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選外 ー 墓碑銘的な作品一覧 ー

デーモンプロセス

作者: 浅葱秋星
掲載日:2026/01/13

 電話が鳴った。スマートフォンの着信音。同時に、バイブレーション機能の振動で机まで震える。

「は、はい、相田です」

 相田は慌ててスマートフォンを手に取ると、不安げにそう言った。着信音で誰だか分かっている。上司の大原だった。

「相田か? 今、何をしている?」

 月曜の朝。相田は家でリモートワークしているが、時々こうして大原は様子を伺う様に電話やチャットをしてくる時があった。仕事熱心で働くことが好きだと言っていたが、それに付き合わされる方は迷惑だった。

「え、今ですか? 月末までに仕上げる予定の設計書を書いてるところです」

「……A社のデータ移行関連のやつか。それなら急ぎの仕事じゃないよな?」

「はあ。月末まで二週間はありますが……」

 相田はこれ以外にも仕事を抱えている。なるべく早目に片付けておいて仕事に余裕を持たせたいところだったが、この様子だとまた別件を押し付けられそうな感じだった。

「システム研究所のVR研究室まで来てもらえないか。そっちからだとどれくらいかかる?」

「システム研究所ですか? 私の家からだと電車で三駅くらいですけど」

「お、そうか。近いじゃないか。じゃあすぐ来てくれ。どれくらいで着く?」

「システム研究所は駅から遠いですよね。だいたい小一時間くらいです」

「駅からはタクシー拾ってこい。経費で落としてやるから」

 ケチ臭いことで知られていた大原にしては珍しいことを言う。相田は不安が募った。


「着いたか?」

 タクシーで不安げにカバンを抱えていた相田に大原から電話が入った。

「まだです。今タクシーで向かっているところです。ところで、どんな要件なんですか?」

「……ああ、ちょっと、俺の様子を見て欲しいんだが」

「え、どういうことですか?」

「実はな……」

 大原が言うには、新しいVRシステムのヘッドセットが出来たということで、動作試験が済んだばかりのヘッドセットの社内で極秘に披露され、それに大原も志願して参加していたらしい。そこで防音室の様な個室でヘッドセットを付けて操作していたが、ログアウト出来なくなったという。

「外の人は気が付いてないんですか?」

「操作メニューが出せなくなったんだ。こっちから外に連絡ができなくなった」

「それなら、ヘッドセットを脱げばいいじゃないですか」

「それが、動かせるのは、今いるシステム内のアバターだけなんだ」

 大原はネット上に造られる予定の仮想都市にある、相田や大原が務める会社のネット上の仮想支社とでもいうようなものをテスト体験していたのだという。

「事前に自分のアバターにデータ転送できたんだが、スマフォのデータを移送するのは面倒だったんで試しに電話番号を適当に一つだけ転送したんだ。それがお前の電話番号だったんだが、試しにかけたら繋がった」

「奥さんの電話番号とかは覚えてないんですか?」

「お前、電話番号覚えてるのか?」

 何か言い返そうとしたときに、タクシーが止まった。研究所に着いたのだった。領収書を切ってもらってタクシーを降りるとスマートフォンを手にしたまま歩く。歩いていて、そういうことなら電話を受けた自分が研究所へ連絡を入れるだけでよかったのでは? そう思い至ったがもう研究所に着いている。

 社員証はここでも有効だったようでそのまま中に入れた。研究室へ向かって歩き、大原が入ったという部屋のドアを開けた。

「どちら様ですか? こちらは関係者以外立ち入り禁止ですが?」

 白衣を着た男に訝し気な顔をされて注意された。

「え、ああ、システム三課の相田といいますが、こちらにシステム三課の大原課長がいらっしゃるはずですが……」

「大原?」

 白衣の男はもう一人の白衣の男が持っていたノートパッドを覗き込んだ。

「ああ、システムテストに参加されている方ですね」

「あの、その大原課長から私に電話がありまして。何やら不具合が発生してログアウト出来なくなったとか」

「電話?」

「VRシステム内から外へ電話ができるそうなんですけど」

 白衣の男二人は顔を見合わせていたが、足早に奥に向かって歩きだした。相田も後に続いた。人間ドックで聴力検査をしたときに入ったような防音室のようなものが並んでいる。その一つの前で白衣の男が止まると、ドアを開けた。頭を部屋の中に突っ込んでいたが、急にサッと後ろに身を引いた。

