5章 第212話 何気ない日常の一コマ
私が思っていたより、大学の夏休みは長い。中学や高校と違って約2ヶ月も有り想像以上に時間がある。
バイトだけじゃなくて、自分の勉強にも時間を割いていても尚まだ自由な時間があるから凄い。
今日もバイト終わりで真の家にお邪魔している。もう定番となった生活の一部だ。こんなに自由にしてて良いんだろうかと、疑問に思う事があるぐらいだよ。
「今夜は何食べたい?」
「そうだなぁ、久しぶりに鏡花のカレーが食べたいかな」
「分かった〜」
ちょっとだけ同棲気分を味わえるので、こうしている時間は嬉しくもあり恥ずかしくもある。
高校時代からこうして過ごして来たからか、少しだけ真の料理スキルが上がった。最近では、一緒に並んで調理する事が多い。
その距離感の近さに、照れ臭いものを未だに感じている。もちろん前提として嬉しいのだけれど、それでも近いなぁと意識をしてしまう。
一緒に寝たりしていても、全く意識をしなくなる訳じゃない。2人しか居ない空間で、好きな男の子がすぐ側にいるのはやっぱりこそばゆい。
何て言えば良いんだろう、少し先に進んだ感じと言うか。関係性が大人っぽくなったと言えば良いのかな。
もし結婚したらって想像じゃなくて、結婚したらこうなるんだろうなって空気の先取りをしていると言うか。恋人と夫婦の間ぐらいの距離感になった様に思う。
「鏡花?」
「あ、ごめん、ぼーっとしてた」
「そうか? なら良いけど」
隣でじゃがいもの芽を取っていた真が、手を止めていた私の事をを不思議に思ったらしい。
ただこの雰囲気を味わっていただけなので、特に意味はありません。敢えて言えば、貴方は今日もカッコいいですねってだけなんだよ。
男の子が男性になっていく途中って言うのかな。そんな感じの輝きと言うか、ときめきポイントが凄くある。
高校の同級生と成人式で再会したら、滅茶苦茶カッコよくなっていたってシチュエーションあるよね。あの変化の過程を見せられているみたいな感じ。
中学生が大学生に憧れたりしちゃう気持ちも、今なら分からなくもない。凄く大人っぽいもの。男の子って、高校出るぐらいから結構変わるよね。
「上のお鍋取って貰えない?」
「ん? おお、これな」
「ありがとう」
ちょっと鍋を取って貰うだけで、キラキラして見えるから凄い。元から容姿が整っているのもあるれけど、爽やか体育会系の持つ清涼感が余計そう感じさせる。
私の場合は油断するとじっとりジメジメなのに。そうならない様に、日々の努力を大切にしている。
スキンケアとか髪の保湿とか、そう言うあれこれを。だけど真は素でこれだから羨ましい。
制汗剤のCMとか出られそう。この人、多分マイナスイオンとか出てるよきっと。それぐらい爽やかなんだよね。
「どうかした?」
「真からマイナスイオン取れないかなって」
「出ないよ!?」
そんな風に会話をしながら、2人で料理を進めて行く。将来的にはこれが日常になるんだなって、密かに思いながら2人の時間を満喫する。
以前に真のお弁当を1人で作っている時間も楽しかったけど、これはこれで別の楽しさがある。
社会人になっても続けられたら良いんだけど、大人になると時間的余裕が無いと聞く。そうなったら、この時間は無くなってしまうんだろうか。
それはちょっと寂しいんだよね。照れ臭いとか恥ずかしくとか思うわりに、無くなっては欲しくないとか私って欲張りなのかな。
「後は煮込むだけだからテーブルで待ってて」
「じゃあまた後で」
「うん」
前もって白ご飯は真が用意してくれているので、いい具合になるまで待つだけだ。出来上がったカレーをお皿に入れてリビングへ行く。
もう何度目か分からない2人での食事。これが無くなってしまったら、そう思うと大人になるのが少し怖い。
お互い忙しくて、タイミングが合わなくて。そんな風に失われてしまったら、きっと凄く悲しいと思う。
だけど、大人にならないと先には進めないから。だから勇気を出して踏み出さないといけない事もある。
「明後日、沙耶香さんと会って来るね」
「ぇ゙っ!? 何でさや姉と!?」
「職場の見学させてくれるんだって」
「ああ、何だ。そう言う話ね」
落ち着いたら遊びにおいでと言われていたので、長野に行くより少し前に連絡を入れておいた。
そうしたらちょうどタイミングが良かったみたいで、仕事をしている所を見せてくれるらしい。
もちろん部外者に見せられない様な、そう言う部分以外だけれど。それでも自分が目指す世界の、一部分でも見られるなら有り難い話。
それに個人的に相談したい事もあったので、そう言う意味でも大事な用事。また東京に行く事にはなるので、ちょっとバタバタしちゃうけど。
「それなら俺も母さん達に会いに行くかな」
「じゃあ一緒に行く?」
「そうだな、どうせ暇だし」
少し予定とは違うけれど、再び真と東京へ行く事になった。せっかくの夏休みだし、こんな突発的な旅行も良いかもね。
予めバイトの休みは貰っているので、2〜3日ほど東京に滞在するのも悪くはないかも。ただその場合は、篠原さんの家を掃除しておかないと後が怖い。
不安だから明日にでも行っておこう。そんな事を頭の片隅で考えながら、真と2人で東京に行く予定を相談し始めた。
実は鏡花ちゃんと沙耶香は前より仲良くなっています。その話も次回か次々回で少し入れます。




