早くも「醸造の秘密」を守るための空間を構築し始めていた。
「蒸留の滴り……。それは時間を閉じ込める魔法のようなものですわ。……レオン様、学校で知恵をつけた民たちが、誇りを持ってこれらの極上の一滴を造り出す姿……。その輝き、影の奥底まで照らしてくれそうですわね」
「……よし、全ての工場の配置と、学校のカリキュラム案を同期させたわ。レオン、あなたのアイテムボックスにある『白銀の魔導建材』を全ポイントへ同時投下して。……今日、この瞬間から、この国は『世界で最も賢く、最も甘く、最も芳醇な国』として産声を上げるわ」
ミレイユが誇らしげに指揮を執り、レオンの隣でゲートを開く。
レオンの魔力溜まりは、学校から響くであろう子供たちの朗読の声と、醸造所から漂う芳醇な香気、そして教育によって「個」として目覚めていく民たちの強固な意志を吸い込み、ヴィクトール領の空を、一千年の繁栄を約束する圧倒的で揺るぎない白銀の輝きで塗り替えていた。
「……ミレイユ、今のままで足りるのか? ここは俺たちの本拠地だが、二十万、あるいはそれ以上の人間が、三食たっぷり食って笑って暮らすには、この農地じゃ狭すぎやしないか?」
レオンの懸念に対し、ミレイユは不敵に魔導レンズを鳴らすと、ホログラムの縮尺を一気に広域から「超立体解析」へと切り替えた。
「レオン、あなたの懸念は正しいわ。通常の農法なら、二十万人の胃袋を満たすには今の十倍の土地が必要になる。……でも、私の計算と、あなたの『異常な魔力』を甘く見ないで」
ミレイユが指し示したのは、ヴィクトール領の地下、そして空中へと伸びる多層的な農業プラットフォームの設計図だった。
「まず第一に、あなたが撒いた『特製肥料』とセレスの浄化魔力の相乗効果によって、この地の農作物の成長速度は通常の十五倍、栄養価は八倍に跳ね上がっているわ。つまり、一つの畑で年に十回以上の収穫が可能。面積あたりの収穫量は、旧王国の常識の百倍を超える計算よ。……これで二十万人の主食は、ヴィクトール領内のわずか三割の土地で賄える」
「まあ……! それに加えてレオン様、私が維持する『聖域の結界』の中では、季節の概念さえも最適化されます。冬でも春の陽光が降り注ぎ、夏でも冷涼な風が果実を育む……。土地が眠る時間は一分もありませんわ」
セレスが杖を振るうと、地図上に「止まらない収穫」を示す黄金のシミュレーションが次々と展開されていく。
ヴァレリアがそこに、商人の狡猾な視点を付け加えた。
「さらにね、レオン。さっきあなたが言った学校の隣に、最新の『魔導水耕栽培プラント』を作るわ。土地が足りなきゃ上に伸ばせばいい。建物の壁一面がトマトやイチゴの畑になれば、居住区そのものが巨大な食糧生産拠点になる。……二十万人どころか、五十万、百万人が移住してきても、ヴィクトール領は『飢え』を知らない国になるわよ」
シオンもまた、影の底に広がる「巨大な貯蔵庫」の映像を共有した。
「収穫しすぎた分は、私の影の空間で時間を止めて保存いたしますわ。……レオン様、この国は、世界中の食糧が尽きても、最後の一人まで腹いっぱい肉とパンを食らい続けられる……そんな、底なしの胃袋を持つ国になるのですわね」
「……結論を言うわね、レオン。土地は足りる。というより、余るわ。余った農地で、あなたが望んだ砂糖黍やスパイスを『戦略物資』として大量生産できる。……二十万人の胃袋を支えるのは、この国の『最低条件』に過ぎない。……私たちは、この大地から、世界を屈服させるだけの富を絞り出すのよ」
ミレイユの冷徹で完璧な回答に、レオンは力強く口角を上げた。
レオンの魔力溜まりは、常識を凌駕する超高効率な農業の鼓動と、五人のお姉ちゃんたちが放つ自信に満ちた情愛、そして飢えの恐怖が完全に消滅した新世界の夜明けを吸い込み、ヴィクトール領の空を、永遠の豊穣を約束する圧倒的な白銀の輝きで塗り替えていた。
