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虹の魔法使いの冒険  作者: ぶたさん
第1章 自称、世界一の魔法使い
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第1章 第7話  自己紹介

 また紅茶を一口飲むと、アイリスは仕切り直して自己紹介を始めた。


「ごちゃごちゃしちゃってて、ろくに自己紹介もしてなかったね。改めて、私はアイリス。多分、世界一の魔法使いだよ」

「すごい自信だな」


「私より凄い魔法使いを、見たことも聞いたこともないからね」

「そうか……。俺はハル。この街の冒険者で、登録して6年。一応戦士やってる。等級はE」


 戦士やってる、というか、戦士にしかなれなかったのだが。

 魔法の才能はほとんど無いし、レンジャーは器用さや知識、経験が求められる。手っ取り早く冒険者になれるということで、戦士を選ぶ冒険者は多い。


 冒険者の等級は各ギルドで統一されており、それぞれ、通称、討伐できる魔物の大体の強さが決まっている。

 冒険者の力量は腕っぷしの強さだけではもちろんない測れないのだが、ある程度の戦闘技量があれば他の力量も自ずと判断できるため、便利な指標となっている。


 S級:通称、白金等級。アークドラゴン、アークデーモン等

 A級:通称、 金等級。ドラゴン、デーモン等

 B級:通称、 銀等級。オーガ等

 C級:通称、ベテラン。ガーゴイル等

 D級:通称、  中堅。トロール等

 E級:通称、  若手。オーク等

 F級:通称、駆け出し。ゴブリン等


 魔物は単騎で倒せる必要はない。パーティーを組んでの討伐でも、その時の貢献具合をギルドが審査して、等級を与えてくれる。


 よほど規模が大きくない限り、大抵のギルドで抱えているのは、C級辺りまでである。

 S級、つまり白金ともなれば、英雄と呼ばれるレベルであり、世界に数十人しかいない。一般人であれば、まず一生お目にかかることはない。

 ドラゴン数匹を楽に倒し、天変地異に匹敵する魔法を行使する魔物、アークデーモンをも倒せるという。

 もっとも、アークデーモンなど、これまた絵本の中の世界だ。一般の冒険者には縁のない話である。


 そうして自己紹介を済ませると、ハルはさらに質問を投げかけた。


「もっと根本的な疑問なんだけど、なんで冒険者にならないんだ? ギルドに登録するだけだぞ? 正体バレたくないみたいなこと言ってたけど」


 冒険者ギルドに登録するのに、特に資格などはいらない。13歳以上という年齢制限はあるが、基本的には出身、身分等を問わず、誰でも登録することができる。あとは本人の実績次第。

 もちろん、犯罪歴のある者や、冒険者として相応しくない行動をしてカードを剥奪された者はその限りではない。


「元は冒険者だったんだよ。よその街のギルドで登録してた。引退して、こっちに引っ越してきたんだ」

「そうか、まああれだけの魔法が使えるならそりゃ、冒険者だったのも納得だけど。ちなみに等級は?」

「Aだったよ」


 アイリスはあっさり答える。金等級。ドラゴン倒せるのか、この人。


「……そうか、そうだよな、あれだけ精密に、超高速に魔法を行使できるんだから、それくらいは」

「実力的にはSSSトリプル・エスだったと自負してるけどね」

「……はい?」


 ハルの声にならない疑問に、アイリスが答える。


「ギルドのランクにそんなの無いし、ちょっと面倒だったから、低い等級に留まるように抑えてた」


 SSS級なんて聞いたこともない。S級を超える存在が冗談で話題になることはあるが、まさに今、その冗談が真面目な話になろうとしている。


「……えーと。それって、魔物でいうとどれくらいのを倒せるんだ?」

「なんでも。倒せない魔物なんて想像できない。よほど大群で来られたらどうか判らないけど、それでも自分の身を守ることくらいはできるよ」

「ふむん」


「あんまりびっくりしないんだね」


 アイリスは少し意外そうに言う。


「いや、さっき身をもって体験したからな。一瞬で欠損した腕を再生する、冗談みたいな治癒能力。それも凄かったが……」


 ハルは淡々と語る。


「認識阻害をかけつつ、サイレンスとフリーズを同時に。それも、前もってその状況を想定していた、経験値。数千度にもなる炎を一瞬で出せる魔力量と、その対象範囲をmm単位で制御する、精密無比な魔法制御。それら全てを、無詠唱で」


 いま思えば派手さは無かったが、底の知れない凄みを感じた。


「何より、それらの効果を最大限に活かせる発想力。尋常じゃなかった。世界一っていうのが、全然誇張に聞こえない。むしろ金等級って聞いたときに意外だと思ったよ」

「ふうん? よく見てたんだね」


 あの窮地で、修羅場で、そこまで観察していたこと、そしてそれを回想して、分析できていること。

 あまり高度な魔法は使っていないにもかかわらず、ハルはアイリスの力量の本質を見抜いていた。

 アイリスはそこに感心する。こういう冒険者こそ、生き残れるのだ。


「アイリスの実力は十分、理解ったんだけどさ」

「うん」

「どうして引退したんだ? そんなに強いのに」


 アイリスは大きく息を吸い込んでから、それに答える。


「……自由が欲しかった」

「? 冒険者だったら、自由なんて売るほどあるだろ」

「うーん、なんていうか、やること多くてさ、ギルドへの報告とか。遺跡の調査なんかだと、単に安全性を確認するだけのクエストなのに、ちゃんと保全処理したかとか問われるし」

「まあ、それも含めて冒険者の仕事だからな」

「そもそも冒険者って、そんなに自由じゃないよ」


 そう言うと、アイリスはポツポツと心情を語り出した。


「等級が上がるごとに品行方正であることが求められるし、顔が売れるとサイン求められたり、クエストも名指しでの依頼が多くなるし。断ってると評判落ちるし。だから、Aに上がっちゃったときに引退したんだ。ついでに引っ越してきたわけ」

「贅沢な悩みだなあ」


 万年Eランクのハルには想像もつかない世界だ。もちろんそのくらいでなければ、パーティーには誘わなかったのだが。


 俺の顔なんてギルドの連中だって誰も覚えてないと思うけど。

 ハルはそんな見当違いなことを思う。


 アイリスは続けて心中を語る。


「好きなときに好きなだけ冒険する。それが真の冒険者じゃないの? だから、君がパーティーの顔になって、ギルドでのやり取りをしてくれるのは嬉しいよ。私はクエストに付いていくから。報酬は半分こね」

「あ、やっぱり報酬はいるのね」

「手続きしなくていいんなら、貰えるものは貰うよ。成果の証なんだから」

「まあそのほうが健全だな」


 アイリスは指先に炎を灯しながら、念を押した。


「ちょろまかしたら、脳梗塞待ったなしだから」

「ガクブル」


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