「し、し、……でる……」

 相田は声が小さかったので良く聞こえなかった。相田が防音室を覗くと、ヘッドセットを被った、大原が椅子に深く座って目を閉じている。

「課長?」

 よく見ようと体を屈めると、右手が肘掛けに置かれた手に触れた。温もりを感じない冷たい手だった。「おい、どうなってるんだ?」

 不意に、もう片方の手に持っていたスマートフォンをから声が聞こえた。

「課長が。死んでいます」


 それからは大騒ぎだった。救急車を呼び、研究所の職員だけでなく、相田の所属する部署からも人が来て、その後で警察もやってきた。

 大原の死因は直ぐには分からなかった。相田が来た時点で死後一時間ほどは経過していたらしい。

 それよりも、もっと問題があった。

「それは本当に大原君なのかね?」

 システム部の部長が相田の顔を胡散臭そうに見つめる。死亡時刻からすると、相田は死後の大原と会話をしていたことになる。

「それでは、課長とお話になりますか?」

 相田がスマートフォンを部長に渡した。部長は初めて見る物のように相田のスマートフォンを手に取って見ていた。

「通話ボタンを押すと会話できます」

「それぐらい知っとる!」

 しかめっ面で部長は画面の通話ボタンを押して耳の方に持って行った。

「あー、大原君?」

「あ、部長ですか? すみません、お騒がしてしまったようで」

「君はどこにいるんだ?」

「会社の、システム三課のあるフロアです。あ、VRシステム内の方ですけど」

 暫く二人で会話していたが、通話ボタンを押して電話を切って部長が相田にスマートフォンを返した。「喋った限りでは、大原君のようだが。ほんとに、彼は死んでいるのか?」

「先ほど遺体をご覧になったのでは?」

 部長はじろりと相田を睨んで、横にいた研究所の職員に話しかけた。

「VRシステム内にいるということだが、アバターだったか? それはどんな風になっとるんだ?」

「はあ。それが、奇妙なことになっていまして。通常、外部との接続が切れると、アバターを動かしているデーモンプロセス、それが自動的に消去されるんですが、それが消去されずに動き続けているんです。電気的な接続ではなく、VRのヘッドセットを付けていた対象者の意識が無くなったことによるバグなのかもしれません」

「どういうことだ?」

「新しいヘッドセットは、脳の電気信号をAIで捕捉してそれをアバターを動かす時の補助的な動作データとしています。脳の電気信号が途切れたことで、それまでに溜まっていた電気信号データを元に、AIが自動で動いているのではないかと」