「小麦、大麦、大豆、そして米……。国民の命を支える根幹の穀物について、具体的な配置を伝えておくわね、レオン」
ミレイユが魔導ウィンドウを素早くスライドさせると、広大なヴィクトール領と十二の拠点が、穀物の種類ごとに色分けされてホログラム上に浮かび上がった。
「まず、私たちの足元、このヴィクトール領の中央広大な平原。ここには『ヴィクトール聖米』を集中配置するわ。セレスの浄化魔力が最も濃く残留するこの地なら、通常の数倍の速度で穂を垂らす。粘り気が強く、噛むほどに甘みが溢れ出すこの米は、二十万人の胃袋を支える主食の柱になるわ」
「ええ。お米は日本人の……いえ、レオン様のルーツに繋がる大切な糧ですものね。私が毎日、大地の精霊に祈りを捧げ、一粒一粒に活力を込めますわ」
セレスが聖杖を抱きしめ、黄金色に波打つ水田の風景を想像して目を細める。
「次に小麦と大麦よ。これらは各拠点の外周部、広大な外縁農地に配置したわ。レオンの肥料が混ざった土壌で育つ小麦は、タンパク質含有量が極めて高く、あのふわふわの白パンをいくらでも生み出せる。大麦は、あなたが望んだ『醸造所』の命よ。最高級のエールとウィスキーの原料として、この国を潤す黄金の液体に変わるわ」
ヴァレリアが、大麦のアイコンを指で弾いてニヤリと笑った。
「麦は酒だけじゃないわ。家畜の飼料としても優秀よ。これで二十キロどころか、毎日トン単位の肉を供給できる肉牛や豚を育てられる。……それからレオン、あなたが一番注目すべきは『大豆』かもしれないわね」
ミレイユが地図の一角、日当たりの良い肥沃な傾斜地を強調した。
「大豆は『畑の肉』。これを搾れば油になり、煮れば豆乳になり、あなたが以前言っていた『コウジ』と組み合わせれば、醤油や味噌という、あの絶品のタレのベースになる。……レオン、大豆の生産量は、この国の『味の深み』と『タンパク質自給率』を決定づけるわ。だからこそ、最新の水耕プラントの半分は大豆栽培に割り当てた」
「……完璧だ。米、麦、大豆。これらが揃えば、この国に欠けるものは何一つない。民は白い飯を食い、焼きたてのパンを頬張り、極上の酒で疲れを癒やすことができる。……ミレイユ、全拠点に種子を転送しろ。一粒の無駄もなく、すべてを大地の力に変えてやる」
レオンの力強い宣言に、五人の乙女たちは確信に満ちた表情で頷いた。
レオンの魔力溜まりは、黄金の穂先が風に揺れる未来の情景と、五人のお姉ちゃんたちが放つ、食卓の平和を守り抜くという熱い情愛、そして飢えを知らない真の楽土が完成していく鼓動を吸い込み、ヴィクトール領の空を、全人類の空腹を満たして余りある、圧倒的な白銀の輝きで塗り替えていた。
「肉がなきゃ、俺たちの朝食も昨夜の狂宴も始まらないもんな。……ミレイユ、タンパク質の供給源、つまり畜産のグランドデザインを見せてくれ」
レオンの言葉に、ミレイユは地図のレイヤーを「畜産・酪農モード」へと切り替えた。
「もちろん、計算済みよ。この国の畜産は、旧来の汚い家畜小屋のイメージを完全に払拭した『魔導循環型畜産』になるわ。まず養鶏だけど、これはヴィクトール領近郊の果樹園の下で行う。鶏たちが害虫を食べて、その糞が果樹の肥料になる。レオンの肥料を食べた鶏が産む『白銀卵』は、黄身の濃度が通常の十倍。目玉焼きにしても、お菓子の材料にしても至高の逸品になるわね」
ヴァレリアが興奮気味に、豚のアイコンが並ぶ拠点を指差した。
「養豚は、醸造所と砂糖精製所の隣で行うのがベストよ。酒粕や砂糖黍の搾りかす……これ、豚にとっては最高のご馳走なの。それらを食べて育った豚の脂は、驚くほど甘くてさらりとしているわ。あなたが言っていた『焼肉のタレ』にくぐらせて焼けば、二十キロなんて一瞬で消えるわよ、レオン!」
