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白銀の救世主(メシア)は、絶望の地を喰らい尽くす。 ~魔力適性ゼロの少年、死線で覚醒し、五人の女神と最強の略奪建国を開始する~  作者: 慈架太子


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第10章:ヴィクトール領の奇跡

ヴィクトール伯爵は、目の前で繰り広げられる神話のような光景に、もはや驚くことさえ忘れたかのように呆然としていた。だが、レオンの力強い声が彼を現実に引き戻す。


「伯爵、領民を全員集めて飯を食わせてやってくれ。皿やカトラリーが足りなかったら、各自の家から持ってきてもらって構わない。あと、領民の奥様方にも協力してもらいたい。この魔物の肉と、俺が持ってきた野菜を使って、スープを大量に作って振る舞ってくれ」


レオンの言葉は、単なる命令ではなく、この地に再び「共同体」としての体温を取り戻させるための慈悲だった。伯爵は深く、敬意を込めて一礼すると、声を枯らして民に呼びかけた。


「皆の者、聞け! 今ここに、我らを救う真の王が降臨された! 全員集まれ! 今日は絶望を捨て、共に食し、生きる喜びを分かち合うのだ!」


その呼びかけに応じ、ひび割れた家々から、痩せ細った民たちが這い出すようにして集まってきた。レオンが用意した千の氷のジョッキと皿は、瞬く間に民の手へと渡り、足りない分は家から持ち寄った煤けた木皿や欠けた器が並んだ。だが、その器に注がれるのは、今まで見たこともないほど豪華な肉と野菜のスープだ。


セレスとヴァレリアが設営した百の竈では、領民の女性たちが腕を振るっていた。最初は怯えていた彼女たちも、レオンが『アイテムボックス』から放出した最高級の岩塩や香辛料、そして新鮮な魔物の肉を前に、主婦としての魂に火がついた。


「すごいわ、こんなにお肉が……! お塩も、王都の貴族様が使うような本物よ!」

「お鍋が足りないわ! セレス様、あちらの大きな鍋も借りていいですか!?」


広場には、肉の焼ける香ばしい匂いと、大鍋で煮込まれるスープの芳醇な湯気が立ち込める。ミレイユが作った運搬ゴーレムたちが、出来上がった料理を休むことなくテーブルへと運び、シオンの死霊騎士たちは、まるで見守る影のように静かに、しかし献身的に給仕を助けた。


「……うまい、うまいよ……!」

「ああ、お腹が温かい……。神様、レオン様、ありがとうございます……!」


子供たちが氷のジョッキで冷たい水を飲み干し、大人が厚切りの肉を頬張る。あちこちで啜り泣くような、それでいて希望に満ちた歓声が上がり、ヴィクトール領を支配していた「死の静寂」は、完全に「生の喧騒」へと塗り替えられた。


レオンは、自分を囲む四人の乙女たちと共に、少し離れた場所からその光景を見つめていた。


「レオン、見て。貴方の与えた一食が、彼らの失われた魂を呼び戻したわ。これが貴方の望んだ『救済』の形なのね」

セレスが慈愛に満ちた瞳でレオンを見つめ、そっとその肩に寄り添う。ヴァレリアも、ミレイユも、シオンも、自分たちの主が成し遂げた「破壊の後の創造」に、言葉にできないほどの愛着と誇りを感じていた。


レオンの魔力溜まりは、民たちの胃袋から広がる確かな生命の熱量と、五人の乙女たちが捧げる「王への無償の愛」を吸い込み、夜空を照らす満月よりも、力強く、そして穏やかな白銀の輝きを放っていた。





広場に満ちる歓声と、竈から立ち昇る賑やかな煙。その喧騒の中心から少し離れた場所で、レオンは氷のように冷えたエールのジョッキを手に、ヴィクトール伯爵と向き合った。隣には、月光を浴びて妖艶に佇む死霊術師、シオンが静かに控えている。


