5章 第246話 Side:小春 仲人の依頼
マコとキョウの2人が婚約したのは少し前。その報告を受けた時は、漸くあのヘタレが腹を括ったのかと思った。
アタシだったら社会人1年目の内にするけどね。どうせまたアレコレと余計な事を考えたり、馬鹿みたいにお堅い思考に拘ったのだろう。
らしいと言えばらしいけれど、少し遅いんじゃないかとも思った。でもまあ、及第点はあげても良いかな。アイツなりに頑張ったのは分かるから。
浮気をする事もなく、高校から一途に想い続けての結婚だ。中々ある事ではないし、実に誠実だったと言える。
そんな幼馴染からの要望で、アタシが仲人をやる事になった。あの2人の結婚式なら、仲人ぐらい喜んでやろう。
「ねぇお母さん、昔のアルバムってどこだっけ?」
「あら小春、帰ってたのね。アルバムなら和室の押入れだけど、どうして急に?」
「真に仲人を頼まれてさ、写真とか探しに来たの」
「あら!? 真君が結婚するの?」
両親達は昔、アタシとマコを結婚させるつもりだったらしい。全然そんな気配すらアタシ達にはなかったけれど。
幼馴染としてなら悪くないけれど、恋人や結婚相手としては少々物足りないしね。どこまでも出来の悪い弟分だ。
そんなマコの結婚について軽く母親に説明し、昔のアルバムや映像が入った記録媒体の在処を聞く。披露宴ではベタに昔の写真や映像を流そうと考えた。
ひねりの無い定番だけど、幼馴染の恥ずかしい写真や笑える映像をどうせなら流してやりたい。
ちょっとした動画ぐらいなら自分で作れるから、やりたい放題してやるとしよう。マコが半泣きになっている写真とかあった筈だ。
「懐かしいわね〜これは幼稚園かな」
2人で通っていた近所にある幼稚園に通っていた頃の写真が、古いアルバムには納められている。
入園時の写真から始まり、2人並んでお昼寝中の写真や遊んでいる写真が沢山出て来た。こんな事もあったなと覚えている物もあれば、身に覚えがない場面もあったり。
このイチゴ狩りは覚えているけれど、こっちのブドウ園の記憶は無い。結構忘れてしまっている事が多いらしい。もう20年ほど前の話だから、仕方ないのかも知れない。
アルバムと一緒に置いてあるSDカードは、多分昔の映像だろう。スマートフォンに差して適当に再生してみる。
『マコちゃん早く行こうよ〜』
『待てよ小春〜!』
非常に懐かしい映像だった。これは昔プールに行った時の物だ。流れるプールに行きたいアタシと、モタモタしているマコの姿が映っていた。
こんな事もあったなと、昔を懐かしむ。映像からはさや姉の声もしている。そう言えばこの頃だったか、さや姉にマコが憧れていたのは。
恋と言う程の熱量では無かったけど、気になる憧れのお姉さんだったのは事実だ。この頃から美人だったから、それぐらいは仕方ない。
じゃあアタシはどうなんだと多少思わなくもないけど、だからと言ってマコに恋されても何かなぁ。それはちょっと違うんだよね。
そう言う間柄ではないんだよね、アタシ達って。でも何かムカついたからケーキでも奢らせる事にしよう。
「幼稚園時代は……これだけか。こっちは、小学生の頃の写真かな」
小学校に入学した頃のアタシ達は、当然ながらまだまだ小さい子供だった。この頃のアタシは、普通の大人しい子供だった。
色々経験する内に、今のアタシになっただけ。面倒事に立ち向かっていたら、気付けばこうなっていた。
それこそキョウに近いタイプだった筈なのに、今では随分と変わったものだ。だからあの子を助けたくなったのかな。
別にそんな明確な意図があった訳では無かったけれど。何となく、ただそんな気分になっただけだ。
弟分の幼馴染を助けてくれたお礼がスタートだっただけで深い意味はない。そうしたらいつの間にか、お気に入りの友達になっただけで。
「うわぁ〜〜このアタシ、クソほど地味じゃん恥ずかし」
まだファッションなんて何も分かって居なかった頃の自分。さや姉に憧れて、あんなお姉さんになりたいと色々試していた時代。
パーソナルカラーなんて一切分かっていなくて、写真に写ったアタシの格好は滅茶苦茶だ。
子供が背伸びしてオシャレしてみました! と言うのが丸わかりのダッサイ服装だ。この頃はそれでも、楽しかったりしたよね。
ある意味では、一番純粋な気持ちでファッションと向き合えた頃かもね。この写真はそう言う意味で、仕事の役に立つかも知れない。
何の混じりっけもない、純粋な可愛くなりたいって気持ちが詰まっている。この写真は東京に持って帰ろう。
何か行き詰まった時に、この写真を見て初心を思い出そう。ただ面白い写真や映像を探しに来ただけだったけど、これは思わぬ収穫だったわね。
「あ、この写真って昔遊園地に行った時のヤツじゃん。これも懐かしいわね」
親同士の仲が良いから、昔からずっとアタシはマコと一緒だった。出掛けるとなれば大体一緒に行動していた。
テーマパークやプール、海も山も一緒に行っていた。どれもこれも懐かしい思い出ばかりだ。この遊園地でも、色々あったなと思い返す。
まだ小学1年生で身長が足りなかったから、乗れないアトラクションがあった。それでアタシ達が我儘を言ったりしたよね。
そう言えば確か、迷子に……迷子? アレ? また何か忘れている様な。何か印象的な出来事があった様な気がする。
「えっ!? この写真って!? ちょっとお母さん!!」
アタシが忘れてしまっていた過去の思い出。そしてその写真には、全ての答えが詰まっていた。あの日あった出来事には、とても大切な意味があったんだ。
ここから完結に向けて、こう言う終わりを迎える作品が好きなんだよ! と言う展開が立て続けに入ります。