 そう説明する職員も苦しそうだった。

「そんなに高度な判断能力を持っていたっけ? このシステムのAIは?」

「接続対象者の意識だけが途切れるっていうパターンのテストなんてやってないだろう? どういう動作をするかは未知数だと思うが」

「アプリケーションが終了しても動き続けてるとか、デーモンというかゾンビプロセスだよな」 研究所の職員達は急に活発に議論を始めた。

「面倒くさいな。本人に聞いてみればいいだろう。大原君のアバターと電話以外で話はできないのかね。対面で」 三人程固まって議論している研究所の職員に部長が言った。

「えっと。それなら、アバターに外部と対話できる場所まで移動してもらいましょう」


 会議室の大きなモニターの前。十数人程人が集まっている。モニターの向こうも会議室で、そこにはリアルな映像のアバターが一人だけ椅子に座っていた。

「大原君とは似ても似つかんじゃないか」

 部長が呟きにしては大きな声で言う。たしかに、最近くたびれた中年役もやるようになった、二枚目俳優に似た姿のアバターだった。若干、大原っぽさも無くは無かったが。

『いやあ、好きにアバターが作れるって聞いたんでこの顔を選んだんですけど。似合ってませんか?』

 モニターの向こうのアバターが頭を掻く。

「ああ、私から質問いいですか?」

 手を挙げたのは、警察官だった。

「どうぞ」

 部長が右手で促した。

「このシステムには、今は外部から接続はしていないんですよね?」

「はい。他のテスト被験者には退室してもらいましたし、今はVRシステムは外部と接続はしていません」

 研究所の職員の返答に警官は頷いて、モニターを見た。

「大原さん、VRシステムからログアウト出来なくなったと気付いたのは何時ですか?」

『気づいた時ですか? システム内は殆ど実物同様に見えたんで、自分の机にあるペンでメモ用紙に書こうとしたら、何も書けなくて。どうすればいいか聞こうと思ったらメニューが使えなくなってたんです』

「その前後で変わったことは?」

『変わったこと……そうですね。何かを切るような音がしたような』

「切る音?」

『あ、いや、物を切るんじゃなくて、テレビを消すとかそんな感じで、何か途切れたような感じがした気がします』

 警官は腕組みをして考え込むような顔をしていたが顔を上げて質問した。

「外部と連絡を取る方法は、電話以外に思いつかなかったんですか?」

『はあ。何時ものようにスマフォを取り出したら、登録されていたのが、相田の電話番号だけだったんで』

 大原が相田の方を見たので、皆の視線が集まって、相田は首をすくめた。

「なぜ相田さんの電話番号だけだったんですか?」

『VRテストで自分でデータ登録できるって聞いてたんですが、意外と面倒くさくて。履歴の一番上にあった一件だけ試しに転送してみたんです』

「相田さんに連絡したあと、ここまで来てもらったのは何故ですか。相田さんに研究室へ連絡を取って貰えば良かったのでは?」

『あ、そうですねぇ。つい、何時もの仕事を頼むような調子で喋っちゃって』

 アバターの大原が頭を掻いて笑った。

「相田さんはどうしてここまで来たんですか?」

「え、いや、直ぐに研究所に来てくれって言われて。要件を詳しく聞いたのは、研究所に着いてからでして」

 大原が死んでいるのを見つけるきっかけは相田が作ったようなものだが、それが奇妙な現状に関与しているかのように言われるのは不満と言うよりは不安が募った。特に警官に問いかけられると。

「VRシステムには、外部から何か干渉とか可能でしょうか?」

 警官は今度は研究所の職員に質問した。

「今回から一部外部接続して、実生活と同じようにネットや電話とか使えるようにしたんですが、どちらも研究所内のシステム経由にしていて、誰がどこと連絡を取っているのかはモニターしているんです。特に不審なアクセスなどはありませんでした」

「モニターしていたなら、大原さんの体調に気が付かなかったのは何故ですか?」

 問題の核心とも言う点を突かれて、職員は狼狽えた様子を見せた。

「そこが、今回判明した不具合、アバターが自律的に行動している件に繋がるんですが、どうしたわけか、被験者のモニター先がアバターの方に切り替わっていたようで、アバターが稼働していたので本体の不調がモニタリング出来ていなかったようです……」

 研究所の職員は苦しそうに言い訳、状況を説明した。

『あのぉ。ちょっと、俺からも質問良いですか?』

 会議室の微妙な空気を気にもかけず、モニターの向こうの大原が言った。

『俺って、本当に死んでいるんですか?』


「ご家族はどうした?」

 奇妙な会見の後、別室で部長がシステム三課の主任を呼ぶ。

「奥様が病院の方へ行っています。大原課長のご両親は亡くなっていて、お子さんはいません。たしか大原課長は一人っ子だと聞いているので他に家族はいないはずです。ただ、問題は、今回の件が、システム側の事故なのか、大原課長に問題があったのかによっては、我が社の責任問題にもなりかねないか

と……」

「責任問題か……」

「システム側の問題だと、死者が出るような不具合として騒ぎになりかねません。VR事業、ひいては会社に影響がでます。大原課長の身体に何か病気などがあったとしても、そうした社員を業務に当らせていたとして責任を問われるでしょう。労災として認められたらご家族、奥様と慰謝料などについて協議することになるでしょうし」