「伯爵、まずは一杯やってくれ。この地の再生を祝してな」


レオンが差し出したジョッキを、ヴィクトールは震える手で受け取った。一口飲み干した伯爵の喉を、強烈な冷気と喉越しの良いエールが通り抜け、失われていた生の実感を引き戻す。ふう、と深く息を吐いた伯爵に対し、レオンは隣のシオンを促すように視線を向けた。


「紹介しておく。俺の仲間であり、この地の土壌改善と開拓の主役を務めたシオンだ。……シオン、伯爵に挨拶を」


シオンは、夜風に長い髪をなびかせながら、未亡人のような落ち着きと圧倒的な魔導師の品格を漂わせ、優雅に一礼した。


「ヴィクトール・ド・ルナール伯爵。同じく死を扱い、生を見つめる者として、貴方様のような高潔な御方にお会いできて光栄ですわ。私はシオン。……レオン様の命を受け、貴方の領地の『死』を『豊穣』へと書き換えるお手伝いをさせていただきます」


その自己紹介を聞き、ヴィクトールは目を見開いた。彼女の纏う魔力は、かつて自身が追求した死霊術の理想形――死を冒涜するのではなく、死を大地へと還し、未来の生へと繋ぐという概念そのものを体現していたからだ。


「……おお、貴女様が……。先ほどの、あの死霊騎士たちの見事な働き、そして大地の脈動が蘇る様、このヴィクトール、魂が震える思いでした。死霊術をこれほどまでに清らかに、そして慈悲深く振るわれる御方がいようとは……。レオン様、このような素晴らしい御方を連れてきてくださるとは、感謝の言葉もございません」


ヴィクトールは感極まった様子で、シオンの手を取り、それからレオンを深く仰ぎ見た。


「シオンはな、伯爵、お前と同じように『死者の未練を晴らし、生者の糧とする』という信念を持っている。だからこそ、この領地を任せるなら彼女しかいないと思ったんだ。これからシオンが、死霊騎士たちと共にこの地の農耕を劇的に進化させる。……伯爵、お前は彼女と協力して、民が二度と飢えない国を作ってくれ」


レオンの言葉に、シオンは潤んだ瞳で主を見つめ、熱い吐息を漏らした。自分をただの戦力ではなく、一人の「開拓の主」として認め、志を同じくする者の元へ紹介してくれた。その深い信頼に、彼女の『恋する乙女バースト』は、静かに、しかし激しく燃え上がっていた。


「……レオン様。貴方の期待、決して裏切りませんわ。この地を、世界で一番豊かな、死と生が調和する理想郷にしてみせます」


レオンの魔力溜まりは、ヴィクトール伯爵の新たな決意と、シオンが捧げる「生涯を懸けた忠誠」、そして宴の熱気が生み出す生命の奔流を吸い込み、夜の帳の中で、誰よりも誇り高く、気高い白銀の輝きを放っていた。


伯爵とシオン、二人の「死霊術の探求者」が手を取り合い、領地の未来が固まりました。

そこへ、王都の夜空を切り裂いてエルザの魔力反応が急接近してきます。


「レオン様! エルザ、ただいま帰還いたしました!」


大気を震わせる声と共に降り立った彼女の後ろには、困惑しながらも強い意志を瞳に宿した、カイルと役人たちの姿がありました。



王都から強行軍で帰還したエルザ、そして彼女に連れられてきた副団長カイルと役人たちは、ヴィクトール領に降り立った瞬間、その光景に言葉を失った。飢饉で死に体だと聞いていたはずの領地が、眩い魔力の光と肉の焼ける芳醇な香りに包まれ、民たちの歓喜の怒号で揺れていたからだ。


