5章 第213話 世間は広くて狭い
「それじゃあ明日、宜しくお願いします」
『ええ、待ってるわよ鏡花ちゃん』
「それでは」
竹原沙耶香さんとは高校卒業ぐらいから、以前より交流が増えていた。それもあって今では鏡花ちゃんと呼ばれる様になったし、私も沙耶香さんと呼ぶ様になった。
私にとっての理想の女性像で、そして真の初恋の相手。最初の頃はやっぱり嫉妬心を多少なりとも感じていたけど、今ではもう何も感じていない。
だって元カノって訳でもないし、気にし過ぎだったかなと。そう思える程度には、私も成長出来たのかな。
まだまだ恋愛初心者で、真しか男性とのお付き合いは無いけど。それでも前よりは心に余裕が出来た、と思いたい。
「篠原さん、私です」
『お〜〜鏡花ちゃん! さ、入って入って』
沙耶香さんとの連絡も済んだので、次は篠原さんの自宅へやって来た。いつもの助けて頂いたお礼としての、介護…………ではなくお世話に来た。
ハウスキーピングとか、家事代行だよねうん。そう言うのであって、まだ介護ではないよね。
長野に行っていたので、数日ほど見に来れて居なかった。どんな魔境と化しているのか、まあまあ不安な所ではある。
長野に行く前に、しっかり掃除したのでまだ大丈夫だと信じたい。流石にそんな、1週間もせずにゴミ屋敷になんてならない、筈だと思いたい。
「いらっしゃーい! 今日も鏡花ちゃんは可愛いね!」
「うわぁ…………」
「あ、ごめーん、こっち来れる?」
ちょっとそっちまで行くのは厳しいです。と言うか、良くもまあこんなゴミだらけに出来ますね。
酒盛りでもしたんですか? と問いたくなるほどに缶ビールの空き缶が転がっている。言うまでもなく室内がほんのりアルコール臭い。
良いのか悪いのか分からないけど、もうタバコの匂いには慣れてしまった。普通の紙タバコじゃなくて、電子タバコだからまだマシなんだろうな。
それでも溜まった吸い殻はやっぱり気にはなるけど。ここまで汚いのに、パソコンの近くに置いたブランド物のルームフレグランスに効果はあるんだろうか。前からそこは気になっていた。
「あの、それルームフレグランスの効果あります?」
「ん? 気休めだよ?」
「そ、そうなんだ」
特に期待して置いては居ないらしい。それはそうだろう、本気で効果があると思っている方が怖い。その場合は嗅覚障害を疑わねばならない。
既にタバコの匂いとアルコール臭を気にしなくなっているので、あんまり変わらないかも知れないけれど。
兎に角先ずは、この惨状をどうにかしないといけない。黒くて素早いヤツがやって来たら困るし。
もはや恒例となった開幕大掃除を2人で始めながら、他愛もない雑談に興じる。
「ね、今夜暇だったらまたボクの雑談配信出てよ」
「あんまり遅くまでは無理ですよ?」
「え〜またどこか行くの? ボクとも遊んでよ」
「2〜3日東京に行くだけですから。帰って来たら暫く予定は無いですよ」
別に放ったらかしにしては居ないんだけどなぁ。この間も一緒に歌ってみた動画を作ったし、たまに雑談配信にも参加している。
一宿一飯の恩義とはちょっと違うかも知れないけど、そこに関してはちゃんと感謝している。
ただその、女の子にお世話されたい欲については、程々にしておいた方が良いと思う。何だかんだで面白い人だし楽しいけど、若干犯罪臭がするので。
「また彼氏くんなの?」
「いえ、今回は知り合いの女性に会いに」
「ボク以外の女に浮気するんだ!?」
「付き合ってませんよね!?」
また面倒な事を言い始めた。そもそも篠原さんとは付き合っていないので浮気じゃありません。
それに沙耶香さんの所には、社会勉強をしに行くだけだし。そんな浮ついた要素は何にもない。
篠原さんはちょっと会わないでいると、寂しがって面倒臭い人になる所が厄介だ。それさえ無ければ、ちょっと変わったお姉さんでしか無いんだけどな。
何だろう、また膝枕とかしてあげたら良いんだろうか。それで満足するなら吝かではないけど。
「沙耶香さんとはそんな関係じゃありませんから」
「……ん? 東京で、沙耶香? 名字は?」
「竹原って人ですけど」
「特徴とか分かる?」
何だろう、もしかして知り合いなんだろうか。確か年齢的には同い年か近い年齢の筈だけど。
今はこんな生活をしているけど、この人は元モデルだし沙耶香さんだってそうだ。可能性としては十分あり得るので、多少なりとも個人情報を教えても大丈夫かな?
女性同士だし、変な事にはならな…………若干不安な要素もあるけど大丈夫だよね、うん。
多分きっとメイビー。もし変な事になったら、その時は沙耶香さんに全力の土下座をしよう。
「今はファッション雑誌の編集をしてる元モデルの人で」
「さやちゃんじゃん! 何、鏡花ちゃんってさやちゃんとも関係あるの?」
「あ〜はい。彼氏の従姉なので」
やっぱり知り合いだったらしい。篠原さんは元々小春ちゃんからの紹介で知り合ったから、その可能性は高かった。
だから話したけど大丈夫だよね。滅茶苦茶仲が悪いとか、そう言うのじゃない事を祈るばかり。
ただそんな人を小春ちゃんが紹介するとは思えないので、そこは信じて良い筈だ。相性はそこまで悪く無さそうだし、2人共良い人だしね。
「さやちゃんめ、またボクから女の子を奪うつもりだな!」
「奪われてません奪われてません」
「鏡花ちゃんは渡さないぞ!」
大丈夫、なんだよね? 何か変な因縁とかありませんよね? 助けて、小春ちゃん。私はどうしたら良いんだろう。




