パーク
都内某所にて上空から巨大な物体が落下したという。幸いなことに死傷者はいなかったが、厳重な態勢のもとで調査が行われた。すると中には操縦席のようなものが見つかり、これはUFOではないかと話題になった。生命体のようなものは見つからなかったが、近所では警戒が呼びかけられた。
小山拓斗は近くの小学校に通う男の子であり、今日は学校帰りの道を1人で歩いている。すると公園の茂みでガサガサという音が聞こえた。近づいてみると、見たことのない生物が怯えたようにこちらを見ている。
背は拓斗より少し低く、体も細身である。目が丸く人間よりも大きい。耳は先端が尖っていて口は小さい。肌の色は若干緑がかっている。
「どうしたんだい?」
拓斗はその生物に声をかけた。しかし返事はなく、ただこちらを見て黙り込んでいる。
「怯えなくていいよ。こっちへおいで」
するとその生物は拓斗に少し心を許したのか、少し体をこちらへと寄せた。
「しゃべれないのかい?どうやってここへ来たの?」
その生物は恐る恐る口を開いた。
「宇宙を旅していたら飛行機が壊れ、ここに不時着した」
「その飛行機はどうしたの?」
「壊れた。その時に地球人たちが集まってきたから逃げてきた」
「どうして逃げるの?助けてくれるかもしれないのに」
「逃げないと殺されるだろ?君だけだよ、僕に話しかけるのは」
「殺しなんかするものか。生き物を殺すのはよくないことなんだ。僕たちは人間どうしで殺し合いをしたら罪に問われる」
「そうなのか?知らなかった。でも僕は人間じゃないぞ」
「人間じゃなくてもそうさ。君が何者か分からなくても殺したりはしないさ。そんなのは野蛮だよ」
2人はほんの少しの時間で分かり合えたようだった。
「君の名前は何なの?」
「名前ってなんだ?」
「名前がないと呼ぶことができないだろ」
「そうなのか?名前なんてものは、僕の星ではなかった」
「じゃあ僕が名づける。君の名前はパークだ。公園で出会ったからパークだ。それでいいかい?」
「よく分からないけどそれでいい。地球には名前というものがあるんだな」
2人は茂みの中で話を続けた。
「どうしてこの星にはそれぞれに名前なんてあるんだ?」
「だって名前がないと相手を呼ぶことができないじゃないか」
「それだけか?じゃあ番号でもいいんじゃないか?僕の星では人間は番号で管理される。番号さえあれば生活は成り立つ」
「そんなの寂しいよ。名前がないとかけがえのない感じがしないじゃないか」
「かけがえのないとはどういう意味だ?僕の星にはない概念だ」
「この世界でたった1人の自分だってことかな?他の誰とも違うオリジナルな自分だってことさ。でもそれでいてみんな1人じゃない。支え合わないと生きていけない。それがかけがえのなさってものだよ」
その時だった。
「大人しくしろ」
と言って十数名の警察官が2人を取り囲んだ。
「おい、その少年から離れるんだ」
警察官たちは恐ろしい形相でこちらを睨んでいる。
「やめてください。こいつは悪いやつじゃないんだ。僕は何もされてないよ」
拓斗がそう叫んでも彼らは聞く耳を持とうとしない。
「離れないと撃つぞ」
と1人の警察官が銃をこちらに向けた。パークはひたすらに怯えている。もし今拓斗のもとから離れたとしても、無事に済むかは分からない。
「パーク、離れちゃだめだ。僕の近くにさえいれば、彼らは撃ってこないよ」
「でもどうするんだ?」
「逃げるんだよ。ずっと僕の近くから離れないで」
2人は警察官たちと反対側に駆け出した。必死に走ることで、一旦は彼らから逃れることができた。
2人は人目のない路地裏に身を潜めた。
「僕のことを殺すつもりなんだろうなあ。次見つかったら殺される」
パークの体は小刻みに震えている。
「大丈夫だよ。さっきも言っただろう。この星では命を奪うという行為は罪なんだよ」
「どうして殺すと罪に問われるんだ?」
「どうしてっていったって、そんなことは間違ってるだろ。パークの星では罪にならなかったのかい?」
「殺すのは自由だ。何の罪にも問われない。だからみんな殺される前に殺すんだ。それが悪いことだなんて誰も思っていない。さっきのやつらだってそうじゃないか。僕が人間に攻撃をすると思い込んでいるから、それより先に僕を殺そうとしたんだ。それが生物の本能ってもんだよ」
「でもおかしいじゃないか。みんな生きていたいと願っているのなら、相手の生きたい気持ちだって理解できるはずだろ」
「君はいいやつだな。僕の星にはそんなことを言う人はいないよ。そんな考え方は存在しない。地球人はみんなそうなのか?」
「そんなことはないさ。この星でも戦争をするし、平気で人を傷つける人もいる」
その頃街中では警戒態勢がとられ、住民には外出を控えるように指示が出された。そして警察官が各地に配備されていた。
2人はこれからどうやって逃げるかを話し合った。
「今星の人たちと連絡がとれた。僕の位置を送ったからこの場所に迎えに来てくれる。それまではここに隠れていよう」
「そしたらもうおさらばだね。寂しくなるな」
「君と出会えて本当によかったよ。地球には君のような考え方があるんだね。僕の星でも広めようと思う。時間はかかるだろうけど」
その時、上空に巨大な飛行物体が現れて、それとともに視界を隠すほどの光が街中を覆った。
「迎えが来たよ。じゃあさようなら、拓斗くん」
「待って。飛行機の下までは一緒に行こう。僕が隣にいたら警察は撃ってこない」
「それはだめだよ。あの飛行機に乗っている僕の星の人たちは、地球人を敵視しているはずだ。だから隣にいる君のことを敵と認識するかもしれない。そうしたら君の身が危ない。それにこれだけの光の中では、誰も僕を撃ったりはできない。だから大丈夫だよ」
「そうか。僕たちはこんなに仲が良くても、星と星ではそうはいかないんだね」
「そうだね。でも僕はほんのちょっとの時間だったけど地球に来れてよかったよ」
2人は熱い握手を交わした。パークを乗せた飛行物体は遥か彼方へと消えていった。拓斗はそれが見えなくなってからもなお、しばらく空を眺めていた。