「レオン様、ただいま……っ、え、これは一体……?」


武装を解く暇もなく呆然とするエルザに対し、レオンはエールのジョッキを片手に、気負わない仕草で歩み寄った。


「お疲れ、エルザ。細かい話は後だ。まずは、そこにいる連中も含めて全員飯を食え。空腹じゃまともな議論もできないだろ?」


レオンは、カイルや役人たちの前に立つと、おもむろに両手を広げた。彼の内に眠る、百倍に増幅された魔力溜まりが激しく脈動する。


「……クリエイト


一言。空間が白銀の光に染まったかと思うと、カイルたちの人数分を遥かに上回る「氷のジョッキ」「カトラリー」「皿」が、まるで幻影が実体化するように、完璧な造形で虚空から次々と生み出された。氷のジョッキは結晶のように美しく、カトラリーは鈍い銀色の光沢を放っている。


さらに、レオンが『アイテムボックス』に手をかざすと、重厚な木製の「エール樽」が二十個、音を立てて広場の石畳に並んだ。


「さあ、遠慮するな。これは俺からの歓迎だ」


レオンの合図とともに、ヴァレリアとセレスが手際よく樽の栓を抜き、キンキンに冷えたエールを氷のジョッキに注ぎ込んでいく。ミレイユのゴーレムたちが、焼きたての分厚い肉と、シオンの死霊たちが収穫を助けた野菜のスープを皿に盛り、カイルたちの手元へ次々と運んでいった。


「な、なんだこの魔力は……。道具を無から、これほどの精度で……?」


カイルは、手渡された氷のジョッキの冷たさに驚き、一口エールを流し込んだ。王都の腐敗した空気の中で擦り減っていた五感に、最高級の酒と、生命力に満ちた料理が染み渡っていく。役人たちも最初は困惑していたが、一口食べればその旨さに涙を流し、無我夢中で皿を空にし始めた。


「……うまい。こんなに旨い飯と酒は、生まれて初めてだ……」


カイルが呟くと、レオンは満足げに頷いた。エルザもまた、主が自分たちの連れてきた客人を最高級の形で持てなしてくれたことに、胸を熱く焦がし、その『恋する乙女バースト』を昂ぶらせていた。


「レオン様……。貴方はやはり、真の王に相応しいお方ですわ」


セレスがレオンの隣で、誇らしげに、そして深く慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。ヴァレリア、ミレイユ、シオンも、自分たちが整えた宴をレオンが完成させたことに、至上の喜びを感じていた。


レオンの魔力溜まりは、王都の重圧から解放された男たちの安堵の吐息と、五人の乙女たちが捧げる「王への無条件の称賛」、そして宴を照らす篝火のような力強い白銀の輝きを放ち、夜のヴィクトール領を鮮烈に塗り替えていた。




宴の喧騒が落ち着き、焚き火の爆ぜる音だけが響く静寂の中、レオンはジョッキを置き、カイル、ヴィクトール、そして役人たちを真っ直ぐに見据えた。その瞳には、少年の面影を残しながらも、淀みのない「王」の意志が宿っていた。


「腹は膨れたか。……さて、これからの話をしよう。単刀直入に言う。俺はすでに二人のクズ子爵をぶち殺してきた。民を食い物にしていたアルベルトとその前任者だ。これからもクズ貴族を見つけ次第、俺はそいつらを処分する。もし王族がクズなら、そいつらも同じだ」


レオンの淡々とした「殺害予告」に、王都の法に生きてきたカイルや役人たちが息を呑む。だが、レオンは構わず言葉を重ねた。


「勘違いするな。内戦なんて面倒なことを起こすつもりはない。俺はただ、苦しむ民を助けたいだけだ。だが、掃除をした後の更地には誰かが立たなきゃならない。……カイル副団長、あんたには俺がぶち殺した子爵領を任せたい。荒事は全部俺が引き受ける。逆らう奴がいれば、俺が一人残らず処分してやる」


