2章 第69話 陰で活躍するサブキャラ枠
「成績良くなってたんだ! 良かったね!」
「鏡花のお陰だよ、ありがとう」
「そんな、私は大した事してないから」
いつも通りのお昼休み、皆で楽しく食べていると真君が教えてくれた。期末テストの結果が良いものであったと。
バイトの無い日は放課後に一緒に、ある日は真君が1人で勉強していた。休みの日も都合の合う日は真君と2人、彼の家で勉強会なんかやってみたり。
その成果がちゃんと出たのは、私としても喜ばしい限り。まあその、勉強だけじゃない2人の時間もあったりしたけど。
真君も男の子だからか、おっぱい好きなんだなぁと知る機会になった。何で男の子って、あんなにおっぱい好きなんだろうか。
カナちゃんぐらい大きいと、私でも謎の感動があったけど。でも夢中になるほど惹かれる何かが有りはしなかった。
彼氏が出来ても、理解出来ない男子の謎だった。……おっといけない、真っ昼間から考える事じゃないか。
「なにアンタ、勉強し始めたの? 珍し〜」
「まあ、俺なりにはな。小春や鏡花には及ばないけど」
真君は最近、小春ちゃんよりも私と居る事が多くなったからか、彼が勉強を始めた事を知らなかったらしい。
そして真君の言う通り、小春ちゃんは成績が良い。容姿に優れ、運動も勉強もそつなくこなす女の子。どこまでもメインヒロイン属性に溢れている。
それは友香ちゃんや水樹ちゃんも同じ。漫画やアニメだと、3人の様なキャラは勉強が苦手だったりする。だけど、実際には真逆だ。
何かを頑張れる人は、普段から色んな事を頑張れる。カナちゃんだって、絵に書いた様な巨乳だけど、お馬鹿キャラじゃない。
優れた面を持つ人が完璧過ぎると、物語として面白くないって事なのかな。だけど現実には信じられないぐらい、何もかもが優れている人が居る。
昔の私なら、あまりにも開いた差に愕然としていたかも知れない。住む世界が違い過ぎると、近付こうとすらしなかったと思う。最初は実際、そう考えて居たのだから。
「なんやなんや〜? 鏡花と同じ大学行きたいとか、そう言う理由なんか?」
「……悪いかよ。良いだろ別に」
「おやおや〜あのマコがこんな恋に夢中な男になるとはね〜お姉さん新鮮だわ」
「誰がお姉さんだよ。誕生日俺の方が早いだろ」
こうして一緒に日常を過ごす様になって分かった。そんな住む世界が違う様に見えた人達だって、私とそう変わらない部分が沢山ある。
勝手に作り上げていたイメージなんて、結局は良く知らない人間の想像でしかない。知ると言う事の大切さを、教えて貰った様に思う。
だからこそ、こう言う何気ない日々を大切にしたい。後から欲しいと願っても、簡単に手に入る物じゃないから。こうして時々思い出して、忘れない様に心に刻もう。
「葉山は本当に変わったよ」
「高梨君?」
「佐々木さんは、葉山にとって福の神なのかもね」
「神って。そんな大層な存在じゃないよ」
福の神はちょっと言い過ぎじゃないかな。それぐらい役に立てたら、彼女として誇らしいかも知れないけど。
仮にそうだとしても、そんな自信満々にはなれないけどね。神とかそう言うのは、小春ちゃんみたいな人を言うんだよ。
「それに、僕や村田にとってもね」
「……え? 今なんて?」
「いや、何でもないよ。気にしないで」
何か言っていた様な気がしたのだけれど、気のせいだったらしい。そこからはいつも通り、雑談モードに入った私達。
今更かも知れないけれど、漸くこの集まりに馴染めた気がする。今はもう、緊張したり変な気遣いをしなくても会話する事が出来ている。
流石に2ヶ月と少し、毎日こうして居れば慣れもする。カナちゃんや麻衣が一緒に居るのもあるけれど。
「キョウちゃん、アレ買ってたよね〜フィットネスアドベンチャー」
「うん買ったよ。……結局全然やってないけど」
「アレどうなんだ? バレー部の後輩が結構キツイって言ってたんだが」
「あぁ~〜確かに。私にはだいぶハードだったよ」
私なりに引き締まった体を手に入れようと、浅知恵で買った例のゲームである。トレーナー兼ナビゲーターのキャラに、色んな声優さんを選べる人気作。
どうやら村田君と麻衣の2人が、あのゲームに興味を持ったらしい。私はわりと序盤でギブアップしたから、中盤以降はやっていない。
話に聞く限りでは、後半は体育会系でも結構厳しいとの噂。私がやった感想と、そんな聞きかじりの知識を2人に伝える。
「なるほどな。俺も後輩に借りてやってみるか」
「麻衣もやりたいなら貸そうか?」
「ホント〜? キョウちゃんありがと〜」
そんなバリバリの体育会系では無いけれど、体を動かすのが好きな麻衣にはちょうど良いかも知れない。
何なら後半でしか聞けない、推しの音声を聞かせて貰おう。そんな打算も考えていた時、今日は珍しく阿坂先生がこちらにやって来た。
「そろそろ夏休みだが、お前ら羽目を外し過ぎるなよ」
「大丈夫やって、燈子さん。ウチらは不良とちゃうねんから」
「学校に内緒で、屋上を占拠してる奴らが言う台詞か?」
「それは言わへんのが優しさちゃう?」
友香ちゃんとの気安い先生とのやり取りを聞きながら、夏休みに思いを馳せる。人生で初めての恋人が居る夏休み。
それはどんな日々になるんだろうか。ひと夏の恋なんて言葉もあるぐらいだから、何かしら良い思い出が出来たら良いな。真君と、ここに居る皆と。