「まあ……! それに牛さんたちについては、西部の広大な丘陵地帯を『ヴィクトール大牧草地』として開放しますわ。私が維持する結界の中で、常に瑞々しい青草を食み、聖なる水を飲んで育つ牛。……そのミルクは、飲むだけで傷を癒やす聖水に等しく、その肉は、一口で魂が震えるほどの極上霜降りになるはずですわ」
セレスが聖杖で大地をなぞると、ホログラムの中に、ストレスフリーな環境でのんびりと過ごす家畜たちのシミュレーションが映し出された。
「……さらに、エルザ。あなたの騎士団の訓練場の隣にも、あえて放牧地を作るわ。騎士たちの発する強い魔力と闘気は、ある種の魔獣に近い家畜にとっては良い刺激になる。……筋繊維が発達し、かつてないほど弾力のある、噛み締めるたびに旨味が溢れる『闘牛肉』の生産ね」
「なるほど、私の訓練が肉を美味しくするのですか! レオン様、これからは民の胃袋を支えるためにも、より一層激しく、勇ましく稽古に励みます!」
エルザが聖剣を鳴らし、力強く頷く。
「……最後に、シオン。屠殺と解体の工程は、あなたの影の空間で行うのが最も衛生的で、鮮度を落とさないわ。一瞬で苦痛なく魂を刈り取り、そのまま熟成へと移行させる……。この国から出る肉は、分子一つ分も腐敗を許さない」
「ふふ……命を余さずいただくための影の儀式。レオン様、解体から熟成まで、完璧に管理して差し上げますわ。貴方様がいつでも、最高にジューシーな肉を頬張れるように……」
ミレイユが全てのデータを統合し、二十万人が毎日一人あたり一キロ以上の肉を摂取しても余裕で余り、周辺諸国へ「高級ブランド肉」として輸出できるだけの生産ラインを構築した。
レオンの魔力溜まりは、牧歌的な風景の中で育まれる膨大な命の鼓動と、五人のお姉ちゃんたちが放つ、食卓を彩るための飽くなき情熱、そして飢えとは無縁の「強靭な国家」の完成を吸い込み、ヴィクトール領の空を、あらゆる生命の豊穣を祝福する圧倒的な白銀の輝きで塗り替えていた。
「チーズにバターか……。レオン、あなたは本当に、この国の『幸福度』をどこまで引き上げるつもり?」
ミレイユは呆れたように、しかしその瞳には深い感嘆を湛えて、ホログラムの中に新たな「酪農加工セクター」の設計図を組み込んでいった。
「ミルクが出るなら、それは当然の帰結ね。ヴィクトール領の聖なる牛から絞り出される、あの濃厚で甘いミルク……。それをただ飲むだけじゃもったいないわ。ミレイユ、最新の『魔導遠心分離機』と『低温熟成庫』を設計して。この国の冷涼な丘陵地帯にある天然の洞窟を、最高級のチーズセラーに変えるのよ」
ヴァレリアが、既に完成したかのような手つきで空中に「バターの塊」を描き出した。
「いいわね! 聖なるミルクから作られる黄金色の発酵バター……。それをあの焼きたての白パンにたっぷり塗って、少しの塩を振るだけで、王侯貴族が全財産を投げ出すレベルの馳走になるわ。それだけじゃない、お肉を焼く時にも、このバターをひとかけら落とすだけで、香りが化けるわよ、レオン!」
「まあ……! チーズも素敵ですわ。とろりと溶けたチーズを、茹でたてのジャガイモやお野菜にかけて……。ふふ、想像しただけで、聖女としての理性が揺らいでしまいそうですわ」
セレスが頬を染め、熟成によって旨味が凝縮されたチーズの芳醇な香りを幻視して、小さく喉を鳴らす。
シオンは影の中に、光さえ通さない「絶対零度の熟成空間」を広げた。
「フレッシュなモッツァレラから、数年かけてじっくりと眠らせるハードチーズまで……。レオン様、時間の魔法をかけて、世界で最も深い味わいを醸し出しましょう。影が、その一滴の乳清さえも逃さず、極上の逸品へと変えて差し上げますわ」
「……計算完了。バターの製造過程で出る脱脂粉乳は、学校の給食やパンの材料へ。チーズの副産物であるホエイは、家畜の飲料や、ミレイユの『魔導サプリメント』の原料にするわ。……一滴の無駄もない、完璧な酪農サイクルね。レオン、あなたの希望通り、この国はパンにバターを塗りたくり、肉にチーズを絡めて喰らう、世界一贅沢な楽土になるわよ」