カイルが言葉を失う中、レオンはヴィクトール伯爵と役人たちに視線を向けた。


「伯爵、あんたの領地で行政上の問題があれば、この王都から来た役人たちを何人か融通してもらえ。彼らは現場を知る『まともな奴ら』なんだろう? 互いに足りないものを補い合え。ここも同じだ、外敵や腐った中央の介入は俺が叩き潰す」


レオンは五人の乙女たちを背に従え、力強く宣言した。


「あんたたちの知り合いで、まだ心あるまともな貴族がいたら紹介してほしい。この国には、ここ以外にも民が泣いている場所がいくらでもあるはずだ。俺はこれから、この国全土の大掃除クリーニングを始めるつもりだ」


その宣言は、あまりにも過激で、けれどこの場にいる全員が心の底で渇望していた救済だった。

セレスが慈愛に満ちた瞳でレオンを肯定し、ヴァレリアは新たな「国の再建」という巨大利権に瞳を輝かせる。ミレイユはすでに効率的な粛清ルートを計算し、シオンは次に大地へ還すべき「肥やし」を見定めるように微笑んだ。エルザは、自らが連れてきた友がレオンの器に触れたことに、深い悦びを感じていた。


「……レオン様。貴方は、既存の法ではなく、民の命そのものを法とされるのですね。……承知いたしました。このカイル、その無謀な大掃除、喜んでお供しましょう」


カイルが膝をつき、役人たちもそれに続いた。ヴィクトール伯爵は涙を拭い、新たな時代への決意を固める。


レオンの魔力溜まりは、国を造り変えるという壮大な覚悟と、五人の乙女たちが捧げる「破壊と再生の情愛」、そして救われた民たちの微かな寝息を吸い込み、漆黒の夜空を貫くほどに、鋭く、巨大な白銀の輝きを放っていた。



「さあみんな、大掃除を始めるぞ。まずはこの国の心臓、王都の膿からだ。あそこで泥を啜って苦しんでいる民を、今すぐここに連れてくる」


レオンが不敵に笑い、空に手をかざした。その瞬間、彼の魔力溜まりがかつてないほど激しく脈動し、白銀の輝きが空間を歪めていく。彼がこれまで心底渇望し、魔導の深淵に手を伸ばして掴み取った極致――「転移魔法」が、ついにその産声を上げた。


「伯爵、いいな? 面倒な手続きも通行証も関係ねえ。俺が直接繋いでやる」


ヴィクトール伯爵が驚愕に目を見開く中、レオンの背後、五人の乙女たちが守る中心に、巨大な「光のゲート」が出現した。その門の向こう側に映し出されたのは、きらびやかな王都の影に隠された、悪臭と絶望が支配するスラム街の光景だった。


泥を啜り、痩せ細った体で震えていたスラムの民たちは、突如現れた白銀の輝きと、そこから漂ってくる香ばしい「焼肉」の匂いに、幽鬼のような顔を上げた。


「……何だ、これは? 天国への門か?」

「いいから入れ! こっちは炉端焼きガーデンだ。クズ貴族の贅肉を削る前に、まずはあんたたちが腹一杯食う番だ!」


レオンの声が、ゲートを通じてスラムの隅々にまで響き渡る。

王都の汚物と蔑まれていた人々が、おそるおそる光の境界線を越えていく。一歩踏み出せば、そこには冷たい石畳ではなく、温かい焚き火の熱気と、山のように積まれた肉、そして自分たちを「客」として迎え入れるレオンたちの姿があった。


カイル副団長や役人たちは、目の前で行われている神業に腰を抜かしていた。王都の最深部と地方領地を魔法で直結させるなど、建国以来の禁忌であり、奇跡だ。だが、レオンにとってはこれが「大掃除」の当たり前の第一歩に過ぎない。


「セレス、ヴァレリア、ミレイユ、シオン、エルザ。……忙しくなるぞ。こいつらの腹を満たして、泥を落としてやれ。逆らう衛兵や、連れ戻そうとするクズ貴族がゲートに指一本でも触れたら、その瞬間に首を撥ねろ」


