後輩と追求
「あ、先輩〜!」
聞き覚えのある声に後ろを振り向くと、私が所属する文芸部の後輩で2年生の橋本美波ちゃんが笑顔で駆け寄って来てくれた。
美波ちゃんは背が高くて足も綺麗なモデル体型で笑顔が可愛い女の子だ。
「美波ちゃん」
「そういえば先輩…」
「なに?」
「好きな男の子でも出来ました? なんだか先輩から男の匂いがする気がするんですよね?」
「そ、そんなことないわよ…!」
「本当ですか〜? 一人暮らしを始めた家に男を呼んで料理を振る舞ったりしてませんか?」
鋭い!
確かに北川はそこそこの頻度で家に来て料理を食べたり野球観戦をしたりしている。
「な、何でそんなこと思うの?」
もしかして…北川と一緒に帰ってるところとか…買い物をしているところを見られてた?
「そうですね…」
「・・・」
「乙女の勘です!」
勘かーい!
さすがは他人の恋バナが大好物の美波ちゃんだ…
この子は3度の飯より恋バナが好きという重度の恋愛マニア。文芸部に入った動機も直感で面白いものが観れるというものだった。
現に我が文芸部では美少女3人が1人の男子生徒を取り合っているのだから。
「で、どうなんですか茜先輩!?」
キラキラとした目をして私に答えを求める美波ちゃん。
なんて純粋な目をするんだこの子は…
「ホントに何も無いないわよ」
「ホントに?」
「ホントに」
「私の勘ってあまり外れないんだけどなー」
そう言ってチラッとチラッとこちらを見る美波ちゃん。
「本当に男を家に呼んだりしてませんか?」
何で私はせっかくの昼休みに尋問されてるんだろう。
「してないわよ」
べ、別にアイツのことはガキだとしか思ってないし…男として認識してないんだから私は嘘はついてないはず……
というか学園の王子様を家に呼んでご飯を一緒に食べてますなんて、素直に言えるわけがない。
これは私のトップシークレットだ。
たとえ可愛い後輩だろうと簡単に話すわけにはいかない。
何せ相手は時間があれば恋愛リアリティーショーや少女漫画を見ている恋愛マニアなのだから。
「あれ〜? 美波ちゃんと茜ちゃんだ」
「あ! 京子先輩だ!」
また話しをややこしくしそうな面倒くさい奴が来た。
「2人でなに話してたの〜?」
坂本京子。私と同じ3年生で文芸部の部員でハーレムメンバーの1人だ。
そんな彼女はいつものほほんとしていて、包容力のある雰囲気を纏っているいつも笑顔な癒し系の女の子だ。
見た目だけは……
ホントに見た目だけは癒し系だ。あと胸もめちゃくちゃデカい…
高校生がしていいような大きさでは無いと思う…もはや凶器だ。
そんな彼女は天然というか……空気が全く読めない。
写真を撮っている人の間を気にせず通ったり、カップルの告白現場を見たら大声で「あー、告ってる!」と叫んだり。
悪い子では無いんだけど…
「茜ちゃんが家に男を連れ込んでる? 見た目は凄く美人さんだけど、友達もいないぼっちな茜ちゃんが男を連れ込んでるわけないよ〜」
こういう風にサラッと会話に毒を混ぜてくるのだ。
だから彼女には友達もいないし、男子からもあまりモテない。
入学当初は喋らなければ美少女という事もあって京子はかなりモテていた。
だけど、「顔がタイプじゃない」、「見た目がうるさい」とかストレートに相手が傷つく感じの振り方をしていたから、彼女に告白する男子は居なくなった。
兎にも角にも、文芸部には見た目は美少女だけど中身が残念な人が多いのだ。
「じゃあ私は次の準備があるから教室に戻るね」
私はこれ以上の追求を回避するために授業を盾にしてこの場を抜け出した。
願わくば私と北川の関係が文芸部のメンバーにバレませんように。