表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

お金だすよ

 


 ホームルームが終わり各々の時間が始まる。部活動に精を出す生徒もいれば、カラオケに行こうなどと放課後の予定を話し合うグループもちらほらと見受けられる。



 そんな青春を謳歌している生徒たちを尻目に私は1人でそそくさと下校する。



 今日はホームルームの終わりが遅かったので他の生徒が下校するまでの間、20分ほど図書室で時間を潰していた。



 他の生徒の中に紛れて帰るのは好きではない。



 ホームルームが早く終わってくれれば最短で下駄箱を目指す。その為に誰よりも速く教室の扉を開けて昇降口に向かう。



 そして靴を履き替えたら、他の生徒が来る前に早歩きで帰宅する。

 決して私に友達がいないのでは無くて、人混みが嫌いなだけだ。



 そもそも、どこからどこまでが友達と呼ぶべきなのか分からないし。

 


「いらっしゃいませ〜」



 そんなどうでもいい事を考えていると近所にあるスーパーに到着した。



 一人暮らしをしている私はなるべく自炊をするようにしている。

 といっても、そんなにたいしたことは出来ないんだけど。



 ともあれ自分で食べたい物を選べるのは一人暮らしの特権だと思う。

 


 学校から帰ってきて料理を作るのがめんどくさい時もあるけど、そういう時は手抜きすればいい。



 困ったらお惣菜や冷凍食品を買ってもいいし、最悪の場合はファーストフードで食べてきてもいい。



 そうやって一人暮らしは自由に出来ることが多いのがメリットとだと思う。

 それに、皿洗いや洗濯も家族全員分をやる事に比べたら1人分だからそこまでは苦にならない。 




 買い物を終えてスーパーを出ると少し離れたところで北川が友達と歩いているのが見えた。



 私が見ていたからかこちらを向いた奴と目が合う。



「茜先輩じゃん」



 そして、なぜかこちらにやって来た…



 私はコイツといるところを、他の生徒に見られたらめんどうだからすぐに動き出したというのに…



「うん。友達はいいの?」



「平気…というか俺に気づいて逃げなかった?」



 鋭い……本人にバレると罪悪感を感じる…



「そんなことないわよ! 別にあんたと一緒にいるところを同じ高校の生徒に見られたくないとか思ってないから!」



 だってこの男は女子に大人気の学園の王子さま。

 そんな男と一緒にいて注目されたくないし、ましてや私の高校生活はあと1年なんだから悪目立ちしたくはない。



 想像するだけでも女子の嫉妬が怖すぎる…



「…思ってるじゃん。まぁ、いいや。それかして」



「ちょ、ちょっと!」

 


「俺が持つよ」



 そう言って北川は私の買い物袋を強引に取り上げた。



「べ、別に自分で持てるわよ…」



 断ろとしても「いいから」と私の荷物を持ってしまう北川。

 でも、正直に言うと今日はたくさん買っちゃって腕が疲れそうだなーと思っていたから助かった。



「あ、ありがとう…」



 なんか恥ずかしいな?

 なんでだろう?



「なに? なんか言った?」



「べ、別に…なんでもないわよ…」



「もっと感謝してくれてもいいよ」



「き、聞こえてるじゃない!」

 


 こ、この男……!



「うん」



 素直に肯定されたらなんて怒ればいいのか分からなくなるじゃない!



「そんことより…」



 北川はジト目で私を見つめてくる。



「な、なによ?」



「手抜きしすぎじゃない」



 そう言って奴はある商品をエコバッグから取り出す。

 まぁ、私がエコバッグを使うのは環境を気にしてというよりも、毎回毎回スーパーに行くたびに袋を買うお金を払いたくないだけなのだけど…



 え?

 誰か1枚5円だし別にいいだろって言った? その積み重ねがあとあと響いてくるのよ! 20回も袋を買えば100円になって、100回目は500円になるんだから!



「あんたには関係ないでしょう…」


 

「ご飯に混ぜるだけ」



 奴が手抜きと言って取り出したのはご飯に混ぜるだけで簡単にビビンバを作れちゃうというパッケージをした商品。



「だから何よ! あんたには関係ないでしょう」



「俺は茜先輩の手作りが食べたいな」



「いや、何で私があんたの分のご飯を作らないといけないのよ」



 そんな義理はない。



「えー、いいじゃん。作ってよ先輩」



「嫌よ」



 本当に何で私がこいつの分の食事を作らなければならいのか。

 普通にめんどくさいから嫌だ。というか私にメリットが無いし。



「お金だすよ?」



「え?」



 うん?

 この男は今なんて言った?



「だから俺がお金出すって」



 どうやら聞き間違いでは無かったようだ。



 どうしよう? 

 手間は増えるが食費が浮くのはありがたい。



 だけど食費をもらっちゃうとプレッシャーがかかる。

 私は別にシェフでも無いし、そんな凄いものは作れない。



「いや、でも私…そんなに料理なんて出来ないし」



「別にいいよ」



 なんだそのいい方は。

 私の料理には期待してないって言うことか…



「俺は茜先輩の手料理が食べたいだけだし…それにこのまえ食べた焼きうどんも美味しかった」



 そんなさして時間をかけて作ったわけではない焼きうどんで褒められると嬉しい気持ちもあるけどなんだか気まずい。



 というか、私の部屋に野球を見にきたこの男は朝食用に残していた焼きうどんを勝手に食べたやがったのだ。



「ということで、よろしく」



 そう言って奴は早足にスタスタと歩いていった。






・・・







「隼人どこいったんだろうな」



「なんかスーパーの方に走って行ったわよね」



「なんかあやしい…」



「女だったりして」



「は!」



「怖! 冗談だから!」

 




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