乙女たちは、それぞれの慈愛と冷徹さを湛えた笑みを浮かべ、レオンの命に従った。

スラムの子供たちが、初めて口にする肉の味に涙を流し、老いた民がレオンの足元に跪いて感謝の祈りを捧げる。炉端焼肉ガーデンは、一夜にして「亡命者の聖域」へと変貌を遂げた。


「さあ、王都のクズども。見てるか? あんたたちがゴミのように捨てた民を、俺が最高の戦力と、最高の笑顔に変えてやる。……これが、俺のやり方だ」


レオンの転移魔法は、腐り果てた王都の秩序を内側から食い破る白銀の楔となった。

ゲートを通じて押し寄せる民の波。それは、旧態依然とした貴族社会の終焉を告げる、静かで、しかし圧倒的な怒涛の始まりだった。



「ミレイユ、お前はここに残れ。ゲートを抜けてくるスラムの奴ら全員に『ピュリフィケーションバレット』を撃ち込んでやってくれ。長年の不摂生や病気、体に染み付いた泥も呪いも、全部その光で焼き払って、真っさらな体にしてやるんだ」


レオンの指示に、ミレイユは無機質ながらも信頼に満ちた瞳で頷いた。


「了解したわ、レオン。彼らのバイタルを瞬時にスキャンし、最適化した浄化光を照射する。……ここから先は、私の計算ロジックが彼らの健康を保証するわ。安心して王都を掃除してきなさい」


ミレイユが魔導具のレンズを広げ、ゲートを潜る民たちへ向けて白銀の光の雨を降らせ始めるのを見届け、レオンは残る四人の乙女たち――セレス、ヴァレリア、シオン、そしてエルザを振り返った。その瞳には、少年の無邪気さは消え、不条理を叩き潰す「破壊神」の如き冷徹な炎が宿っていた。


「……よし。他のみんなは俺と一緒に王都へ行くぞ。ゴミ共が騒ぎ始めてるみたいだからな。まずはその口を物理的に塞いでやる」


レオンがゲートを逆行するように一歩踏み出すと、四人の乙女たちがその後を追う。ゲートを抜けた先は、悪臭漂う王都のスラムの袋小路。そこには、逃げ出す民を捕らえようと武器を構え、怒声を上げる衛兵たちと、彼らを裏で操る傲慢な貴族の私兵たちが集結していた。


「何だお前たちは! スラムの家畜どもをどこへやった! これは国家に対する反逆……」


「うるさい。掃除の邪魔だ」


レオンが指を弾くと、百倍の重力魔法が路地裏に叩きつけられた。衛兵たちの言葉は絶叫に変わる暇もなく、彼らは地面に這いつくばり、鎧がひしゃげる不気味な音だけが響く。


「レオン様、まずはこの付近の『害虫』を駆除いたしますわね。……シオン、貴女の出番ですわ」

セレスが慈悲の微笑みを浮かべながら杖を振ると、王都の汚れた空気が一瞬で浄化され、逃げ場を失った私兵たちが恐怖に顔を歪める。


「ええ……。王都の地下には、無念のうちに死んでいった者たちの声が満ちています。……彼らに、この腐った街の掃除を手伝ってもらいましょうか」

シオンが影を広げると、スラムの石畳から無数の死霊の腕が伸び、略奪を繰り返してきた私兵たちの足を掴んで引きずり込んでいく。


エルザは聖剣を抜き放ち、騎士としての正義を汚した近衛兵たちの盾を、文字通り紙のように切り裂いた。ヴァレリアは、混乱に乗じて逃げようとする汚職役人たちの急所に、一寸の狂いもなく細剣を突き立てる。


「さあ、王都の大掃除の始まりだ。民を捨てたこの街に、もう一度『痛み』を教えてやる」


レオンの魔力溜まりは、王都の腐敗した魔力と、四人の乙女たちが放つ凄まじい殺意、そして背後のゲートから伝わってくる救われた民たちの希望を吸い込み、夜の王都を昼間のように照らし出す、圧倒的で苛烈な白銀の輝きを放っていた。