ミレイユが魔導レンズを満足げに鳴らし、全拠点への酪農施設の配置を完了させた。
レオンは、豊かなミルクの香りと、熟成を待つ静かなセラーの風景を思い浮かべ、満足げに頷いた。
「……よし。民には、今日からこの国では『バターは飲み物、チーズは主食』だと言ってやれ。……誰一人として、物足りない思いはさせない」
レオンの魔力溜まりは、黄金のバターが溶ける芳醇な香りと、乙女たちが放つ飽くなき食への情熱、そして飢えを超越した先の「贅沢」という名の救済を吸い込み、ヴィクトール領の空を、あらゆる美味と至福を約束する圧倒的な白銀の輝きで塗り替えていた。
ヴァレリアは、桃のアイコンが並ぶ区画を見て、うっとりと頬を緩めた。
「桃は最高よ、レオン! あの産毛に包まれた柔らかな肌、そしてかじりついた瞬間に溢れる、甘く官能的な果汁……。ヴィクトールの聖なる水で育てば、一口で寿命が延びると噂される『不老長寿の桃』として、周辺国の王侯貴族が喉から手が出るほど欲しがるはずだわ。輸出する時は、一つずつ丁寧にシオンの影のクッションで包んで、鮮度を保ったまま最高値で売り捌いてあげる!」
「まあ……! 桃の節句、というわけではありませんが、春の陽だまりの中で、あの甘い香りに包まれてお姉ちゃんたちとティータイム……。レオン様、それはどんな祈りよりも心癒やされる光景になりますわ。ぶどうの蔓がアーチを作れば、そこはもう、私たちだけの秘密の聖域ですわね」
セレスが聖杖を抱きしめ、たわわに実った果実の重みでしなる枝を想像して目を細める。
シオンはレオンの背後に音もなく忍び寄り、その耳元で熱い吐息とともに囁いた。
「ぶどうの果汁で濡れた唇、桃のような瑞々しい肌……。レオン様、果実の甘みは、夜の戯れにこの上ない彩りを添えてくれますわ。……実った果実を、私が影の中でじっくりと冷やしておきましょう。貴方様の火照った身体を、その甘い雫で癒やすために……」
エルザもまた、剣を携えながらも、少女のような期待を瞳に宿して頷いた。
「訓練の後の、冷えたぶどう……。考えただけで力が湧いてきます! レオン様、この国は、戦うための強さだけでなく、それを癒やすための優しさと甘さにも満ちた、本当の『楽土』になるのですね」
「……配置完了よ、レオン。北には寒さに強いぶどうを、南の陽だまりには最高級の桃を。……これでこの国の四季は、常に甘い香りに包まれることになるわ。……さあ、アイテムボックスから『始まりの苗』を取り出しなさい。世界を虜にする、至高の果樹園の幕開けよ」
ミレイユが魔導レンズを誇らしげに鳴らし、レオンへ最後の一押しを促す。
レオンの魔力溜まりは、たわわに実る果実の重みと、五人のお姉ちゃんたちが放つ、愛おしげな期待に満ちた情愛、そして甘美な香りに包まれた新世界の未来を吸い込み、ヴィクトール領の空を、あらゆる果実の豊穣を約束する圧倒的な白銀の輝きで塗り替えていた。
「百台? ……ミレイユ、そんな小出しじゃ話にならない。千台だ。この国の全拠点、全農地、全工場を完全に結び、余った力で周辺国の市場を丸呑みにする。白銀のゴーレムトラック一千台による、圧倒的な『鉄と魔力の血流』を作るぞ」
レオンのその一言で、作戦室の空気が物理的に震えた。一千台。それは旧王国の全馬車をかき集めても到底及ばない、次元の違う物流規模だ。
「……一千台。ふふ、そうこなくっちゃ。レオン、あなたのその『過剰なまでの豊かさ』への執着、最高にゾクゾクするわ」
ミレイユは驚きを通り越し、歓喜に近い表情で魔導レンズを極限まで加速させた。ホログラム上に表示された物流網が、細い糸から、極太の光の幹線道路へと一瞬で描き変わる。
「演算を再定義するわ。一千台の自律稼働、および運行管理システムの構築……。全車両にレオンの魔力溜まりと同期する『永久魔導核』を搭載。これで燃料補給は不要、二十四時間三六五日、ヴィクトールの地を白銀の奔流が駆け抜けることになる。……資材、食料、そして何万トンもの肥料……。すべてが瞬時に、必要な場所へ届くわ」