「まあ、そうなるだろうな」

 部長としてはそういうことも想定はしていた。

「そう言うことはある程度考えてはいた。あと、まだ、この、アバターのことは奥さんには話してないよな?」

「ええ。どうしたらいいでしょうか?」

「どうしたらって、君」

 部長の方でも何か考えがあるわけではなかった。こんな事態は聞いたことも無い。ネット上のバーチャル世界に自分のデータで作ったAIで動くアバターを作って、死後も残した人はいる。そうした故意の行動とは違い、全く予想外の事故で偶発的にそうなった事象は誰も知らなかった。

「あれは、大原君として認められる存在になるのか?」

 部長としては、これ以上厄介事はごめんだという気持ちが強かった。

「一応、顧問弁護士の沢田さんには伺っています」

「おお、そうか。で、何と?」

「偶発的な事故で偶然起きた事象というだけでなく、まだ日本ではAIに人権などは認められていないので、あのアバターが大原課長だと主張してもそれが認められることは無いだろうと」

「そうか。そうだよな」

 部長はちょっとほっとしたような顔になった。

「では、あれを処分するにはどうすればいいんだ?」

「処分、ですか?」

「そのままずっと置いておくわけにもいかんだろう」

「はあ。研究所の職員達は、珍しい貴重なサンプルが手に入ったと喜んでいるようですが。できれば、AIに知見のある有識者を招聘して色々と調べてみたいとか」

「あのアバターは保存とかできるのか?」

「いえ、システムが意図しないバグのようなものですので、データとして残すのは難しいかと。保存するには、VRシステム空間を今の状態でずっと稼働させ続けることになるんではないでしょうか」

「システムを稼働し続けるにも金がかかるぞ。研究所の実験システムで利益なんぞ出していないからな。とりあえず、あれよりも、亡くなった、実物のほうの問題が解決してからだ」


 二日後に大原の死因が判明、確定した。脳溢血ということだった。事前の健康チェックでは異常はなく、VRシステムのテストに当たっては誓約書も取り交わしていたが、遺族である大原の妻とは対立したくないということもあって、無理な言い分など無かったこともあり裁判などもなく全面的に大原の妻の側に従った決着を見た。

 すでにVRシステムの不具合は公表されていて、死者がでた件もニュースになっていた。ただ、ゲーム等のVRシステムの普及で似たような死因で死者がでている事例も多くなってきており、そうした事件の一つという形で世間的には大騒動ということまでにはならなかった。 ただ、アバターの大原の件は、まだ世間に公表されていなかった。


「大原さんの奥さんと、あのアバターを対面させるんですか?」

「向こうの言い分だからな」

 大原が死んだときの状況の説明として、相田が電話で呼び出されて気付いたという点は隠すわけにもいかなかった。


「これが、あの、例の?」

 大原の妻は、モニターの向こうの大原のアバターを見て戸惑いの声を上げた。

「そう、です」

 相田も当事者として同席させられていた。相田はVRシステムには関わっていないし、大原が死んだことを確認するきっかけを作ったということが、却って妙に非難されるような立場になっていてそれが不満でもあった。

「えっと、夫にはあまり似ていないんですが」

「そりゃそのままの姿にはしなかったからな。久しぶりだな。こうして会うのも変な感じだが」

 大原のアバターが話しかけたが、妻の方は眉を顰めただけだった。

「これは本当に、夫のアバターなんですか? 声は似てますけど」

 妻は横にいた研究所の職員に訊ねた。

「はい。大原課長が操作していたもので、あの、死後に自律的に行動するようになったといいますか……」

「肉体の方は死んでしまったが、今はこうして生きているって訳だ」

 大原のアバターは、そう言って笑った。この状況に適応しているというか、自分が死んだことも気にかけていないようで、VRシステム内で動画を見たり、ネット上のコンテンツを見て過ごし、VRシステムにアクセスした人とテニスなどのスポーツをしたりもしているという。食事も摂るし、夜には寝るという、人と変わらない生活? を続けていた。