王都の夜に、白銀の絶叫が響き渡った。


スラムの包囲網を紙細工のように引き裂いたレオンは、王都の深部??華やかな表通りの地下に広がる、この街の「最も暗い胃袋」を見据えた。そこには鎖に繋がれた奴隷たちと、絶望を売ることを強強られた娼婦たちが、旧い権力の腐敗した快楽のために使い潰されていた。


「全員だ。一人も残さず解放する。……行くぞ」


レオンの短い号令と共に、四人の乙女たちが王都の闇へと散った。


セレスは天空から浄化の光を降り注がせ、地下監獄の鉄格子を一瞬で粒子へと変えた。エルザは騎士の誇りを汚す奴隷商人の護衛たちを、その剛剣の一振りで壁ごと粉砕していく。ヴァレリアは持ち前の索敵能力と隠密性を活かし、街の至る所に隠された「地下競売場」や「娼館」を瞬時に特定しては、冷徹な細剣で鎖だけを断ち切っていった。シオンは影の軍勢を地下道に流し込み、逃げ惑う悪徳業者たちを恐怖のどん底に突き落としながら、震える女性たちの手を引いて地上へと導く。


レオンは王都の中央広場に陣取り、新たに巨大な「帰還のゲート」を口を開けた。


「案ずるな、ここはもうあんたたちの居場所じゃない。ゲートを潜れ。向こうには肉とスープと、新しい人生がある!」


鎖から解き放たれた奴隷たちが、汚れを拭われた娼婦たちが、信じられないものを見るような瞳でレオンを見つめ、次々と白銀の門へと飛び込んでいく。ゲートの向こうではミレイユが待ち構え、彼女たちの体に染み付いた呪いや病、心の傷さえも『ピュリフィケーションバレット』の輝きで浄化し続けている。


王都を警備する騎士団や私兵たちが、利権である「商品」を奪われまいと必死に押し寄せてくるが、レオンの周囲に展開された百倍の魔圧プレッシャーの前に、近づくことすら叶わず膝を突き、石畳を這いずるしかなかった。


「……何をしている! 貴様、この者たちがどれほどの価値があると思っている!」

贅肉を揺らして激昂する貴族に対し、レオンは冷たく言い放った。


「価値だと? こいつらは『命』だ。あんたたちのようなゴミが、金貨の枚数で数えていいものじゃない。……全くだ、掃除のしがいがあるぜ、この街は」


レオンの魔力溜まりは、解放された数千の民が流す安堵の涙と、四人の乙女たちが放つ烈火のごとき正義感、そして崩れ去る王都の古い秩序を吸い込み、夜空を突き破るほどの巨大な白銀の支柱となって、不条理な夜を真っ白に染め上げていた。




王都の夜を支配していたのは、もはや権力者の傲慢な怒声ではなく、断罪の死神が振るう白銀の鎌の音だった。


「逆らう奴は誰だろうが構わない。貴族、騎士、私兵……民を虐げ、俺たちの邪魔をする奴は、その瞬間に首をはねろ。死体は一欠片も残すな。全部アイテムボックスに放り込んで、伯爵領の肥料にしてやる」


レオンの冷徹な宣告が下った瞬間、四人の乙女たちは「王の代行者」として、慈悲を完全に捨て去った。


王宮へと続く大通りを封鎖しようとした近衛騎士団が、重厚な盾を構えて前進してくる。だが、その先頭に立つ騎士団長が声を上げる暇さえなかった。エルザの聖剣が一閃し、音もなく首が宙を舞う。崩れ落ちる肉体が石畳に触れる前に、シオンの影がそれを飲み込み、レオンの次元倉庫へと直行させた。