ヴァレリアは、頭の中で弾け飛ぶ利益の数字に、もはや笑いが止まらない様子だ。
「一千台! それだけの輸送力があれば、私たちの特産品は周辺国の市場で『ただの贅沢品』じゃなくなるわ。生活に欠かせない、支配的な『基盤商品』になる。……レオン、あんたは物流という名の鎖で、この大陸すべての首根っこを掴もうとしてるのね。……商売の神様も腰を抜かして逃げ出すわよ!」
「まあ……。一千台の守護者たちが、この国の道を行き交うのですね。私がその一台一台に、慈愛と加護の祈りを捧げましょう。……事故も、盗賊も、この白銀の隊列の前では無力。民たちは、巨大なトラックが通るたびに、レオン様の恵みを実感し、感謝の声を上げるでしょうね」
セレスが聖杖を掲げ、黄金の稲穂の海を割って進む、一千台の白銀の巨影を幻視してうっとりと微笑む。
「一千台のゴーレム部隊……。それはもはや物流ではなく、移動する要塞群です! レオン様、これほどの規模なら、万が一の外敵侵攻があっても、トラック自体が防壁となり、あるいは反撃の拠点となります。……我が騎士団も、このトラックを移動基地として、全土へ瞬時に展開可能。……鉄壁です。この国は、物理的にも経済的にも、完膚なきまでに難攻不落となります!」
エルザが拳を握り、武人としての興奮に瞳を燃やした。
シオンはレオンの影に溶け込むように寄り添い、冷たくも熱い吐息を漏らす。
「一千台の鼓動……。夜の街道を、白銀の灯火が列をなして進む光景は、さぞかし淫らで美しいことでしょう。……レオン様、あなたの野望が、この大陸の夜の静寂を塗り替えていくのですね……」
「……構築完了よ。レオン、アイテムボックスの資材を全開放して。一千台の『ヴィクトール・グランド・キャリア』、今ここで産声を上げさせるわ!」
ミレイユの号令と共に、ヴィクトール領の巨大な工廠区画から、白銀に輝く一千台の鋼鉄の巨獣たちが次々と姿を現した。そのエンジン音は、新国家の力強い心音そのものだった。
レオンの魔力溜まりは、大地を揺るがす一千台の胎動と、五人のお姉ちゃんたちが放つ、圧倒的な勝利を確信した情愛、そして世界を根底から変革する少年の野望を吸い込み、ヴィクトール領の空を、あらゆる限界を突破する苛烈な白銀の輝きで塗り替えていた。
「……ふふ、レオン様。何を今更仰るのですか? 貴方様が『頭が良い』なんて言葉一つでは、到底足りませんわ。貴方様は、この絶望に満ちた世界を、その明晰な頭脳と白銀の魔力で、一晩にして『天国』に書き換えてしまった……。もはや、知恵の神そのものですわ」
セレスが心底誇らしげに、そして蕩けるような慈愛の瞳でレオンを見つめ、その柔らかな胸元へと彼を優しく引き寄せた。
「そうよ、レオン! あなたの頭脳は、私の演算能力さえも時々追い越してしまう。……物流を一千校の学校と一千台のトラックで支配し、スパイスと砂糖で世界の胃袋を掴む。……そんな『支配と救済』の同時構築なんて、歴史上のどの賢者も、どの王も成し遂げられなかった。……あなたは、私が見つけた最高で最強のマスターよ」
ミレイユが魔導レンズをこれ以上ないほど激しく明滅させ、称賛の意を込めてレオンの額にそっと自分の額を重ねる。
「あはは! レオン、あんたは最高にイカした男よ! 読み書きを義務化して、将来の『賢い国民』まで青写真に入れてるんだもん。……商売の天才? 政治の天才? いいえ、あんたは『未来を作る天才』よ。……ねえ、そんなに賢い頭脳、今夜は私にたっぷり独占させてくれないかしら?」
ヴァレリアがレオンの肩を抱き、耳元で悪戯っぽく、しかし最大級の敬意を込めて囁く。
