4章 第197話 卒業旅行 大阪編
鏡花達との卒業旅行2日目。昨日は京都で今日は友香の地元である大阪だ。東京と似たように大勢の人々が歩いている。
俺達の地元とは、随分と空気感が違っている。京都はどことなく雅と言うか、上品な感じだった。
大阪は逆に賑やかとか、豪快と言った雰囲気だ。印象的には東京が近いけど、全く同じではなく結構違う。
地域性の違いとか、こうして旅行に来てみると色々見えて来て面白いなと思う。高校生と言う枠組みから外れたから、これから更に色んな世界が見えて来るのだろうか。
「こっちやで、オススメの店があんねん」
「おい友香! 早いって歩くの!」
「まあまあ。友香の地元なんだし嬉しいんでしょ」
小春達と共に早足で歩く友香を追い掛ける。今居るのは大阪の難波と呼ばれる地域。地元の美羽市とは比べ物にならない賑やかさがある。
車の通行量も歩いている人の数も雲泥の差だ。おまけに飲食店が倍では効かないぐらい大量にある。
どこを見ても何かしらの飲食店が存在していた。見たことのない店名の看板も沢山あるけど、あれは全部個人経営なのだろうか。
もしそうだとしたら凄い数だ。喫茶店にお好み焼き屋、居酒屋にラーメン屋と様々な初見の店舗があちこちにある。
「ねぇ見て真、凄い賑やかだよね」
「そうだな。友香の出身地だってのも納得だ」
「確かに。友香ちゃんって感じするもん」
大阪の人は独特だと聞いては居たし、友香で慣れたつもりだったがまだまだ理解が足りて居なかった。
友香を更に元気にした様な街で、つい圧倒されてしまう。とにかく明るいと言えば良いのか、元気なエネルギーを凄く感じる。
先程見掛けたメイド喫茶の客引きも、東京とは雰囲気がかなり違った。距離感が近いと言えば良いのだろうか。人によっては馴れ馴れしいと感じるかも知れない。
「何してんねや! はよ行かなエエ席取られへんで!」
「分かってるって! すぐ行くから!」
「ごめん、もう少し早く歩くね」
「いや、鏡花が悪いんじゃないから。友香がはしゃぎ過ぎなんだよ」
友香がオススメするお好み焼き屋に向かっているのだが、とにかく友香の歩みが早い。
大阪の人は歩く速度が早いらしいけど、地元に戻った影響なのか友香が歩く速さも普段とは違う。
噂では大阪の人が歩く速度は世界一早いとか。普通の地方都市育ちの俺達からすれば、信じられない早さだ。
先程からガンガン抜いて行く人達が居るけど、多分それが大阪の人なんだろう。ちんたら歩いていると思われているのだろうか。
そんなつもりは無いのだけれど、邪魔だったのなら申し訳ない。思えば、信号待ちからの歩き出しも驚く程に早い。
サラリーマンやOLの方々は、信号が青になる前から既に横断を始めている。これが大阪の速度なのか。
「なぁ! 随分大通りから離れていくけど、大丈夫なのか!?」
「大丈夫やて。地元民やから知ってる名店ってのはな、こう言うトコにあるんや」
「まあ、それもそうか」
ずんずん進んで行く友香の歩みには迷いがない。メインストリートからはどんどん離れて行く。
もうこの場所が何と言う所なのかは、全く分からないけど友香を信じて着いて行くしかない。
先程までの華やかな大通りと比べると、少し寂れた感じの商店街に入った。寂れたとは言っても大通りと比べたらの話。
美羽市の商店街と比べれば十分な活気がある。そんな商店街の一角にある、お好み焼き屋の看板が見えて来た。どうやらあれが目的地らしい。
「ここやで! この『鉄板焼サカモト』がウチのオススメや」
「へぇ、流石は友香。雰囲気あるじゃん」
「悪く無さそうね」
小春達の言う通り、見た目は少々年季が入っているが雰囲気は良さそうだ。長年続けて来た地元の名店と言う空気感が漂っている。
お好み焼きにそれほど詳しくは無いけど、この落ち着いた佇まいで不味いと言う事はないだろう。
店外に漂って来るお好み焼きの匂いが食欲を刺激する。お好み焼きの本場、大阪のそれが今から食べられると思うと期待は膨らむ。
もちろん一番は鏡花の家庭料理だけど、こう言うプロの料理はまた別だ。そこでしか味わえない特別な味なのだから。
「おっちゃーん! 9人行ける?」
「何や、友香ちゃんやないか! 帰って来たんか?」
「ま、そんな感じや。ほんで、エエかな?」
「奥使ってくれたらエエよ」
どうやら知り合いらしい店主のおじさんに案内されて、俺達は店の一番奥にある座敷に通された。
9人で鉄板を囲みながら、友香のオススメメニューを聞きながら選んで行く。流石に高校生9人ともなれば、それなりの量になって来る。
あれこれと皆で選びながらメニューを決めて行く。こんな風に、皆で揃ってお昼を食べるのもこれで最後だ。
皆それを分かっているけど、そんな悲壮感は全く見せずに笑い合っている。ただただ楽しい時間が過ぎて行く。
「鏡花は、どうする? ちょっと多いよな?」
「うーん、これとこれで悩んでて」
「なら半分俺が食べるよ。両方頼めば良い」
「良いの? ありがとう!」
俺達9人が揃って食べる最後の昼食。それはとても明るくて、楽しくて。鉄板の熱気に負けないぐらいに、俺達は騒がしいお昼を楽しんだ。
いつかまたこんな日が来るのを願って。その後も俺達は、暗い空気を作る事なくただただ楽しい卒業旅行を楽しんだ。皆、またこうして会おうな。次は成人式で!