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1章 第30話 驚きの事実

 GWにキャンプに行く事になっている鏡花(きょうか)は、佳奈(かな)と共に真の家へと向かっていた。その手を(まこと)に引かれながら。

 最初こそ手を繋いだだけでも大騒ぎな鏡花だったが、今となっては慣れたもので、以前ほどの羞恥心はない。全く恥ずかしくない訳ではないが、親友の目の前であっても動じなくなっていた。


 2人の少女と男の子は、閑静な住宅街を歩いて行く。鏡花が通うバイト先とは、少しズレた方向へと向かって進んで行く。

 世間はGWの真っ最中だ。朝の住宅街であっても、普段とは違う活気がある。小学生ぐらいの子供達が、元気に騒ぎながら駆け抜けて行く。

 普段ならスーツを着て、今頃デスクに向かっているであろう年齢の男性が、ラフな格好でランニングをしている。

 子供と一緒に犬の散歩をしている親子が、同じく犬の散歩をさせていた中年の女性と、和やかに会話をしている。

 いつもなら開店準備に忙しくしている精肉店が、シャッターを閉めている。かと思えば、祝日でも働いている宅配業者が荷物を手に走っていく。

 あちらこちらで、連休特有の浮ついた空気が広がっている。


「ここだよ」


「ここが、真君の家なんだ」


「結構大きいね。葉山(はやま)君の家って結構お金持ち?」


 佳奈の言う通り、結構な大きさの家だった。明らかに鏡花や佳奈の自宅よりも大きい。車が3台ぐらい入りそうなガレージ。ちらりと見えている庭らしき空間は、大型犬が飼育出来そうな程に広い。

 住宅展示場で人気が出そうな白いレンガ造りの、落ち着いた雰囲気がする北欧風の邸宅だった。クラシカルな装いのメイドさんが、ドアを開けて出て来ても違和感がない。


「どうだろう? 両親の収入は良く知らないし」


「ご両親はあんまり家に居ないんだっけ?」


「そうだ。東京の仮住まいに居る。たまにしか帰ってこないな」


 昔はここで両親と共に暮らしていたそう。高校に入学する頃に両親の仕事が忙しくなったから、今は東京でマンションを借りて生活しているそうな。

 高校生になる男の子だし、1人でも大丈夫だろうと判断されたらしい。


「葉山君の両親て、何してる人なの?」


 そう言えば、私も職業までは聞いた事が無かったっけ。どういう人達なんだろう。いや、普通に興味本位でね。

 ご両親に挨拶とか、そう言うアレじゃなくてね。……誰への言い訳なんだこれ?


「言ってなかったっけ? 父親がファッションデザイナーで、母親が女優なんだよ」


「「えぇぇぇぇぇ!?!?」」


 真君のお母さん、まさかの職業だった。じょ、女優って。じゃあ芸能人の家庭なの?


「え、何!? 急にどうした?」


「いや、ビックリするよ! 女優とか聞いてないよ!」


「そうだよ! 葉山(はやま)君て実はかなり凄い家の人?」


 何度目か分からない衝撃の展開が待っていた。確かに顔が整っているし母親が女優ならば、これほど見目麗しい息子が産まれても不思議ではない。

 そして父親はファッションデザイナーと。女優さんと結婚してるぐらいだから優秀なんだろう。ハイスペックな彼の親として、実に納得の行く人達だった。


「凄いのか? 良く分からないんだよな。テレビ観ないし」


「その、真君のお母さんって私達も分かる人?」


「どうだろ? 知名度とか知らないしな」


 真は両親の仕事についてあまり興味が無かった。普段なにしているのかも良く分からなかったし、どちらの職業も活発な少年の琴線には触れにくい職業だ。

 アスリートだったら、真も大いに興味を示しただろうが。


 それに、2人とも家ではあまり仕事の話をしない人達だ。どの程度有名なのかは知らない。小さい頃なんて、そもそも良く分かって居なかった。

 小学生の頃は誰かに聞かれても、知らないと答えていた。両親の職業をちゃんと知ったのは、真が中学に入ってからだった。

 あまり余計なプレッシャーを与えない様に、両親が配慮した結果だ。それと、親の収入に胡坐をかく様な子供にさせない為でもあった。

 自分からは特に知ろうとしない真と、親の方針の関係でその辺りを真は知らない。たまにSNSで母の名前を見るな、ぐらいの認識だ。


 この事は仲の良い友人以外には教えていない。そうした方が良いと両親からは言われていた。そして真と仲が良い友人達は、言い触らす様なタイプではない。

 最近は個人情報の扱いが厳しいのもあって、知れ渡る事は無かった。


「でも葉山なんて女優さん居たかな? 葉山君、お母さんは芸名使ってる人?」


「いや、旧姓のままで続けてる。斉藤悠里(さいとうゆうり)って言うんだけど」






「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」


 超有名な()()()だった。本の虫である私ですら知っている。と言うか私が好きな現代ミステリーの映画で主演だった。原作にサインして貰いたいぐらいだ。

 斉藤悠里さんはアジア圏内で人気がある人で、中国や韓国にも沢山のファンが居る。真君はとんでもない有名人の息子だった。

 

 斎藤悠里は子役の頃から芸能界にいる女性だ。10代の頃に恋愛映画のヒロインを演じ、爆発的な人気を得た。そのままの勢いで様々なドラマや映画に出演し、若手ながら様々賞を受賞した。

 その勢いがまだまだ衰えを知らぬ25歳の時、彼女は同じく若手ながらも頭角を現し始めていたファッションデザイナーと電撃結婚。

 それからしばらくして、彼女は妊娠を契機に女優業を休業。以降はたまにバラエティ番組に出る程度だったのだが、3年ほど前に女優業に復帰。

 元々の人気も当然あったが、一児の母となった事で得た大人の魅力が、更なる人気を博した。40代になっても美しいままの彼女は、今もあちこちで引っ張りだこな有名人だった。


 息子である真本人がサッカーにしか興味が無く、両親を自慢する様なタイプで無かった事。両親や学校が隠し続けていた事で、この事実はあまり知られていない。真の事を知っているのは、精々芸能関係者と一部の人間だけだ。






「ま、待って葉山君。じゃあ、お父さんは()()葉山成幸(はやまなりゆき)』なの?」


「あの、か分からないけど葉山成幸だな。……父さんも有名なの?」


「滅茶苦茶有名だよ! 葉山君って超大物じゃないの」


「は、ははは……。住む世界が違い過ぎるよ真君」


 単なるカッコイイ体育会系の男子だけでは無かった。そのルーツには、しっかりとした理由があったのだ。ただそれが、あまりにも大きな秘密であっただけで。

 そしてそれは、彼と私の生きる世界の違いを明確に示していた。


 私みたいな平凡な女なんて、どう足掻いても釣り合う訳がない。一般人と芸能人の家庭、これが現実なんだ。

 わたし、なんかじゃ…………あ、アレ? どうして? 釣り合わない事なんて、最初から分かってて。だから今更そんな事で、なんで……どうして、こんなにもモヤモヤするんだろう。

 どうしてか私は、俯く事しか出来なかった。

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