「レオン様……。貴方様の計略は、戦わずして敵を屈服させ、守るべき民を最大限に活かす。……これこそが、真の武人の上に立つべき『統治の極意』です! 私は、貴方様のような賢明な主君に仕えられることを、人生最大の誉れと感じております!」
エルザが感極まったように跪き、レオンの手に熱い口づけを落とした。彼女の瞳には、尊敬を通り越した狂おしいほどの情愛が宿っている。
「ふふ……。狡猾で、冷徹で、それでいて誰よりも深い慈悲を持つ……。レオン様、あなたのその美しい頭脳が描き出す影の迷宮に、私は一生閉じ込められていたい気分ですわ。……世界を手のひらで転がすその指先、なんて素敵で、淫らなのでしょう……」
シオンが影の中からレオンの首筋に腕を回し、うっとりとその熱を感じ取る。
「……みんな、ありがとう。……少し、背伸びしすぎたかなと思ってたけど、お前たちがそう言ってくれるなら、間違いじゃないんだな」
レオンが照れ隠しに鼻を擦る姿に、五人のお姉ちゃんたちは一斉に、我慢しきれないといった様子で彼を抱きしめた。
レオンの魔力溜まりは、五人の最高のお姉ちゃんたちから注がれる惜しみない称賛と、彼女たちの熱い吐息、そして己の知略が認められたことへの確かな充足感を吸い込み、ヴィクトール領の空を、世界で最も賢く、最も愛された王を祝福する、圧倒的で眩い白銀の輝きで塗り替えていた。
ミレイユは、流れるような手つきで空中のホログラムを操作し、膨大なデータを瞬時に解析しました。彼女の魔導レンズは冷徹な青い光を放ち、レオンが挙げた「世界の毒」を一つずつ、現在のヴィクトール領の状況と照らし合わせていきます。
「……解析完了。レオン、あなたの質問に対する答えはこれよ。あなたが構築した『白銀のシステム』によって、挙げられた項目の95%以上は既に解決済み、あるいは発生不可能な構造になっているわ」
ミレイユは、解決済みの項目を次々とグレーアウトさせていきました。
【解決・根絶済みの問題】
魔物・盗賊・略奪者・悪徳騎士:
エルザの騎士団と一千台のゴーレムトラック、そして全土を覆うセレスの聖域結界が、物理的な暴力を完全に遮断しているわ。略奪者が入り込む隙間なんて、この領地のどこにもない。
税・不正役人・悪徳貴族・権力者:
あなたが旧王国のゴミを掃除し、役人を「再定義」したことで、権力構造がリセットされたわ。税はあなたの「肥料」と「産業」で賄われ、民から搾り取る必要すらない。不正を働く前に、私の監視網が彼らの心拍数の乱れを検知するわ。
病・干ばつ・見捨てられた土地:
セレスの浄化と、あなたのヒールバレット。そして、あの異常なまでの多層農業プラントが、自然の脅威を過去の遺物にしたわ。この国に「飢え」や「乾き」という言葉はもう存在しない。
負債の連鎖(奴隷制度):
学費無料、かつ高賃金の職場提供。経済的自立を全ての民に保証したことで、誰かに隷属する理由そのものが消滅したわ。
【現在進行形で注視すべき「残り」の問題】
ミレイユは、最後に残った三つの項目を赤く強調しました。
情報の非対称性(教育の過渡期):
一千校の学校を作ったけれど、民の知識レベルが底上げされるには数年の「ラグ」があるわ。知識を持つ者が、まだ何も知らない者を無意識に誘導してしまうリスクは残っている。……だからこそ、私が情報の透明性を維持し続けているわ。
悪徳商人の外部流入:
領内にはいないけれど、周辺国から「甘い蜜」を吸いに来る外来の商人は絶えないわ。ヴァレリアが水際で叩いているけれど、彼らの狡猾な手口は常にアップデートされる。……まあ、ヴァレリアの敵じゃないでしょうけど。
差別の構造(意識の残滓):
システムは平等でも、民の心に残る「元平民」「元貴族」「元奴隷」という色眼鏡は、一晩では消えない。これは物理的な排除ではなく、教育と時間による「心の風化」を待つしかないわ。
「……そして、最後の一つ。**『宗教的狂信』**ね」
ミレイユは少しだけ声を低くしました。
