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1章 第8話 放課後と変わりたい私

 目立ちたくないと言う私の願いを聞いてくれた葉山君(はやまくん)は、教室では普通に挨拶するだけで、前ほど積極的には話し掛けて来なくなった。お陰様で私と葉山君の関係は、ただのクラスメイトと言う見え方に戻っている。

 でもそんな評判とは逆に、放課後に2人だけの時間を共にする事で、私達は前よりも仲良くはなれた様に感じている。あくまでも、モブ女子Bとしての判断基準でしかないが。


佐々木(ささき)さんって基本お弁当だよね? お母さん?」


「ううん、違うよ。自分で作ってる。ウチは両親があんまり家に居ないから」


「え、凄くない? じゃあ朝昼晩全部を自分で?」


「殆ど、かなぁ。たまにお母さんが、作り置きしてくれる時があるから」


「結構大変だね。何か困った事あったら言ってね。手伝うから」


「え?……あ、ありがとう」

 

 うーん、出来たらうちの家の話はあまりしたくないんだよね。純粋に心配してくれてるのは分かるけど、これ以上は広げたくはない。


「は、葉山君の家はどうなの? いつも購買みたいだけど」


「あ~ウチは両親が居ないからさ」


「へ?…………あっごごごゴメン変な事聞いて」


 このコミュ障め!! これだから陰キャは会話が下手クソなんだよ! 聞いたらダメなパターンの奴じゃん!! もっと他に話題あるだろ!!…………す、好きな餃子のタレについて、とか……。


「ん? あ、違う違う俺の言い方が悪かったね。家に居ないって事! 2人共出張が多くてさ」


「あ、なんだそう言う事。変な事考えちゃったよ」


「俺が毎回購買部なのはそれが理由だね」


「あ、でも葉山君と神田さんて幼馴染だよね? 幼馴染がお弁当作ってくれるのってテンプレだと思うけど」


「うーん、てんぷれ? ってのが良く分からないけど、俺も小春も料理しないから、まあ無理かなぁ」


 ちょっと仲良くなったからってオタクの片鱗を見せるな! 隠せ隠せドン引きされるぞ! すぐオタクは市民権得たと思ってオタク用語使うんだからもう! 日陰者! 私はド陰キャクソモブ女Bなんだぞ!


「そ、そうなんだ~じゃあ無理だよね」


 シンプルに会話が下手!


「俺はずっと購買部でも構わないよ。結構安いし、美味しいの多いからさ」


「私は結局あれから利用してなくて、まだ初心者のままだ……」


「言ってくれたらまた一緒に行くよ? 佐々木さん小柄だから大変だろうし」


「あ、ホントに? 私1人じゃ押し潰されちゃうし、葉山君が居たら助かる、かも」


 正直たまーに、お弁当作りをサボりたくなる日もあるのだ。コンビニだと割高になるし、購買部の利用率を上げられるならそれでも…………いやまて毎回葉山君に抱っこされちゃうのか??それはもう私が7つの大罪に追加されてしまうのでは? 傲慢(ごうまん)強欲(ごうよく)嫉妬(しっと)憤怒(ふんぬ)色欲(しきよく)暴食(ぼうしょく)怠惰(たいだ)鏡花(モブ)の8つの大罪になってしまうのでは?? なんて事頼んでるんだよ、これは撤回しておかねば


「オッケー任せて! いつでも呼んでくれて良いから」


 めっちゃ良い笑顔で返されちゃいました!! 今更やっぱり良いですなんて言い出す勇気はないんだぜ!……ま、まあお弁当毎日作れば良いんだよねハハハ……あれ? 何か本末転倒の様な…


「こ、購買部って言うと、葉山君のオススメって前のアレだけなの?」


 くっっ! 相手から話題を変えて貰わないと会話のコントロールが出来ないっ! モブ友同士なら出来るのに何故だっ!? もう購買部の話は良いだろ! 忘れろ!


「いや? 他にも色々あるよ~ラスクとかは持って帰って食べたり出来て便利だね」


「へ、へ~~そうなんだ。」


 自分で聞いたんだから、話広げろよ!………………広げ方分かりません!! どっかに会話の広げ方wikiとか無い!?


「あ、今ちょうどあるんだよね。1つ食べてみる?」


「えっ! そんな悪いよ葉山君の分なのに」


「大丈夫大丈夫! 結構量あるから」


 そう言いながらカバンの中をゴソゴソと弄り出す葉山君。これは断り難い空気。


「……あったあった。これがウチの学校のラスクだよ」


 そう言って葉山君が取り出したのは、砂糖でコーティングされた良くある形のラスク。その一口大のラスクが、ハンドボールぐらいの大きさの袋に沢山入っていた。


「お、思ってたより多い!」


「でしょ? これで300円だからね、めっちゃお得!」


「しかも安い! 凄い!」


「じゃあ、はいどうぞ」


「えっ……」


 えと、えぇ?? コレはまさか、『あーん』されているのか?? 待て待て急になんか凄い展開来るじゃん。コレ『あーん』だよね?

 冷静になれ、今私は自分の席で椅子に座っている。そして葉山君はいつも通り、1つ前の席であるカナちゃんの椅子の背凭れに軽く寄り掛かる様に立って居る。


 つまり位置と高さ的に『あーん』にちょうど良い高低差が出来ており、差し出されたラスクはすぐそこにある。行けと? 葉山君は来いと?? えっ、良いんすか?

 あ、もしかしてこの程度キラキラ陽キャグループでは普通的な? そう言えばこの前、陽キャ女子達がやってたな、似たような事。それに陽キャは飲み回しでも間接キスなんて意識しないと聞く。

 ならば葉山君のこれは、単に私が変に意識しているだけで、パクっと行ってしまえば良いと言う事なんではないでしょうか?

 

 うん、変に恥ずかしがるからダメなんだよねこう言うの。最近は葉山君のお陰で陽キャの生態についても多少なりとも知識が着いた私なら、これぐらいのイベントは乗り越えられる。

 そう、葉山君が言ってくれたんじゃないか。『じゃあ先ずは俺と2人だけで会話して、少しずつ慣れて行ったらどう? 慣れたら小春の友達とかとも、会話してみたら良いよ。』と。つまりこれもその一環と言う事では? 陽キャ文化に慣れ、陰キャを脱却し立派な社会人になる為、鏡花(きょうか)、行きます!


 パクっ。バリバリバリ。うん、うまし。


 ふぅ、これでまた一歩脱陰キャが進んだぜ。ありがとう葉山君、私やり遂げたよ。


「あれ? 葉山君?」


 何故か固まっている葉山氏。おや~? まさか私がもうこんなにも早く、脱陰キャが進むと思って無くてびっくりしたかな? ふふ、私はやれば出来るモブなんだからね!


「最近分かって来たんだけど、佐々木さんってたまに思い切った事するよね……」


「ぇ゙っっっ!?」


 葉山君の顔が少し赤い気がしたのは、きっと夕日のせいに違いない。きっとそう。勘違いしたお馬鹿なモブ女が急に『あーん』されに行ったからとか、そう言う理由ではないハズだ、うん。



















誰か、私を埋めて下さい。

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