「この、アバターは、夫として認められる存在なんですか?」

 大原の妻が職員を睨むように見る。

「えっと、いえ、既に弁護士の方とかからお話は聞いているかと思いますが、法的な効力と言いますか、大原課長として認められた存在ではないということになっています」

「そうですか。ですよね」

 どことなくほっとした様子で妻はそう言った。

「おいおい、ずいぶん冷たいな。死んだ夫と顔を会わせているというのに」

「夫はもう死んでいます。葬儀もすんだし。本当に、彼が操作していた時と同じものだかどうかも確定してはいないそうじゃない」

 眉は顰めていたが、口元には皮肉な笑みを浮かべている。

「俺が死んだ後の身の振り方は決めたあったってことか。だいたい誰と一緒になるつもりかは知っているぞ」

 モニターの向こうの大原が鼻で笑った。

「な、なにを言い出すのよ、こんなところで!」

 妻は周囲の人を見回して狼狽えた。

「俺が死んだ後は自分の思い通りになると思っているかもしれないが、そう上手くはいかないぞ」

「それらしいことを言っても、あなたはただの作り物ですからね。何をいっても無駄ですよ」

 そういう口調は強気だったが、顔には若干不安げな様子が浮かんでいた。

「こんな個人情報を言いふらすようなものをそのままにしてはおけません。直ぐに消去してください」 大原の妻が職員を睨んで言った。

「あの、それに関しましては、後ほど協議を……」

「私は、これで失礼いたします」

 妻はそれだけ言うと立ち上がって足早に部屋を出て行った。それをモニターの向こうの大原が笑って見送っていた。

「おーい、相田」

「え、なんでしょうか?」

 急に話しかけられて相田は驚いた。

「ちょっと頼まれて欲しいんだが」


「大原課長のアバターって、消されちゃったんだって?」

 久しぶりに会社に出勤した相田は、同期の社員に話しかけられた。

「ああ。なんでも、奥さんの言い分が通ったとかで」

 大原の妻の、自分の個人情報が世間に晒される恐れのある状態にされている、という訴えが通ったのだった。世間的には、VRシステム内に残っていた亡くなった夫のデータの消去を妻が依頼した、という話になっていて、意志を持ったアバターの話は伏されていた。会社の方もあまりこのことに関してはVRシステムの不具合の件を蒸し返されるのも嫌だったので妻の言い分を飲んだのだった。

 ただ、妻の方も自分の思い通りに、とはいかなかったようだった。大原が残した遺言状が見つかって、遺産の半分ほどは大原が関わっていた研究施設へ寄付するということになっていた。それは、生前の大原が冗談半分で作ったものだったが、アバターではなく、実際に大原が生きているときに作ったものだったため、相応に効力を発揮したのだった。


『いやあ、思ったより上手くいったよ。ありがとう相田』

 スマートフォンのチャットに大原からのメッセージが書き込まれる。

「もう僕を私的なことに巻き込まないでくださいよ」

 相田が返信を書き込む。相田は、大原に言われて、適当に作った遺言状の隠し場所へ行ってそれを取り出し、弁護士へ渡す、という大原からの依頼をこなしたのだった。

「それにしても、そんな状態でもまだ会話できるんですね」

『ああ、アバターも無いけどな』

 大原はアバターを含む、VRシステム内のアバターを動かしているデーモンプロセスが消去されるまえに、インターネット上に自分のプロセスを移送できるのか試してみたのだという。それは、大原が言うには、VRシステム内の換気扇のような狭い通路を通って外に出てみたという、良く分からないものだった。

『あのシステムは色々と欠陥があるようだからな。一応、そのことは研究所へ報告はしておいた』

 志願してVRシステムの実験に協力しただけあると言おうか。

「これからどうするんです?」

『まだ移動の仕方が良く分からないんだよな。お前に連絡とるのは簡単にできたんだが』

「……妙な頼み事とか止めてくださいよ」

 死んだ後に遺体を確認させられたり、遺書を運ばされたり、上司が死んでも終わらない上下関係なんてぞっとしない話だった。

『まあ、そういうなよ。お前の方から何か頼みごとがあったら聞いてやるから』

 相田にとって、今の大原は、まさにデーモンの様な存在だった。

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