「レオン様の行く手を阻む不浄の輩に、名乗る資格などありませんわ」

セレスが微笑みながら指を弾くと、後方に控えていた貴族の私兵たちが、自らの首が落ちたことにも気づかぬまま、次々と物言わぬ「素材」へと変わり果てていく。


ヴァレリアは、混乱に乗じて民を盾にしようとした汚職貴族の屋敷に、風よりも速く踏み込んだ。

「その汚い手で、誰に触れようとしているのかしら?」

細剣が闇の中で閃くたびに、私欲に塗れた貴族たちの首が、彼らが愛した金貨の上に転がった。ヴァレリアはそれらを事務的に、しかし確実にアイテムボックスへと回収していく。彼らが民から搾り取った贅肉は、今やヴィクトール領の大地を潤すための「最高の有機物」でしかなかった。


シオンは、王都の地下道から逃げ出そうとする奴隷商人や悪徳役人たちを、死霊の刃で一網打尽にしていた。

「貴方たちがこれまで土に還してきた人々の無念……。今度は貴方たちが、土として彼らに償う番ですわ」

落ちた首は即座に影に没し、王都の路地には血糊一つ残らない。レオンの命じた通り、そこには「死体」というノイズさえ許されなかった。


レオンは広場の中央で、逃げ惑う奴隷や娼婦たちをゲートへと導きながら、押し寄せる増援をただ一瞥した。

「……次か。効率よく片付けろ」

レオンが右手を一振りすると、百倍の魔力を乗せた真空の刃が広場を薙ぎ払った。一瞬で数十人の私兵たちの首が飛び、その死体は地面に落ちる瞬間に、レオンの展開した次元の裂け目へと吸い込まれていく。


王都は今、壮絶なまでの「大掃除」の真っ最中だった。

不要な権力を削ぎ落とし、腐敗した肉体を回収し、未来の糧へと変換する。レオンの魔力溜まりは、降り注ぐ断罪の雨と、四人の乙女たちが捧げる「破壊による愛」を吸い込み、王城を飲み込まんばかりに巨大な、そして寒気がするほど美しい白銀の輝きを放っていた。





王都の喧騒が、断罪の嵐の後に訪れる奇妙な静寂へと変わりつつあった。しかし、レオンはまだ剣を納めることはなかった。彼の瞳は王城の豪華な装飾ではなく、その足元に広がる深い闇を射抜いていた。


「……まだだ。一人でも取りこぼせば、それは掃除とは言わない」


レオンは、百倍に増幅された知覚能力を全開にした。彼の足元から放たれた白銀の魔力波動が、ソナーのように王都の石畳を、城壁を、そして複雑に入り組んだ地下水道の隅々までを透過していく。かつてないほど「丁寧な」索敵。それは、主から道具として使い潰され、存在さえ忘れられた「名もなき民」を一人として見捨てないという、彼の静かな執念だった。


「セレス、東の貴族街の地下三階だ。隠し扉の奥に、食事も与えられず放置された子供たちがいる。……ヴァレリア、お前は西の兵舎の最下層へ。崩落した瓦礫の隙間に、逃げ遅れた老人が一人。……シオン、地下牢のさらに下、記録にもない『廃棄場』を探せ。まだ息がある奴がいる」


レオンの的確な指示を受け、乙女たちは影となり、光となって王都の深層へと潜っていった。


レオン自身は、王城の最深部、重厚な石造りの地下書庫のさらに裏側に隠された「秘密の監獄」へと踏み込んだ。そこは、歴代の王たちが不都合な真実と共に、政敵やその家族を「存在しなかったこと」にして葬ってきた場所だった。


「……重力よ、道を空けろ」


レオンが指を弾くと、幾重にも施された物理的・魔術的な封印が、紙細工のように無残にひしゃげ、崩れ落ちた。奥から漂ってくるのは、長年滞留した腐敗した空気と、絶望の臭い。しかし、その最奥、湿った壁に鎖で繋がれた一人の少女の、消え入りそうな心臓の鼓動を、レオンの魔力溜まりは確実に捉えていた。


