3章 第91話 球技大会
いよいよやって来た球技大会の当日。午前と午後で競技が分かれる。私達女子バレーボール組は午前中だったので、既に終了している。
男子バレーボールも同様に午前中で終了。女子の午後は体育館でハンドボール。男子はグラウンドでサッカーがこれから始まる。
大活躍していた小春ちゃん達3人は、教室に戻ってサボり中。不参加の競技をしている間は、観戦と応援に行くと言う決まりなんだけどね。そんなの全員が守るとは限らない。
他にも応援をサボっている人は居る。私とカナちゃんは、目的があるのでサッカーを観にグラウンドへ。真君と高梨君がサッカーに参加しているので、仲良く観戦と応援に。
「やっぱり心配?」
「うん。真君は怪我の後遺症があるから」
継続して全力を出せる限界は約20分だけ。それ以上続けると、あの日の様に強烈な痛みに襲われてしまう。それが真君から聞いた説明。
体調や寒暖差で前後する事もあり、調子が悪い時は10分程度でも限界が来るらしい。今日は大丈夫だと言って居たけど、頑張り過ぎてしまわないか不安だ。
真君がサッカーをしている姿をちゃんと見れる喜びと、怪我の事を知っているからこその不安。その比率は半々なので、手放しで歓迎は出来ない。
「鏡花ちゃん、始まるよ」
「うん。応援、しないとね」
うちのクラスの試合が始まろうとしている。メンバーは真君を中心に、サッカー経験者と現役サッカー部の男子。そして高梨君の様な体育会系が大半だ。
体育会系じゃない男子も何人か居るので、完全に有利とは言えないメンバー構成。しかしそれは、相手のクラスも似たような状況の筈。
最初にどちらがボールを持つか、代表者のジャンケンで決まる。こちらの代表者は現役サッカー部の男子。あちらも多分、そうじゃないかな。
ジャンケンの結果は相手の勝利。向こうのクラスがボールを持ってコートの中央に立つ。暫しの沈黙の後、審判役の先生のホイッスルが鳴り響いた。
「カナちゃん、ルール分かる?」
「多少なら。細かいルールは知らないかなぁ」
「そっかぁ。私もあんまり知らないんだよね」
目の前で繰り広げられているプレイの、何が良くて何が駄目なのかはピンと来ない。せいぜい動きが良い人と、そうじゃない人が何となく分かる程度。積極的に動いているのが、多分経験者達だと思う。
恐らくサッカー部同士と思われる、動きが良い2人の攻防に変化が生まれた。このままは厳しいと判断したのか、チームメイトに向かって放たれたパス。そこに割って入る形で素早く走り抜けた高梨君が、見事にボールを奪ってみせた。
「え、すご!? 高梨君、足速い!」
「昔は陸上部だったらしいよ」
「しかも何か、サッカーも慣れてる?」
「葉山君の練習に付き合ってたから、それなりに出来るって言ってたね」
何とまあ、目茶苦茶スポーツ万能じゃないか。ラクロスもサッカーも出来て足も早い。身長こそあまり高い方じゃないけど、これは人気があるのも理解出来る。カナちゃん、結構凄い彼氏を貰ってしまったのでは?
「カナちゃん、ライバル多そうだね」
「鏡花ちゃん程じゃないよ? ほらアレ」
颯爽と走る高梨君からサッカー部の川田君にボールが渡り、更にそこからボールを受け取った真君が攻め込み始めた。あっという間に数人を抜き去った真君の前には、もうゴールキーパーただ1人しか居ない。
そのまま放たれた鋭いシュートがゴールネットに突き刺さるまで、ほんの僅かな時間だった。その瞬間に黄色い声援が一斉に上がった。
「わ、わぁ……」
「ね? 凄いモテっぷり」
まあね、確かにね。正直めちゃくちゃカッコ良かったよね。あの真剣で鋭い眼光がたまらないけどね。あの表情、一生見てられる。推せるよね、あの姿。
ただ同時に、こんなモテる人が彼氏になったんだ、と言うプレッシャーもバリバリ感じる。ちょっと気圧されそうになって居た時だった。
「相変わらずモテるねぇ〜葉山君」
「松川先輩!? どうしてここに?」
「卓也を見に来たのよ。出番はまだだけどね」
それはそうか。松川先輩がここに来る理由なんてそれしかない。真君と同様に、霧島君だって当然サッカーを選ぶ筈。今はまだ彼のクラスの番ではないから、まだ待機中なんじゃないだろうか。
「鏡花ちゃん、この人は?」
「3年生の松川先輩だよ。真君の親友の、恋人なんだよ」
「そう言う事さ。宜しく後輩ちゃん!」
そこからカナちゃんの紹介とか、高梨君の事とか色々と説明した。真君繋がりで、高梨君の事も松川先輩は知っていた。多少なりとも面識もあるらしい。そもそも同じ中学だもんね、そう言う事があっても不思議じゃない。
「そっか〜貴女が高梨君の」
「え? 高梨君、有名なんですか?」
「彼って可愛い系でしょ? 年上受け良いのよ」
「そ、そうなん、ですか。翔太が」
カナちゃんが驚愕していた。そんな事情は、私も全く知らなかった。松川先輩によると、3年生には高梨君を狙っていた人が何人か居るらしい。
確かに女子の評判は良いからね、年上にファンが居てもおかしくはない。
「え、貴女は吹奏楽部なの? じゃあ部長には注意しな?」
「え? 中村先輩ですか? 何故でしょう?」
「アイツ、高梨君狙ってた1人だからさ」
「ぇ゙!? か、カナちゃん大丈夫?」
何だか昼ドラ的ドロドロを感じる話になって来たよ!? 火サスのお時間なんでしょうか? 私は火サス、ちゃんと観た事ないんだけど。完全に想像と妄想の塊なんですけどね。
「あんまり露骨な嫌がらせをされたら私に言いに来な? すぐ辞めさせるから」
「その時は、お願いします」
流石、松川先輩! 頼りになります! こう言う所は小春ちゃんに似てるなぁ。姉御肌って言うのかな? 困ってたら助けてくれるタイプのカッコいい人。
こんな風になれたら良いな、なんて良く思うけど中々難しい。そんな風に話している間も、試合は続いている訳で。またしても黄色い歓声が上がる。
ギリギリの所で真君が相手のシュートを止めていた。そこからしっかり建て直して、今度は高梨君が得点していた。
「モテる男が相手だと、悩みは尽きないからね。いつでも相談に乗るわよ」
「ありがとうございます!」
「鏡花ちゃん共々、宜しくお願いします」
頼れる姉貴分2号、松川先輩と色々と話しながら真君達を応援し続けた。危なげなく順調に試合は進み、再び真君のシュートで決着。3対1でうちのクラスの勝利となった。




