寂しくなんかない
今日の晩御飯はラッキーなことに冷凍のシーフードミックスが半額になっていたのでシーフードパスタだ。
鍋にたっぷりの水を入れて火をかける。沸騰するまでの間に唐辛子とニンニクをみじん切りにする。
フライパンに火をかけオリーブオイルとニンニクに解凍したシーフードミックスを投入。
鍋でパスタを茹でながらフライパンで魚介類を炒め、パスタが茹で上がったらフライパンの方に移して混ぜる。
「いい匂いがする。お腹すいて死にそう……早く食べたい…」
ニンニクの匂いに釣られたのか机に突っ伏してご飯の催促をする北川…
…お前は子どもか!
「あとは盛りつけるだけだから少し待ってて」
お腹すいたーとうるさい奴を嗜めつつもシーフードパスタとスーパーで購入したポテトサラダをお皿に盛りつけていく。
「はい、できたわよ」
そう言って私は奴の前に晩御飯が乗ったお皿を並べていく。ついでに空になっていたコップに麦茶をそそぐ。
私の中のイメージとは違い北川はジュースやコーラではなくお茶を飲むことが多い。
ちなみに私は2リットルのペットボトルではなく茶葉を使っている。
ペットボトルを持つのは重たいし、茶葉なら楽に持つ事ができるから便利だ。
「うん、ありがと」
あれだけお腹すいたーと鳴いていた北川だが、私が席に座るまで食べ始めないのは好感がもてる。
…あと、その態度がなんだかかわいく見えてきて困る。
「それじゃあ、いただきます」
最近はこの男のせいで料理を作る機会が増えた。
そうするとメニューを考えるのが大変なことに気づいた。
私は毎日作っているわけじゃないのにコレなのだから母さんには頭が上がらない。
母さんは仕事をしながらも私のために毎日メニューを考えて料理を作り、それ以外の家事もこなていた。
本当にすごいなと思うし感謝している。
…私なんて最近は授業中に献立を考えてる時もあるぐらいだし…
でも、誰かが自分の作った料理を美味しそうに食べてる姿を見ると作ってよかったと思えるから不思議だ。
北川はずっと喋ることなく無言でパスタを平らげていく。
それだけ夢中になって食べてくれると私もすごく嬉しい。
「おかわり」
気がつけば奴の皿からはパスタがしっかりと消えていた。
やっぱり多めに作っておいて良かった。
「はいはい、分かったわよ」
本当におっきい子どもみたいだ。
・・・
普段なら野球を見ている時間なんだけど、今日はあいにくと野球が無い日なのでたまたまやっていた動物番組を見ている。
「……かわいい」
ついテレビに映る猫たちの可愛らしい姿を見て自然と口から言葉が出てしまった。
「俺かわいい?」
なぜか私より目線を下にして上目遣いでアホなことを言ってくる北川。
「あんたのことじゃない」
恥ずかしいから絶対にコイツには伝えないけど……少しだけ可愛いなとか思ってしまったのが屈辱だ。
「センパイ猫好きなの?」
「まぁ、可愛いなとは思う」
「ふーん」
ふーんって何よ……私が猫を可愛いと思ったらおかしいってか。
まぁ、確かに私のキャラでは無いかも知れないけど。
「なんか文句あるの?」
「別に……俺は猫よりセンパイの方がかわいいと思うけどね」
急に私の容姿を褒めてくる北川。
そのアイドルみたいな容姿での不意打ちはズルいって。
「別に褒めたって何も出てこないわよ……冷蔵庫にアイスあるけど食べる?」
なんだかんだ可愛いと言われるのはお世辞だったとしても嬉しい。
「チョロ」
チョロくて悪かったわね。
「うるさい」
「じゃあもらうねって……これ俺が買ってあげたアイスじゃね?」
確かに家の冷蔵庫にあるのはこの前コイツが私に買ってくれたハーゲンタッツミニの6個入りの残りだ。
ハーゲンタッツと書いてあるが、別に名古屋にある某青いユニフォームを着たチームの監督が中に6個入っているわけではない。
「いらないなら食べなくていい」
「いや、食べる」
そう言って奴は冷蔵庫からハーゲンタッツを取り出して食べ始めた。
「それ食べたら帰りなさいよ」
なんだかんだで時間は過ぎてもう21時半になろうとしている。
「えー」
「帰りなさいよ」
「でもセンパイ本当は俺に帰ってほしくないでしょ」
「そ…そんなことない」
北川にそう言われて一瞬ドキッとした。いやいや…そんなの気のせいに決まってる。
私が…こ…コイツに帰ってほしくないと思ってるなんて。
見当違いもいいところだ。
私は寂しいなんてこれっぽっちも思ってないんだから…でも、少しだけ寂しいと思う私もいて…自分の気持ちが分からない。