「もういい。終わったぞ」


レオンは少女の鎖を素手で引き千切り、彼女を優しく抱き上げた。少女の瞳に、初めて白銀の清浄な光が映り込む。彼女のような「忘れられた民」を全員救い出すまで、レオンの索敵は止まらなかった。


地下水道の泥にまみれていた者、貴族の屋根裏に潜んでいた者、偽りの罪で処刑を待っていた者。レオンの執拗なまでの探索によって、王都の闇に沈んでいた最後の一人までが、救いの光の下へと引きずり出された。


「……これで、本当に全員だな」


王都全域を網羅したレオンの精神的な地図から、助けを求める反応が完全に消滅した。一方で、残っているのは処分を待つだけの「ゴミ」と、震えるだけの「王族」のみ。


レオンの魔力溜まりは、救い出した民たちの震える手の温もりと、四人の乙女たちが完璧に任務を遂行したという確信、そして王都の地下の淀みをすべて浄化した達成感を吸い込み、漆黒の地下空間さえも白昼のように照らし出す、どこまでも透き通った白銀の輝きを放っていた。



「ヴァレリア、王都中の商人を洗え。私利私欲で民を騙してきたクズはいらんが、誠実に商いをしてきた『善人』は一人残らず避難させる。ゲートを通じてヴィクトール領へ送り込め。あそこの復興には、奴らの商才と流通の知識が不可欠だ」


レオンの指示に、ヴァレリアは待ってましたと言わんばかりに、その艶やかな唇を吊り上げた。


「ふふ、お安い御用よ。誰が汚い金で肥え太り、誰が誠実に汗を流してきたか……私の目は誤魔化せないわ。王都の経済を支えていた『良質な血』だけを抜き取って、ヴィクトール領に注ぎ込んであげる」


ヴァレリアは細剣を鞘に納めると、風のような速さで王都の商業区へと消えていった。彼女は、王都中の商店の帳簿、風評、そして商人の放つ「金の匂い」を瞬時に嗅ぎ分ける。私腹を肥やすために教団や悪徳貴族と結託していた大商人の屋敷には、無慈悲な処刑の剣を。一方で、飢えた民に炊き出しを行い、不当な圧政に耐え忍んできた実直な商店主たちの前には、救済のゲートを提示した。


「……ええい、何事だ! 衛兵! 衛兵はいないのか!」

叫ぶ悪徳商人の首が、ヴァレリアの一閃によって宙を舞い、その死体は即座にレオンのアイテムボックスへと回収される。その隣で腰を抜かしていた誠実なパン屋の主には、彼女は優しく微笑みかけた。


「安心なさい、貴方は合格よ。新しい国で、その美味しいパンを子供たちに食べさせてあげて。……さあ、ゲートへ!」


ヴァレリアの正確無比な選別によって、王都の商業機能の「善き部分」だけが、次々とヴィクトール領へと転送されていく。ミレイユが待つ向こう側では、彼らがすぐに商売を再開できるよう、市場の区画整理がゴーレムたちの手で急ピッチに進められていた。


レオンは広場で、転送されていく商人の列を見守りながら、王都の活気が目に見えて「選別」されていく様を冷徹に観察していた。


「これで、この街に残っているのは『死ぬべき理由』がある奴らだけだ」


レオンの索敵網は、もはや救うべき者をすべて捉え終えた。後に残されたのは、豪華絢爛な殻だけとなった王宮と、そこに閉じこもる腐敗の権化たちのみ。


レオンの魔力溜まりは、避難していく商人たちが抱く再起への希望と、ヴァレリアが成し遂げた完璧な「資産選別」、そして空っぽになった王都に漂う死の静寂を吸い込み、王城を根こそぎ消し去らんばかりの、鋭利で巨大な白銀の輝きを放っていた。






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