5章 第227話 憧れの友人達
「今年もよろしくな、鏡花」
「うん、真もよろしくね」
新しい年を真と2人で迎えるのはこれで3回目。もちろん今回も、悠里さんによって振袖を着せられている。
以前の物と違うんだけど、まさか態々買ってくれたのだろうか。サイズは把握されているので、その可能性はゼロではない。
……まさかと思うけど、真のお父さんがデザインを……いや、辞めようそんな怖い事を考えるのは。
一体お幾ら万円する振袖なのか、考えたら冷たい汗が背筋を流れてしまう。と言っても既にもう流れているんだけれども。
「うん? どうかしたか?」
「な、何でもないよ!」
余計な事を考えるのは辞めて、楽しい事だけ考えよう。新年早々から要らぬプレッシャーに胃を痛めたくはない。
ただ絶対に汚さない様にだけは気を付けたい。それに今日は真と会うだけじゃなくて、他にも会いたい人物と会うんだから。
オドオドした態度で居ては不審がられてしまう。せっかく会えるのに、変な空気にはしたくない。
私の出来る限りのスルー力を持ってして何とか……何とか……イタタタタタタ、胃が……。
考えるな値段については。もう着せられた時点で後の祭りなのだから。もうすぐ待ち合わせの時間だ、しっかりし意識を切り替えよう。
「おひさ〜2人とも!」
「鏡花、元気だった?」
「小春ちゃん! 水樹ちゃん! 久しぶり!」
「やっと出て来たか。久しぶりだな」
真の家のお隣、小春ちゃんの家から振袖姿の小春ちゃんと水樹ちゃんが2人揃って出て来る。
小春ちゃんはシンプルな黒地に赤がアクセントになった振袖を、水樹ちゃんは青ベースの落ち着いたデザインの振袖を来ている。
小春ちゃんは綺麗な金髪をアップにして、以前よりも更に大人っぽさが増している様に感じる。
水樹ちゃんは少し髪を伸ばしてウェーブを入れていた。こちらもまたクールな美人として更にグレードアップしている。
まるで芸能人かの様なオーラが溢れ出ていて眩しい。SNSや配信があるから、全くの久しぶりでもないし連絡も取り合っていた。
それでもやっぱり実物を見ると全然違う。配信で見る映像よりも、リアルで会う方が凄く綺麗なんだよねぇ。
「キョウそれ自分でメイクしたの?」
「う、うん。そうだよ」
「だいぶ良くなったわね〜」
「そ、そうかな? へへへ」
私が2人にはとても及ばないのは分かっている。それでも褒められたら嬉しいのは変わらない。
それに2人とも、容姿を比べてどうこう考えるタイプじゃない。そんな事をいちいち気にしていたら、逆に不快感を与えてしまう。
あくまで憧れ程度に留めないと。会うのが久し振りだったからつい気圧されてしまったけど、2人とも対等な友人として接してくれているんだ。
私だってちゃんと、友達として対応しなきゃね。それを高校時代に散々学んだのだから。
「友香達は残念だったわね」
「しゃーないわよ。またの機会にしましょう」
「それぞれ事情があるからな」
今回の初詣は、私達4人だけだ。友香ちゃん達他のメンバーは、今日は予定が合わずまた来年に持ち越しだ。
いつものメンバーが全員揃えば良かったのだけど。でもそれは言っても仕方ない事だよね。別に今生の別れになったんじゃないし。
まだまだ機会は幾らでもあるし、来年の成人式では全員集合する。大阪に行っている友香ちゃんだって、両親はここ美羽市に居る。
今は親戚の家に居るだけで、実家はこっちなのだから。出来れば会いたかったけど、あまり無理を言うものでもない。
「さ、行こうぜ」
「うん!」
「相変わらず仲が良いようで」
「微笑ましいわね」
これが少し前までの私の日常だった。温かく見守ってくれる友人達に囲まれて過ごす日々。
久し振りにその空気を感じられてかなり嬉しい。いつまでも甘えていては駄目なのだけれど、今日ぐらいは許されても良いよね。
法律上はもう私達も大人側だけど、もう少しの間だけ。今日1日ぐらいは2人の優しさに甘えさせて貰いたい。
まだまだ至らない部分が沢山あるけど、それでも365日ずっと緊張しては居られないから。
ここでほんの少しだけ羽休めをしたい。言ってしまえば、小春ちゃん達は私達の止まり木の様な存在なのだから。
「そっちは最近どうなんだ?」
「まあまあって感じよ。アンタこそ、怠けてないでしょうね?」
「だ、大丈夫だって。ちゃんとやってるよ」
小春ちゃんは東京で服飾系の学部がある大学へ。水樹ちゃんは芸能人を多く輩出する大学で、情報学部に通いながら演劇を学んでいる。
それぞれやりたい事に向かって走り続けている。小春ちゃんは真のお父さんみたいに、ファッションデザイナーの道を目指している。
そして水樹ちゃんは、モデルを経ての女優へと。華やかな2人に良く似合う目標だと思う。
もし私にも夢が叶えられたら、小春ちゃんがデザインした服を水樹ちゃんに着て貰って雑誌にしたい。
まだ誰にも話していないけれど、私の将来の目標として掲げている。叶うかどうかは、まだまだ分からないけど。
どの世界もそんなに甘くはないだろうから。だけどもしそれが叶うなら、私としては最高の未来になると思う。
「どしたのキョウ? 何かあった?」
「何でもないよ! 2人にまた会えて嬉しいなって」
「そかそか〜嬉しい事言ってくれるじゃん」
久し振りに会えた2人と、楽しい初詣を満喫した。その後も4人で、卒業旅行以来の時間を沢山過ごした。
たった1日だけど、それでも構わない。私が尊敬していて、憧れてもいる2人にまた会えただけで十分嬉しいのだから。
久しぶりのお2人でした




