第1章 第5話 交渉
「な、仲間の生死はあとで確かめるとして」
「……」
「ギルドはあんたの噂で持ち切りだ、これから近づきにくいだろ? 俺みたいなことするやつが、これからも出てくるかも知れないし。俺がクエストの内容教えてやるよ、やりたいクエストがあるんだろ? 依頼書の複製、貰ってくるからさ」
ハルは必死になって交換条件を探った。
しかしこんなこと口にしながら思うが、こんなの、使い走りもいいとこだ。
だがどうせ片腕じゃ冒険者なんて廃業だ。俺はたった一つのクエストを、この女にこなしてもらえれば、それでいい。
そのためには、仲間になってもらわないと困るのだ。
「30点」
「う……」
「クエストの内容をチェックするクエストを、ギルドに発注すればいいだけ。たまにいるよね? ギルドに行くのが面倒だからって、そういう依頼を出す冒険者」
確かにそうだ。そんな雑用はハルでなくても構わない。
これでは及第点には程遠い。他にも何か、何かないか……。
「……。あ、何なら、クエスト終えたあとのギルドでの手続きだって、」
「クエストさえこなせれば、後のことは興味ない」
「ぐ……。報酬とか、要らないのか?」
「お金には困ってないよ。勝手に振り込まれるなら貰うけど、わざわざ手続きしてまでとか」
「……」
「私は冒険がしたいだけ。煩わしいのは嫌いなの」
女は紅茶を一口飲むと、話を続けた。
「ギルドでは受け付けてくれないような、例えば……」
そして少しのあいだ、考え込む。
「限定スイーツに並んでくれるとか」
「……はい?」
「限定品に弱いのよ、私」
生き死にの話の中に、急に相応しくない単語が出てきた。
ここにハルは、生き残る流れが出てきたことを感じる。
だが、ここでいったん、あえて、ごねる。
「そういうのって、並んでるのは女性ばっかりな気がするんだが……」
「そうだね、あとはカップルとか。だから?」
やっぱり来た! 女の方からそうしろと、そうすれば話を受けると、言ってくれているのだ。
もちろん、そんなところを他の冒険者にでも見られたら、ギルドで何を言われるか、いやそんなことどうでもいい。
それでパーティーに入ってくれるっていうんなら!
「例えばの話だけどね」
「で、ですよね……」
ダメか……。他には、何か、交換条件は……。
ハルが必死に考えているあいだ、女は視線を落とす。ハルの、腰のバッグに。
冒険者が愛用する、応急手当用のバッグに。
女は、ふうっ、と溜め息をついてから、口を開いた。
「ま、あの女の子に免じて、それで手を打ちましょう」
「?」
そのバッグの蓋は、開いたままだった。