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ティトテゥスの改葬  作者: わやこな
めいろの揺籠
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16 新しいいつかの日


 寒期の休みが終わり、季節が巡る。

 降りゆく雪も過ぎ去って、新緑が芽吹きだした。


 そんな中、テトスは図書館の一角に居た。

 正確には、馴染みのある自習小部屋である。


「実技代わりに遠征実習出たとして、免除になるのは実技だけ……そりゃそうだ」


 頭を抱えて、目の前のノートを睨む。


「溜まった課題に、報告レポート。せいぜい頑張りなさいな。待ってくれるだけでもありがたいことだわ」


 本を読みながらナーナが言う。その口調はからかいまじりだ。普段のやり返しができてさぞ楽しいことだろう。じろ、と見れば軽やかに笑い声が返ってきた。

 ついつい、恨み混じりに文句がテトスの口をつく。


「自分も長期課題で悲鳴をあげたくせに、よく言う」

「もう終わったもの。ねえ、ヨラン」

「醜態の棚上げはみっともないよな。なあ、ヨラン」

「僕を巻き込んで喧嘩しないでくださいよ」


 呆れて溜息まじりにヨランが肩を落とす。医学の教本を閉じて、不意に部屋の入口を見た。

 来訪者がくるのだ。

 それが誰かはすぐにわかった。テトスが呟く。


「ああ、もう終わる時間か」

「どこかの誰かさんと違って、真面目に先生のもとで学び直ししているんですものねえ。自分で済ませますって啖呵きった誰かさんと違ってねえ」


 ジエマもここに顔を出したいと言って、やってくるようになってから結構な日にちが経った。

 辺境に行っている間に、予知の能力発言がめっきり減った……というより無くなった。そう宣言したジエマは、積極的に学校生活に励みたいと申し出たのだ。

 これまでできなかった集団での行動や、学習。新しいことを学べて嬉しいと、期待に胸を震わせていた姿が容易に思い返せた。

 ただ、ジエマの姿を思い浮かべて心が癒されても、チクチク嫌味を刺してくる片割れが鬱陶しいことに変わりない。


「自主性を重んじてもらっているだけだ。あと三年と四年じゃ、学習範囲は違う。そういうことだ」

「編入初の留学生にならないよう、祈っておいてあげる」

「あー、お優しいお優しい。ヨラン、ナーナの医務室」


 言い返して、ヨランに話を振る。


「まだ早いんですけど……ナーナティカ、行きます?」

「えっ!? 大丈夫よ?」


 即座に言い返して、ナーナは本を盾に拒否をした。


「攻防で時間かかるだろうから連れていっちまえ」

「まあ、確かに」


 ヨランが立ち上がる。ナーナも本を置いて立ち上がり、後ずさった。


「ティトテゥス。あなた、私に恩があるはずよ。命の恩人。あと、あなたにも定期的な診療がいると思うのよ。先生も言っていたわ。ね、そうでしょう」

「テトスは」

「俺はジエマさんと行く」


 すかさず遮って言う。ヨランは、でしょうねとばかりに目を細めた。


「フスクス先生へ先にご挨拶をするからな。お前たちはもうしたんだろ」

「あら、まだしてなかったの」

「おう。ジエマさんがチャジア姓に正式になることも知らせたいと仰るからな」

「ああ、そう」


 ナーナは片手を振った。


「いいわ。それなら巻き込まない」

「最初からそうしろ」

「言葉が余計なのよ」


 にらみ合ってから、互いにふん、と顔を逸らす。


 モングスマは完璧な断絶にはならなかった。

 亡き当主が孤軍奮闘で指揮を執りながら、命を投げうって領主を救ったことが大きい。この名誉ある一族は絶やしてはならないと、辺境議会やディアデムタル領主の強い要請を受けて、フスクスが当主代理に指名された。

 指名に関してフスクスと辺境の間で、話が非常に膠着(こうちゃく)したが、とうとうこの間決着がついたのだ。

 モングスマの家門はなくなるが、代わりにフスクスの家が代理に興った。


 テトスとナーナには、何もなかった。生活を脅かすようなことは一切。何も。

 ただ、戦いに貢献したということで、領主自らの感謝と褒賞が家に贈られたくらいで、かえって肩の力が抜けた。領主とモングスマ新旧当主の計らいでと伝え聞いたが、真偽は問いただしていないからわからない。

 きっとこの先、モングスマとして扱われることはないのだろう。

 かつてモングスマだったテトスたちは、今回の真相ごと完璧に葬られた。父も、母も、祖母までも。そうぼんやりと思えた。


 フスクスは紋章美術学の教師の身分をひとまず辞し、暖期から辺境に戻るという。名残惜しいと生徒たちも嘆いていたが、当の本人はどこか吹っ切れたようだった。

 棘がほんのりと取れた気もする。テトスはそう感じた。


 また、新たな年を迎えるころには、辺境領と正式に交友する貴族領地ができるという。

 それが、ヴァーダルとその婚約者のモナが所有する予定領地だと知ったとき、裏でどんなあれこれをしていたのかと呆れてしまった。背後でベイパーが大変に苦労していたようだ。

 趣味を交えつつ、実益を求めて商いに精を出すつもりらしい。

 都の議会の紛糾も一区切りをつけ、レラレ家の背後には無事誠実で口の堅い貴族家が再びつけられた。カロッタの息がかかっているそうだ。


 後始末は、何もかもの収集を付け始めている。

 ほっとする気持ちと、なんとなくの寂しさがあった。

 部屋の窓から外を覗く。

 明るい緑の木と、青空が見える。光の反射で映る自分の目は、相変わらず互い違いのままだった。

 突風が吹いたのか、千切れた葉と花びらまで飛んでいる。

 記憶に残る花と似ている気がして視線で追うが、全く違う花だった。学園構内にあったらしい、白い小花の話も、いつの間にか立ち消えていたのだ。あるはずもない。


「あ、来たみたいです」


 ヨランの視線がそろそろと部屋の入口に向かう。

 しばらくして、ドアが軽やかにノックされた。それを聞いて、ヨランによってドアが開かれる。


「まあ、皆様。お揃いですのね」


 華やかに笑みを浮かべたジエマが、部屋の中に入ってきた。

 あたりを見回してテトスに目を留めると、小走りに寄ってきて腕を取った。


「さ、お迎えに参りました。行きましょう」


 緩やかに手を引かれる。テトスは適当にノートと筆記具、教本の類をまとめ持って、席を立った。


「じゃあ、後でな」

「ごきげんよう」


 手を取られるまま、歩き出す。

 歩幅を合わせて追い抜かないように、ジエマの横をゆったりとテトスは進んだ。












これにて、今回のお話は締めさせていただきます。

シリーズとしましても今作で最後のつもりです。

タイトル最後まで迷っていたのですが、書いているうちに改めて葬ってやったほうがいい奴らいるなあ……となったのでこうなりました。


最後まで好きに書いて、遊べて、楽しい時間でした。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

少しでも面白いなと思えるお話になれていたら幸いです。


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― 新着の感想 ―
完結おつかれさまでした! 改葬が意味するのは何だろう……と、連載が始まってすぐ不思議に思っていましたが、そういうことだったのですね。 毎日の更新を本当に楽しみにしていました。 良かったところ、だいすき…
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