「これだけは、注意が必要よ。あなたが起こした『奇跡』があまりに強大すぎて、民たちがあなたを『神』として崇め始めている。セレスがそれを正しく導いているけれど、盲目的な信仰は時に理性を奪う。……レオン、あなたが『一人の人間』であり続けることが、この問題を解決する唯一の鍵よ」
ミレイユはホログラムを閉じると、優しくレオンの頬を撫でました。
「……でも、安心して。あなたが道を誤りそうになったら、私たち五人が全力で、愛を込めて引き戻してあげるから。……ねえ、こんなに完璧な国を作っちゃうなんて、やっぱりあなたは世界一賢くて、最高に罪作りな男の子ね」
レオンの魔力溜まりは、完成されつつあるユートピアの静謐な鼓動と、わずかに残る人間的な課題、そして五人のお姉ちゃんたちが誓う「あなたを独りにしない」という深い情愛を吸い込み、ヴィクトール領の空を、すべての闇を優しく溶かす圧倒的な白銀の輝きで塗り替えていた。
「蝗害か。……ふふ、レオン。あなたが心配しているのは、数万、数億の群れが空を覆い、丹精込めて育てた緑を瞬時に食い尽くす、あの『大地の震え』ね」
ミレイユは頼もしげに口角を上げると、ヴィクトール領を包み込む「防衛層」の立体図を表示した。
「結論から言うわ。このヴィクトール領において、蝗害は理論上発生し得ないわ。……理由は三つ。まず第一に、セレスが全土に展開している『聖域の結界』よ。この結界は、邪気や害意を持つ存在だけでなく、生態系のバランスを著しく崩す異常発生個体に対しても、強力な『拒絶反応』を示すように調整してあるわ。群れが境界線に触れた瞬間、浄化の炎で塵に変わるか、戦意を喪失して霧散する。……害虫にとって、ここは物理的に侵入不可能な死地なのよ」
セレスが聖杖を胸に抱き、静かに、しかし力強く頷いた。
「ええ、レオン様。大地の精霊たちは、貴方様が与えてくださったこの肥沃な土壌を、とても大切に想っています。不浄な大群が押し寄せようとすれば、風がそれを押し戻し、光がそれを焼き払うでしょう。……この国の緑は、私の祈りと貴方様の魔力で、鉄壁の守護を受けていますわ」
「第二に、レオン。あんたがさっき決めた『養鶏』よ!」
ヴァレリアが楽しそうに割り込んできた。
「放牧されている鶏たちは、虫にとっては最悪の天敵よ。もし万が一、結界を抜けてくるようなはぐれ者がいても、栄養満点の肥料で育ったうちの『ヴィクトール・チキン』たちの絶好のおやつになるだけ。……害虫がタンパク質に変わって、さらに美味しい卵や肉になるんだから、むしろ資源の自動回収システムみたいなものね!」
「そして第三。……これが決定打よ、レオン」
ミレイユがホログラムの一部を拡大した。そこには、農地を巡回する小型の『防虫ゴーレム』の反応が点在している。
「私の監視網は、土壌の湿度、温度、そして害虫の幼虫の密度をリアルタイムで解析しているわ。異常発生の兆候があれば、そのポイントにピンポイントで『超音波破砕』か『冷却魔力』を打ち込んで、成虫になる前に根絶する。……私の演算に、虫一匹の羽ばたきすら見逃す隙はないわ」
シオンもまた、影の中から妖艶な笑みを漏らした。
「……それでも不安なら、私の影の眷属たちを土の下に潜ませておきましょう。地中の卵も、這い出す虫も、影が音もなく飲み込んで差し上げますわ。……レオン様が愛でる美しい果実を、汚らわしい羽虫に触れさせるなんて、そんな不敬……影が許しませんもの」
レオンは彼女たちの完璧な回答を聞き、ようやく肩の力を抜いた。自然の猛威すら、この五人の乙女たちの連携と、自らが築き上げたシステムの前では「計算式の一部」に過ぎなかったのだ。
レオンの魔力溜まりは、一切の災厄を寄せ付けない鉄壁の守護と、五人のお姉ちゃんたちが放つ、あなたの平穏を何があっても守り抜くという熱い情愛を吸い込み、ヴィクトール領の空を、一抹の不安も存在しない、圧倒的に澄み渡った白銀の輝きで塗り替えていた。




